私は天使なんかじゃない







牢獄の男





  誰も信じるな。





  タートルダヴ収容所。
  全面核戦争前に作られた共産主義を疑われた者たちが収容される矯正所。
  金網フェンスに囲まれた小規模の収容施設で建物の大半は木造だったものの、中国軍との戦争の激化によりアスファルトの要塞に改築される。
  内通を疑われた者、思想犯は次々と収容された。
  看守は完全装備。
  また、元々戦前のポイントルックアウトは中国側のスパイ天国であり潜伏勢力もいた為、収容されている重要人物の奪還を想定して独自の通信施設を内包していた。
  その理由は有事の際にはすぐさま国軍、もしくは州軍の増援を要請するため。
  全面核戦争後、収容所はジャングルに飲まれた。
  しかしその防衛能力は今なお健在で過去の遺物目当てのスカベンジャーや、奥地の住人スワンプフォークの侵入を防いでいる。
  収容所内部には戦前世代と思われるスワンプグール(フェラルグールのルックアウト風名称)が存在しているらしい。
  タートルダヴ収容所は、そういう場所。




  タートルダヴ収容所に到着。
  密林に囲まれた、金網フェンスに覆われた漆黒の建物を私たちは遠目に見ている。

  物資調達にマルグリットの小屋に目指した私、グリン・フィス、ポールソン。
  だけど途中スワンプフォークの攻撃や予想外の出来事により分断、グリン・フィスは足止めの為に現在行方不明。そして海岸から追われたサラ、密林冒険してた冒険野郎が
  私たちと合流、タートルダヴ収容所に何とか到達できた。海岸が襲われた=フェリーの修理は絶望的、と判断してる。
  まあ、連中がフェリー壊すかは知らないけど追われ続ける流れの現在ては海岸には戻れない。
  もちろんそもそもの理由が強力な通信機でキャピタルのBOSにベルチバードのデリバリー頼もうぜ大作戦なので問題はないけど。収容所なあるかもしれないフェリー用の修復
  資材の確保はあくまで第二プラン。それも駄目なら、まあ、第三プランの発動なんだけどさ。ソドムで船を都合します。
  まっ、とりあえずは通信機の確保だ。
  食料に関してはナップサックに適当にマルグリットの小屋から持ち出したものがある。数日は持つだろ。水の確保は必要だけど。
  それに関しても収容所には戦前の浄水システムがあるはずだ。問題ないはず。
  理由?
  収容所の近辺に水場はない。
  おそらく地下から汲み上げてたりするのだろう。外部からの暴動を想定した作りらしいから、囲まれても干上がらないような仕組みのはず。
  あくまで全部<〜のはず>だけど理屈としては成り立つだろ。
  ポジティブに行こう。
  ……。
  ……とまあ、それはいいんだけどー。
  目の錯覚でしょうか?
  「サラ」
  「何?」
  横に立つ、うんざりしたような声で返すサラ。
  気持ちは分かります。
  分かりますとも。
  「これウォーキングデッドの第3シーズン? バイオハザード3のアンブレラ施設を囲むゾンビの群れに出くわした? あれ私出てくる作品間違えた?」
  「……ミスティ、何言ってるか分からない」
  「はははー」
  絶賛現実逃避中です。
  金網フェンスにはフェラルグール……いや、スワンプグール……まあいいや、意味は同じらしいし、フェラルで通そう。そのフェラルが殺到している。
  100?
  うーん。
  3倍はいそうだ。
  密林の原住民の時もそうだけど基本全部殺すだけの弾丸はない。というか全部殺すだけの気力もないっす。
  嫌だなぁ(泣)
  そんな中ポールソンが見当違いな悪態を吐いた。
  「こんな中に殺人犯がいるかもしれんが探すのが面倒だな」
  「……?」
  思わず私は彼の顔を見た。
  ジョーク、ではないようだ。
  ポールソンはギルダーシェイドとかいう街の保安官で、その街にいた女性を殺した死体野郎を追ってここまで来たようだ。死体野郎、たぶんグールのことだろう。
  それはいい。
  それはいいんだけど、もしかしてフェラルと同一視してる?
  区別がつかない。
  いや、正確には別種だと知らない?
  「ポールソン、フェラルグールって知ってる?」
  「何だそりゃ?」
  知らないらしい。
  サラは驚いた顔をした。顔には呆れたと書いてある。今回毒舌が多いですね、サラさん。色々とハードすぎたためか別人みたいだ。冒険野郎は自前の望遠鏡で収容所を見ている。
  「死体野郎は死体野郎だろ?」
  「そいつを見たのよね? その、殺人犯の顔を? 何か喋ってた?」
  「こいつはやべぇと言ってたな。で逃げた。それが何だ?」
  「それはグール。知性があるの。収容所に群がっているのはフェラルグール。知性がない、食欲だけの獣。喋らない。あれは別種と考えた方がいいわ」
  「つまり、似非死体野郎ってことか?」
  名称が謎。
  だけどそこに突っ込まずに頷く。とりあえず別種と理解してくれたようだ。
  その時冒険野郎が呟いた。
  「妙だな」
  「妙?」
  私が聞き返す。
  彼は頷いた。
  「収容所内には溢れてたが、密林を徘徊する数がこんなにいるとは思わんかった。というか見てみろ、フェンスの中を」
  手渡される望遠鏡。
  受け取って私は収容所の方を見る。
