私は天使なんかじゃない
カルバート邸
巡り合い。
縁とは不思議なものだ。
欲望の街ソドムの真実。
カルバート教授の箱庭だった。市長のバルトは、市長である以上にカルバート教授に街の運営を任された管理者。そして前歴はフェリー乗りのトバル。ポイントルックアウト初期の
人物で人の頭をかち割るという猟奇的な連続殺人犯。聞いた話ではネイティーンとシー傭兵に殺されたらしい。何で生きてんだ?
ともかく。
ともかくここはあのボルト87の悪夢の延長戦のような場所だ。
既に教授は死んでる。
現在動いているのはバルト、ザ・ブレインという名のMr.アンディ型のロボ、何だかよく分からんスパミュの亜種、他にもいるのだろうか?
この3人(人ではない割合が高いけど)は教授の手下の生き残り。
トライバル、そう、トライバルは何なんだろ。
何らかの取り決めで市長のバルトに従ってるみたいだけど、あくまでソドム市長との取り決めか、教授の手下のラインにいるのか、謎。まだ遭遇してないし。
あのボルトは市民銀行の中にあった、というか市民銀行をカモフラージュとして地下に存在していたボルトは戦前のものだろう。まあ、当然よね。教授と長年戦ってきたデズモンドがいうには
教授は戦前の人物。教授がどういう形でボルトテック社に関わってたかは知らないけど、元々この地はボルトテックの計画が水面下にあったんだろうなぁ。
世界は物騒です。
スワンプフォークに関しては完全に、バルトにしても予定外の展開だったんだろう。オバディアのアホとか言ってたし。
COSは少々立ち位置が微妙で、一応教授の手下の生き残りと手を組んでいるような印象だ。この地にある教授の別の施設にいるらしいし。
何しに来た?
さあ。
ただ、バルト曰く何らかの情報を求めてきた、らしい。
あの火事場泥棒的なアウトキャストのマクグロウとオリンはCOSが引き上げようとしている原子力潜水艦を横取りしようと画策してるけど、COS的には情報収集のついで、らしい。
デリンジャーのジョンの立ち位置も不明だし、色々と厄介だ。
そう。あの女たらしは完全に謎だ。
バルト曰くヴァン・グラフに紹介したのもバルトらしい、となるとバルト陣営なのかなと思える。オバディア・ブラックホールの側にいたのも実はバルト護衛と考えれば辻褄が合うし。ただ
デリンジャーは会場で何故か私らを助けた。ヴァン・グラフの船を攻撃した。バルトが捨て駒にしたとはいえ、ヴァン・グラフはバルト側だった。少なくとも協力関係にはあった。
あいつは謎。
ただの雑魚なら別に気にしないけど、グリン・フィスと張り合えるであろうレベルの謎のキャラは面倒です。
それでも全体像のピースはかなり集まってる。
足りない部分もあるだろうけど繋げようと思えば繋げれるだろう。
……。
……ただ、まあ、イベントごとは誰にもいないところでして欲しいものです。
おおぅ。
ソドムでの戦いから1日後。
すぐさまカルバート邸に向かおうかとも思ったけど一晩街に泊まった。
何故?
色々と消耗してたし物色してた。まあ、大したもんなかったけど。
それでも弾薬の補充が出来たのは大きい。
街は完全なる静寂だった。
スワンプフォークの襲撃で大半は死に、大半は逃げた。どの程度かは知らないけど、その後戻ってきた人たちはバルトの犬になったヴァン・グラフ・ファミリーに人間狩りの対象として
殺された。そしてそのヴァン・グラフ・ファミリーもバルトに見限られ、そしてグリン・フィスに叩き潰された。連中は壊滅。ミス・グラマラスは逃げた、かもしれない。
ただボスのグラッツェは死んでた。
ソドムは死者の街となった。
夜が明けると私とグリン・フィスはカルバート邸に移動。
道中特に問題はなかった。
まあ、たぶん解き放ったのが野良と化したと思わしきケンタウロスに襲われたけど私とグリン・フィスの敵ではなかった。
「へぇ」
カルバート邸に到着。
大きい。
本当に大きい屋敷だ。
ブラックホール邸も大きかったけどその比じゃない。デズモンド曰く教授はメリーランド州を支配していた、らしい。オバディアが貴族なら、カルバートは王か。家の大きさがそう物語ってる。
まあ、その王は既にいない屋敷なんだけどさ。
ボルト87で教授は死んだ。
……。
……少なくとも、倒したのが偽者とか、実はクローンの一つとか、悪の力で復活したしたとかじやない限り、死んでます。
というか死んでいてくれー。
教授自身も、まあ、扱える技術力的に嫌だけど、一番嫌なのはスパミュ量産だったりする。
エンクレイブが今だ侵攻の機会を伺っているとはいえキャピタル・ウェイストランドは安定に向かってる、今更攻教授の攻撃的なスパミュが溢れられても困る。
今いるスパミュ?
