私は天使なんかじゃない








開拓者上陸の地






  決して景色に騙されてはいけない。
  美しくとも、そこはキャピタル・ウェイストランドよりも危険なのだから。





  ポイントルックアウト。
  ポトマック川を南下、船でしか行くことのできない湿地帯。
  キャピタル・ウェイストランドの船乗りたちが長年かけて開拓した水上ルートの確立により近年発展を遂げ、観光名所となった土地。
  まず港は<開拓者上陸の地>と呼ばれている。
  そしてそこには港町であり歓楽街である<ソドムの街>があるそうだ。
  元々はお宝目当てのスカベンジャーが訪れるだけであった辺鄙な土地が今ではメガトン並みの規模の港町。
  スカベンジャーは手にした宝を湯水のように享楽に使い、そんなスカベンジャーをもてなす形でどんどんと町が発展、この時代にめずらしい観光都市となった。

  ソドムを牛耳るのは市長のバルト。
  役職名こそ民主的ではあるものの実態は終身市長。
  街には規則はあるが法律はない。そういう意味で犯罪の対処はキャピタル・ウェイストランド風の決着のつけ方しかない。
  治安は一応は警備兵がいる。
  表向きは街を牛耳るギャング団が仕切っているものの、ポイントルックアウトのみで栽培されている<プンガフルーツ>の流通ルートは市長が独占しており、その
  結果市長の権限は強く誰も逆らえない。プンガフルーツは糖分が高く、最高級のフルーツとして高値で取引されている。

  密林や湿地帯には古くからの原住民である<スワンプフォーク>と呼ばれる者たちが住んでいる。
  彼らは本来は密林のさらに奥地に住んでいるが時折ソドム近隣に現れている。
  性格は残酷で攻撃的。
  放射能で皮膚は醜く崩れている。
  南部訛りの英語と独自の発音により既に英語という概念ではなく言語的な疎通は不可能に近い。
  プンガフルーツの栽培もしているが、ひとたびそれを狙おうものなら集団で襲ってくる。
  習わしで女子供は奥地から出てこない。

  スワンプフォークとは違い文明化されている部族<トライバル>。
  言語は英語。
  屈強な肉体と屈しない精神を有している。
  ポイントルックアウト中央部にある<アーク&ダヴ・カテドラル>という元聖堂後に陣取っている。
  プンガフルーツの栽培をしている。
  現在ソドムに流通しているのはトライバルが生産したものであり、市長のバルトとは何らかの契約を結んでいるらしい。
  基本的に境界を侵さない限りは中立。

  気候。
  亜熱帯。
  レーザー系、プラズマ系、さらにパワーアーマーの動力はここの気候と湿気により使い物にならない。
  その為エンクレイブ、BOSも進出していない。

  街の規則。
  入港税の支払い、その際に渡されるバンドが入港許可証代わりなので外さないこと。
  爆弾などの類は街に滞在する際は預けること。街の外に出る時はその限りではないので引き渡し可。
  それらは全てポイントルック市民銀行で行われている。





  「ふぅん」
  太陽を浴びながら私は渡されたポイントルックアウト観光案内を読む。
  波に揺れて船はゆらゆら。
  甲板に置いてある長椅子に転がりながら私、赤毛の冒険者ことミスティはまだ見ぬ冒険の地に思いを馳せている。
  今いる場所は船の上。
  船はポイントルックアウトに向けてゆっくりと、それでいて着実に進んでいる。
  楽しみだ。
  今日中には着くらしい。
  キャピタル・ウェイストランド〜ポイントルックアウトの距離は一週間(ゲームでは一か月だっけ?短縮しましたー)の旅程だ。
  気分転換は必要ですね。
  働き過ぎだったし。
  ……。
  ……いや、足はありますよ?
  生きてます。
  いやいや面目ない。
  RAD-X。
  放射能耐性を高める錠剤。
  気休め程度に飲んだんだけどお蔭様で助かってしまいました。いや普通なら死ぬのだよ、うん。要はあの薬が普通のバージョンではなかったってことだ。
  考えてみたらオータムも妙な薬打ってあの中で生き延びてたし、エンクレイブの薬はキャピタル・ウェイストランで出回っている薬よりも強力なのだろう。
  たぶんね。
  そんな感じで生きております。
  感動的に、劇的に死んだつもりなのに……まあ、いっか、サラに感傷的なセリフを言ったりと気恥ずかしいけど、生きてるからいいか。
  それでも。
  それでも生死を彷徨ってたわけですけどね。
  一週間寝込んでました、要塞で。
  でさらに一週間かけて今現在バカンスに向けて航海中。
  エンクレイプ再来とかは普通にあるとは思うけど今はBOSに任せてゆっくりしようと思います。
  ほら、働き過ぎだし。
  「主」
  「どうしたの、グリン・フィス。アンクル・レオと喧嘩でもした?」
  「いえ。船長が直に到着すると」
  「マジで?」
  「御意」
  「楽しみだなぁ」
  起き上がって水面を見る。
  船の向かう先を。
  陸地が見えてる。うっすらとだけど陸地が見えてきた。