  見てみろ、とは何を指すのか不明だったのでとりあえず視界を探る。おや、金網フェンスのゲートを発見。暗証装置がある。ははあん、暗証番号で開くのか。そこまで
  考えてからふと思う。見た感じ装置には光が点滅してる。つまり電力が来てる?
  かなり頑丈らしくフェラルが300近くで包囲して、押し合っても金網は揺れてるだけだ。乗り越えるにしても高い。まあ、フェラルにその程度の知能はないようだけど。
  ただただ押し合ってる。
  「……ん?」
  フェンスを越えれない理由を発見。
  戦前の監視塔があるけど、そこに銃を持った奴がいる。望遠鏡の倍率的に顔までは見えないけどフェラルの方を見ている。
  アサルトライフルを持ったコンバットアーマーの奴だ。
  冒険野郎が見てみろと言ったのはそいつのことだろう。
  ……。
  ……あー、いや。
  違うかも。
  敷地内には私が視認しただけでも5人はいる。
  何者だ?
  ヴァン・グラフ・ファミリー?
  連中も似たような恰好だったけど、ここにいる意味が分からない。
  そもそも冒険野郎の思い違いでない限りは、フェラルは密林にはこんなにいないとのこと。つまり収容所から追い立てた、それでフェラルが戻ろうとしてる?
  まあ戻ろうとしているのかは知らないけどあの謎の連中もここで足止めってわけだ。
  誰だか知らないけど。
  密輸業者?
  市長のバルトがプンガフルーツを外部に持ち出そうとジャングルを彷徨ってるとか言っていたような。
  望遠鏡を冒険野郎に返す。
  どうしたもんかな。
  収容所に入るにはフェラルの群れを突破する必要があるけど、中に陣取っているのがフレンドリーとは限らない。
  人生の先輩に聞くとしよう。
  「冒険野郎どうしたらいいと思う?」
  「収容所に用があるのか?」
  「脱出の為に通信機が欲しいのよ」
  「なら突破しかないな。中の連中が誰だか知らんが敵の敵は味方になるかもしれん」
  「味方に?」
  「暫定的にさ。この包囲の状況を喜んでいるわけではなさそうじゃしな」
  「まあ、確かに」
  その方法がベターか。
  もちろんソドムに船を調達する方が楽な気もするけど……少なくともフェラルは銃は使わない、ソドムにスワンプフォークがいた場合の方が厄介だ。
  そこで冒険野郎は話題を転じた。
  「ブリーダーはどうなった?」
  「ブリーダー? ああ、ガスマスク野郎。まだ未解決」
  「何故容姿を知っている?」
  「デリンジャーに聞いたのよ」
  「あの殺し屋もここにいるのか。ふぅむ。世の中とは狭いものじゃな」
  「そうね」
  傭兵集団ストレンジャーに関してはどうでもよいです。サソリをけし掛けられたのはイラつくけど目の前の問題がでかすぎて無関心。
  冒険野郎は独り言のように愚痴る。
  「ストレンジャーにも困ったもんさ。信念の欠片もない」
  「そうね」
  適当に相槌。
  傭兵に信念を求めるってどうよ?
  少なくとも大多数の傭兵は仕事でやってるだけだと思います。はい超偏見ですけど。
  「あの連中は異能過ぎる。シェイプチェンジャーとかいう奴もいたな。変装の名人でな。知り合いの挙動が少しでも違うと感じたら疑う方がいい。奴が変装、もしくは整形している」
  「ふぅん」
  ほとんど私は聞いてない。
  このフェラルの群れを何とかしないと。
  「ポールソン、サラ、突破できると思う? ゲートは暗証番号。中の連中が開けてくれないなら私がハッキングできる。数分の援護はいるけど」
  「俺としては弾丸が心許ないから何とも言えんな。あんたは?」
  「私もよ。ねぇミスティ、ここは避けた方がいいんじゃない?」
  船を調達するべきか。
  その方が早い?
  まあ、早い遅いで言えば、手っ取り早いか。だけど通信できる言う魅力は捨てがたい。外部からの増援の方が手堅い。もう一つ、ベルチバードがデリバリーされたら空から
  離れ離れのアンクル・レオとグリン・フィス、シーを捜索できる。私としては空からの支援は捨てがたい。
  それにシーの話では戦前から手付かず。武器の調達もできる可能性がある。
  「ところで爺さん、面白い銃を持ってるな」
  「ありがとうよカウボーイ」
  「保安官だ」
  「こいつはワシの自慢の銃でな。ここで手に入れた。昔はキャピタルの歴史博物館にあったらしい。誰かがここに持ち込んだのさ、誰だか知らんが。リンカーンリピーターという銃だ」
  見事な装飾の施された銃を自慢げに見せる。
  儀礼用の銃っぽい。
  それにしてもリンカーンか。
  ハンニバルの顔を思い出す。彼なら高く買い取ってくれそうだ。
  「冒険野郎、その銃でスワンプフォークが逃げたみたいだけど? というか最初に会った時は持ってなかったわよね?」
  「こいつは昔ここでスワンプフォークを殺しまくってたフェラルグール・リーヴァーをワシが撃ち殺したときに使ったものだ。連中にとってリーヴァーは悪魔らしくてな、そいつを殺した
  ワシも連中の恐れる対象らしい。正確にはこの銃の甲高い音が奴らは怖いようじゃよ。強敵へ敬意として奴の墓にこいつを立ててたんだ。今まで誰も触ってなかったようだな」
  「ふぅん」
  リーヴァーね。
  前にウェスカーが言ってたような。奴も放射能でモドキになってたけど。