共存出来たらいいですね。
ただ、今から増えるのはダメだろ。だってスパミュはFEVウイルスを人間に投与して作る存在。人道的に今から作るのは、ねぇ?
さてさて。
「主、これは……罠、でしょうか?」
「うーん」
屋敷の周りには死体がごろごろ。
傭兵の服とか着た奴とかコンバットアーマー着たCOSっぽい奴とか死んでる。たくさん。レザーアーマーのもいる。
スカベンジャーとかの類とCOSか?
スカベンジャーはこの屋敷の技術求めて入り込もうとして返り討ち、かな。
デリンジャー曰くセキュリティが鬼のようらしい。
まあ、それがこの結末かな。
白骨化したのもいる。
つい最近ここのセキュリティが破られたこともデリンジャーは言ってた、そしてそれでデズモンド・ロックハートだということも。
グリン・フィスが先陣切って敷地内に入ろうとする。
「待って」
私は制する。彼は止まった。
PIPBOY3000を起動、周囲を索敵。反応がある。生物反応ではない、これは……ふぅん、ロックオンされてるな、私ら。
それも無数に。
改めて死体の山を見る。
穴だらけ。
タレットか、機銃型のタレットがそこらにあるのか。
「デズモンド、いるんでしょ、私よ、ミスティよっ!」
叫ぶ。
バルトに対抗するために動いているとか何とか。COSとバルトは若干手を組んでいるっぼいので、この屋敷をCOSが襲撃したのは要請からなのか、技術欲しさなのかは不明。
まあ、敵なんですけど、どっちにしても。
「デズモンドっ!」
『これはこれは赤毛さんかよ。保護してるあんたの仲間から聞いていたが、感慨深くはあるな、こんなところで会えるなんてよ。まあ、入れよ』
拡声器から響く声。
どこにあるんだろ、拡声器は。
ガチャっと扉が開いた。
疑いはしてないけどPIPBOYはロックオンが解除されたことを表示している。
入るとしよう。
「行こう、グリン・フィス」
「御意」
中に入ると懐かしい顔を出迎えてくれた。
デズモンド・ロックハート。
ボルト87で共闘した仲間。毒舌で厭世的かと思えば義理堅い人物でレイブンロックに私が監禁された時も単身救出に乗り込んできてくれた。
付き合いは短いが信頼できる仲間だ。
「久し振りだな、赤毛さんよ」
「久し振りってほど日は経ってないけど」
くすりと私は笑う。
そう。
長く戦ってきたつもりだけど、ボルト101を出てから一年はおろか半年も戦ってない。デズモンドとの出会い自体そんなに日は経ってない。
随分と濃い日々を送ってますなぁ。
「ははは。だな。座れよ、酒でも飲もうぜ」
応接間に誘われる。
内装は申し分ない。劣化もしてない。多少かび臭いけど、今まで手付かずにしてはこの屋敷内部は落ち着いている。
「やっほー☆」
「ミスティ良かった。無事だったのね」
テーブルを囲んでソファに座っていたのはシーとサラだった。テーブルの上にはそれぞれのコップとワインの瓶が置かれている。おつまみにジャンクフード。
よかった。
無事だったようだ。
デズモンドは待ってろと言って応接間から出て行った。私とグリン・フィスは座る。フカフカのソファだ。いいな。これ、キャピタルに売ってないかな。
着替えたのかサラはバラモンスキンの服を着てた。シーは元々バラモンスキンの服だったけど前と色が変わってる。
シーはピンク、サラは白。
ピンク色?
