私は天使なんかじゃない







大いなる影




  実態こそ掴めないものの、そこに影があった。
  歴史を引っ掻き回す、その存在は……。





  「まったく。襲撃してくるのはいいが、死体の引き取りもしてほしいものだな」
  デズモンドがロボトミーを引き摺りながら悪態を吐く。
  この作業を半日掛けてやった。
  後片付けが大変だ。
  死体は庭に山積みにしてガソリン掛けて燃やした。
  臭い?
  まあ、敷地は広い。屋敷までは届かんだろ。一応屋敷はファブっておこう。
  別にここに永住するわけではないし穴掘って埋めるとなると手間と時間がかかる。何しろ死体は50はあるわけだし。一応の処置としてはこれで良しです。
  で時刻は夕刻。
  温室に地下施設があるのは既に把握済み。
  すぐさま突撃ー、も当然考えたけど装備を整えたかったし作戦も必要だった。食料やお酒等の物資は屋敷内に固まってあったみたいだけど(200年前のだけど、気にしなーい)弾薬等は
  あまりなかった。のでシーがソドムまで単身で戻って弾薬を回収、サラは温室にある地下施設の入り口を監視、私とグリン・フィス、デズモンドで死体の処理。
  そして現在死体の処理完了。
  少し一息入れる。
  まあ、応接間で座るだけなんだけど。サラと二階で寝てるポールソン以外は集合してる。
  犬?
  犬たちは絨毯の上で退屈そうに寝そべっている。
  可愛いですね。
  「やれやれだぜ。あんた、景気付けに一杯やるか?」
  「御意」
  「御意、じゃないわよ、まったく」
  酒好き共にも困ったものだ。
  シーが回収してきた弾丸や武器をそれぞれ装備。といっても全員で突入するわけではないし私は装備は足りてるしグリン・フィスは基本剣以外お邪魔ドロップ状態なので必要ないらしい。
  持ち場についてるサラにアサルトライフルでも持ってくかな。
  「デズモンド、ここでバックアップをお願い。パソコンで監視して、何かあったら援護してを。セキュリティ解除したり色々と」
  「妥当だな」
  「あたしはー?」
  「シーは温室を狙える場所で待機して。あー、デズモンド、彼女にスナイパーライフルを貸してあげて」
  万が一敵が地下に突入してきた場合の備えだ。
  もちろん地上に逃げてきた場合も、ね。
  「グリン・フィスは私と来て」
  「御意」
  サラはまだ温室にある地下施設の入り口を監視してる。
  巧妙にカモフラージュしてたけど今は開いたままだ。私たちが開けたのではなく、ロボトミーが這い出してきたままなのだろう。
  不用心ですね。
  私たちのような不法侵入者が来ても文句は言えませんよ?
  やれやれです。
  「残党がまだいるかもしれないから気をつけてね」
  結構ドタバタしてた。
  襲撃中も今も。
  ロボトミーは全部頭を撃ち抜いた(頭部に入ってた遠隔操作に必要なテスラコイル破壊のする為)し焼いたから動きゃしないだろうけど、屋敷内に潜んでいる可能性もある。この屋敷は
  広い。全部をガードするには人手が足りないし、元々敵さん側の屋敷だ。セキュリティの穴も知ってるだろう。用心に越したことはない。
  どれだけいるかは知らないけど、教授の手下の生き残りはこちらよりも多い。
  こっちは少数精鋭で行くしかない。
  少数精鋭、聞こえはいいけど、要はそれぞれの担当の範囲が広く、重要であり、バックアップ要員がいないということだ。1人でも精鋭が欠けたらなし崩し的に全部崩れてしまう。
  徹底して連携しなきゃね。
  「分かったぜ、赤毛さんよ。だからそっちも気をつけるんだぜ」
  「分かったわ」

