私は天使なんかじゃない








欲望の街ソドム






  この街を支配するもの。
  法律?
  規則?

  いいえ、それは欲望。





  「ソドムの街、かぁ」
  PIPBOY3000を見るとまだ13時。
  お昼は船で食べたからまだお腹空いていない。今日は宿取って冒険は明日からにしよう。
  船が接岸。
  しばらくゆらゆらと揺れてる。
  揺れが収まってから、まずは私が船を降りた。
  久しぶりの陸地だ。
  続いてグリン・フィス、アンクル・レオが降りた。荷物はそれぞれ持っている。
  武装はいつもと同じ。
  私はコンバットアーマー、44マグナム、グレネードランチャー付きのアサルトライフル、グリンフィスはショックソードと45オートピストル、アンクル・レオはミニガン。
  ただ今回グリン・フィス君は黒く染めたバラモンスキンの服。
  ジェファーソン記念館で橘藤華にアーマーを砕かれた際に、アーマー着ると動き辛いと思ったかららしい。
  まあ、彼の場合大概デタラメだから問題ないか。
  ……。
  ……補足。私も大概デタラメだけど。
  さて。
  「ミスティ」
  船長も船を降りる。
  綱で船を波で流されないようにつなげようとしている。
  「じゃあね、ミスティ。私は補給してから客拾って帰る。帰りの船は別の人探して頂戴」
  「分かった」
  「金額は一律一緒だからね。かもられないようにね」
  「はいな」
  一往復1000キャップでした。
  1人分ね。
  結構な額だけど食費込だし、まあ、総合的に見たら安いもんだ。一週間の旅程でそれなら安い。
  それに今回の旅費はBOS持ち。
  旅行進めてくれたのもエルダー・リオンズ。あんまり接点ないしあんまり会ったことないけど、パパとママの知り合いだし、それに優しい。
  お祖父ちゃんみたいな感じかな。
  「行先分かってるよね? まずはポイントルックアウト市民銀行に行くのよ?」
  「観光案内に地図あったから分かってる」
  この一週間、穴が開くほど見たし。
  「でも何でポイントルックアウト市民銀行なの?」
  「そこがこの街の市庁舎みたいなものだから……」
  「いや、そうじゃなくて、何故に市民銀行って名称?」
  「ああ。そういうこと。昔の名残。戦前の名残よ。この街で一番強固だし武器の預かりとかもやり易いから市長のバルトがそこを自宅兼市庁舎にしたのよ」
  「ふぅん」
  「で? そこで何すればいいかは分かる?」
  「税金払って、武器預ける。拳銃とかの類は良いんだよね?」
  「最近また規則が変わって爆弾だけじゃなくてアサルトライフルも預けるようになったの。まあ、そうね、拳銃以外は持ち込み禁止。それと税金払ったらバンド巻きなさいよ」
  そう言って彼女は右腕を見せる。
  金色のバンド。
  あれは船乗り用で一部払えば後は無料らしい。スカベンジャーや一般人は銀色のバンドで、ここを離れるまで有効。
  材質は何だろ、プラスチック?
  「バンド巻かなきゃ消されるわよ」
  「大丈夫。BOSの奢りで旅費はたくさんあるから」
  「なら問題ないわね」
  「経費で落とすから大丈夫」
  「あははは。市長のバルトは金に細かいからね。私はあんまり好きにはなれない」
  「ふぅん」
  「もしかしたらこの仕事辞めるかもしれない。トバルみたいなのとまた会いたくないし。結構稼いだし、この船も売ったら向こうで店でも構えるわ」
  フェリー船を港に繋ぎながらネイディーンは言った。
  私、グリン・フィス、アンクル・レオは一週間ぶりの大地に足を鳴らす。大地、というか桟橋であって大地じゃないか。
  「じゃあねミスティ」
  「色々ありがとう。キャピタル・ウェイストランドで会ったら、今度も飲もうね」
  「店開店したら花輪送るのよ? なんてね。何の店にするかはまだ未定」
  「楽しみにしてる」
  新しい友達にバイバイして私たちは歩き出す。
  さあ、冒険の始まりだ。