「珍しい色ね」
普通は白だと思ってた。
「うっわミスティは新作知らないの? これ今年の流行色なのよ? ……あっ、サラのは流行遅れね」
「興味ないわ、あなたが貸してくれただけだし」
冗談のか本気なのか。
今年の新色?
ウェイストランドに流行り物を扱う洋服店なのかあるのかな?
まあいいや。
「シー、無事で何より」
「うんうん。再会を祝してキャップくれてもいいんだよ☆」
「……」
スワンプフォークに追われ、サラを逃がし、行方知れずだったしーさんは相変わらずですね。
私が知る限り一番ポジティブな奴だ。
おおぅ。
「サラ、そういえばポールソンが重傷って……」
「何故それを知っているの?」
「マクグロウとオリンに聞いた」
「あの2人を同行させたのは私の落ち度だったわ。ごめんなさい」
「サラを責めるつもりはない。保母さんってわけじゃないし、あいつら子供でもない、独立した悪党。悪いのはあいつらよ。それで、大丈夫なの?」
マクグロウとオリンはバルトに転んだ。
正確には利害の一致ってやつ?
あの2人は不思議な考え方ではあると思う。COSは極端に嫌うけど、COSと実質手を組んでるバルトとは組めるわけだし。まあ、バルトはバルトでCOSとお互いに
利用し合ってるだけだし、その点を踏まえたら特に抵抗はないのかな。もちろん私らからしたら敵だけど。
「あの店には大したものはなかった、略奪された後みたいだったわ。いきなり後ろからマクグロウがポールソンを撃って、オリンは店に火をつけた。2人は逃げた。店にはスティム
パックなかったし、何とか確保しようとしてたら彼女に会ったのよ。会わなければ、ポールソンは死んでいたわ」
「いやぁ。それほどのことはありますよー☆」
シーはケラケラ笑う。
空気が読めないというよりはそう振る舞うことで、マクグロウ達の本心を見抜けず、ポールソンが死ぬかもしれなかったという状況を感じさせないでいるのだ。
良い奴です。
「あたしはさ、デズモンドのとこに逃げたのよ。スワンプフォークに追われたから。と言ってもまさかあいつがここにいるとは知らんかったけどさ。たまたま助けてもらったわけよ」
「でも知り合いなんでしょ? 西海岸で組んでたとか」
「……? 何で知ってんの、あれ、前にデズモンドに聞いた?」
「えっと、デリンジャーに伝言頼んだんじゃないの?」
「あいつに? あたしが?」
「はっ?」
あれ、展開がおかしいぞ。
あいつは確かメッセンジャーとか言ってたのに。
どういうことだ?
「あたしあいつに会ってないよ」
「はい?」
「あたしはデズモンドに頼まれたからソドムに斥候に行っただけ。教授? そういうのは関係ないけど、まあ、スワンプフォーク絡みでデズモンドに助けてもらったし、そんで斥候に
街に行ったのよ。で、サラたち拾って一時撤退した、それだけ。デリンジャーのジョンには会ってないよ。あいつあたしらの会話を盗み聞きして、ミスティに伝えたのかも」
「何の為に?」
「知らん知らん。あたしデリンジャーじゃないし」
意味分からん。
あいつの立ち位置がマジで意味が分からん。
「よお、待たせたな」
デズモンドが戻ってくる。
グラスを私たちの前に置き、未開封のワインの瓶を空けてグラスに注いでくれる。
赤い液体。
うーん。
芳醇な香り。
注いでから彼は言った。
「しまった、ワインは大丈夫か? 聞き忘れてたぜ。スコッチが良いならあるしビールもあるぞ」
「ワインでいいわ。ありがとう」
「飲んでくれ。約束だったしな、ポイントルックアウトで飲もうってよ」
デズモンドもソファに座る。
口に含む。
おいしい。
私が一口飲んでいる間にグリン・フィスは全部飲み干した。おいおい、酒に飢えてたのか?