  バァン。

  いきなりかよっ!
  銃声がした。
  扉の方で。
  私たちも素人ではない、シーにしてもトレジャーハンターという職柄上、戦闘慣れしてる。それぞれの得物のを銃声の方に向けた。
  その男はショットガンを天井に向けていた。
  威嚇、というわけだ。
  それからゆっくりとデズモンドの頭部に照準を合わせた。
  「覚悟するんだな」
  「……何のつもり、ポールソン」
  そう。
  デズモンドに照準を合わせているのはポールソンだった。
  「えっ? あいつ敵なの?」
  シーは誰かに問うように呟くけど、私は取り合わない。銃を下して一歩前に出る。グリン・フィスも構えを解く。シーは銃を向けたまま、ただ、デズモンドは銃を捨てた。
  そして手を大きく上にあげる。
  どういうこと?
  「あんたにどうやって説明するかを考えてたんだが、まあ、こうなるよな」
  「……」
  物言わずポールソンは銃に力を込める。
  まずいな。
  撃つつもりか。
  何だか分からんけど、私はデズモンドの前に立つ。
  ポールソンと私の関わりは意外に謎で、だけどどこかで昔会ったような気がしてる。向こうはそれを知っているようで、私を知っているようで、親しみを見せている。
  だから、思う。
  私は彼を信頼出来ると。
  教授の手下の生き残りってわけじゃないだろ。
  彼に対しては戦友のような印象。
  「ポールソン」
  「どいてくれ、ミスティ。そいつはマーセラを殺して殺人犯だ」
  「えっ?」
  髪がフサフサのグールに街の住人が殺されたって言ってたけど、確かにデズモンドは珍しくフサフサなグールだけど、デズモンドが犯人?
  ポールソンはフェラルとグールの区別も知らなかったし間違いか?
  いやでもデズモンドの発言もなかなか意味深だ。
  どういうことだ?
  「話だけでも聞いてくれないかね? 赤毛さんを、この話し合いの仲介人としてな。納得できないなら撃てばいいさ」
  「いいだろう」
  勝手に仲介人にされた。
  ただ、デズモンドはここで会うより前にポールソンを知っていたような感じだ。
  私たちも黙って聞くしかあるまい。
  犬はポールソンに唸っていた。
  ようやくシーが銃を下し、それからソファに座って先日のワインの残りを飲み始める。良い性格してると思う。
  「何でも聞いてくれ」
  「マーセラを知っているな?」
  「名前は知らんよ。ただ、あんたは知ってる。あの時会ったからな」
  あー。
  確かポールソンを見て「やべー」と言って髪フサのグールが逃げたと言ってたな。
  でマーセラって人が虫の息だったと。
  誰かに撃たれてデズモンドが介抱しているときに来たんだろ、きっと。
  「確かに俺が撃ったよ。それは否定しないさ」
  犯人かよっ!
  疑うべくなく真っ黒かっ!
  「待て待てまだ続きがあるんだ、話を聞け。そう睨むな。そうだな、順を追って話そう」
  「ああ。この態勢も疲れるんでな、手短に頼む。指が痙攣して引き金引きそうだ」
  物騒ですね。
  「俺はレイブンロックから去った後に……」
  そう言って私を見る。
  「そのあたりは後で赤毛さんに聞いてくれ。で、まあ、ポイントルックアウトに行こうとしてたのさ。だがエンクレイブがそこら中で検問しててな、身動き取れなかったんだ」
  「エンクレイブ? 何だそりゃ?」
  いくら何でも田舎者過ぎるだろ。
  キャピタル・ウェイストランドにいたらさすがに知らないわけないだろ、一時的とはいえ完全に掌握されてたのに。
  シーがやり取りを見物するようにワインを飲みながら、呟いた。
  「ギルダーシェイドは辺境だからねー、さすがに戦略的に重要でもないからスルーされたんじゃない? デイブ共和国って集落もスルーされてたみたいだし」
  ふぅん。
  そういうもんなのか?
  「エンクレイブを知らない御仁とは恐れ入った。まあ、いいか。ともかく連中をやり過ごす為に俺はダンウィッチビル近辺でキャンプしてたのさ。あの辺りも辺境だし、まあ、ギルダーシェイド
  近くだしな。それとグールなんだがジェイミって奴のカルト教団が近くにいて物騒で旅人も来ない。俺としては静かでいい環境だったんだ。そしたら厄介が起きた」