  欲望の街ソドム。
  開拓者上陸の地と呼ばれる港の先にある観光地。街の隣には観覧車と呼ばれる戦前の代物があるけど、それはあくまで残骸で、動かないらしい。
  街の収入源は観光者が落とすお金。
  観光者にはスカベンジャーも含まれます。というか基本的にはスカベンジャーがメイン。
  冒険?
  純粋な冒険者はどうも少ないらしい。
  まあ、よいですけど。
  街の趣旨なんか関係ない。
  私らは私らで楽しむ。
  それだけだ。
  ソドムの街並みは港から一直線に大通りが伸びている。でその大通りを挟む形でひしめくように一階建ての建物が建っていた。全て戦前の建物。と言ってもその大半の
  建物は空き家。個々には純粋な住民はいない。正確にはこの街在住の一般人はいない。スカベンジャー、観光客、接客業の面々。
  接客業の面々もある一部を除いたらある程度稼いだらこの街を離れる、別のが来る、離れるのサイクルの繰り返し。
  稼ぐにはちょうどいいらしいけど永住には向かないらしい。
  まあ、どこから来たかによるけど、確かにちょっと暑い。
  ここは水辺に近いから涼しいんだろうけど、それでもキャピタルより湿度高いし、ジャングル入ったらもっと暑いんだろうな。
  通りには出店だ立ち並ぶ。
  食品だったり食材だったりスカベンジャーは収集した品物は露天商として売ってたりする。
  人は行きかう。
  通りで立ち話してたり壁に背を預けてお酒飲んでたり。
  観光都市は繁盛しているらしい。
  通りで店やったり屯ってたりしてるのは全部で100人ぐらい。結構多いと思います。むちろん建物の中に出店したりそこにいる客とかも合わせるともっといるだろう。
  結構な都市だと思います。
  グリン・フィスは呟く。
  「この街、フロンティアに似てますね」
  「フロンティア?」
  「シロディールにあるベルウィック卿が起こした冒険都市です。アルディリア迷宮編、ヴァネッサーズ編の新しい舞台ですが完全に停止してます。嘆かわしいですね」
  「はっ? 何言っちゃってんの?」
  「ちょっとしたオブリの宣伝と反省、そしてこの街の分かり易い説明です」
  「なあミスティ、フィスは何言ってんだ? 俺には分からないぞ」
  「そうね私にも分からない」
  謎です。
  謎。
  ああ、補足。
  色々と戦友しちゃってたからグリン・フィスとアンクル・レオは互いに敬意を表し合ってた。で今回の船旅でさらに仲良くなってます。
  グリン・フィスは殿付けてちとよそよそしいというか堅い感じだけど、アンクル・レオはグリン・フィスをフィスと呼ぶ。
  通りを歩く私たちをじろじろと視線が集中する。
  アンクル・レオに対してだ。
  ひそひそと囁き声が聞こえてくる。

  「ちょっ、えっ、あれってスパミュ?」
  「珍しい組み合わせだな」
  「というかあの女と×××してぇー」
  「新顔ね」
  「というかあの女がど真ん中歩いてるから、あいつがリーダーか? 変わった組み合わせだな」
  「いつ死ぬか賭ける?」
  「ははは」