  ざわり。

  突然フェラルがこちらに向き直った。
  はっ?
  喋っていたとはいえ距離はある。聞こえているとは思えない。冒険野郎がやばいなと呟いた。そして好機だと。
  「好機?」
  「スワンプフォークのお出ましじゃ。追撃してきたようじゃな」
  振り向く。
  するとジャングルの中からスワンプフォークの群れが奇声をあげて飛び出してきた。
  ……。
  ……好機、ね。
  フェラルは過敏にスワンプフォークに反応、こちらに……正確には私たちの背後に群がってくるスワンプフォークに向かっていく。むちろん真ん中の私たちも対象だろうけど。
  全部が全部こっちにくるわけじゃないけどさっきよりは楽だ。
  「行ける、か」
  「普通なら何百回も死んでる状況だけどね。主人公のミスティいるから大丈夫って理屈? でも脇役の私たちは死ぬかもね。脚本家の采配次第ってわけ」
  「サラ、疲れてるの?」
  「……ごめん。色々と投げやりになってるのよ。頭痛い展開ばかり」
  「アウトキャスト絡みってわけね」
  「アウト……ええ、そうね。そうだった」
  今回本気で愚痴多いな、サラ。
  それにしても今の反応は気になる。考えてみたらサラ、アウトキャストがトライバルによって全滅かもと言ってもあまり反応がなかった。アウトキャストがここに来た理由は
  分からないのに、帰りはアウトキャストの船を接収して帰るとも言ってた。連中は置き去りですか?
  さすがに全員が乗れる船とは思えない。
  討伐メイン?
  何しに来たのかもわからずに追撃してきたのに殲滅が前提?
  なかなかサラはサラで隠し事してるな、これ。
  ただの追撃ではあるまい。
  少なくともアウトキャストに対してそこまでの固執がないように感じられる。あくまでここに来た理由の一つに過ぎない、そしてそれはそこまでウェイトを占める理由でもない。
  何しに来たんだろ、サラ。
  謎だ。

