私は天使なんかじゃない
キャピタルの聖戦士
人にはそれぞれの物語がある。
世界には物語が溢れてる。
アーク&ダヴ・カテドラル。
それはトライバルと呼ばれる部族の拠点。
元々は何らかの聖堂があったけど、いつの頃からかとライバルと呼ばれる集団が住み着いたらしい。
プンガフルーツを栽培し、それをソドムの街と取引。
市長のバルトとは何らかの取り決めをしており市民章をしていない余所者を抹殺、そしてその身包みを剥ぐ権利を持っている。OCを壊滅させたのも彼らだ。
まあ、半分はCOSに流れたようだけど。
純粋なOCはマクグロウだけ。
私はグリン・フィス、サラ、シーを引き連れてカテドラルにやって来た。
殴り込み?
いいえ。
一応はご招待を受けたからだ。現在門の前にいる。
聖堂はかなりでかい。
とはいえシー曰く100や200はいるようなこと言われたけど、収容できるのは100は入るだろうけど、暮らすとなると100は無理だ。地下に収容できる空間でもあるのかな?
聖堂は高い壁に囲まれている。
塔のような建物の屋上には本来ある鐘楼は存在しない。外したのか戦後のドサクサになくなったのかは謎。
歩哨はいない。
インターコムが固く閉ざされた扉の横にあった。
呼んでおきながら出迎えないのか。
失礼な。
「主」
「何?」
「誰か走ってきますが」
「ん?」
指差された方向を見る。
墓場が遠目に移る。
なるほど。
誰かが走ってくる。
……。
……大量のグールに追いかけられて。
勘弁してよ(泣)
「あー、もー、ただ働きやなのにー」
シーはインフェルトレイターを構えて引き金を引く。
ピット産のスコープ付きの銃。
前に私も使ってたからその威力と信頼性は知ってる。こっちに走ってくる人影に肉薄していたグールどもは次々と粉砕される。サラはアサルトライフルを構えながら私に叫ぶ。
「早く開けてもらってっ! 私と彼女でカヴァーするからっ!」
「了解っ!」
ポチ。ザー。
しばらくノイズ。
それから声。
「何だ?」
「ミスティよ、呼ばれたから来たわ、グールが来てる、早く開けてっ!」
「ああ、キャピタルの聖戦士殿か、今開ける」
「キャピタルの……」
また妙な名称だ。
にしてもおかしい。何だってキャピタルという名称なんだ?
こいつらここに引き籠ってるんじゃないのか?
何だってキャピタルを付けたんだろ。キャピタル知らないはずなのに。というか私は向こうでもそんな風には呼ばれてないんだけどな。
謎だ。
スコープ覗きながら銃を撃っているシーが呟く。
「ありゃ。あいつ冒険野郎じゃん」
「冒険野郎?」
扉がゆっくりと開く。
白い服を着た連中が飛び出してきて銃を構える。ショットガンやらライフルやら古めかしい……と思えばミニガン持ってたりする。こりゃ重火力だ。
黒人らしき男がショットガンを手にしながら仲間たちに指示。
黒人か?
いやぁ、肌が汚れてるだけかも。それか何か塗ってるのかな、てかてかしてる。
命令しているところを見ると位が高いらしい。
「バックアップする。中に入れ」
「ありがとう」
「……待て、人数が多いな、余計な者は……まあ、いいか。とっとと入れ。ここは受け持つ」
私たちは門を通り過ぎる。
激しい銃撃音が響き、しばらく遅れてから冒険野郎が飛び込んできた。
しばらく振りだ。
収容所で援護して貰ってきり会ってなかった。
「ふぃー。助かったよ」
「お久し振りね、冒険野郎」
「ああ。赤毛の冒険者、久し振りだな。一体何があったんだ、スワンプフォークどもは奥地に引っ込んだが……」
「話すと長いけど解決よ。魔力を帯びた本の争奪戦だったのよ」
「それは……大冒険だな……」
「……?」
何だこの反応?
