私は天使なんかじゃない







牢獄からの脱出





  出口の向こうに待つものは……。





  「我々は新たな道を模索するためにここに……ヴァン・グラフ・ファミリーからハイテクを買い取り、西海岸に帰りたかっただけで……」
  息も絶え絶えで答える顔面ぼこぼこ男。
  牢の中に横たわったまま。
  私はピックマンの牢の前で考えてる。出すべきか出さざるべきか。
  色々と秘密を教えてくれたけど食えない人物だ、ピックマン。
  かといって敵対はしてない。
  少なくとも、まだ、ね。
  将来的には知らない。
  だけどまだ不快感は与えられてないし、出してもいいかなとは思ってる。葛藤しつつ私はサラとマクグロウの会話を耳で拾っていた。
  ポールソンは扉を閉じ、鹵獲したアサルトライフルで警戒態勢。元々の持ち物のショットガンは弾丸なし。
  「マクグロウ、生き残りは?」
  「生き残りはおそらく10名以上……しかし、私とオリン以外はアウトキャストの規範から離れて……」
  正式名称は護民官マクグロウ。
  元々はBOSでパラディンの地位にいた人で、エルダー・リオンズが西海岸の本部の思想から離反した際にはキャスディンという人ともにアウトキャストを立ち上げた人らしい。
  護民官という称号はアウトキャストのオリジナルのもので司令官という地位らしい。
  BOSのナイトは、向こうではディフェンダーという地位に変わるようだ。
  キャスディンは知ってる。
  偽中国軍騒動の際にレギュレーターと一時的にアウトキャストは同盟、その際に聞いた名前だ。
  実際には会ってないと思う。
  「サラ・リオンズ、悪しき教えが復活を……」
  「そのことはいいわ。オリンはどこ?」
  「ここのどこかに。たぶん電算室かと。連中、何か調べ物をしているようです」
  「指揮官は分かる?」
  「身内ではありません。たぶんBOS絡みではないと思われます。雰囲気がそれらしくありませんでした。おそらく、アジア系かと……」
  「そう。それにしても随分と男前になったのね」
  「……は、ははは……誇り高くあろうと思った結果ですよ。連中、物資調達の為にどこかの女性を殺したとか……それでカッとなってふるぼっこに……ははは……」
  ははあん。
  マルグリットを殺して物資奪ったのはここの連中か。
  だけど謎は残る。
  何だってスワンプフォークを倉庫に閉じ込めたんだ?
  COSだっけ?
  あいつらなら撃つだろ、撃たないにしてもどうやって閉じ込めたんだ?
  謎が増える一方ですなぁ。
  私はピックマンの牢の前に立ったまま声をマクグロウに掛ける。
  「ねぇ。このグールはずっとここに?」
  「わ、我々がこの施設に入った時には既にいたようだよ。寝てたからそのまま閉じ込めたとか何とか」
  「ほら見ろ。嘘は言ってないだろ? だからさっさと出してくれよ。あんたに情報をあげただろ、かなり前進ししただろ?」
  「そうね」
  看守用のデスクに向かって机を開ける。いや正確には開けたつもりだった。ガタガタと音がするだけで開かない。錆びてる。
  ポールソンがこちらをちらりと見て無言でナイフでこじ開けた。
  「ありがとう」
  「いいってことよ」
  そして再び警戒に戻る。
  寡黙でわりとダンディだ。
  ……。
  ……うーん。私ってかなりファザコンだな、うん。
  まあいいけど。
  中には弾丸の箱があった。ショットガンようだ。箱は30発詰めで、まるまる残ってる。
  「ポールソン」
  箱を彼に投げると彼はそれを受け取る。
  にやりと笑って弾丸をショットガンに装填していく。これで戦力がさらにアップだ。
  鍵の束を見つける。
  それでピックマンの扉を開いた。
  「サラ」
  鍵の束を今度はサラの方に。
  マクグロウの扉を開くのかは知らないかったけど、サラは躊躇いもなく開いた。
  「ピックマン、これからどうするの?」
  「このホテルから出るさ。チェックアウトだ。俺は早々に気付いてリングを壊した。だけどあんたはそれをしたまま来た。追跡がここに伸びてる可能性はあるだろ?」
  「外でフェラルと戦闘中」
  「マジかよ。じゃあさっさと失せるよ。外のフェラルは引かせない方がいいだろ? どう思う?」
  「スワンプフォークの数次第かな」
  フェラルとスワンプフォークと潰し合いさせた方が得策な気もする。
  「じゃあ状況次第で臨機応変に考えるよ。それでいいだろ?」
  「ええ」
  信用できるのか?
  謎ではある。
  だけどとりあえず敵認定するだけの材料はない。
  疑心暗鬼というか必要不可欠な考え方というか、まあ、必要よね。
  「じゃあ俺は行くわ」
  大きく伸びをしてピックマンは牢から出る。ポールソンはそんな彼を横目で見つつ、いつでも銃を向けれるように神経を集中してる。
  考えすぎ?
  いえ、これも必要だ。
  実際私もいつでも抜ける態勢。
  だけどピックマンは不意打ちをするでもなくダッフルバッグから着替えを取り出して……着替えというかコートを羽織っただけなんだけど……そのままバッグを担いだだけ。
  何だろ、コートにパン一だから余計に変態チック。
  趣味?
  趣味なのか?
  服装の趣味は人それぞれなんですけど、なんだかなぁ。
  「じゃあなミスティさんよ」
  「ええ」
  グールは去っていった。
  正しかったかどうかは分からない。少なくともまだ、ね。だけどここを占拠してる仲間ではないのは確かだ。敵なら敵でいい、状況次第ではCOSを引っ掻き回せるだろ。
  ポールソンが呟いた。
  「よかったのか?」
  「たぶんね」
  「甘いかどうかは分からんが、時に殺しておいた方がいいということもある。まあ、今回の場合は判断材料が微妙すぎたがな」
  「そうね。サラ、彼は動ける? というか連れてく?」
  「動けるには動けそう。連れて行くわ」
  「分かった」
  武器はとりあえず充分だ。
  問題は今度は弾丸かな。
  通信装置の有無、そしてあるから使えるかどうか調べたりと色々とあるけど、まずは弾丸だ。ここにいるCOSって連中が何なのかは知らないけど敵対したのは事実。
  戦闘がある以上は弾丸の確保は急務だ。
  44マグナムの弾丸はもうあんまりない。
  「なあミスティ」
  「何?」
  「今更だがあいつの持ち物チェックぐらいはしておくべきじゃなかったか? 檻にいたわけだし反撃の危険もなかっただろ?」
  私は肩を竦めた。
  「呪われるのに?」
  「それは、きついな」
  「でも分かった。今度から気をつける。あなたって洞察力あるのね。今度からは従がうわ」
  「よ、よせ、照れる」
  「あは」
  サラはマクグロウに肩を貸そうとするけど彼は普通に立っている。なるほど、顔以外はそれほどのダメージはないようだ。
  行くとしよう。