  「厄介?」
  「その、マーセラって女だよ。傭兵引き連れてダンウィッチビルに突っ込みやがった。20分、いや、10分後か、その女だけ逃げ出してきた。どこの傭兵どもかは知らないが素人かってレベルだな」
  「……どういうことだ?」
  「俺は知らんよ。何しにあんな物騒なとこに突っ込んだのかもな」
  「本、では?」
  グリン・フィスが言う。
  そうね。
  的を射ている。
  オバディア・ブラックホール曰くマーセラもかつて本を狙ってアタックしてきたらしい。邪悪な本の抹消とかいう理由で。もっともその時には既に何者かに奪われた後だったんだけど。
  本は人から人へとリレーされ、ジェイミの手に渡った。
  そして今はオバディアの手に戻った。
  ははあん。
  何となく見えてきたぞ。
  「デズモンド、あなたの方がマーセラに襲われたのね」
  「正解だ。俺はただ見てただけなんだよ、突っ込むのも、逃げるのもな。……おいおいトリガーに力を入れるなよ、極力他人の争いに首を突っ込まない主義なのさ、別にそれはおかしくは
  ないだろ? どっちがまともかなんて分からないわけだしな。見てると俺をあの女が発見した、そしたら撃ってきたのさ。ジェイミの仲間と錯覚したんだろうな」
  「……それで?」
  「やり返した。俺はあいつにいきなり肩を撃たれたからな。あいにく仙人じゃないんだ、やり返すさ」
  「傷は?」
  「ないな。スティムパック使ったからな」
  「あの不思議薬か」
  「面白い表現だな。まあいい。ともかく、証拠は何もないが、俺は正当防衛だよ」
  「ポイントルックアウトにあの悪党が逃げるとか言ってたが……」
  「俺はあの女とは言葉を交わしてはいない。あの後ジェイミはビルを引き払っていなくなったからな、たぶんあの男が言ってた言葉をあんたに言ったんだろうよ。俺を同類項としてな」
  「……」
  ジェイミはオバディアを殺そうとしていた。
  儀式用ナイフで殺すことで本の魔力を開放するとか神々を復活させるとか言ってたな、確か。
  ふぅん?
  つまりこれは盛大な誤解ってことか?
  色々と絡み合っちゃってポールソンはここまで来たけど全てが誤解ってことだ。
  なるほどなー。
  「俺にやましいことは何もない。神は信じてないが、そうだな、赤毛さんに誓おう。あんたのあの剣幕を見て逃げただけだ。あの時は話は聞く気はなかっただろ、今みたいによ。違うか?」
  「確かに、そうだな」
  「だから逃げたのさ。やましいからじゃない、撃たれたくなかったからさ」
  「……」
  「シーリーンとBOS……やばいな、彼女はまだ温室で待たしたままだ、話が長いな。ともかくだ、2人があんたが運び込んだ時は巡り合わせってやつが本当にあることを認識したよ。意識が
  戻ったら説明するつもりだったのさ。だけど敵さんの襲撃だろ? 悪いな、後回しになってた。それで、撃つのかね?」
  「いや」
  銃をポールソンを下す。
  そして深々と頭を下げた。
  「すまなかった。許してほしい。この通りだ」
  「いいんだ、別に。状況的に見たら俺が犯人だと思うのは当然だ。誰だってそうするさ。……しかし意外にあっさりしてるな、証拠は俺の言葉だけなんだぞ?」
  「話に筋が通っている。少なくとも不自然ではなかった。それにミスティが信頼してるしな、信じるよ」
  「赤毛さんよ、あんたと友達になってよかったぜ、なあ?」
  デズモンドは笑った。
  私が苦笑いして肩を竦めるとポールソンも笑った。
  仲直り完了かな?
  結局ジェイミもあれだったけど、マーセラもマーセラだったってわけだ。やばい、あの本絡みでまともな奴らがいない。オバディアも、ジェイミも、マーセラもね。
  だけど本当にデズモンドは丸くなった。
  いやこれが本当の彼かな。
  教授との追いかけっこで大分神経がすり減ってたんだろうな。
  さてさて。
  「そろそろ温室行かなきゃサラに殺されちゃうわね。ポールソンも付き合う?」
  「リハビリも兼ねて行くとするよ」
  「オッケー。さあ、そろそろ行こうか、グリン・フィス」
  「御意」





