私は天使なんかじゃない
悪意の底
ポイントルックアウトを包む悪意は全てそこから溢れていた。
そこは悪意の底。
トライバルは話の分かる連中だった。
仕切ってるのはジャクソン。
元々はカルバート教授の手下だったんだけど……いや、正確にはいいように利用されてただけな気もする。カルバートを神と思い、従がっていたようだ。
だけど現在奴は死に命令は出ていない状態。
その間にアンクル・レオが神となったので和解できました。まあ、そもそも連中とは喧嘩してないけど。
教授の手下の生き残りとの関係は自然消滅。
そしてポイントルックアウトにおける強大な後ろ盾となりました。
……。
……そう、そこまではよかった。
スーパーミュータント・コマンダーも一緒に撃退した、そこまではよかった。
直後に火柱が上がった。
大気が震えた。
大爆発。
カルバート邸の方から。
安否を確かめるべく私たちは急いだ。
カルバート邸、跡。
本当に跡だった。
「これは……」
屋敷は跡形もなくなっている。
クレーター。
粉々になった屋敷の残骸が飛び散っていた。
「何使えばこんなになるのよ」
サラは絶句。
一同言葉もない。
アンクル・レオに付き従ってきたジャクソンはトライバルの面々に周辺の防御を命令。不意打ちに備えよと叫んでいる。
だけど、これだけの芸当ができるとはね。
教授の手下の生き残りを甘く見てた。
確かに。
確かにサラの言葉は誰の心の中でも繰り返されているだろう。
何使えばこんなになるんだ?
ミニ・ニューク?
小型核使ってもここまで屋敷は吹っ飛ばない。いくつも使えば、まあ、可能だろうけどクレーターは綺麗に一つあるだけ。複数使った形跡ではない。
ピピピ。
「ん?」
PIPBOY3000に電子音。
画面を見る。
メッセージが受信されていた。誰だろ、私のPIPBOYにメッセージ飛ばしてきた奴。誰でも送信できるわけではない。
内容を見てみる。
『ガスの元栓は閉じましたぁ?』
「何だこのふざけた内容」
「どしたの?」
不思議そうなシー。まあ、そうね、いきなり憤慨したし。
「というか冒険野郎いないじゃん」
「えっ? 本当だ」
「主、ご老体は途中で息切れして立ち往生しておりました」
「あー、そうなんだ」
全力マラソンしてたからな。
気付かなかった。
急ぎだったしに気にしてなかった。反省。
周囲を見渡してもデズモンドとポールソンの姿はない。
「ここに友達がいたのか?」
「ええ。アンクル・レオ」
「手分けして探してみよう」
「ええ」
攻撃されて屋敷吹っ飛ばされたという結末だけど、攻撃は想定していたはずだ。警戒はしてた。どこかに退避した可能性もある。
可能性はないわけじゃない。
ピピピ。
くそ。
またPIPBOYが鳴る。
メッセージを見る。
『バス大ば……じゃない、ガス大爆発っ!』
「ふざけんなっ!」
「何なの、ミスティ、落ち着きなさい」
「落ち着けないわ。サラ、見てよこれ」
「えっ?」
PIPBOYを見せる。
私が怒鳴り散らす理由が分かったサラは私の背中を軽く撫でた。落ち着けってことか。
すーはーすーはー。
少し落ち着いた。
それにしても誰だ、こいつ。誰がメッセージ送ってきてるんだ。メルアドは流出してないはずだけど。キャピタルからは電波が届かないはず。
バルトかCOSがハッキングして送ってきてるのか?
だとしたらムカつくな。
いやいや。
そうじゃなくてもムカついてますけど。
「主、この残骸の下に誰かいます」
「残骸」
皆してどける。一番の貢献者はアンクル・レオだ。
瓦礫の下にいたのはグール。
デズモンドだ。
息はしてる。
よくあの爆発で生きてたものだ。目を瞑っている。気絶しているのだろうか。頭打ってなきゃいいけど。とりあえず安静にできる場所に移さなきゃ。アンクル・レオがジャクソンを手招きする。
「神、何でしょう?」
「カテドラルに彼を運んでくれ。丁重にな」
「分かり……」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉよくも俺の犬をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
突然目を開き絶叫するデズモンド。
あまりの怒声に一同耳を塞ぐ。
「デズモンド」
「殺してやる殺してやるぞあのくそどもっ!」
「デズモンド」
「教授の手下だろうがCOSだろうが構うものかこの借りは必ず返してやるっ!」
「デズモンドっ!」
肩を掴んで顔を近づける。
私の顔を血走った目で睨み付ける彼をしばらく見つめていた。
「……すまん」
多少は冷静になったようだ。
「何があったの?」
「よく分からん。この屋敷の状態はパソコンで確認してたんだが、よく分からん」
「思い出して」
「思い出してったって……ああ、確かガスの圧力が変化してたな。それぐらいだ。連中の襲撃はなかった。が、こんな状況だ。くそ。訳が分からん」
「ガス」
「何だ? 何か問題が?」
PIPBOYの内容を再度見てみる。
誰が送って来たか知らないけど、そういうことなのか?