  同刻。
  タートルダヴ収容所地下にあるビッシュ社製の発電機。
  無人の地下室。
  ビッシュ社は戦前のエネルギープラントのメーカーでポイントルックアウトにある天然ガス採掘の為に参入していたメーカー。
  施設維持の為に数基の発電機が収容所にあり、依然稼働していた。
  そう、この瞬間までは。
  一つの影が発電機の電源に手を伸ばす。
  そして……。





  牢獄から脱出して数分後。
  突然立っていられないほどの振動。
  その場に私たちは尻餅をついた。
  まるまる三分ほどかけてから振動が収まるものの、何なんだ、地震?
  何なの?
  「この振動、爆発かもね」
  「爆発?」
  サラの独語に問い返す。
  一瞬ピックマンの顔を思い浮かべるけどあいつが爆弾仕掛けてて起爆したとも考えにくい。起爆するならここから出てからするはず。
  時間的に出たとは考えにくい。
  外のピックマンのダチって奴がした?
  それもないだろ。
  ピックマンと仲間は音信不通状態。下手に爆破しようものならピックマンも巻き込む可能性があった。あのバッグに無線機の類があって連絡したにしても、前述に戻るけど出てからするだろ。
  この建物の耐久性は知らないけど結構な振動だ。
  場合によっては倒壊したはず。
  あのグールがそんなリスクを冒すとは思えないし、あいつのダチとやらもピックマンを巻き込むようなことはしないはずだ。
  なら誰だ?
  ここを占拠してる連中が何かが欲しくて爆破した?
  「ミスティ、あの爺さんじゃないよな?」
  「冒険野郎?」
  「ああ。そいつだ」
  「うーん」
  しないとは思うけど、考えてみたら判断するだけの材料がない。
  ……。
  ……まあ、それはここにいる全員がそうだけど。
  くそ。冒険野郎が整形と変装のスペシャリストだかの話をするから疑い深くなってるぞ、私。シェイプチェンジャーだっけ?傭兵集団ストレンジャーでサソリ使いと同僚とかいう奴。
  ある意味で余計な情報をくれたと思うよ。
  正確には情報でも何でもない、ただのあの爺さんの噂話としてだし。そんなのがいるよー、ね。余計な情報だ。
  「ミスティ、何かくる」
  「えっ?」
  T字になっている通路に視界を凝らす。
  サラの言うとおり誰かが走っている。
  通路を疾走する影を捕捉。
  「止まりなさいっ!」
  私は誰何しつつアサルトライフルを構える。
  影は止まらない。
  今度は警告なしに私は銃を掃射。その人物は疾走しながら足元に何かを捨てて走り去る。その何かから煙が噴出、次の瞬間……。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  爆発と爆炎。
  ガスか?
  私たちは視界を完全に遮られた。顔を反射的に守って後ろに下がる。
  煙が晴れた時、通路は崩れていた。
  逃げられたか。
  まずいな。
  「おいおい、出口方面が塞がったぞ」
  「はぁ。みたいね」
  正確には来た方向だ。
  入ってここに来るまでに分岐もあったからおそらく別ルートで入ってきた場所に出れるはず。それにまだ撤退するわけにはいかない。通信機器がここに目的だ。
  「迂回しましょう」
  「了解だ、ミスティ」
  そう言ってポールソンはアサルトライフルを背にかけ、背にあったショットガンを装備した。どうやらショットガンの方が性に合うらしい。
  使い慣れてないのかな?
  そうかもしれない。
  なら……。
  「サラ、彼は平気よね?」
  アウトキャストの親玉の1人であるマクグロウを見る。
  平気と聞くのは体調ではなく敵かどうかということだ。サラは少し考えてから頷いた。
  「ポールソン、彼にアサルトライフルを貸してあげて。いい?」
  「ん? 構わんよ。ほら、ぼこぼこの旦那」
  「す、すまん」
