私は天使なんかじゃない
根幹
この地の影は根付いている。
深く深く。
どこまでも。
全ての一件は終了した。
スワンプフォークは与えられた命令を達成して密林の奥地へと消えていった。
もう戻ってこないだろう。
厄介払いだ。
大元のオバディア・ブラックホールは本の翻訳に忙しいだろうし、わざわざ私らを殺すべく差し向けてはこないだろ。
当初意味不明な追撃されたけど登場人物は全員フェードアウト。
偏執的な爺さんは古びた墓場に引き籠り、狂信のグールはルズカの血肉となることで初めて人様(クマだけど)のお役にたっている真っ最中。
片や不老不死。
片や神々の復活。
下らない結末でした。オカルトは聞くのは好きだけど、それに全力で関わりたいとは思わない。
まともそうに見えてジェイミとどっこいどっこいだった爺さんの結末?
まあ、悲惨ですね。
十中八九スワンプフォークを本の知識の実験台にして反撃されて人生終了するだろうし、しないにしても内容が不老不死とは無縁の拷問本なので翻訳後に人生終了。
ハッピーエンドの条件は果てしなく難しいですね。攻略本はあるのかな?
ともかく。
ともかく全ての一件は終了。
シーとアンクル・レオの行方が分からないから探して、それから帰るとしよう。
休暇はもうこりごりだ。
夕刻。
欲望の街ソドム。北口。
スワンプフォークの襲撃により完全に荒廃していた。といっても今いるのはソドム最北のヘイリーズ・ハードウェア近辺。遠目に見ても荒廃しているのが分かる。
「うっわぁー……」
私はそのまま絶句。
瓦礫です。
瓦礫の山です。
建物の大半は崩壊してる。
そういえばスワンプフォーク襲来の時に、連中建物に爆弾放り込んでたなー。
……。
……別に襲撃命令したオバディア・ブラックホールの都合なんかどうでもいいけど、ほんっっっっっとうに本ごと粉砕してたらどうしたんだろ。もちろん爺さん的にはそんな
つもりはなかったわけだろうけど、そんな単純なことも分からないスワンプフォークを手駒ってどんなよ?
ずさんだなぁ。
まあ、知ったことじゃないけど。
「主、どうしますか?」
「うーん」
スワンプフォーク連中、バルトは去った。
ここにいるのは私、グリン・フィス、サラ、ポールソン、マクグロウとオリン。
武器は礼拝地での戦いでほぼ消失。
いや武器そのものは持ってるけど弾丸がない。私のメイン武器は44マグナム、サラはデザートイーグル、お互いにアサルトライフルは捨てました。弾丸がないのです。
行軍続きなのでわりと疲れる。ので重量かさむので捨てました。
まあ、スワンプフォークは奥地に引き上げたしオバディア・ブラックホールはソドムそのものには興味なさそうだったし、ソドムに敵はいないだろ。武装の有無はさほど問題ないはず。
ただ用心は必要だ。
場所的に丁度いいというのもある。
ソドムは放棄されたと見るべきか今は誰もいないだけなのか判断し難いけど、使え物は使わないと。
つまり?
つまり火事場泥棒するってわけだ。
ヘイリーズ・ハードウェアは雑貨屋&スポーツハンティング用の骨董品のライフル、ショットガンの貸し出しをしてた。銃器に用はない、古臭い。ポールソン用の弾丸の確保、あとは仲間
を探すのに必要な物資をゲットしようかなと。まあ、店主が店の中にいたら泥棒さんは控えるけど。非常時なので無断借用は許されるだろう(超適当)
いざとなったらスワンプフォークに罪を擦り付けようかと。
けっけっけっ(極悪人)
「サラ」
「何?」
「私は仲間探したいし見つかるまではここを離れない。出来たら手伝ってほしい。その代りCOS絡みを手伝うわ。だから……」
「仲間でしょ」
サラは苦笑した。
私の条件付きの申し出が今更感満載だったらしい。
「ありがとう」
「いいわ。別にここにいる間にすることないし」
「することがない?」
「言ったでしょ。元々調査に来ただけなのよ。COSをどうこうするだけの戦力もないし。……あー、いや、エンクレイブを追い返した一騎当千の赤毛の冒険者様がいるから問題ないか」
「は、ははは」
性質の悪いジョークだ。
マクグロウとオリンは顔を寄せて何か囁き合っている。
愛を囁いている?