まあ、信じられない話よね。実際魔力帯びてたかは知らん。だけどかいつまんで言うと突拍子もないから信じがたいのも確かだ。私も実際言われたら信じないだろうし。
トライバルたちが中に引き上げてきてから門を閉じた。
バンバン。
門を叩きつける音。
殲滅はしなかったようだ。
黒人のような男が首を横に振った。
「やれやれ。あの連中にも困ったものだ。スワンプフォークの大移動で死体がそこら中に出たからな、死体を貪る為に連中も活発化している」
「助かったわ。ミスティよ。ありがとう」
「知っているぞ、キャピタルの聖戦士よ。俺の名はジャクソン。トライバルを統括している」
「ボスってこと?」
「そうなるな」
グリン・フィスが私の真横に立って冷たい視線をジャクソンに向ける。トライバルの立ち位置が分からない以上、警戒は必要だ。
デリンジャーほどではないにしてもジャクソンも殺気は分かるらしい。とはいえ受け流せはしないようだ。
幾分か弁解する。
「まあ、待て、こちらに敵意はない。随分前からマスターはだんまりだし、代替わりしたからな。新たなる指導者はあんたらとの闘争を禁じてる、戦う意思はない。だから睨むな」
「マスター? 代替わり?」
随分前から、でなんとなく察する。
「もしかしてカルバート教授のこと?」
「ああ。確か、そうだな、確か仮初の名はそんな感じだった。先達たち、魂の世界からの代弁者で我々を導く者だった」
「こいつら何言っちゃってんの?」
熱く語るジャクソンにシーは理解できないようだ。
同意します。
私も意味が分からない。
「バルトとの関係は?」
「あいつか? あいつもマスターに従ってた。つまりは、まあ、気には食わなかったが同志だった奴だ。マスターからあいつの街を護れと言われてたのだ。だから余所者を排除してた」
「ふぅん」
「最近になってバルトからマスターの仇を取るから、そう、あんたらを殺せと言われたが、あいつの命令を我々は聞かない。何考えてるんだ、あいつは? マスターは精霊だぞ、死ぬわけがない」
「へー」
ははあん。
トライバルは教授の手下の生き残りのカテゴリーではあるけど、こいつらは科学を知らない。要はカルバートを神だと思ってたから命令を聞いていたにすぎない。
そしてそのカルバートは死んで沈黙。
敵討ちだとバルトが叫んでもカルバートの命令しか聞かないわけだから、自然と仲違いしている状態なのだろう。
それでか。
それで屋敷に突撃してこなかったのか。
フェラルの対処を見る限りこいつらも同時に攻撃してきたのであれば屋敷は落ちてたはず。
シーの戦闘民族発言もあながちデタラメではないようだ。
バンバン。
フェラルはまだしつこく門のところに群がって押し入ろうと叩いているらしい。とはいえ破れそうもないけど。
「ここはうるさいな。奥に行こう」
「そうね」
一応良識はありそうだ。
私は頷き聖堂に入る。ジャクソンを先頭に私たちは屋内を歩く。フェラル迎撃に出てきた部下たちはその場に留まった。
万が一にも破られることはないだろうけど、警戒の為のようだ。
「ここで全員で暮らしているの?」
「地下にもスペースがある。とはいえ最近住民が増えたのでな、拡張にも限度があるし、カテドラルの周りに家屋を立てようという計画がある。わりと手狭になっているしな」
「ふぅん」
「基本スワンプフォークどももここまで境界は侵さないが、あの亡者どもは別だ。家屋を立てるのであれば新たに防護柵も必要となってくるだろう。資材を集め始めているところだ」
「良識的なのね」
「仲間を護る、当然のことだろう?」
不思議そうに、そして当たり前のようにジャクソンは言った。
なるほど。
カルバートを神だと思ってたからその繋がりでバルトと同盟関係だったようだけど、これは本来相容れない関係ですね。カルバートがいない今なら特にね。
「あたしおトイレ〜☆」
「案内させよう」
「勝手に探すからいいって。乙女心分かれって。バーイ☆」
シーはそのまま姿を消す。
あいつプンガの種盗みに行ったのか?
……。
……やばいかも。
ここで無駄にトライバルを敵に回したくない。こいつらわりと良識的だし。
「何じゃ、別行動は何か問題があるのか?」
表情から読み取ったのか、冒険野郎が耳打ちする。
私は頷く。
「ワシに任せとけ。この、冒険のプロにな」
「よろしくお願いします」
「あいたたた。ワシも腹が痛いからトイレに行ってくる」
何だその三文芝居は。
だけどジャクソンは足元に気をつけろよと言って特に気にしていない模様。サラはシーの思惑に気付いたのかやれやれと言って首を横に振った。
私たちは進む。
ジャクソンの先導で礼拝堂に入る。
静かな空間。
参列の為の長椅子がいくつも並んでいる。
ぽろぽろの衣服を着た人がこちらを見ているのに気付いた。他にも何人もこちらを見ている。あれ、トライバルだけでなく街で見たような人もいる?
難民だろうか?