  ポールソンはマクグロウにアサルトライフルとマガジン2つを手渡す。
  全員武装済み。
  私たちは通路を進む。
  警戒しながら歩くのは疲れるししんどい。
  数分間は無言が続く。
  進行方向?
  どこ向かってるかって?
  さあ(笑)
  地図がないからどこ向かってるかは分かんないけどとりあえず出口に向かっていきたいですね、はい。とりあえず通路を進む、分岐は適当、部屋を見たらまずは開けてます。
  武器はともかく弾丸の調達はしたいですし。
  まあ、基本なんもないけど。
  おっと。
  また扉だ。
  ポールソンが扉の前に移動、私を見る。頷くと彼が蹴破って部屋に飛び込んだ。私も続く。
  「何だこりゃ」
  「死体置き場かなぁ」
  戦前の処置室に見える。手術室なのか拷問室なのかは知らんけど、いくつか拘束ベルト付きのベッドがあった。白骨が縛り付けられている。床にも白骨が散乱。
  昨日今日の白骨ではないなぁ。
  おそらくここが収容所として機能していた間の白骨だ。
  「頭蓋骨がないわね」
  サラが呟く。
  そう。
  全部頭蓋骨がない。砕かれてる。何かの儀式?
  「ふぅん」
  顔を寄せてしげしげと砕かれた頭蓋骨を見る。
  頭は粉々なのに上顎骨と下顎骨はほぼ無傷。口をこじ開けたような感じになってる?
  誰がやったかは知らないけど虫歯治療でもしたのかな?
  この死者たちの死後に。
  まあいいや。
  この部屋も特に何もなかった。白骨は別にいりません。カルシウム足りてるし。とぼとぼ通路に戻る。進むとしましょう。
  敵はいない。
  気配すらしない。
  通路は静寂そのもの。
  次第に集中が途切れていく。
  「サラ」
  「何?」
  「そろそろ教えてくれない?」
  「何を?」
  すっ呆ける気か。
  だけどこっちも人を殺すというリスクを負っているんだ。向こうも攻撃する気満々だったけど、敵という証拠が欲しい。まあ、もう殺しちゃってますけど。
  私は止まる。
  自然、全員止まった。
  彼女の顔を見て私は言う。
  「サラ、私がそんなに信用できない?」
  「そういうわけじゃあ……」
  「COSって何? 何なの?」
  「……」
  「サラ」
  「……」
  「サラっ!」
  「はあ」
  露骨にため息をついて彼女は髪をかきあげた。
  それから観念したかのように呟く。
  「Circle of Steelの略よ。だから、COS」
  「サラ・リオンズ、それは……」
  「マクグロウ、黙って。ミスティは私の仲間だしBOSとも身内同然だし、隠しておくのはもう無理だわ。できるだけ関わりあいにはさせたくなかったけど」
  言ってる意味が分からん。
  どうやらCOSはBOS的には身内の恥みたいなもんなのか?
  「何それ?」
  「BOSの暗部よ。悪しき歴史と言ってもいい。私はその情報を知ってここに来たの。OCが分裂、ここに来た、私たちはそれを合流するためだと踏んできたのよ」
  「い、いや、サラ・リオンズ、それは……」
  「分かってるわマクグロウ。あなたたちにそのつもりがなかったことは。生き残りは合流したようだけど、あなたの所為ではないわけだし」
  「お気遣いありがとうございます」
  サラとマクグロウの会話。
  2人は分かってるようだけど私にはさっぱり分からない。ポールソンはそもそも聞く気はないらしく壁にもたれかかって煙草を吸いだした。
  だけど分かったこともある。
  「サラ、COSって裏切り者ってこと?」
  OCもBOSからの分離組。
  いやまあそもそもエルダー・リオンズ率いるBOS自体が西海岸の本家BOSからの裏切者なわけなんだけどさ。そういう意味では西海岸の流儀を護るOCが正当なわけか。
  あー、紛らわしいっ!
  ともかく。
  ともかくサラとマクグロウはCOSに対して嫌悪感を持っている。