  リィン。

  甲高い音。
  冒険野郎がリンカーンリピーターを発砲。走って向かってくるフェラルの頭を吹き飛ばす。ポールソンも迎え撃とうとショットガンを構えるものの冒険野郎が止めた。
  早く先に行けと。
  どうやら彼はまた足止めに尽力してくれるらしい。
  確かに。
  確かにリンカーンリピーターは使える武器だ。少なくとも対スワンプフォークには万能だ。今の銃声でいきなり右往左往している。撃たれたのがフェラル側なのにだ。
  まともにぶつかれば武器を使うスワンプフォークが勝つのは目に見えてる。
  フェラルは死を恐れないけど密林の住人達も死は恐れない。
  条件が同じなら武器を使う方が勝つ。
  リンカーンリピーターを使うことでその均衡を崩そうしている、ようだ。
  共倒れ?
  さてね。
  だけど泥沼にはなるだろ。
  こちらとしてはどちらも消耗してくれた方がやり易い。
  私、サラ、ポールソンは冒険野郎の意を汲んで収容所に向かって走り出す。当然フェラルに向かって突撃はしない。避けるように斜めに走り、収容所を目指す。何体かは
  スワンプフォークはに向かわずにこちらに来るけどそれぞれの銃が火を噴いて瞬殺。フェラルは噛み付き、ひっかき以外はしてこないので楽と言えば楽。
  少なくとも原住民よりはね。
  連中は銃使ってくる。
  私たちがフェンス前に到達した時、似非死体野郎と原住民は全面的に激突してた。時折甲高い音。戦闘を冒険野郎がかき乱しているようだ。
  もっとも到達したフェンス周りも敵がいないわけではない。
  フェンスにしがみ付いていたフェラルたちがいる。
  「こんのぉーっ!」

  どくん。
  どくん。
  どくん。

  能力発動。
  44マグナム全弾をそれぞれの頭に叩き込む。一斉に吹き飛ぶ頭。これが普通の人間相手ならビビるだろうけどフェラルはまるでお構いなしだ。
  こっちに向かって突っ込んでくる。
  それをサラのコンバットショットガン、ポールソンのレバーアクションショットガンが蹴散らす。
  私はゲートの向こうに叫ぶ。
  向こう側は誰だか知らないけどコンバットアーマーが3人集まってた。金網越しに銃を向けられてるけど。
  「開けてっ!」
  「ここは我々が管理しているっ! 原住民は去れっ!」
  「いやいやスワンプフォークじゃ……」
  「低脳な連中は去れと言っているっ! ここは我々COSの管理下にあるっ!」
  「COS?」
  何の略だ?
  その時、ポールソンとサラが同時にショットガンの銃口をフェンスの向こう側に向けて乱射。一瞬で肉塊になる3人。
  えっと……。
  「あんた、気が合うな。こいつら愚痴愚痴うるさかったぜ。緊急時の対処方法ってやつだな」
  「ええ。ほんと肩書を乱用する奴らって嫌い」
  フェンスの向こう側が騒がしくなる。
  そりゃそうだ。
  望遠鏡越しに見た時は5人いた。何人いるかは知らないけど、今死体になったのがその時の5人のうちの3人なら残り2人はいる。管理下云々言ってたんだ、だとしたら5人で全部ではあるまい。
  何の組織かは知らないけど敵に回したな、こりゃ。
  ヴァン・グラフ・ファミリーとは別物みたいだけどポイントルックアウトでまた新たに敵を増やしてしまいました。
  私は関係ない?
  まあ、関係ないですけど、一括りで敵扱いだろう。
  嫌だなぁ(号泣)
  ポールソンが暗証装置に銃口を向ける、私はそれを止めた。
  「ターイムっ!」
  「何でだ? こいつ潰せば開くんだろ?」
  「開くかもだけど、閉じれなくなる。フェラルに追撃されたくない。サラ、彼と敵を寄せ付けないでっ! 私が開けるっ!」
  「分かったわ。さあ、保安官っ!」
  「オーケイ。分かったよ」
  PIPBOY3000を起動。
  キーボードを叩いてハッキングを試みる。要塞のような場所だしシステムは……ありゃ、これは軽いな、数分あれば破れる。
  収容所側からも銃声が響きだす。
  視界には入らない。
  となると監視塔からの銃撃か。ここは死角だから当たらない。フェンスの向こうに死肉の塊になった連中のアサルトライフルがある。あれが欲しいけどフェンスが邪魔です。