ラブラブですなぁ。
……。
……いやいや違うか。
2人は本家BOSから分派したエルダー・リオンズ率いるキャピタル・ウェイストランド駐留のBOSから離脱したOCに属していたものの、OCの分裂した一派に属していたわけで、あー、ややこしい。
ともかく2人はBOSっぽいけどサラの仲間ではない。
この辺りで離脱するつもり?
そうかもね。
協力し合う理由は少なくとも向こうにはもうない。まあ、私も別につるむ必要性はないけどさ。敢えてトゲトゲしたりはしないけど。
そのまま2人は黙った。
やれやれ。
社交的ではないようだ。
まあ、スワンプフォークは既に退場したし、まともな船を都合するのもキャピタルと往復している別の船を待つのも容易だ。
向こうが望むなら別々に動くのもそれもいいだろうさ。
「それでサラ、本音としてはどうするの?」
「COS?」
「そう」
「本当に今はもうどうでもいいわ。連中の規模とか連中の指導者とか、調べることは確かにある。ここにどんなハイテクがあるのかもね。でも今は生き残ることを優先するべきかなって」
「じゃあ、分担しましょう」
私は指示する。
まあ、私が皆に指示を出していいのかは知らんけど、考えてみたら今までずっと指示してたような。
まあいいか。
「グリン・フィス、この中に気配は?」
「ありません」
ヘイリーズ・ハードウェアを指差す。グリン?フィスは人の気配を感じないと言う。疑うわけではないし信じてるけど、二重チェックは必要だ。PIPBOYで確認。わずかな範囲だけど、PIPBOY
3000には生体反応を検索するシステムがある。反応なし。建物には誰もいないようだ。店主がいたら火事場泥棒できないし。
もうスワンプフォーク撤退したい警戒はいらない?
いやいや。
いないからこそ警戒するのだ。
連中の目的は追跡システムの奪取でありジェイミの持っていた本だった。
つまり。
つまりこの街には用がなかった。だからこそ警戒が必要なのだ。ほぼ無人となったこの街に何も入り込まなかった、というのは考えにくい。
野生動物とかが野ざらしであろう死体に引き寄せられてこないとは思えない。
というかいるだろ。
COSという妙なのもいるし、無人と化している街だからこそ、警戒しなければ。
考え過ぎならそれはそれでいい。
警戒が無駄になるだけ、それだけだからだ。警戒を怠り万が一死ぬことになれば、それは命を無駄にするということになる。命を無駄にするより警戒が無駄になる方が全然いい。
私はそう思う。
「ポールソン、サラ、マクグロウ、オリンはヘイズ・ハードウェアで何か使える物がないか探して」
「あいよ」
代表してポールソンが答えた。サラは頷く。
分散させるには大人数過ぎるけど、私としてはマクグロウとオリンの人となりを全く知らないから纏めた方がいいかなって。
「グリン・フィス、付き合って」
「御意。主のそのお言葉、待っていました」
「……違う。そうじゃなくて」
「ツンデレさんですね」
「死ね」
もうやだよこいつー。
最近砕けすぎです。
おおぅ。
「モーテルに行くわよ、さあ」
「まだ日は高いですが、主が言うのであれば」
「なっ!」
忘れ物のライリーレンジャー仕様の強化コンバットアーマーを取りに行くだけなのですが。
予備の弾丸を取りに行くだけなのですが。
何言ってんだこいつーっ!
「おいおいミスティ、それと侍さんよ、手短に済ませろよ。俺たちは待たされるのは嫌だぜ?」
「ずっとバトル続きだし、たまにはラブでもいいんじゃないかしら」
ポールソンとサラさんがからかう。
うがーっ!
とりあえずグリン・フィスの頭をはたき、私は歩き出す。遅れてついてくるグリン・フィス。
照れ隠し?