「グリン・フィス、いける口なのね」
「酒は人生の友ですので。しばらく控えてたので、その、すいません」
「いいわ」
注いであげようと瓶を手に取ろうとするとシーにひったくられた。
「どうぞイケメン君☆」
「どうも」
ふぅん。
グリン・フィスはお酒好きなのか。あー、そういえばよくアカハナ達ピットレイダーとゴブのお店で飲んでたなー。
「デズモンド」
「何だ?」
「ポールソンはどこにいるの?」
「二階だ。輸血してる」
「輸血」
「スティムパックは……」
「あー、分かってる、ウェイストランドは長くはないけど、濃い日々送ってるし」
「赤毛の冒険者様だしな」
彼はくくくと笑った。
スティムパックは治癒力を爆発的に高めて瞬時に傷を治すけど失った血液は別問題。
「シーと知り合いだったのね」
「知り合いというか、俺が教授の拠点を潰す、そいつが直後に漁りに来る、を何度か繰り返しただけだ。まあ、知り合いといえば知り合いだがな」
「ふぅん」
「にしてもあんたも気付いてるんだろ?」
「気付く? 何を?」
「教授だよ」
「ああ。カルバート教授ね。……バルトは教授の手下の生き残りだとして、教授は完全に死んだのよね?」
「死んだよ、ボルト87でな」
「遠隔操作ってことは?」
「ジェネラルだっけか? そいつの脳に何か埋め込んで遠隔操作的なノリでか? それはないだろ」
「そういうもんなの?」
「ああ。あいつの砕けた頭部には確かに脳があったよ。機械が埋め込んであったかは知らんが、さすがに遠隔操作過ぎるだろ。大体生きてるならバルトたちが躍起になって復讐はしないはずだ」
「なるほど」
頷く。
確かにそうだ。
「となると完全にあいつらは、というか今回動いているのは教授の手下の生き残りってことになるわけか」
「そうなるな」
「デズモンドは正規の手続き踏んでここに来たの?」
「ああ。偽装する必要なかったしな。しかし街に入った途端、襲われ続けた。暗殺、奇襲、全部はねのけたよ。まあ、生きてるんだから当然だな。ともかくこいつはおかしいと思って調べた。そし
たらバルトが教授の手下だったってわけさ。ここに住んでるのは特に意味はない。良い家だったからな、住んでるってわけだ。戦利品ってやつだ。前にパスコード知ったしな」
「パス? ああねそれでセキュリティ破ったのね。そうだ、COSについては?」
「よく知らん。あいつらは灯台の方にいるな、たまにアタックしてくるが、この屋敷には防衛装置がある。怖くはないよ」
「灯台」
確かバルトはCOSは教授の別の施設にいるとか何とか。
じゃあ灯台にいるってことは灯台が本拠地?