  「随分と遅かったから主要キャラから外されたのかと思ったわ」
  「はっ?」
  謎の発言をするサラさん。手には私が渡したアサルトライフルがある。シーがソドムでゲットしてきたものだ。たぶんヴァン・グラフの銃。
  あの後、私たちは温室の地下にある地下施設に潜入した。
  まさかこんなものがあるなんてね。
  通路は下に下に伸びている。
  確かに教授はメリーランド州において王様だったらしい。こんなものが自宅の地下にあるだなんてね。
  潜入メンバーは私、サラ、グリン・フィス、そしてポールソン。
  デズモンドは屋敷でバックアップ、何かあったら渡された無線機で交信できるってわけ。PIPBOYをバージョンアップしたら楽かな、これは受信だけの機能しかないし。
  シーは地下施設の入り口を狙える場所でスタンバイ。
  私ら以外の奴の出入りを阻むためだ。
  デズモンドに借りたスナイパーライフルを持って待機してる。当然遠距離キルの位置で。
  まあ、未だにここに籠ってるとは考えられない。
  屋敷に突入してきたのはかなりの戦力だったし、ここから来ている以上、投入した数分は減っているわけだし。ロボトミー軍団の脳ミソを搭載したロボブレインがロボトミーの分だけ
  存在しているかもだけど今のところお出迎えはない。通路にはタレットもあるけど起動はしていないようだ。一応その都度破壊してる。
  「主、ここは空き家なのでしょうか?」
  「でも電力は来てるからなぁ」
  そう。
  この施設、稼働はしてる。
  ただし誰のお出迎えもない。
  罠か?
  罠なのか?
  「泡食って逃げたんじゃないのか? ……ゲホ」
  ショットガンを片手に歩くポールソンはタバコにむせた。
  まだ本調子ではないらしい。
  「タバコやめたほうがよくない?」
  「いやいや。これは酒に並ぶ特効薬さ。なあ?」
  「自分は吸わないので」
  同意を求められたグリン・フィスは首を横に振った。
  お酒話なら盛り上がりそうだけど。
  まあいい。
  通路がなだらかになる。かなり深くまで来たな。今のところ直線通路だ。扉が立ち並んでいる。寄り道はしないでまっすぐ進む。深層とラスボスは最奥と決まってるし(超適当)
  「主」
  「ええ」
  44マグナムでタレットを破壊。
  破壊する意味?
  通り過ぎた後に背後から攻撃されても困るし意味はあるだろ。弾丸の確保もできたし無駄遣いってわけじゃない。
  最初のスワンプフォーク襲来の物資欠乏状態からオサラバでござる〜な感じ。
  弾丸さえあればかなりイージーモードだ。