  どういうこった?
  「結局何なの、そいつらは?」
  「巻き込みたくはなかったのよ、あなたを」
  「何で?」
  「私自身も調査だけのつもりだった。あの連中を今回は敵にするつもりはなかった。あくまで調査、討伐は後日だった。まさかこんな展開になるなんて……」
  沈痛な顔。
  よほど大規模な組織なのか?
  「そんなに怖い組織なの?」
  「さっきも言ったけどBOSの暗部なのよ。テクノロジーの為なら平然と虐殺をやってのける、そんな連中よ」
  「……」
  「そう、驚いて言葉もないのね、ミスティ」
  「……ま、まあね」
  ピットの街での天罰やったじゃん、エルダー・リオンズ率いる部隊は。
  虐殺実施済みじゃん。
  旧世紀的にスラングの本日のお前がゆうなwwwみたいな?
  まあ、サラは天罰世代ではないのだろう。
  サラは続ける。
  「COSはね、BOSが危機の時の創設されるのよ」
  「危機? まあ、エンクレイブが現れたし……」
  「違う」
  「違う?」
  「危機、それは本部の話。西海岸よ。元々質のBOS、数のNCR(新カルフォルニア共和国)と言われた。勢力は拮抗してた。だけどBOSには明確な目的がないの。テクノロジーを
  掻き集めるだけ。その使い道は考えない。排他的で身内だけで固まり、それ以外は排除する。対してNCRは政府として機能し、徴兵し、大国となったわ」
  「ああ。前にアッシャーが言ってた」
  「アッシャー……ピットの奴隷王が何て?」
  「テクノロジーの保全が命。視野が狭いんだよ云々」
  「そうね。その通りだわ。だから西海岸でNCRに敗退した。私たちも裏切り者だから正規の情報は入ってこないけど各地の支部も似たようなものらしい」
  「ふぅん」
  「そういう意味では同じ純血至上主義でもエンクレイブは柔軟だと思うわ。BOSはこのままでは滅ぶかもしれない」
  「だからCOSが出来たってこと?」
  「連中はBOSの中でもタカ派よ。そしてエリート主義者。自分たちがBOSを立て直す為に暗躍してる。過去に何度も存在してた。全て独立した存在だけど、我々にとってCOSを名乗る
  者たちが現れるということは危機的状況なのよ。連中は何だってする。ここにいる理由も何らかのハイテクを見つけたからに違いないわ」
  「誰が仕切ってるの?」
  「そこまではまだ分からないわ。マクグロウ、あなたは?」
  「ジブリーがCOSに鞍替えし、そのままここに連れてこられましたから、何とも」
  「サラ。こういう言い方はあれだけど、キャピタルのBOSも本部的には裏切り者じゃない?」
  「いいえ。理念はあくまでBOSよ。ミスティ、誤解しないで。私たちはあくまで理念に基づいた行動するの。本部のハイエルダーが全てのエルダーを仕切ってはいるけどそれは
  形の上であり、理念を代表するという形に過ぎない。父もマクグロウも理念を護っている。そういう意味でCOSとは違うわ」
  「連中に理念などないと?」
  「ないわ。自分たちを至上としている集まりに過ぎない」
  「ふぅん」
  COS、ね。
  要はここで善人化する前のBOSってことか。
  理念がよく分からないから何とも言えん。
  ピットでの虐殺を聞いてるから私はあんまりBOSってすごいのよっ!が分からん。まあ、いいけど。
  展開的にめんどくなってきたなぁ。
  ただ、はっきりしたのは……。
  「要は撃っちゃっていいのよね?」
  「平たく言えばそうね」
  簡単ですね。
  それだけ分かれば理屈はいいや。
  「話は終わったか?」
  ポールソンは短くなった煙草を床に捨て、火を踏み消しながら呟いた。
  思えば話し込んでるな。
  そろそろ行くとしよう。
  その時、どこからともなく銃声と怒号が響いてきた。
  断続的に聞こえる。
  自動小銃の音だ。
  耳を澄ます。