はっはっはっはっ。
マジで怒ってるだけだーっ!(憤怒)
モーテルはすぐ近く。
数分後、到着。
モーテルにしてもヘイリーの店にしても街から少し離れてる。街には静寂が包んでいるようだ。遠目から見るには特に何もなさそうだ。
でも何だろ、静かすぎる。
「……」
グリン・フィスが街の方を見て立っている。
何かを感じ取っているのだろうか。
「主、ここで自分は待ちます」
「何かあるの?」
「まだ何とも」
「任せた」
「御意」
いざとなれば彼ほど頼りになる奴を私は知らない。
モーテル外を彼に任せて私は自分に宛がわれている部屋を開けようとする。
開かない。
ああ、散歩している間にスワンプフォークに襲われたから、鍵閉めたまんまか。ポケットを探してみる。あー、ブラックホール邸で着替えた際に落としたかも。
それか逃げてる最中にかも。
グリン・フィスが状況を察して扉を蹴破った。
ワイルドですね。
「ありがとう」
「いえ」
部屋に入る。
部屋の中は特に変化はなさそうだ。
ベッドの横には大きなバッグがある。着替えや弾丸の予備がある。コンバットアーマーもベッドの横に。とりあえずベッドにダイブ、あー、疲れました。
横たわるとベッドの柔らかさに意識が飛びそうになる。
働き過ぎだし。
ブラックホール邸でもベッド宛がわれたけどあんまり休めなかった。敵地だったし。そしてここもまだ安全地帯とも言い切れない。だらけ気分を追い出し、起き上がる。
心の底から休むのはキャピタルに帰ってからだ。
早く帰りたい。
バッグの中身は全く何もなくなっていないようだ。
まず着替えを引っ張り出して真新しい衣服に着替える。それからその上にコンバットアーマーを着こみ、予備の弾丸を懐に入れた。アサルトライフルが市民銀行に預けたまま
とは言えこれで完全武装に近い形となった。バッグの中にはあと一日分の着替えがあるだけ。とりあえず置いとくか。バッグ持ったままだと戦い辛い。戦いがあるなら、ね。
外に出る。
「お待たせ。何かあった?」
突然グリン・フィスが抱き着いてくる。
ちょーっ!
部屋に押し倒された。
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
「つっ!」
耳に飛び込んでくる爆発音。
グリン・フィスは私を離し、外に飛び出す。
私も一呼吸遅れて飛び出すけどグリン・フィスは街に向かって突っ走っていた。白煙が街の建物の二階部分からグリン・フィス目掛けて3つ飛来、直後に地面に当たって爆発。
ミサイルランチャーか。
COSあたりが喧嘩を吹っかけてきたと見るべきか。
サラたちの方に警告に向かうか迷うけど、爆発音は聞こえているはず。サラはサラで素人じゃないし状況をすぐに把握するだろう。ならわざわざ警告の必要もない。彼女はBOSのエリート
部隊リオンズ・プライドの隊長。状況の把握、そして行動、難なくこなすはず。私はグリン・フィスを追う形で街に向かう。
ミサイルはグリン・フィスに集中している。
兵器の特性上、連射は出来ない。彼に注意が向いているので私はスルー。狙われることなく崩れている街並みに入る。
「やれやれ」
どこ行った、グリン・フィス。
街は閑散としている。
私は44マグナムを引き抜く。
弾丸は確保してあるから使うのに躊躇いはない。まあ、使わないと死ぬから、元々躊躇いはないけど。
ざっ。ざっ。ざっ。
ゆっくり。
ゆっくりと私は進む。
全ての神経を周囲に向ける。姿は見えないけど敵意は感じる。PIPBOYを起動。周囲索敵。ちょこまかと何か動いてる。視界には入らないから建物の上か。この街の建物の特性上、
屋根と屋根は繋がっている。バルトの警備兵はそれを利用して街を警備していた。
しかし何者だ?
屋根の部分を何度か見るけど敵は見えない。なるだけ背中を晒さないように建物に背を預けるように移動。視界に入る限りは怖くない。
COSか、もしくはバルトの警備兵か?
正確には元警備兵、ね。
バルト曰くブラックホール側に転んだらしいから、攻撃してくる可能性としてはあるだろ。口封じとか元々消すつもりだったとか。
あの爺様とその派閥にはご退場願いたい。
永遠にね。
フェードアウト希望。
「……」
そーっと。
そーっと私は進む。
相手が誰だか知らないし攻撃してくる意味も分からないけど、さっきのミサイルランチャーは確実に私狙ってた。相手さんの動機は分からないけど、狙われてるの確定だから、
反撃の態勢を整えなきゃね。この時代、過剰防衛は存在しないので楽と言えば楽だけど。まあ、向こうも過剰に攻撃してくるのはあれなんですが。
屋根の上では誰かが走り回ってる。
隠れているようでもなく敵意を隠しているでもなく。
私を探しているようだ。
何で?
知らん(汗)
グリン・フィスどこ行ったんだ?
どこからともかく血の匂いが漂ってきてるので、たぶん未済ら撃ってきた連中をデストロイしてる?