この屋敷はビッシュ社とかいう教授が投資してたエネルギー系企業の天然ガスが使われていた。現在もそれが生きてる。あいつらガス爆発させたのか?
「デズモンド、平気?」
「何とか生きてる。よく生きてたもんだ。周りを見る限り、奇跡だな。それにしても犬は……くそ……」
「ポールソンは? 彼はどこに?」
「分からん。一瞬で吹っ飛んでからな。すまん」
ピピピ。
またメッセージか。
悪戯ではないし挑発でもないだろう。少なくとも情報提供の意思はあるようだ。でなきゃ謎が解けんかった。
誰なんだ?
『私は共通の敵を持つ友人です。ポイントルックアウト灯台に行きましょう。セキュリティを殺してあげます』
「……」
誰だこいつ?
悪戯ではないにしても信用はしてない。セキュリティを殺す?
バルトを実際は快く思っていないCOS。
連中の目的は何らかの情報を手にする為の上陸であって、ルックアウトもキャピタルも本来はどうでもいい場所らしい。邪魔になったのか、バルトたちが。連中を私たちに始末
させてこの土地にある施設をゲットしたいのか、それか、バルトが隠匿している情報を手にしたいのか。まあ、そんな情報があるかは知らないけど。
仲間たちに内容を見せる。
「うっわ胡散くさっ!」
「ですよねー」
「だけど連中の拠点がそこにあるのは……本当なのかしら?」
「それは私が前にバルトから聞いたわ、サラ。私の頭をかち割る前の展開だったし嘘は言ってないと思う」
「主、その場所に踏み込むべきでは。この情報はともかくとして決着は付けねば」
「そうよね。その通りかな」
教授の拠点がいくつあるか知らないけど、そう幾つもあるまい。
ソドムボルト、カルバート邸、温室にあった地下施設、そしてポイントルックアウト灯台。
頭を押さえて蹲るデズモンド。
「大丈夫?」
「ああ、少し、気持ちの整理をさせてくれ」
「分かった」
「な、何だこりゃ」
ポールソンの声。
そちらに顔を向けると同時にワンワンと元気よく犬たちが吠えながらデズモンドを突き飛ばした。そして倒れたデズモンドの顔をべろべろと舐める。
えっ?
生きてる?
というかどういうことだ?
デズモンドが一瞬呆然としていたが、突然泣き出した。
慌てるポールソン。
「勝手に連れ出したからあいつ怒ってるのか?」
「ポールソン、どこに行ってたの? 爆発した時にはここにはいなかったの?」
「爆発、何の話だ? あー、さっきのあの大きな音か。それで屋敷が吹き飛んでるのか? ダイナマイトどれだけ使えばこうなるんだよ、ワイルドだな」
どうやら爆発時は不在だったようだ。
まあ、そうね。
ここにいたら間違いなく死んでる。
……。
……でも、ないか?
デズモンドは五体満足で生きてるし(汗)
「うおっ! でけぇな、何だ、こいつ? この間俺のお見舞いに来たと同類か?」
アンクル・レオを見て驚く。
どうやらスパミュを知らないらしい。
訂正、正確にはスパミュも知らないらしい、ですね。どんだけ田舎者なんだろ、こういう発言するんだからギルダー・シェイド周辺ではスパミュも出ないんだろうな。
「アンクル・レオよ、私の親友。アンクル・レオ、彼はポールソンよ。保安官なの」
紹介する。
考えてみたら2人は会ったことなかったし。
「よろしくな。保安官」
「ああ、こっちこそな。にしてもでけぇな、毎日肉食ったらこんなに逞しくなれるのか? すげぇな」
「そろそろ教えてポールソン、どうして犬と一緒に出掛けてたの?」
「大したことじゃないよ。まだ体が本調子じゃないからな、犬連れて散歩してたんだ。……いや、そいつらいきなり逃げてな、それで捕まえるのに時間かかったんだ」
「ふぅん」
「何だ、やっぱり勝手に連れ出してあいつ怒って……うおっ!」
がばー。
「ありがとう、ありがとうっ!」
「やめろ気色悪いっ!」
デズモンドがポールソンを押し倒す。
抱き合う。
犬が無事で嬉しいらしいけど、何だかなー。
当然ポールソンは全力拒否。
「うっわやらしー。BLっすなー。……ミスティの大好物だよ、召し上がれ☆」
「えっ? ミスティってこういうの好きなの? ボルトの子の感性はよく分からないわ。歪んでるのかしら?」
何言っちゃってんだシーとサラはーっ!