  「電力が落ちてるっ! 発電施設が爆破されてるっ! 外の連中が、クソっ!」
  「どうする? どうするっ!」
  「知らねぇよっ!」

  その後、銃撃音、しばらくして悲鳴が響いた。銃声は聞こえなくなる。死んだか?
  ふぅん。
  外の連中、スワンプフォークかフェラルか。
  聞こえた銃声は連射系のみで単発系は聞こえなかったから原住民が侵入したってわけではなさそうだ。じゃあフェラルか。
  ピックマンが約束を反故にしたのか、フェラルが暴走してるのか。
  知らんけど面倒ですね。
  ただCOSは完全に引っ掻き回されてる。
  私としては古臭い銃を持ったスワンプフォークよりも理性も恐怖もなく突撃してくるフェラルよりもCOSの方が面倒だから引っ掻き回してくれるのであればありがたい。
  敵の敵が敵だとしてもね。
  対処はし易い。
  それにしても電力か。通路はどこもかしこも薄暗いから電力なんて気にしてなかったけど、考えてみたらフェンスは通電してたわけだから電力は生きてたわけで。
  発電施設が爆破、ね。
  さっきの人影がやったのか。
  たぶん、そうなんだろう。
  いまだピースが乱雑に散らばっているだけなんだけど登場している連中が全て横繋がりでないのが分かっただけでもいいか。
  少なくともあの人影はCOSに祟ってる。
  収穫です。

  「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」

  奇声をあげて通路の闇を突き破って姿を現す亡者の群れ。
  私たちは一斉に銃撃。
  粉砕。
  フェラルか、やっぱり。
  視覚的になれれば走る的でしかなく別段怖くない。問題はその数だ。ラッシュされると面倒。外の連中が全部入ってきてるのかは知らないけど長居は出来ない。
  「あのクソッタレ野郎完全に約束破ってやがるぜ」
  「そうみたい」
  「死体野郎は俺的にはあんまり気持ちのいい奴じゃない」
  「人と同じよ。良い人もいれば悪い奴もいる。あんまり毛嫌いすると人間性疑われる場面もあるわよ?」
  「まっ、善処するよ。だがあいつはどうなんだ?」
  「回答保留」
  だけどあの時点では撃つ理由がなかった。
  仕方ないと言えば仕方ない。
  仲間を促して移動を開始する。留まれば危険が増すばかり。移動しても敵にエンカウントするだろうけど、その場に留まる意味はないし。
  「サラ・リオンズ、頼みがあります」
  警戒して移動しながらぼこぼこ顔が嘆願。
  「何かしら?」
  「オリンを助けてほしいのですが……」
  「電算室だったかしら? 場所は分かる?」
  「は、はい」
  「決まりね。案内して。構わないわよね、ミスティ」
  「仰せのままに」
  オリンが誰だか知らないけど頭数が増えるのであれば非常に助かる。
  現状の状況はよく把握できてはいない、というか謎だ。
  ソドム市長のバルトが何故発信機月のリングを市民に強要していたのか、スワンプフォークを牛耳っている奴の目的、などなど。分からないことが多すぎる。
  だけど、まあ、それはいい。
  とりあえずは仲間だ。
  BOSとOCは共闘できる、同盟成立だ。
  ……。
  ……まあ、どっちも数少ないけど。
  ともかく。
  ともかく同盟成立です。
  私はアサルトライフルの改めて構え直し、先頭に立って通路を進む。
  続く仲間たち。
  最低限の動作で私たちは進む。
  奥へ奥へと。