  「そろそろ着くわ。降りる準備とかしなさいよ」

  「ネイディーン」
  声を掛けてきたのはオレンジ色の髪の女性ネイディーン。
  あたしと同い年。
  綺麗なんだけど額に何かで斬られた傷跡がある。
  綺麗ですけどね。
  この女性がダッチェス・ギャンビット号のオーナーであり船長。
  キャップに換算したら幾らぐらいするのかは謎だけど別に購入したってわけではないらしい。彼女曰く「額を割ったクソ野郎から奪った」もののようだ。
  航海中わりと仲良くなりました。
  なおそのクソ野郎は蜂の巣にして海に沈めたらしい。
  怖い怖い。
  「グリン・フィス、用意しよう」
  「自分にお任せを。……アンクル・レオ殿のイビキは音響兵器のようですし、自分が身を犠牲にして行ってまいります」
  「……大げさね。まあ、任せた」
  「御意」
  今回の旅のお供はそう言って船内に入っていった。
  ダッチェス・ギャンビット号には現在私、グリン・フィス、アンクル・レオ、ネイディーンの4人だけ。
  ブッチ誘ったんだけど「そんな鉄の塊が水に浮くわけないだろっ! 騙されてんぞっ!」とビビってこなかった。へたれですね。
  サラはBOSの任務で忙しいらしい。
  フォークスはまずはキャピタル・ウェイストランドの見聞がしたいとウェイストランドを旅してる。
  なおこの手の船は私が知らなかっただけで何隻も往復して観光客と帰りの客を運んでいるらしい。1往復で1か月生活できる分のキャップが稼げるらしい。
  「ミスティ」
  「何?」
  「私は補給済ませたら帰りの客運んでしばらく休業。母さんがリベットシティにいるし親孝行してくるわ」
  「水入らずで楽しんでね」
  「あなたも冒険楽しんでおいで。エンクレイブもあんたにお尻蹴っ飛ばされて、もうこれないでしょうし」
  「ならいいんだけどね」
  彼女の母親の名前はキャサリン。
  私のママの名前と同じ。
  偶然です。
  偶然なんだけど、そのあたりなんか意気投合する要素になっていたりする。
  彼女もウェイストランド人なので当然ながらエンクレイブ絡みも知っていたりします。
  さて。
  「ポイントルックアウトは風光明媚に見えるけど」
  「ん? 何?」
  「気をつけた方がいいわ。獰猛な世界よ。見た目に騙されないことね。じゃないと私みたく頭を割られるわよ?」
  「頭ねぇ。そもそも割った奴って何だったの?」
  「フェリー乗りのトバル。自称脳外科医。人の頭を割って中身を見るのが好きな殺人鬼。私で何人目の犠牲者だったのかな……10人、いや11人かな」
  「……何その怖い奴」
  「まあ殺したけどね」
  「ふぅん」
  「キャピタル・ウェイストランドのように明確に敵味方分かる土地じゃないからね。どうか気をつけて頂戴」
  「ええ。ありがとう」
  頷く。
  アンデールのような明確に分からんかった場所もあるけど、まあ、いっか。
  船が岸に近付く。
  喧騒と嬌声が聞こえてくる。
  ……。
  ……何か冒険の街というか下品な街ですね。
  「開拓者上陸の地。そしてここに足を踏み入れた時から欲望の街ソドムよ。ようこそ、欲望渦巻く冒険の土地に。欲望に食われないようにね」
  「善処します」


  欲望の街ソドムにようこそ。