本来はキリスト像が置かれているであろう場所には木製の、たぶんトライバルお手製の木の椅子があった。
玉座なのかもしれない。
「神よ」
ジャクソンは跪く。
そこにいた神はスレッジハンマーを右手で持って立てているアンクル・レオ。
「えっと、何してんの?」
「おお。ミスティ、久し振りだな。俺今ここで神様やってるんだ」
「はっ?」
「我が忠実なる友人よ、下がっていいぞ。俺はミスティたちと話がある」
「神の御言葉のままに。神の聖戦士殿、ごゆるりと。お前たちも下がれ、神の御言葉であるっ!」
深々と一礼してジャクソンは去っていった。
参列席に座っていた人々も。
しばらく間。
それから私は笑う。
「預言者様の次は神様してるの? あははははは」
「笑いごとじゃないんだ、ミスティ。最初はとんでもない誤解だと思ったけど、神様演じないといけなかったんだ」
「どういうこと?」
「保護した人たちを護る為だったんだ。今もここで住んでる」
「そっか。お疲れ様」
「あいつらスーパーミュータントを知らないんだ。そういう意味ではオアシスよりもやばい気はしたんだ」
「まあ、そうね」
オアシスの連中はアンクル・レオをスパミュと知ったうえで仕えてたけど、ここの連中は知らないようだ。つまりこここの連中の方が妄信的、というわけだ。まあ、どっちもどっちか?
あっちは一応軌道修正したから問題ないかな。
たぶん。
ふぅと溜息を吐くサラ。
トライバルの奇襲を警戒していたのだろう、私もそうだ。
「おや? 何でサラがいるんだ?」
その疑問はもっともですね。
介入してきたときは私もビビったし。
「色々とあったのよ。それでアンクル・レオ、どんな感じ?」
「わりとここの連中も話してみたら物分かりが良かったぞ。文明的だし。わりとな。住人の何割かはこのままここに住むつもりらしい」
「可能なの?」
「ジャクソンは問題ないと言ってた。あいつらも住民が増えるのは喜んでた」
「あなたがいなくても迫害は……」
「されないだろう。思ってたより柔軟だ」
「そっか」
ならよかった。
ソドムで知り合った人も助かったのかな、マダム・パナダとか。
「アンクル・レオ殿、我々を呼んだ理由は?」
「フィス、元気だったか、会いたかったぞ。呼んだ理由か? お前たちの無事が全く分からなかったからジャクソンたちに命じて探させていたんだ。無事でよかった」
良い奴だ。
「それでアンクル・レオ、ここからあなたも出れるの? 神様やめれる?」
「それは大丈夫だろう」
「じゃあ帰ろう」
「そうだな。そろそろ旅行はやめて帰らないとな」
「ちょっと決着付ける必要はあるけどね」
「どういうことだ? スワンプフォークは終わったんだろう? 市長の企みの続きはまだあるのか?」
彼がどの程度知っているかは分からないけど説明しなきゃね。
ざっと説明する。
ボルト87を取り仕切っていた教授の手下の生き残りがいること。
BOS崩れのCOSが暗躍していること。
全て聞くと彼はため息を吐いた。
「終わりがないのか」
「アンクル・レオ?」
「争って争って、終わっても憎しみが残って、誰かがそれをまた育てて、憎悪は続く、戦いは続く、終わらせなきゃいけないのに誰かが引き継ぐ。終わりはないのか。なくならないのか」
「そうね」
誰よりも戦いを憂いているアンクル・レオ。
彼を仲間としてみていたサラは驚いた顔をした。そうね、サラはあくまで戦力的な仲間としてのアンクル・レオを受け入れてはいるけど、哲学的な一面は見たことない。
戦いは終わらない、か。
誰もが黙る。
答えがないからだ。
私はふと夢を思い出した。ボルト101時代の夢だ。
「アンクル・レオ」
「何だ」
「戦争はなくなることはないわ。永久に残り続ける。何故だと思う?」
「……?」
言っている意味が分からないのだろう、彼は口を閉ざしたままだ。
それからしばらくして口を開く。
「愚かだからだ」
「違う。賢かろうが愚かだろうが戦争という言葉は残り続ける」
「言っている意味が分からないが……」
「争い、戦争という概念は人の本質よ。誰かに教わって始まったわけじゃない。歪んだ闘争本能よ。その結果人は争い続ける」
「だとしたら、悲しい話だな」
「そう。戦争は変わらない。だから、人間が変わるしかない。私はそう思う」