  「そこっ!」
  バリバリバリ。
  トリガーを引いてマガジンの弾丸をすべて吐き出す。
  「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
  奇妙な悲鳴を上げて群がる亡者たちは崩れ落ちた。
  フェラル・グール。
  知性のない亡者たちは裸同然。それも栄養状態……いや、栄養は必要ないのか……は知らないけど、常に飢えているのだろう、ガリガリで実に脆い。
  最大の強みは数たけど連射系の武器があれば問題ない。
  仲間もいる。
  通路を進めばCOSにはエンカウントしないけどやたらとフェラルにはエンカウントする。通路を挟まれて攻撃されることも多数。
  だけど、まあ、問題ない。
  空になったマガジンを捨てて新しいのを装填。
  これで最後だ。
  「マクグロウ、電算室はっ!」
  「その通路の角です」
  その時、背後からヒタヒタと無数の足音が聞こえてくる。
  やれやれ。
  完全にピックマンは約束を反故らしたらしい。というかスワンプフォーク、COSの追撃やら干渉やらを避けるためにけしかけているのだろう。
  ついでに私らも巻き込まれたってわけですね。
  面倒ですなぁ。
  「おい、ミスティ、ここは俺が受け持つ。そこのぼこぼこの旦那、あんたも付き合いな」
  「分かった」
  フェラルの足止め、確かに必要かも。
  こちらもふんだんに弾があるわけではない。この収容所での目的は通信機器、そして脱出。オリンとかいう人をこちらに引き込めば戦力になる、戦力的に使えるかどうかは
  知らない、ただ慈雨を撃つ人数が増えるのは戦力的なアップだ。電算室制圧、後方の確保、同時進行が必要だろう。
  その時、フェラルが姿を現した。
  無数に。
  通路を全力疾走してくる。
  ポールソンはショットガンを撃つ。ぼこぼこ……いえ、マクグロウも応戦。
  「任せたっ!」
  「任せろっ!」
  私とサラはアサルトライフルを手に頷き合い、電算室の扉に移動、蹴破る。先頭は私。
  内部は長机が三列に並び、それぞれの机にパソコンが乗っている。稼働しているのもわずかながらにあるようだ。そういったパソコンの前には人が座っている、数は5人、つまり
  稼働しているのは5台ってわけだ。壁に背を預けて立っているのが1人、机を椅子代わりにして喋っているのが2人。私たちの入ってきた扉の向こう側、長机の向こう側に扉。
  どこに通じてるかは謎だけど向こうにも敵がいる?
  かもね。
  とりあえず合計人数は8人。
  1人だけ泥で薄汚れた赤いローブを着ていて、他の面々はコンバットアーマー。
  COSってわけだ。
  赤いローブの人物、女性だけど、彼女は悲鳴を上げた。
  非戦闘員か?
  動きが素人だ。
  まずは戦闘員から仕留めるのが定石。
  「こんのぉーっ!」
  こちらは攻撃する気満々。
  相手はまるで考えてなかった。わずかな差が生死を分かつ。戦闘とはそういうものだ。
  バリバリバリ。
  続いて突入してきたサラも掃射。
  一斉掃射。
  相手はまだ構えた段階。無数の弾幕が立ち上がるのが精一杯だったCOSの兵士たちを薙ぎ払っていく。

  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

  赤いローブの女性は蹲り、耳を塞いで叫んでいる。
  うるさい。
  サラは隣で叫ぶ。
  「彼女がオリンよ撃たないでねっ!」
  「了解」
  カチ。
  弾丸が尽きた。
  敵は残り2人。長机の陰に隠れて攻撃をやり過ごしている。私は弾丸が尽きたアサルトライフルを捨てて44マグナムを引き抜く。
  
  ガチャ。

  その時、向かい側の扉が開いた。
  メガネをかけた初老のアジア系の男性が中国製ピストルを手に現れた。銃口はこちらに向いている。
  白衣のアジア系。
  ふぅん。
  たかだか中国製のピストルで私を狙う、ねぇ。
  あくまでドイツの名銃モーゼルのデッドコピーでしかない雑魚銃だ。しかも単発。敵じゃあない。
  返り討ちっ!

  ごぅっ!

  「……はっ? いやいや熱ーっ!」
  上半身が炎に包まれる。
  私はサファリジャケットを脱ぎ捨てる。炎に燃えた服。な、なんだー?
  「撃ち殺せっ!」
  「まずーいっ!」
  下着姿なのは置いといてー。
  私は机の陰に隠れた。
  今度は向こうのターンってわけだ。アジア系はそのまま曲がれ右して扉の向こうに消えた。徹底的に戦う気はないらしい、へたれめ。
  だけどあの銃は何だ?
  弾が見えなかった。
  そして燃えた。
  ……。
  ……まあ、いい。
  まずは残り物の敵を何とかしないと。
  私とサラは隠れている、対して敵は自動小銃を乱射している。留まって戦う気らしい。長引かせる気はない。激しい銃声は薄れる。片方は弾倉交換らしい。私は立ち上がる。