  ぷしゅー。
  ぷしゅー。
  ぷしゅー。

  通路に立ち並ぶ扉は全て自動の扉。私たちが通るたびに開く。
  そのたびに銃口を扉内に向けつつ歩く。
  万が一の不意打ちに備えてだ。
  今のところ何もないけど。
  「何だこりゃ」
  ポールソンが歩きながら呟く。
  ラジオに小人が入ってると言ったりスティムパック知らなかったりだから分からないんだろうけど、私には分かる。
  大抵の扉の中には円形の筒がある。
  ここにロボトミーが入ってたんだろう。じゃああれは戦前のものか?
  あー、そうかもね。
  教授は昔は脳にはまってたと言ってたな、デズモンドが。あの連中はスパミュに興味が移る前の代物だろう。だけど不思議だ、どうしてロボブレインは投入しなかったんだろう。
  ここでは別の施設で作ってたのかな?
  うーん。
  脳を運ぶ手間が面倒な気もするけど、まあ、ロボトミー作る意味がそもそも分からんわけで理解は出来んかな。教授狂ってたみたいだし。
  常人には理解できません。
  「ミスティ、簡単すぎない?」
  「だね。もぬけの殻ってのも分からないし」
  「主」
  「ん?」
  「何か来ます」
  「何か」
  私たちは立ち止まる。
  グリン・フィスは抜刀の構え、私たちの向かう方向に向けて。私たちは数歩下がる、グリン・フィスが突出した形でとどまっている状況。
  通路は狭い。
  抜刀の構えでいる以上、それはつまりグリン・フィスが迎え撃つということだろう。
  私たちは銃を構えてバックアップの態勢。
  「来ます」

  「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」

  雄叫びを上げて全力でこちらに向かってくる大男。
  スパミュの亜種っ!
  防弾コートは着ずに全裸の状態だ。灰色の巨人。生殖器はない。確かボルト87の端末でスパミュは無性状態になるとか書いてあったな。
  それにしても違和感がある。
  そうだ、爪がない。
  屋敷ではデスクローのような爪になったけど、爪を収納してるのかな。
  何の為に?
  分からんけど倒すまでだ。
  「俺の見舞いに来た奴かよっ!」
  舌打ちしながらポールソンはショットガンを撃つ。
  私達も撃つ。
  スパミュの亜種は全く動じずに突っ込んでくる。その時、グリン・フィスが動いた。
  私は両手を横に広げ、サラとポールソンとの射撃を止めた。
  鞘からぴかっとした光が放たれたと同時にスパミュの亜種はその場で立ち止まり、数秒後に首が落ちてひっくり返った。
  瞬殺かよ。
  相変わらず強いなぁ。
  「おいおいスゲェな」
  「お疲れ様、グリン・フィス」
  「ありがたきお言葉」
  「……ミスティ、おかしくない?」
  「おかしい?」
  「こいつ、丸腰よ」
  「あっ」
  違和感はそこか。
  丸腰でこいつ突っ込んで来て果てた。屋敷突入時は銃使ってたのに、だ。別の個体か、これ。そう考えるとソドムを徘徊してたのと屋敷に突撃してきたのは別物かも。そしてこいつも、ね。
  少なくとも三体はいる可能性がある。
  ソドムのと、屋敷のと、今向かってきた奴の三体。
  ソドムのもタフだったし、屋敷のもタフだったけど、地下施設のは完全に死んでいるようだ。不死身ってわけではなく一応は殺せるらしい。というか殺せんとヤバいか。
  鞘に剣を戻す。
  サラが私に耳打ち。
  「ショックソード、BOSに売らないか聞いてくれる? あの技術は量産出来たらすごいわ」
  「確かに」
  大佐のテスラすら斬れたんだ、凄い技術なのは分かる。
  ケリィのおっさんもショックソードを伝説の武器とか言ってたし凄い技術なのだろう。だけど研究過程で能力が失われることだってあるしたぶんグリンフィスは手放さないだろう。
  愛用してるし、何より失うことで戦力ダウンだ。
  「無理だと思うよ?」
  「まあ、分かってるけどね」
  ごり押しせずにサラは頷いた。
  駄目元ってことか。
  「主、どうされました?」
  「ううん。さあ行きましょう」
  「御意」
  亜種を倒して私たちは奥に進む。
  奥へ奥へと。
  拍子抜けするほど警備はなかった。というか何もない。思い出したかのように機銃型のタレットが天井にぶら下がってるけど沈黙してる。もちろん一応破壊してる。
  円形の筒も部屋に幾つもあるけど空。
  完全に全戦力を投入したのかもね。
  少なくともこの施設には戦力が何もない。私たちが突入しても迎え撃てないと判断して放棄したかもしれない。
  端末でこの施設の概要を調べてみたけど大した情報はなかった。
  この地下施設、ボルトテック社の管轄というよりは完全にカルバート教授の私設基地らしい。ソドムボルトは開発はボルトテック社のようだけどナンバリングはされていなかった。その理由
  も教授が個人的に依頼したボルトだからみたい。どんだけ金持ちなんだ、そしてどんだけ道楽なんだ、教授は。
  全て研究施設であって、避難用ではなかった。
  それと端末弄って分かったのはあの亜種とこの地でハイテクが駄目になる理由。
  あの種はスーパーミュータント・コマンダーというタイプでボルト87での実験データを元に作られたらしい。どうやら教授は自分の王国からボルト87に拠点を移しはしていたものの、バルトに
  任せていたポイントルックアウトに定期的に帰っていたようだ。そしてあの亜種を作り上げた、らしい。
  コンセプトは進化するスパミュ。
  脳を電子脳にすることにより知能をバージョンアップできる仕組みらしい。武器を使えたのも武器を使用するというデータを入れたのかもだけど、普通にキャピタルでやり合ってたスパミュは
  銃器使えるから出来損ないなんじゃね?という感じ。タフではあったけど、電子脳は衝撃に弱いらしく、データが飛ぶこともあるとか何とか。
  ……。
  ……ま、まあ、普通のスパミュなら頭撃ち抜かれた時点で死ぬわけだから、そういう意味ではタフなのだろう。
  44マグナム全弾受けても生きてたし。
  一定以上のダメージを受けるとリミッターが外れてスーパーモードになるようです。あの爪はデスクローの遺伝子が組み込まれているから、のようだ。聞いた話ではデスクローはエンクレイプ
  製らしいけどどこから遺伝子取ったのかな。もしかしたら実は野良がごろごろしてるのかも。まあ、あいつはタイラントのパクリってわけだ(汗)
  さてハイテクが駄目になる理由。
  この土地の地下にある天然ガスとプンガの大樹と呼ばれる大木が発している胞子が混ざり合った結果、動力が駄目になるようだ。レーザー系はプリズムに胞子がこびりついて使えなく
  なる、みたい。ソドムの街は海風があるからある程度は押し返してるらしいけど、それでも徐々に使い物になるようだ。
  PIPBOY?
  防護処理が完璧のようです。
  ザ・ブレインもそういう意味では何らかの処理がされているのだろう。
  さてお勉強終了。
  最下層、最深部に到達。
  扉がある。
  仲間たちの顔を見て頷き合う。