  カチ。

  サラのコンバットショットガンが弾丸切れ。ポールソンは別のフェラルたちと交戦中で援護は出来ない。弾幕の切れた隙を突いてサラに迫るフェラルの一体。
  銃底で叩き伏せる。
  メキャと嫌な音がした。さらに迫るフェラルにコンバットショットガンを振り回して叩き伏せていく。
  銃なくても強いじゃん。
  その時、ポールソンが援護に入り近付くフェラルが吹き飛ばされていく。サラはコンバットショットガンを捨て、デザートイーグルを引き抜いて的確にフェラルを撃破。
  私は暗証番号を絞り出している。
  援護?
  無理。
  弾丸の装填もできない。

  「くそっ! ナイト・グザンがやられてるっ! あいつらを殺せ、中に入れるなっ!」

  フェンスの向こうで動きあり。
  視界にアサルトライフルを持った奴が出てくる。数は3人。はいこれで確定です、当初見た数よりも多い。連中は中にもまだいます。
  ナイト?
  BOSか、こいつら?
  いやCOSとか言ってたな。聞き間違いじゃない限りは。少なくともOCではない。
  何なんだ、こいつら?
  サラはその3人の額に何のためらいもなく弾丸を叩き込む。
  表情には嫌悪。
  「おいミスティ、まだか、弾丸がなくなるっ! 姉ちゃん、あんたもこっちを援護してくれっ!」
  「姉ちゃんじゃないわ、サラ・リオンズよ」
  ポールソンのショットガンも弾丸が尽きたようだ。ショットガンを背負い、腰のリボルバーを引き抜いた。走る死体の頭を吹き飛ばす。古めかしい銃だけど威力は高いようだ。
  フェラルの数はまだまだいる。
  どんだけいるんだ、くそっ!

  ビー。

  その時、フェンスが開いた。
  ビンゴっ!
  ゲートが開く。
  真っ先に私が飛び込み、アサルトライフルを拾ってフェラルに掃射。バタバタと倒れる。弾丸が尽きたところで別のアサルトライフルを拾って監視塔に向ける。向こうもこちらに
  向けて引き金を引いたけど私は視界に入る限りは弾丸は怖くない。避けて、トリガーを引く。悲鳴を上げて監視塔の男は降ってきた。
  これで当面の敵はいない?
  ポールソンとサラもゲートを超える、ポールソンがゲートを閉じた。フェラルが群がってガンガンと金網を叩くけど私はPIPBOY3000でゲートをロック。これで開けれない。
  それぞれ死体からアサルトライフルを奪い、さらに予備の弾倉も奪う。
  よし。
  これで少しは楽が出来る。
  私は44マグナムをホルスターから抜いて弾丸を装填、改めてホルスターに戻してアサルトライフルを装備。
  「サラ、COSって?」
  「さあ探索しましょう」
  「サラ……」
  「なあに? ミスティ?」
  「……何でもないです……」
  何隠してるんだか。
  まあいい。
  サラの目的はその絡みか。まあいいや。私たちは収容所の中に入った。