  失礼この上ない連中ですね。
  バツバツバツって何よ?
  まあいいか。
  ろくなことは言ってないのは確かだ。
  「主」
  「何?」
  歩きながらグリン・フィスが囁く。
  私はあの連中とは取り合わないように歩き続ける。2人も続く。市民銀行とやら行って手続き済ませてアーマー脱ぎたい。船旅は少し疲れたし。
  「連中に礼儀を教えてあげますか?」
  「無視しなさい」
  「御意」
  面倒だし。
  それにここには遊びに来た。厄介な騒動は起こしたくない。
  問題は……。
  「なあミスティ。平和主義は俺も好きだが、火の粉は振り払う必要があるぞ。回避できるならそれに越したことはないけどな」
  「私もそう思うわ、アンクル・レオ。相手がそれだけ利口ならいいのにね。あるように見える?」
  「期待薄だな」
  「そうよね」
  私たちは足を止めた。
  何故?
  何故なら私たちを塞ぐ形で立っている面々がいるからだ。
  今まで陰口を言っていた連中は関わりあいになるのを避けたい為か私たちとの間を広げた。
  ……。
  ……訂正。
  見物はするつもりらしい。距離を保って見てる。楽しそうに。
  嫌な街だ。
  ふと屋根の上にも人がいるのに気付いた。
  ライリーレンジャー専用コンバットアーマーよりもかなり薄い感じの色合いの緑のアーマーを着ている。手にはスナイパーライフル、フェイスマスクで顔を隠している。
  目につく限りでは5人。
  それぞれの感覚はかなりデタラメで街を見まわしている。
  警備の兵士らしい。
  だけど私らの進行を邪魔している面々を咎めるでもなければ対峙している私らとお馬鹿さんたちを止めるでもない。
  どうやらこの程度の騒動は規則違反ですらないようだ。
  邪魔している面々は揃って黒いコンバットアーマー、この街は拳銃以外禁止なので腰に銃があるだけ。
  全部で8人。
  ど真ん中のリーダー格は禿で30ぐらいかな。
  しなだれかかるようにショートの金髪の女がいる。こいつもアーマー着てる。アーマーの上からも豊満な胸が良く分かります。何かむかつくな。
  部下のような連中もアーマー姿だ。
  全員白人。
  一瞬タロン社かとも思ったけど雰囲気が違う。
  背を見ればエンブレムあるかで分かり易いんだけどな。
  穏便に済ませよう。
  遊びに来たんであって戦いは面倒だ。
  「何か用?」
  「俺たちゃヴァン・グラフ・ファミリーだ。この街を仕切ってたんだよ。だから通行料を支払った方がいいぜ?」
  禿が答えた。
  「ヴァン……誰?」
  知らない組織だ。
  しなだれかかっていた女が馬鹿にしたように笑った。
  「何あんた知らないの? ああ、東海岸の原住民ってわけね。田舎臭い女だもんね、あんた。あたしらは西海岸で大々的にビジネスしてるのさ。このイケメンはヴァン・グラフの御曹司なのさ」
  「西海岸の流儀をこっちで持ち込むなんてどっちが田舎ものよ。というか田舎が嫌なら帰れば?」
  「……っ! 餓鬼っ!」
  「まあ待てミス・グラマラス」
  「ぷっ!」
  思わず私は吹き出してしまった。
  ミス・グラマラスだってグラマラスだって自称なのか名前なのか知らんけど笑える。
  ……。
  ……まあ、結果としてこれが駄目なんだろうね。
  「ヴァン・グラフを舐めた奴は問答無用で殺せとママに言われてんだよ。お前ら、礼儀を教えてやるぜっ!」
  『おうっ!』
  連中、銃を引き抜きました。
  あーあ。
  大人な対応が何でできないんだろ、私。
  余計な揉め事を回避するために何でこの口を閉じられないんだろう。
  口は災いの元です。
  ボルト101出てからかなり性格がグレードアップしたような気がする。前にパパが言ってたけど良い意味でウェイストランド風になったらしい。
  まあ、良い意味で、って意味が分からんけど。
  褒め言葉?
  うーん。
  微妙。

  どくん。
  どくん。
  どくん。

  心臓が脈打つ音が聞こえる。
  周囲がスローに見える。
  加速装置っ!
  いやもう加速装置で分かり易い気がしてきた。いや、ザ・ワールドっ!とかそして時は動きだすとほうがいい?
  まあ、どっちでもいいけど。
  私は44マグナムを引き抜き引き金を引く。引き金を引く数は8回、敵の数、いや正確には何とかファミリーの持つ銃の数は8。最後の引き金を引いた瞬間、時間は元の流れを取り戻す。
  その瞬間、8丁の銃が宙を舞った。
  連中にしてみたら抜いた瞬間に弾かれたようなものだから状況を理解すらしていない。
  「……はっ? いやいやいやっ! ありえねぇだろっ!てめぇ一体今どんな魔法使ったっ!」
  「時間止める、構える、撃つ、それだけ」
  禿の御曹司もミス自惚れも手下たちも意味が分からずに後ろに下がった。逃げるべきなのか銃を拾うべきなのかも分かっていないようだ。
  随分と私も図太くなったものだ。
  戦い慣れしてる。
  まあ、そんなものには極力慣れなくてもいいんだろうけど。
  「主」
  「私一人で大丈夫よ。アンクル・レオも構えなくていいわ」
  「御意」
  「分かった。ミスティは強いな。だからお前たち、もうやめとけ」
  屋根の上の監視の警備兵はこちらを見ているけど構えてもいない。
  ふぅん。
  殺し以外はよいのかな?
  殺しはせんけど。
  何で?
  何とかファミリーとやり合うつもりはない。
  面倒です。
  あっ、訂正。一人だけ私の頭にスナイパーライフルを向けてる奴がいる。そいつを視界に入れながら私は何とかファミリーと相対している。視界に入る限りは弾はスロー。
  グリン・フィスはそいつを睨みつけた。
  気になるのかな?
  まあ、グリン・フィスが警備兵に注意をしてくれるならいいか。私も何とかファミリーに集中しよう。
  高みの見物を決め込んでいた連中はひそひそと囁き合い、そして騒ぎ出す。