「防衛装置ってタレット?」
「ああ。問答無用で侵入者を蹴散らしちまうのさ。さて赤毛さんよ、組まないか? あんたとならベストパートナーだしな?」
私はサラの顔を見る。
「気兼ねする必要はないわ、ミスティ。仲間じゃない、私はあなたの行動についてくわ」
「主、自分もです」
「あたしも稼げそうだし賛成ー☆」
良い仲間だなぁ。
私は頷く。
「条件があるわ、デズモンド。ワインのお代わりくれるなら付き合ってもいいかな」
「ははは。今夜は飲み明かそうぜっ!」
ワン。
その時、犬が部屋に入ってきた。
二棟の大型犬。
「可愛いわね。デズモンドの犬?」
「ああ。ゲリーとフレキーだ。前の持ち主はレイダーでな。こいつらを虐待してたから、助けたのさ。でキャピタルを出るときにこいつらと一緒にここに来た。俺の家族さ」
「レイダー」
「縛り付けてモールラットの群れに放り込んできた。骨になっちまってると思うぜ」
「えぐい殺し方するわね」
「まあいいじゃないか。飲もうぜ、はははっ!」
前より陽気だ。
教授倒すという目的が終わって肩の重荷が降りたからか、既に酔っているからか、まあ、両方かな。
セキュリティも万全らしいし今日はゆっくりさせてもらおう。
「そうそう、ミスティ、ここもお湯が使えるのよ」
「サラ、マジでっ!」
「広い浴槽だったわ。あなたも入ってきたら?」
「そうする。凄いのね、デズモンド、お湯が使えるなんて」
「この地は元々ビッシュ社の天然ガスが使われてたのさ。そのプラントがまだ地下にあるんだ、ここもそのガスの恩恵がまだ生きてるのさ。お前さんもあとで入って来いよ」
「ありがとう」
とりあえず今日はゆっくりするとしよう。
カルバート邸。温室。地下。
そこはソドムの地下にあった研究用ボルトよりも広範囲の規模を誇る、カルバート教授独自の実験施設が広がっていた。
戦前駆るある実験施設。
当時の教授の分野は人間の、脳。
ロボブレインの発展型の開発を進めていた。
ここはその為の施設。
何故自分の屋敷の地下に建造したかといえば秘密の保持のため。
摘出された脳の持ち主たちはアメリカ政府が言う、誠意ある、自主的なボランティア(ボランティアの実態は、思想犯や死刑囚)ですらなく誘拐した人々の脳を使用している。
「くそったれどもがぁっ!」
「ハっ! 仕方ないんじゃないですかー、あいつらはカルバート様の手下なんだからあんたに従う理由はないですって。やぺー、俺もだー」
最深部にある実験室。
そこでバルトは吠えていた。タコ型浮遊ロボットであるザ・ブレインはふわふわと漂っている。
実験室には無数の円形の筒がある。
薬液に満たされたその中には目を閉じた人間が入っていた。口にはチューブが挿入され、時折口から気泡が出ている。生きているようだ。
この空間に動いているのはバルトとザ・ブレインだけ。
当然温室はカルバート邸の敷地内にある。
デズモンドたちのすぐ側にバルトたちは潜んでいた。
ここはソドムの街にあったボルトよりも広大で、この地におけるカルバート教授の拠点の中では二番目の規模を誇っていた。
バルトの憤怒、それはトライバルだった。
ソドムの街を失った(実際は自ら終止符を打ったのだが)報復としてバルトはカルバート邸にトライバルを送り込もうとしていた。COSの襲撃に関しては完全に向こうの都合で
あってバルトの意向では動かない、バルトもまた向こうとは一定の距離こそ保っているものの信用しているわけではなく利用できるとは思ってなかった。
そこで手札の中のトライバルを動かそうとしていた。
しかし、動かない。
トライバルもまた教授の配下ではあるが、そこはバルトとザ・ブレインと同様で、あくまで同じ教授の指揮下であって、バルトには指揮権はなかった。それでも同じラインとしてソドムの
街の防衛(正確にはバルトの与り知らない者たちの処刑が任務。その者たちはスパイとして認識、処理される)はしていたが主従関係にはない。
それでも、まさか同じ主人である教授の報復戦を拒否されるとは思ってなかった。
そして当てが外れた。
これでは充分な戦力が確保できない。
「ハっ! あの殺し屋でも使えばいいじゃないですかー。あんたよりも強いし、格好良いし、やぺー、あんた取り柄ないー」
「あいつか」
デリンジャーのジョン。
キャピタル随一の殺し屋でその名は西海岸にまで響いている。当然ルックアウトにも届いている。バルトは彼を雇いはしたものの、どこか飄々としていて扱いにくかった。