  収容所の中は薄暗く、息が詰まるようだった。
  ところどころにラッド・ローチが徘徊してた。
  大抵は死んでるけど。
  COSって連中が掃除したのかな?
  それはともかくとしてフェラルが戦前からここにいたのも分かる気がする。ラッド・ローチの肉を食べて生きていたようだ。フェラルは別に死人じゃない。食事しなきゃ死ぬ。その点は
  私らと変わらないけど、連中は私らほどグルメじゃない。ラッド・ローチの踊り食いに抵抗がないようだ。そしてラッド・ローチは繁殖力が半端ない。
  永遠に尽きない食べ物的な感じでフェラルと共生してたのかな。
  今のところフェラルはいない。
  COSもだ。
  フェラルは外にいた連中を追い出した形だとして、まあ、いないという理屈は成り立つけど、COSはまだいる可能性が高い。
  むしろいるだろう。
  警戒しながら進む。
  目につく扉は開くけど骸骨の山とかフェラルたちの食事場のような場所が大半。速攻で閉めた。
  基本的に何もない。
  段々とこの施設に対しての幻滅感が湧いてくる。
  何もないんじゃないだろうな、ここ。
  だとしたら来た意味がない。
  まあCOSからアサルトライフルと弾丸を没収できたから一応は武器の調達達成だけどもこれだけじゃあ成果はあってないようなものだ。
  「開けるぞ、ミスティ」
  「ええ」
  視界に入った扉をポールソンが開く。
  私とサラは銃を構えて部屋に入る。私が先頭、サラが支援態勢。
  牢獄だ。
  ずらーっと鉄の檻が並んでる。ずらーっと言っても檻一つにつき一人と換算すると10人分だ。横一列に並んでる。看守が詰めていたであろうデスクと椅子、デスクの上のダッフルバッグ。