  ぷしゅー。

  扉の中に乱入。
  一斉の銃を構える。
  「ひぃっ!」
  悲鳴。
  赤い服を着た女性が、パソコンや機械群の並ぶ最深部で蹲っていた。
  オリンだ。
  「このアマっ!」
  「ひぃっ!」
  「待って」
  憤るポールソンをサラが止める。
  撃ったのはマクグロウで、建物に火を放ったのはオリン、ポールソン的にはオリンも憎しみの対象のようだけど優先順位的には下がるのだろう。
  憎々しくオリンを睨んで後、オーケーと言って後ろに下がった。
  男前だなぁ。
  「オリン、マクグロウはどこ?」
  「ロボブレインと一緒に出て行きました」
  「ロボブレイン?」
  「スーパーエゴとかいう名前で……わ、私は、損傷を受けたとかいうスーパーミュータントの治療をそのロボブレインに命じられて、その、ここに残ってました」
  損傷を受けたスパミュ?
  となるとあれは屋敷で倒した奴か、ソドムをうろついて奴になるのか、一応これで数は最低でも2体になった。まあ、さっきの死んだから残り1か。
  サラはアサルトライフルを構える。
  「こ、殺さないでください、サラ・リオンズ、お願いですから殺さないでくださいっ!」
  「自分が何をしたのか分かってるの?」
  「テクノロジーの保全が全てですっ! それがBOSの規範でしょうっ! わ、私は、それを実行しているだけですっ!」
  「どけこのくそ女撃ってやる」
  「あなたは黙っててっ! ……お願いだから。オリン、さっさと消えなさい、私たちの前から」
  「ひ、ひぃっ!」
  悲鳴を上げてオリンは走り去った。
  後ろも見ない。
  泡食って逃げて行った。
  「……いいのかよ、あいつ逃がして」
  誰に言うでもなくポールソンは吐き捨てた。
  意味は分かる。
  良いことはないだろうと思う。
  私も前例があるけど、ピットマン、いや、ジェイミの二の舞になる可能性もある。だけどここは選択権をサラに譲るとしよう。
  既にここにいる全員の問題だけど、一応BOSの問題でもあるし。
  「主、これからどう……」