お互いに一定の距離を取り合っているCOSの仕事をこなしたり、バルトの差し向けたヴァン・グラフの漁船を攻撃したりと意味が分からない。
キャップ分は働いてい入るが信用はしていなかった。
今も実際彼がどこにいるか居場所が分からない。
「調整はどうなってる? 武器が使えるようにはなったのか?」
「ハっ! まだ睡眠学習中ですよー。でもスーパーミュータント・コマンダー使うにしても手数が足りないですよねー、患者たちも使うべきじゃないですかー」
「……スーパー・エゴを起動させろというのか?」
「ハっ! 今のところあんたより使えるんですから、そんな顔はないんじゃないですかー。やべー、お前マジ役立たずー」
「……」
バルトは不快そうに黙る。
患者と思わしき薬液付の人間たちを見る。どれも頭部には激しい傷があり、髪がない。
役立たず呼ばわりされたことが嫌なのではなかった。
スーパー・エゴを起動するのが嫌だった。
「おいバルト、まだ原子力潜水艦を引き上げないのかっ!」
うるさいのが来た、内心ではそう思ったが、振り返った時のバルトの顔はいつも通りだった。
「やあOCの旦那」
マクグロウとオリンがそこにいた。
現在原子力潜水艦はCOSの部隊が引き揚げ作業中で、部隊が張り付いており横取りできないでいる。マクグロウ達が思ってたより原子力潜水艦は小型で10人程度が乗れるサイズ
でしかないが他に例のないハイテクだった。西海岸まで持ち帰ればBOSも喜んでくれるだろう。マクグロウとオリンには野心がなく、BOSへの貢献が全てだった。
もちろん野心がないとはいえ、入手に至る過程での横暴は無視できないが。
そういう意味では地元の英雄になりたがったリオンズ率いるキャピタルBOSとは真逆であり、従来のBOSの思考だった。
バルトは笑う。
「COSを単独では出し抜けない、そう言って泣きついてきたのはあんたらだろ。少しは待ってほしいものだね。こっちにはこっちの都合があるんだよ」
「テクノロジーの保全が全てだ。こっちを優先して貰わないと困る。世界の為だ」
「ハっ! 独善的ですねー。こちとら迷惑なんですよー、ここはカルバート様の拠点であって、あんたらは異物だし。やぺー、心の声が音声に出てたー」
睨みつけるマクグロウとは対照的にバルトは無表情。しかし内心ではうまいこと言うもんだと感心していたが。
オリンは一歩前に出る。
何か言う前にバルトは手で制し、口を開く。
「COSが引き上げるまで待つべきだ。それとも何か? 俺が泳いで押し上げるのか? 冗談じゃない。連中が整備までしてくれるんだ、それまで待ちなって」
「だが……」
「旦那、悪いようにはしないよ。そもそもあんたら操縦出来るのか? ええ? 俺たちの方が優位に立ってるんだよ。勿論そんなことは言わないさ、親分風も吹かしたりはしないよ、
対等でいよう。だから少しは黙っててくれないかね。こっちはこれでも最大限の譲歩はしているつもりなんだがね?」
「……」
「俺らはCOSなんかどうでもいいのさ。だがこれ以上騒ぐなら、あんたら差し出すぞ。COSがその手土産に喜ぶかは知らんが始末はしてくれるだろうよ、どう思う? なあ?」
「……分かった」
「よかった。さて、これから少し出入りが激しくなる。それについては勘弁してくれ。じゃあな」
「ああ」
オリンを伴って去っていく。
この施設に宛がった部屋に戻っていった。
バルトは首を振った。
「やれやれ。BOSってのはどいつもこいつも横暴で困る。あれが西海岸の流儀なのかね。毒舌的なのか横暴なのかは知らんが扱いにくくて困る」
「ハっ! あいつらもロボトミーにしてやれよー、脳はロボブレインに使ってやれよー」
「いや。原子力潜水艦を動かすには最低限の人数はいる。俺とお前だけじゃ人手が足りん。事が終わればここには用がない。あいつらとともにここを去るさ」
そう言ってしばらくしてから低く笑う。
残忍な笑みだった。
「その後のことは、知らんがね。あいつらの脳を摘出するのも、楽しそうだ」
「ハっ! チョーキモイ笑みだぜー、やぺー、口にしちまったー、悪気はないんだぜ。あっ、俺お前のこと尊敬してるぜー」
「……ま、まあいい、まずはカルバート様の敵討ちだ。お前はスーパー・エゴを起動しろ、俺はスーパーミュータント・コマンダーを見てくる」
「ハっ! アイアイサー」
「カルバート様が作った、進化する、最強のスーパーミュータントをな」