かもね。
物騒なことだ(他人事)
「10点ゲットーっ!」
叫びと同時にハンティングライフルが火を噴く。
銃器の種類が分かる理由、それは屋上の奴が私の視界に入ってきたから。
馬鹿め。
視界に入る限り弾丸は超絶スローなのだ。
私は顔をひょいっと動かして避ける。
弾丸は通り過ぎた。
「残念マイナス100点」
ドン。
44マグナムを頭に叩き込む。
そのまま後ろに仰け反って見えなくなった。屋上で干乾びてろ。天気良いし天日干しになってしまえ。
「はあ」
ため息。
確かに因縁深めてたとはいえここで祟ってくるとは思ってなかった。スワンプフォーク絡みが終わって連中は奥地に引っ込んだから楽が出来ると思ったのに。
何だってヴァン・グラフ・ファミリーがここで人間狩りしてるんだ?
訳分からん。
漁船がデリンジャーに大ダメージ与えられたから逃げるに逃げれなくてやさぐれて人間狩りを?
うーん。
西海岸の連中の考え方が分からん。
スワンプフォークの再来を恐れてソドムに立てこもっているってわけでもなさそうだ。少なくとも今の奴の乗りはスポーツハンティングのそれだった。金持ちが狩りを楽しむような感じだった。
……。
……勘弁してほしいなぁ。
こりゃファミリー全体がこんな感じだろ、これ。何人いるかは知らないけど10人から上はいる、20、いや30はいるのか?
怒涛のごとく数で押してくるスワンプフォークよりも連携してくるヴァン・グラフの方が怖い、というか面倒くさい。
空の薬莢を捨てて一発装填。
行くか。
「ここにいるわよっ!」
「久々のゲストだぜーっ!」
姿は見えないけど声がする。隠れてるっていうよりは私をまだ認識してないのか。
ハチの巣をつついたように騒ぎ出す。
こいつら完全に狩りしてるな。
久々のゲスト云々だからスワンプフォークに追い立てられ、撒き、ここに舞い戻った住人を買ってたんだろ、たぶんね。
いらっとしてきた。
私は走り、相手に目につくように走り、それから壁を背に立ち止まった。
「みーつけた。俺様たちに見つかるとやばいぞー?」
レイダー乙。
聞くところによるとヴァン・グラフ・ファミリーは商売人の集まりでレイダーではないにしても、まあ、処方箋は同じだ。
建物の上からアサルトライフルで私に照準をつける3人。
少ないな。
敵の1人が瞬きをした瞬間、3つ頭が吹き飛んだ。
他愛もない。
あんまり慣れて気持ちのいいものではないけど殺し慣れしてきてる私。
まあ、対象は悪党限定だけど。
いつの間にかこんな訳の分からないバトルフィールドに叩き込まれてるけど思想も背後も関係ない。展開を引っくり返して全滅させるだけだ。銃をホルスターに戻さず私は歩き出す。
狩るなら狩るでいい、上等だ。
返り討ちにしてやる。
「ひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
突然奇声を発して走ってくる女にぶつかった。
その女、まるで前を見ていなかった。
後ろを振り返ったまま走り、私にぶつかり、そしてその場に尻餅をつく。
見たことがある女。
ヴァン・グラフの黒いコンバットアーマーに身を包んだ、確かミス・グラマラスとか自意識過剰な名前の奴だ。本名なのか通称なのかは知らないけど、まあ、本名なら同情する。
DQN過ぎる名前だろ、これ。
毒親ってやつ?
個人的にむかつくのは名前通りの体型ってことだ(八つ当たり)
「良い天気ね。どちらまで?」
銃口を向ける。
さすがにこの状況で撃つ趣味はないけど、警戒は必要だ。女は私を私として認識していないらしく何やら発狂して叫んでいる。
私とグリン・フィスがヴァン・グラフを返り討ちしてるから追いつめられてるってわけでもないな。
何だ?
「化け物だ、化け物が出たっ!」
「化け物?」
「この街を好きにしていいって、目につく奴全部殺せってバルトに言われたのよっ! グラッツェはそれに乗ったっ! でも知らなかった、市民銀行の地下にあんな化け物っ!」
「何を言って……」
「聞いてなかったのよ、あんなのっ!」
どん。
私を突き飛ばして女は走り去った。
私は追わない。
何だか妙なことを言ってた。
化け物?
バルトに言われた?
くそ。
市民銀行にある武器は持ってけと言われたけど、あの野郎、最初から誰も逃がす気ないな。
何なんだ、いや、というか誰なんだ、バルト。
ズリ。ズリ。ズリ。
何かを引き摺るような音が迫ってくる。
何かを引き摺るような……。