  「新しい看守か? だとしたら弁護士呼んでくれ。俺は無実だからな。違うなら出してくれ。俺は無実だからな」

  檻の中のベッドに座っている奴がいる。
  パンツ1丁で収容されているのはグール。声からして男だ。
  何だその姿なんだ?
  「あなた誰?」
  「ピックマンだ。あんたキャピタル・ウェイストランドの奴だろ?」
  「よく分かるわね」
  「訛りで分かる」
  「ふぅん」
  訛り、ねぇ。
  よく分からんけどボルトから出て訛りが感化したのかなぁ。
  「ミスティよ」
  「ミスティ? 赤毛の冒険者と同じ名前だな」
  「当人ですので」
  「ほぉー? こりゃ光栄だ、有名人と会えてな。……この恰好なのは勘弁してくれ。俺は寝るときは脱ぐ派なんだよ。紳士の嗜みでパンツは穿くが、穿いててよかったぜ。なあ?」
  陽気な奴だ。
  ポールソンがグールを、ピックマンをじーっと見ているけど首を振った。追ってた殺人犯ではないらしい。
  「違う。こいつじゃない」
  「ふぅん」
  「奴は、そう、毛がふさふさしてた」
  「へぇ」
  「おい、何の話だ。俺をここから出してくれよ、頼むぜ」
  「ピックマン、どうしてここに?」
  何も知らずには開けれない。
  彼は肩を竦めた。
  「間抜けな話さ。スワンプフォークがソドムを襲っただろ? あんたも知ってるだろ?」
  「ええ。それが?」
  「密林をダチと逃げてたんだけどヤバいと判断してな、ここに逃げ込んだのさ。フェラル……いや、スワンプグールか?まあいいや、フェラルがいるのは知ってたが俺らグールは
  スルーする。こいつは格好の逃げ場所だと判断したのさ。とはいえごみごみしてるのも嫌なんでな、ダチにフェラルを追い出してもらったのさ。ダチは仕切れるんだぜ?」
  「ふぅん」
  そういえばアンデールでも大移動してたな、フェラル。
  操れる奴には操れるものなのか。
  「一息ついて俺は寝ようと思ったのさ。とはいえまともなベッドがなくてな、ここしかなかった。服脱いで寝てる間に閉じ込められたのさ。間抜けな話だ」
  「それを証明できる人は?」
  「疑り深いんだな。三つ隣か? 四つかもしれん。そこにいる奴に聞きな。俺が入るときはいなかった。さっきまで呻いてたよ。今は聞こえんがな」
  「隣?」
  調べる。
  顔面ぼこぼこの奴が閉じ込められていた。こいつも下着姿。シャツは着てるけど。
  息はしてる。
  こちらに気付いたのか、目を開いた。ぼこぼこ過ぎて目が線のようだ。
  「サラ……リオンズ……?」
  「護民官マクグロウなの?」
  アウトキャストの親玉?
  何故ここでぼこぼこで、しかも閉じ込められている?
  彼のことはサラに任せよう。
  再びピックマンの檻に私は戻る。
  「外のフェラルはあなたの仕業?」
  「外? ずっとここにいたから何も知らんが、そうか、ダチが異変に気付いてフェラルをけし掛けたのかもしれんな」
  「あなたはどうしたいの?」
  「当然ここから出してくれ。そこの机の上の荷物は俺のもんだ。触るなよ? 触ったら呪い殺すぞ」
  「呪い。怖い怖い」
  「あんたスワンプフォークの追撃に困ってるだろ」
  「ん?」
  話題が変わった。
  ピックマンはにやにやとしている。どういう意味のにやにやかは分からない。
  「どうして追ってくると思う?」
  「仮説としてはPIPBOY3000の波長を追ってる、かな」
  「ポイントルックアウトをどう思う?」
  「質問ばっかりね。で? ここ? 未開の地」
  「見た目はな。しかしここは徹底した管理世界だぜ。キャピタルよりもな。戦前でもここまでじゃなかっただろうよ。いや俺は戦後世代のグールだがよ。ともかく、戦前でも
  同じことをしたら問題になってただろうな。俺も断片しか知らない、どうしてここまで管理したがるのかもな」
  「何が言いたいの?」
  「市民の証のリングを破壊してみな。そうすりゃ分かる」
  「……」
  こいつはしていない。
  だけどソドムの襲撃を知ってたんだから、それで密林に逃げた云々だから、こいつも市民として滞在してたんだろう。
  私は外して床に落として踏んだ。

  バヂィ。

  「これは……」
  火花が散る。
  砕けたリングの欠片を拾い上げて断面を見る。機械……くそ、これ発信機だったのかっ!
  そうか、それでストレートに追撃してきたのかっ!
  バルトの野郎ーっ!
  「市長が何を思って管理してたのかは知らんよ。あいつはソドムを大切にしてたからな、少なくとも原住民に狩らせてる意味はないだろうよ」
  「スワンプフォークの最初の襲撃は……」
  「ああ。たぶん俺らの位置を特定している装置の奪取だ」
  となるとスワンプフォークの背後にいるのは誰だ?
  COSとかいう奴ら?
  だけど分かったことがある。無線機腰で話した奴は私を赤毛と呼んだ、市長は私の名前を知らずにリングを渡した、たぶん発信機付けてる相手は名前ではなく特徴で登録してるの
  ではないだろうか。こいつの場合はグールとして登録か何かしてるんだろう。まあ、そこはどうでもいいか。
  「なあ、赤毛の冒険者」
  「ちょっと待て死体野郎。お前の仲間に髪がある奴はいないか? 殺人犯だ。ダチとは……」
  「失礼な奴だな。髪の毛? そりゃアンダーワールドのグリフォンじゃねぇか? 俺のダチは髪はねぇよ。あんたとは話はしたくない。でミスティさんよ」
  「何?」
  「あんたには有益な情報教えたよな? 俺をここから出してくれ。そしたらフェラルは引かせるよ」
  「……そうね」


  どうする?
  ピックマンを信じるか、それとも……。