  ドン。ドン。

  弾幕が薄れればこの距離でもかわすことは容易だ。
  2人の頭に弾丸を叩き込んだ。
  倒れる死体。
  「彼女をお願いっ!」
  オリンをさらに任せて私は長机をジャンプで乗り越え、アジア系の逃げた扉に飛び込む。資材置き場、か。食料がある。武器はない、ちっ、補給できないか。
  開けっ放しの扉がある。
  逃げたか。
  この扉の向こうは通路だ。通路に飛び出すとフェラルが肉薄してきていた。
  あー、もうっ!
  44マグナムを叩き込む。
  バタバタと倒れ伏す。
  ただ3体ほど弾数ゼロで倒しきれない。部屋に戻って扉を閉める。バンバンと叩かれる扉。開けろってことか?誰が開けるかボケーっ!
  空の薬莢を捨てて弾丸を装填。
  厄介だな。
  44口径の弾丸が尽きつつある。補充が容易だと思ったのに当てが外れたな。
  まあいいや。
  鍵を閉めてフェラルを締め出す。
  元の部屋に戻るとポールソンたちも戻ってきていた。サラがこちらを見ると首を振った。
  「ミスティ、無駄足よ」
  「はっ?」
  「オリンが言うには通信機器は壊れてるみたい。こんな亜熱帯の環境に放置されて200年だから、当然と言えば当然よね」
  「マジかぁ」
  無駄足オツでした。
  嫌だなぁ。
  オリンと呼ばれた女性は終始バツの悪そうな顔をしていた。まあ、そうよね、アウトキャストはサラ側から離脱した一派だし。
  だけど事態が事態だ。
  サラも深く追及したり蒸し返したりするつもりはないのだろう。
  「オリン、ここがCOSの拠点なの?」
  「い、いえ。ここにはある物を探しに来たそうです」
  「ある物?」
  「それが何かは知りませんけどパソコンからデータを引き出そうとしていました」
  「さっきのアジア人は誰? キャピタル・ウェイストランドに遠征したBOSのメンバーではないようだけど彼が指揮官なの?」
  「指揮官はジブリーでした。ただ、あいつが誰に命じられて動いていたかは不明ですが」
  「アジア人は何なの? ここにいたCOSに命令してたけど」
  「分かりません。Mr.チャンと呼ばれていました」
  「Mr.チャン?」
  「過去の人物を演じているのかたまたまなのかは分かりませんけど、名前はパソコンの中にありました。これです」
  カタカタっとパソコンのキーボードを叩く。
  ザーっというノイズの後に喋りだした。音声データか。声は女性のものだった。
  「おいミスティ。あの箱の中にも小人がいるのか?」
  「は、ははは」
  ポールソンは無視。
  どこの田舎者なんだろ。



  『箱を開ける音声メッセージはネバー・モア』

  『Mr.チャン。直接お出迎え出来ずに申し訳ありません。諜報部員があなたの到着を確認しました。アメリカ人は人民の崇高な精神が破れると信じ切っています。
  任務が終了した暁には人民はあなたを英雄として歓迎するでしょう。その為にあなたのミッションの詳細について説明させていただきます』

  『この部屋はポイントルックアウトにおけるあなたの隠れ家となります』
  『まずはアメリカの飼い犬になりきることに集中し疑いは持たれないようにしてください』

  『Mr.チャン。ご存じのとおり中国の重要な調査船がアメリカ領海で沈没しました。任務は遺棄された潜水艦をアメリカ人が手に入れて分析する前に破壊することです』
  『引き上げ地点は調査報告書に記載されています。与えられた偽の身分でアメリカの引き揚げ作業に参加できるはずです。しかし自爆シーケンスを作動させるには認証コートが必要
  となります。コードは付近に潜伏しているヤンの歯に仕込まれています。しかし彼女の行方は不明です』
  『ヤンと合流して潜水艦を破壊するのです。任務が完了したら隠れ家に向かいなさい。Mr.チャン、人民の魂の加護がありますように』

  『Mr.チャン。ヤンの居所が判明しました。タートルダヴ収容所に拘束されています』
  『民間医の身分を用意しました。現在収容所は医療従事者が不足しています。用意した身分は完璧です、Dr..サムソンとして潜入してください』