  「ちょっ見えた今の?」
  「見えないって、あんな動きっ!」
  「あの動き、2丁の44マグナム、そしてあの髪の色……おい、マジか、あいつミスティだ、赤毛の冒険者だぞっ!」
  「なにぃっ!」
  「キャピタルを救った、ミスティって奴か」
  「あの、エンクレイブを追い払ったっていう女? あんなに若いのかよ、すげぇ、今の銃撃は俺の記憶で一番のレアものだぜっ!」
  「……ヴァン・グラフ・ファミリー、下手したらここの支部はお終いか?」

  私も有名になったもんだ。
  だけど思慮というものも持ち合わせている。
  回避できるなら回避しよう。
  喧嘩した奴を全部死体袋に入れてたら世界は滅ぶ。だから人間、引けるときは引くべきだ。
  まあ、相手の出方にもよるけど。
  「船旅で疲れてイライラしてたのよ。お互いに接点ないんだからもうやめない? 会ったばっかだし、どう?」
  銃をホルスターに戻す。
  相手もそれに安心したのか、まあ、警戒はしてるけど、幾分か感情を落ち着けて口を開いた。
  「こ、今回はこれぐらいで勘弁してやるぜ」
  「そうね」
  「俺はヴァン・グラフ・ファミリーの8男でグラッツェ・ヴァン・グラフ。ここでインサニアという名のクラブをしている。ママ、いや、ファミリーのボスの言い付けでね、
  息子娘は勢力拡大の為に店舗を広げてるのさ。レーザー系の武器も扱ってるが、というかそれがメインの仕事だが、ここの気候は知らなかったよ」
  「ふぅん」
  観光案内にはレーザー系とかパワーアーマー系は動力が使い物にならなくなるらしい。
  天敵が湿気か水っ気かは知らないけど。
  「んな感じでクラブがメインだ。まあ、何だ、あんたとは喧嘩したくない。暇があったら遊びに来いよ」
  「考えとく」
  私たちが歩みを進めると連中は道を開けた。
  通り過ぎる。
  グリン・フィスが囁いた。
  「よろしいのですか?」
  「厄介になりそう?」
  「大いに」
  「かもね」
  濁したけど、厄介になるかなぁ。
  うーん。
  いつもなら最初の一撃で決めてる。
  だけどここには遊びに来たという意識が強い。ピットの例もある。あんまり、この街の事件解決っ!という展開にはしたくない。
  ピットはピットで救うべきだとは途中から思ってたけどさ。
  要はあんまり首を突っ込みたくないということだ。
  少なくともここでは、ね。
  拉致られたピットとは違う、ここには遊びに来た。
  「フィス、ミスティのやり方は大人だぞ?」
  「アンクル・レオ殿、それは分かる。だが……」
  「万が一の時は俺たちがいるじゃないか」
  「そう、だな」
  納得してくれたようで何より。
  どっちにしてもあいつらは懲りないような気はする。だからあんまり接点を持たないようにしよう。
  クラブ?
  行くもんか。
  インサニア、要はラテン語で狂気って意味だ。確か、そんなだった。
  そんな名前の店になんて行くもんか。
  歩きながら観光案内に記載されている地図を頼りにポイントルックアウト市民銀行の建物を見つける。
  ここだここだ。
  扉を開く。
  目に入るのはカウンター、その先にはデスクが2つ並んでてパソコンが2つあり、そのパソコンを事務員らしきビジネススーツ姿の女性2人が操作している。その奥には銀色の
  金属製の金庫が並んでいた。貸金庫の名残かな。もちろんいまでも市庁舎で使ってるんだろう。預かり物とか。
  ただ銃を入れるには小さい。
  となると銃火器は奥の扉の向こうにでもしまうのかな?
  口髭生やしたスーツ姿のおっさんがカウンターに立っている。腰には44マグナム。
  私たちを見て、両手を広げて出迎えてくれる。
  手にバンドしてないしアサルトライフルとか持ってるから新しい観光客と分かるのだろう。暖かな笑みを浮かべて言う。
  「やあ旅の人。ソドムにようこそ。私が市長のバルトだよ」