  ヴォン。

  青い人影が部屋の中央に現れた。
  身構えるけど、無駄か。
  映像だ。
  天井に照明のような機器があり、そこから投影してる。
  この映像の主がどこにいるかは不明。
  少なくともここにはいないか。
  となると別の私設ってことになる。
  残像が酷いけど人の形をしている。映像の色が元々青で設定されているのか色のデータが飛んでいるのかは分からないけど、青い人影が現れた。顔も分からないし服装も分からない。
  ただ体型的には男。
  そして腕には何かつけてる。
  PIPBOYか。
  「な、何だこりゃ」
  「ビジョン系の魔法でしょうか?」
  ポールソンとグリン・フィスには見当もつかないらしい。
  まあ別にいい。
  魔法というグリン・フィスの言葉に青い影は笑った。
  声にもノイズが走ってる。
  どっから映像飛ばしてるのかは知らないけど、設備そのものが劣化してこういう状態のようだ。
  「私の持つテクノロジーは確かに魔法と見分けが……」
  「極度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない、科学の第三法則」
  言ったのは私ではない。サラだ。
  ふぅん。
  今まで戦闘系しか見てこなかったけどかなり博識だ。本の虫ってのも誇大広告ではないようだ。
  「ほう? 赤毛の仲間も、ただの原住民ではないようだな」
  「あなた誰?」
  私は問い返す。
  しかし男はそれに対しては答えなかった。
  「キャピタルの有名人がどの程度かは知らなかったが、あの連中のお蔭である程度は図ることができた。別に我々はあの連中はどうでもいいがね。もちろん君もお仲間も我々COSには本来
  どうでもよいのだが目障りになっている。この地の原住民どもが躍起になっているからな、一度会ってみたかったのだよ。殺すかどうかの判断もしたかった」
  「ふぅん。ホログラム越しで? 会いたいなら出てきなさいよ」
  「遠慮しておく」
  「あなた余所から来たのね。でしょ?」
  「なかなか頭の回転も素早いな、赤毛の冒険者……だったか? そうだ。我々はキャピタルなどどうでもいい。ルックアウトもな。情報が欲しかっただけだ」
  「原子力潜水艦は?」
  「ほう? そこまで知っているか。どこからの情報だ?」
  「その原子力潜水艦を奪うプランがあるみたいよ?」
  「ほう?」
  主語は言わない。
  疑心暗鬼して遊んでろ。まあ、漏らす相手は基本限られてるんだけどさ。
  映像は笑う。
  「あんなものはただのついでだ。中国軍のスパイを演じている狂人がもたらした情報が利用できると思って引き揚げているだけだ。でなければあんな奴を同志には加えない」
  「へぇー」
  Mr.チャンだかサムソンは食客的な位置付けらしい。そして信じられていない。にも拘らず収容所ではCOSを従えていた。
  つまり?
  つまり……。
  「あの収容所に部隊を派遣してたのも、そいつに指揮させてたのも、誰かを釣る為ってこと? そいつに指揮させたのは、いかにも原子力潜水艦を狙ってますよーをアピールする
  為じゃないの? つまり原子力潜水艦自体が餌ね。盛大に動いて、餌をチラつかせてるのよね? 誰をペテンにかける為かは知らないけどそんなところじゃない?」
  「……」
  「図星?」
  「認識が甘かったな。頭の回転は想像以上だ。その洞察力は無視できない。危険だ。始末に値する」
  「そいつはどうも」
  「是非とも仲間にしたいが無理だろうな。相容れないというより、君は、そう、過去だけではなく今も見ているのかもしれにないが、少なくとも未来は見てはいない」
  「興味ないわ」
  アサルトライフルを天井に向けて撃つ。
  映像の発生装置を破壊。
  映像は消えた。
  だけど消える前に声が響く。もちろん映像は映像、音声は音声で独立してるわけだから当然だけど。
  「どうやら排除するしかないようだ」
  「奇遇ね。私もそう思ってた」
  「ではまた」
  音声はそこで途切れる。
  もうここには用がない。
  私はパソコンからこの施設の電力情報をゲット。そして全てのシステムをダウンさせた。
  残りの施設は後いくつ?
  そろそろ決着だ。