  ここで音声データは終了。
  「サムソンだとっ!」
  叫ぶポールソン。
  「知り合い?」
  「おいおい忘れたのか。いや忘れてるんだったな。宇宙船で一緒だった医者だよ。俺とMr.クラブと一緒にここに降りて行方不明だったがアメリカの敵だったのかよ」
  「宇宙……はい?」
  イミフ(泣)
  えっと、つまりこういうことか?
  戦前のスパイが宇宙人に拉致られ、宇宙船に連れ込まれ、今の時代に地球に戻ってきて、戦前の任務をCOSと一緒に遂行中?
  ……。
  ……駄目だ、イミフすぎる(汗)
  「他に何か情報は?」
  「サラ・リオンズ、ここはビッシュ社のエネルギー技術が使われていました」
  「ビッシュ社?」
  「戦前のエネルギーメーカーです。この地には未知の天然ガスが埋蔵されています。この地を牛耳っていたカルバート一族が出資していた企業です。この一族は金になる
  ことには反射的に飛びつく一族のようで中国との癒着もあったとか。L.O.Bエンタープライズとの関与もあったようです」
  「戦前のアメリカにとっての獅子身中の虫ってこと?」
  「はい。サラ・リオンズ」
  「私も質問があるんだけど、さっきのアジア野郎が持ってた武器の概要ってパソコンの中にある?」
  「赤毛……ああ、あなたがあの……ええ、分かるわ、ビッシュ社のデータと一緒に流すわ」



  『ビッシュ社の天然ガス調査、キャロライン・サンダースです。第一試掘錠を見たところ主に石灰石で構成される湿地帯の地下層から高濃度のバイオガスが検出されました。精密な
  レベルは不明。しかし調査目標以上のガスが採掘できる可能性があります。インターン数名を残して調査させますが形式上のものです』
  『これよりほかの試掘エリアに向かいまぐれ当たりでないことを願うばかりです。このテープを第一試掘上の承認とみなしてください』


  『開発はL.O.Bエンタープライズ』
  『PROJECT ZHU-RONG試作品。コードネームはUSA FLAG ZRIN-418』
  『発射時の摩擦を利用して弾丸を激しく加熱させ、発射時に融解熱によって発火させ、炎を発射する』
  『カルバート教授、試作タイプですが一丁お送りします』
  『命名は中国神話の火の女神祝融から来ています。発音がいささか難しいですが、ズー・ロン、です』



  「ふぅん」
  妙な銃もある物だ。
  でも分かったのは火の玉だから見えなかったのか。私の能力は妙なもので視界に入る弾丸は全て自動的にスローだけど、弾丸以外は意味がない。
  だけど威力は大したことないからよしとしよう。
  まともに受けても服が燃えただけで死にはしない。
  まあ、顔に受けたらやばいし、皮膚に火傷はするけど、あの程度の威力ならコンバットアーマー着たら意味はない。
  さてさて次の行動は?
  「サラ、ソドムに行く?」
  「撤退には仕方ないわね」
  第二プランに移行だ。

  「やあ旅の人。久し振りだな」

  「バルトっ!」
  私たちが入ってきた扉が開き、胡散臭い奴が入ってくる。
  瞬時に銃を構える。
  ……。
  ……が、分が悪い。
  奴の後ろにはスワンプフォークが溢れていた。
  舌打ちするポールソン。
  「ミスティ、こいつは何だ、敵か?」
  「敵」
  「おいおい酷い言いぐさだな赤毛の冒険者。ん? リングしてない……まあ、そうだな、仕組みに気付いたのか。だが俺はより良い街の作り為であって……」
  「御託はいいのよ」
  撃鉄を起こす。
  「やれやれ怒りっぽいんだな。まあ、分からんでもないよ。いつの間にかこんな訳の分からん展開に放り込まれたんだからな。だが俺じゃあないよ。あんたからも説得してくれよっ!」
  スワンプフォークをかき分けて部屋に入ってくる人物。
  知ってる。
  「グリン・フィス?」
  「主。一時的に手を組むべきかと。この男は胡散臭いですが、使われているだけです」
  「胡散臭いとはご挨拶だな。だが、その通りだ。彼は証拠と説明で説得できた。あんたとも喧嘩したくないのさ、俺もだが、クライアントもな。というか黒幕か」
  「黒幕、ね。誰よそれは」
  「オバディア・ブラックホール。俺もそいつに脅されてるんだよ。話は簡単だ、ある物を取り返す簡単なお仕事さ」
  「取り返す、つまり相手がいるのね」
  「相変わらず鋭いな。まっ、奴の屋敷にまずは行こう。あんたを連れてくるように言われてるんでね。……気に食わないだろうが、そいつは俺も同じなのさ」