「主、好みなのでしたら自分も主の趣味に沿うようにブッチあたりと……」
「死ね」
疲れる。
うがー。
「がはははははははは。ミスティは相変わらず賑やかな仲間を集めるよな。決着、付けに行くんだろ?」
「ええ。手伝ってくれる?」
「当然だ、仲間だからな。ジャクソン、お前たちも手伝ってくれるか?」
「神よ、当然ですっ! ……おい、カテドラルに戻って戦士たちを集めてくるのだ、我々の力を神と聖戦士にお見せするぞっ!」
仲間は集結。
トライバルも味方で最大の後ろ盾。
武装も完璧。
そして敵さんはおそらく最後の拠点。後がない状態。
パズルのピースは全て集まった、パズルの全体像は教授の手下の生き残りの復讐劇。余所から来て余所へと帰るCOSとの決着は、まあ、お好みで。
さて、行くか。
「行きましょう、皆っ!」
「御意」
「エンクレイブ絡みもあるしキャピタル・ウェイストランドに帰らなきゃね。手早く片付けましょう」
「ただ働きは嫌だからね。敵の拠点にある価値のある物は全部あたしの物ね、それ約束してくれたら手伝うっすよ。ただ働きは、やー」
「ジャクソン、ミニガンを貸してくれ。……さあ、行こう、ミスティ」
「教授の出涸らしどもを蹴散らしに行こうぜ。俺は余生を平穏に暮らしたいのさ、犬たちとな」
「坊主が待ってるんでな、俺もとっとと帰りたいぜ。その前に終わらせなきゃな。……待てよ、全部勘違いだったし俺はここに来た意味はなかったんじゃないか?」
仲間たちの士気上々。
さあて。
「ひと暴れしに行きましょうか」
ポイントルックアウト灯台。
地下に広がる広大な地下基地。カルバート教授がここルックアウトに作り上げた、最後の施設。他の施設は全て閉鎖された。
そう。
赤毛の冒険者と敵対して全て失われた。ソドムボルト、温室、カルバート邸。戦前からカルバート教授が使っていたルックアウトの3つの拠点は全て失われた。
ここが最後の拠点。
「何でこうなったっ! 何でだよ、クソっ!」
中央制御室。
悪態をつくバルト。
施設の全ての証明はほぼ落ちている状態。薄暗い。それもそうだろう、何故なら地下基地の電力の要である発電施設が沈黙しているからだ。予備電源で動いている状態。
セキュリティは沈黙。
タレットすら動かない。
全ての扉はロック解除されており、カモフラージュされていた地下へと通じる入り口も開放されてしまっている。予備電源では照明や端末を維持するだけが精一杯だからだ。
原因は不明。
「ちくしょうっ!」
中央制御室にはバルトの他にもいる。
ただ、人、ではなかった。
「ハッ! まー、起きてしまったことは受け入れるしかないねー。というかお前の不運体質のせいじゃね? お前マジ最悪ー」
「貴様の計画がそもそもの間違いだったのだ。今更ジタバタしたところで軌道修正できまい。馬鹿が」
Mr.ハンディ型のザ・ブレイン。
ロボブレイン型のスーパー・エゴ。
2体のロボットがそこにいた。
忌々しげにバルトはスーパー・エゴを睨み付ける。ザ・ブレインの軽口も気には食わないが、スーパー・エゴの上から目線は昔から嫌いだった。
「貴様、何だその目は。生肉の分際で異論があるのか?」
「脳ミソ野郎がっ!」
「そもそも俺を停止させていた貴様が悪い。ザ・ブレイン、そう思うだろう?」
「ハッ! おいおい中立だぞ俺は。やべー、お前らの喧嘩マジ醜いー」
「コントか、随分と楽しそうだな」
「悪いが立て込んでるんでね。何の用だ?」
受け入れるんじゃなかった、バルトは心底そう思った。結局何の役にも立たなかった。
COSのジブリーがそこにいた。
元々はOCで途中でCOSに鞍替えした人物。部下を5名従がえている。