  地下施設から脱出。
  COSの親玉が映像とはいえ出てきた、誰だかまだ分からんけど、まあ、誰でもいい。そこは別に関係ない。そろそろ展開が終盤のようだ。
  結局この施設にバルトはいなかったし痕跡もなかった。
  ある程度の情報が手に入っただけでも良しとしよう。
  一応脱出した時に3つのことが起きた。
  1つは亜種の死体だ。
  なくなってた。
  まさかあいつ首がくっ付いて逃げたのか?
  だとすると個体数は1ということになる。一貫して同じということか。首が繋がって再び動き出すとかどんな化け物なんだ(泣)
  倒すには粉々にする必要があるのかも。
  うーん。
  充分な火力を入手しなきゃ。
  ソドムの街に行って爆発物をゲットする必要があるのかも。
  さてさて。
  次の出来事の1つはシーだ。
  サラが見逃したオリンをスナイパーライフルで射殺した。

  「えっ? 頭吹き飛ばしたらやばかった?」
  「いえ。彼女が選んだことだから」

  シーは知らん奴が逃げてきた、当初の予定通り撃っちゃえー、でした。シーに落ち度はない。シーはオリンと会ってないわけだし。
  サラはサラで一瞬沈んだ顔をしたけどすぐにそれを振り払った。
  そう。
  全てはオリンが選んだ結末なのだから。
  これでOCはマクグロウだけになったってわけだ。
  バルトとつるんでるのかな?
  一網打尽にしてやる。
  そして最後の1つ、それはトライバル側からのお誘いを受けたということだ。応対したのはデズモンド、無線でアーク&ダヴ・カテドラルに招待されたらしい。
  私とグリン・フィスをね。
  何故私たちの名前を知っているのだろう?
  教授の手下の生き残りなのか?
  確かにソドム市長としてのバルトと組んでいた、市民章してなかった余所者を排除してた、となるとやはり……いや、だけどそれなら屋敷に突撃してくるはず。ロボトミーと一緒に
  突撃してきたら多分屋敷は持ちこたえられなかった。一時的にセキュリティ死んでたし。シー曰く人数は100や200はいるらしい。
  呼び込んで不意打ちする意味はないだろ。
  じゃあ何の為だ?
  応対受けたデズモンドの話では、招待受けたのは私とグリン・フィスだけだけど、サラとシーも連れて行くとしよう。サラは二つ返事でオッケー、シーは渋るかと思ったけどこれまた
  オッケー。何でもプンガの種をゲットできるチャンスらしい。商魂たくましいお方ですな。
  デズモンドは引き続き屋敷の防衛に留まり、ポールソンはやはりまだ本調子ではないらしいので彼も居残り組。
  さてさて。
  「あのさ、一応言っとくけど、トライバルは戦闘民族だからね。挑発はほどほどにねー」
  「分かったわ、シー」
  「……戦闘民族、か。楽しみだ」
  「ミスティ、イケメン君は趣旨分かってる?」
  「……微妙」