「戦争をしないような人間になれ、ということか。戦争をなくすのではなく、人が踏み止まれ、そういうことか?」
「うまく言葉にできないけど、そうよ」
「だけどミスティ、我々BOSはエンクレイブに降伏はしないわよ。あくまで戦い続けるわ」
サラの言い分はもっともだ。
いきなり武器は捨てられない。ある程度の折り合いは必要だ。
「分かってる。交渉の席に付くにしてもまずは勝たなきゃね。説得だけで終わるほど甘くはないのは分かってる。だけど、いつかは人間全部そうなってほしいかなって」
「確かに甘いわね。でも、嫌いじゃないわ」
「ありがとう」
エンクレイブとの決着は付けなきゃ。
折り合いつけるにもある程度の闘争は必要。
そういう意味では詭弁かな。
だけどアンクル・レオは何か思うことがあるのだろう、呟く。
「人が変わるしかない、か」
「人が変われば戦争を愚かだと思えるようになる、踏み止まれる。どうすればそうなるかは私にはまだ分からないけど、核で世界吹き飛んでも戦争してるわけだし。だけど……」
「誰だ」
パチパチパチ。
扉の向こうで拍手。
グリン・フィスが押し殺した声で45オートピストルを引き抜いて扉に向ける。
数秒の間。
「消えた」
銃を下すグリン・フィス。
「どういうこと?」
「誰だか知りませんが拍手するまで全く気配を感じませんでした。……なかなかやる……」
好戦的な顔してるな、最近。
よほど橘藤華とのリベンジに燃えているらしい。ジェファーソン記念館では贔屓目に見たら互角とか言ってたな、彼自身。つまり向こうの方が強いというわけだ。贔屓抜きにしたら。
クリスめ、カロンやハークネスも強いのにデタラメな強さの懐刀用意しやがって。
まったく。
「それにしてもミスティは相変わらず一歩先を進んだ視点だな。俺はお前を誇らしく感じているぞ」
「あれがとう。そうだ、キャピタルの聖戦士って何?」
「あいつらオアシスよりも誤解が多くてな、お前たちのことを友達と言っているのに、特にミスティのことを俺の、つまり神の腹心の戦士とか思ってるんだ」
「へー」
中二病かよ。
まあいいけど。
それならそれで色々と立場が利用できそうだ。
「宴会でもするか? 久しぶりに皆で騒ぎたいぞ。フィス、飲み比べするか?」
「主の名に懸けて、受けてたとう」
いや自分呑みたいだけじゃね?
私をダシにしてる気がする。
嫌だなぁ。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
「な、何?」
歓迎会のクラッカーにしては大き過ぎる。
ドタバタと走り回る音もする。
「やれやれ。どうして厄介がこうも続くんだろ」
嫌になる。
44マグナムを引き抜く。サラが同情したように言った。
「仕方ないわ、ミスティは受難の星なんだから」
「何よそれ」
「ねぇ? あなたたちもそう思うでしょ?」
「……御意」
「がはははははは。否定はできないよな、ミスティ」
「辛いわー」
否定できないのが辛いですね。
扉が開く。
誰だか知らないけど、トライバルの人がアンクル・レオの前に跪いた。
「神よ、お力をっ! 正門が爆破されましたっ! 死傷者、負傷者多数、その、悪魔が来ましたっ!」
「行くぞ、ミスティ」
スレッジハンマー持ってアンクル・レオが走り出す。
神様としてのメンツもあるのだろう。
私たちも少し遅れて走り出す。
ドン。
「うきゃ! ……あー、ミスティ、あ、あたし別に種盗んでなんかないっすよ」
扉を出たと同時にシーにぶつかった。
こいつ盗んだなー?
まあいい。
今はそれどころではない。アンクル・レオの後を追う。外に出た。
「またあいつか」
悪魔。
それはスパミュの亜種だった。
スーパーミュータント・コマンダーだ。頭が繋がってる。地下施設に死体がなかったから、たぶん同一だろう。どんな生命力だ、首が繋がるるなんて。
外では神アンクル・レオと悪魔スパミュ・コマンダーが激突していた。
スレッジハンマーを豪快に振り回して気を的確に叩きのめしていく。今回もコマンダーは武器を持っていない。進化するスパミュのわりには弱い……あー、そうか、あいつは電子脳に
新しいデータをインストールしてバージョンアップしない限りは成長しないのか。何も学習しない。そして頭部でのダメージでデータが飛ぶとか書いてあったな。
完全に不良品じゃね?