「必要な情報は手に入ったんでな、ここを引き払うことにした、とエルダーは言っていた。悪いが決戦は遠慮するぜ。直に決戦だろ、キャピタルの英雄が迫ってきてる」
「何? どういうことだ? 殺したはずだ」
「ガス爆発で? 残念だな、生き延びててトライバル引き連れて攻めてくるぜ。うちの斥候からの情報だよ」
「ば、馬鹿なっ! トライバルが、あいつらに付いただとっ! ジャクソンの野郎ぉーっ!」
「お名残惜しいがこれまでだ。あばよ」
去っていく。
それを追うことも睨み付けることもなくバルトはわなわなと震えていた。
スーパー・エゴは嘲る。
「自分がどれだけ能無しか分かったかな?」
「う、うるさいっ!」
「自分に従がわないトライバルを裏切り者だと断定し、スーパーミュータント・コマンダーを差し向けた結果、でもあるな。攻撃されたら奴らも切れるさ。馬鹿が」
「だ、黙れっ!」
「その結果はどうだ? コマンダーの反応がなくなった。電子脳が粉砕されたんだろうな。追跡できない、そういうことだ。バルト、つまりはお前のせいだ」
「ハッ! こいつ追い詰めるのもいいけどやることやろうぜー。バルトあいつら逃がしていいのかよ? 殺そうと思えば、全滅させられるぜー。お前もうざいけどCOSもうざいし、消そうぜー」
「……ほっとけ、それよりも赤毛が来るなら迎え撃たねばならん。システムの復旧をしろ。そもそも何でこのタイミングで落ちてるんだ」
「ハッ! COSじゃねーの?」
「ありえるな」
落ち着きを取り戻すバルトに対してスーパー・エゴは何も言わなかった。
昔からそりが合わない。
「大体スーパー・エゴ、お前がロボトミーの操作をやめなきゃ……」
「操作してたら逃げ遅れてスクラップにされてたよ。貴様はそんなことも分からんのか、だから能無しなんだ。あいつら相手にロボトミーでは意味がなかったよ」
「ハッ! 喧嘩するほど憎み合うってねー。やぺー、お前ら仲悪すぎー。というかどうすんのー?」
「迎え撃つさ。今回は、あんたも働いてもらうぞ、キャップ分な。どこをふらふらしてたんだ」
飄々とした雰囲気で制御室に入ってきた男に絡むバルト。
その男、デリンジャーのジョン。
ナップサックを背負ってる。
「散歩です」
「散歩も結構だがね、こちらとしても……」
「ええ。お仕事関係の仲ですので、こちらもそれに相応しい対応はしているつもりですよ」
「はあ? 言っている意味が分からないんだがね」
「お気になさらず」
大丈夫かこいつ、という顔をバルトはしたがデリンジャーは流す。気付いてはいたが何も言わなかった。
スーパー・エゴが提案する。
「脱出路も考えておいたほうがよくないか? 例の原子力潜水艦だ、そろそろこちらで抑えておいた方がいい、のではないか?」
「確かにな。ザ・ブレイン、引き籠りのマクグロウと一緒に先に乗り込んでおけ。邪魔するならCOSは殺しちまえ、結局役に立たんかったし、もうあいつらもいらん」
「ハッ! いらんのは、お前もなー。やぺー、本音で生きてる俺ってマジやべー」
「スーパー・エゴはシステムの復旧をしろ。いいな」
「可能な限りはな。だがどうする、動かせる戦力はいないぞ、システムがあろうがなかろうがな。今更タレットで止まる連中か? どう対処する?」
「ビッグ・エンプティでカルバート様が鹵獲してきたあいつを使う」
「010011110110111001100101をか? 調整が済んでないぞ。ずっと放置してたからな。俺のようにっ! ……まあ、いい。パラメータ設定だけでもしてくる」
緊迫した空間。
その中にあってデリンジャーだけは柔和な笑みを浮かべていた。
ちょうどその頃、ミスティたちは灯台に迫りつつあった。