究極ですらない。
アンクル・レオのスレッジハンマーは究極生物の頭を張り倒し、胸を乱打し、膝をついて倒れたところを容赦なく叩きつける。タタカイダイスキ状態です。
強いよなー、アンクル・レオも。
平和主義だからといって弱いわけではありません。
「さすがは神だーっ!」
ジャクソンを始めとするとライバルたちは完全にギャラリーになっている。
ジャキーンとコマンダーの爪が伸びる。
さすがに警戒してアンクル・レオは数歩下がった。その時グリン・フィスが走り、アンクル・レオの背を踏み台代わりにして大きく跳躍。抜身のショックソードでコマンダーの右腕を切り落とす。
「ほう?」
少し興味深そうにグリン・フィスは呟いた。
軌跡からして頭を真っ二つにするつもりだった。でもあいつ、避けた。なるほど、強いには強いのか。
左手の爪を大きくふるうとグリン・フィスは大きく後ろに飛んだ。その隙にコマンダーは右手を拾い、傷口に押し付ける。くっ付く。そして突然四足状態になって回れ右をした。
「ちょっ、ミスティ、あいつ逃げるじゃんっ!」
「逃がすかっ!」
一斉に銃撃。
だけどコマンダーの速度は意外に早く、そして生来のタフさでこの場から撤退を完了しようとしている。事実追いつけない。
駄目だ、逃がすしかないのか。
ドォォォォォォォォォォォンっ!
爆発。
突然四足で逃げていたスーパーミュータント・コマンダーが突然爆発した。肉体全て吹き飛んだわけではないけどその場に肉塊は転がっている。
どの程度の損壊かは見ないと分からないけど、動かなくなった。
私たち攻撃ではない。
トライバルもきょろきょろとしてる。
どこからだ?
「主、あそこです」
一斉に見る。
塔の上に人がいる。鐘楼がなくなった場所に人がいた。遠目だからよく分からないけど長居銃身の得物を持っている。スナイパーライフルのようなものか?
インフェルトレイターのスコープで鐘楼の人物を見るシー。
「あれ最新モデルじゃんっ!」
「銃の話?」
「ガンランナーの最新モデルだよ、あれ。アンチマテリアルライフル」
「ガンランナー?」
「西海岸の銃器メーカー。でね、あの銃はスナイパーが単独でも様々な任務ができるように、そして生き残れるように設定された銃なの。……あっ、逃げた」
見えなくなる。
ジャクソンは部下たちに命令を出すけど、それをシーが押しとどめた。
「やめといたほうがいいよ、一網打尽にされるから。それだけあの銃はやばいわけよ。死にたいなら別だけど。あたしは一応止めたよ、神様も止めてあげなって。やばいから」
「我々は戦闘民族……」
「ジャクソン、やめとけ」
「神の御言葉であるならば」
アンクル・レオの鶴の一声。
神様パワーですね。
「それでシー、何で一網打尽なの? というか、何、あの銃? 何で爆発したの?」
私にインフェルトレイターを押し付け、コマンダーの方を指差す。
スコープを覗く。
今度は頭部そのものがない。これならくっ付きようもないからお終いだろう。電子脳はさすがに再生しないだろうし。
「アンチマテリアルライフルは基本は50口径なのよ」
「50口径? いや爆発したし」
「だから言ったじゃん。様々な任務ができるようにってね。今のは榴弾砲だね」
「はい?」
何だその不思議機構は?
ライフルに榴弾……いや、いいや、決着付いたから別にいいや。
だけど今の誰だろう。
デリンジャー?
あー、そうかも。
あいつも神出鬼没だしわりと適当に動いているしなぁ。
敵だけどよく分からん。
「やれやれ、出遅れたか」
「冒険野郎」
額に汗をかいてる。バツの悪そうな顔をしてシーを見て、私を見た。
なるほど。シーを捕まえられんかったのか。
まあ、特に悪さしたようではないからいいか。少なくともトライバルにはばれてないって意味だ。たぶんシーはプンガの種ゲットしてる、そんな気がする。
「活躍してワシの名声にプラスしたかったのじゃがな」
「充分お世話になってるわ、ありがとう」
その時、大気が震えた。
そして火柱。
耳をつんざくほどの大爆発。
あの方向は……。
「くそ、デズモンドたちの方かっ!」
あっちも襲いやがったかっ!
バルトかCOSかは知らないけど何かしたのは確かだ。ただの偶然ってことはないだろう。手薄なのを知っていた、というわけだ。戻らなきゃ。
私は走る。
仲間たちは続く。
神に続けとジャクソンと部下たちもついてくる。
無事でいてよっ!
スーパーミュータント・コマンダーの肉塊に群がるフェラル・グールの群れ。
食事の時間。
貪ろうと近づいた途端、その肉塊は動き、フェラルたちを……。