【2010年10月】


詩とつぶやき

― vol. 1 ―



文・Photo, きまぐれ睡龍



「未知の境界線」

見ようとしても見えない
聞こうとしても聞こえない
触ろうとしても触れない

見えたと思ったら己が姿
聞こえたと思ったら己が鼓動
触れたと思ったら己が肉体

すべてが己れにはばまれる

すべてが己れとともに消え行くのか
己れのみが消え行くのか

知るすべはないのか



「時計の針」

文字盤の上を進みながら
時計の長い針はふと思った
短い針が僕の前にいる

追い越したらまた追いついた
また僕の前にいる

また追い越したらまた追いついた
また僕の前にいる

追い越した時には
もう彼方にいるのだ

追い越せていないのか
並ぶことはできた気がするけど

そんな気がしているうちにはもう
僕は彼の後方にいる

僕の方がはやく進んでいると思っていたが
僕の方がおそいのだろうか

何度も追い越したつもりなのに
彼には周回遅れがカウントされていないのだ

スタート地点はどこだったのか
ゴールはどこにあるのか

それを知ることができなければ
自分がつかめない



 



「完 全」

完全なものとは何か

絶対であること
確実であること
鉄壁であること

いま自分が生きていること
そしていずれ自分から去ること
自分が自分以外とは別物であること

でもどこにそれらがあるのか
まだひとつも確証を得たことはない

完全なものはありえないのか

ありえない
と完全にいい切れるのか



「神さまとご飯」

心は物に言った
私が思うから君は在り得るのだ、と

物は心に言い返した
私が在るから君は思い得るのだ、と

人間は双方に言った
君たちは結局だれなのか、と

神さまは皆に言った
そろそろこっちへ帰っておいで、と


闇は光に言った
私がいるから君は輝き得るのだ、と

光は闇に言い返した
私がいるから君は深まり得るのだ、と

ぼくは双方に言った
君たちは結局だれなのか、と

母はぼくに言った
ご飯できたよー、と



「魔法があったら」

魔法があったらいいのにね…
いや 魔法だらけだったよ

魔法は人が手に入れた瞬間から
魔法に見えなくなってしまうだけさ

炎を得て味覚を養い
岩を溶かして数理を構築し

疾風よりも速く 山脈よりも遠く
成層圏をはるかに突破して

銀河に小さな星をはなってさえも
魔法使いという名刺は作れなかった

その名刺はいつまでも
神様とペテン師だけの持ち物だからこそ

不安定な道行きに泣いたり笑ったりと
僕たちは命を燃やしていけるんだ



「一度の人生」

一度の人生?

人生に回数はない

ただ

ふしぎな視界とふしぎな音声

そしてふしぎな触感の
記憶と再生がくりかえすのみ

それは

始まりも終わりもなく
前進も後退もなく

実体とも概念とも知れず
己れとも彼とも知れないもの

人生に回数の対象物はない

ゼロでもなく
一でもない



「木の実は」

枝にみのった木の実

この木の実のゆくすえを
だれが知り得るだろうか

いずれ必ず枝から落ちると
だれが言い得るだろうか

木の実は

落ちることが確実なのか
落ちたことが確実なのか

落ちることが確実ならば
あらゆる未来は確定している

落ちたことが確実ならば
あらゆる未来は存在しない



「瞬発力」

原っぱから草がへったので
バッタさんたちは一所懸命
草をさがして跳びまわりました

生きるためにそうしました
迷いなどありませんでした

泣きませんでした
怒りませんでした


ぼくたち人間は迷います
泣きますし 怒ります

迷う暇があるからです
泣きごとを言える相手や
やつ当たれる相手がいるからです

孤独でいそがしいバッタさん
あなたたちは見事な瞬発力ですね

ぼくたちがノロマに見えますか
ぼくたちなど眼中にないですか



 



「長生きしたいですか」

長生きしたいですか
長生きしたいです

何歳までですか
できれば百歳まで

じゃあ 今のあなたが百歳です

一万歳がよければ
一万歳でもいいですよ



「一億円の絵」

あなたが大切にしている
その絵を売ってください

一億円払いましょう
それだけの価値があります

絵の持ち主は答えた

この絵の価値は
この絵であることです

一億円の価値は
一億円であることです



「君はいいねえ」

君はいいねえ
まだ二十歳か

わたしはもう
いつ死ぬか分からない歳だよ…


あなたの方がいいですね
もう七十歳でしょう

あなたもう絶対に
二十歳では死なないのですから…



「はつもの七十五日」

はつものを食べると
七十五日長生きするよって

おかあさんが
食べさせてくれました

でも…

寿命がのびたのを
どうやって確かめるのかな

死ぬ当日に
それを喜べばいいのかな



「マンションとコロッケ」

マンションの一室を
一億円で買った人がいました

コロッケをひとつ
百円で買った人がいました

おなじマンションの空き室が売れ残り
半額になって売りだされました

おなじコロッケが売れ残り
半額になって売りだされました

空き室はぜんぶ売れました
コロッケもぜんぶ売れました

一億円で買った人は怒ったんだって
百円で買った人は怒らないのにね



「一万円」

一万円もらうとうれしいかい
うれしいです

ぜんぶ一円玉だよ
それはちょっと困ります

なぜだい
サイフに入らないし使いにくいし…

うれしいって言ったじゃないか
だって ぜんぶ一円玉でしょ

へぇ なんで君は
一万円をお札だと思ったんだい



 



「蠅のしあわせ」

蠅はウンチがとても好き
ウンチがあれば大よろこび

クレオパトラも楊貴妃も
蠅にとってはウンチ以下

人に生まれてよかったと
思っているのは人間だけ

蠅にとってのしあわせは
蠅であることこの上なし



「クイズ王と原始人」

クイズ王は何でも知っているけど
ほとんど分かっていない

知っているのを誇るけど
分かっていないのを恥じない


原始人はほとんどを知らなかったけど
すべて分かっていた

知らないのを恥じなかったけど
分かっていたから生きのびたのだ



「ぶりっ子」

ぶりっ子でもいいじゃない
エエ格好しいでもいいじゃない

悪口を言ったりせずに
腹を立てたりせずに

好きなようにさせといて
あげればいいじゃない

あの人はあの人
あなたはあなた

みんないつ終わるか分からない
刹那の人生なんだから



「ラッシュアワー」

イヤならそこに
いなければいいじゃない

いるならあなたも
邪魔者のひとりじゃない

何をいらいら
する理由があるのさ

ラッシュアワーの
ドライバーさん



「もうかりますよぉ」

いい話ですよぉ
もうかりますよぉ

出資してください
二倍に増えますから…


そうですか
いい話ですね

でもお金がないので
代わりに出しておいてください

二倍に増えたら
半分もらいに行きます



「いたくない」

なぐられたら 一回でもいたいけど
かげぐちなら 一万回でもいたくない

言いはじめた日があったんだから
言いおわる日だってくるだろうさ

かげぐちという作物が
そだつ畑はどこにもない

おたがい死ぬほど腹がへりゃあ
どうでもよくなっちまうことさ



「自分らしい自分」

自分らしい自分というけれど
自分らしくない自分なんてあるのかい

明るさ 前向きさ
だらしなさ 低俗さ 醜悪さ

ぜーんぶ自分じゃん
ぜーんぶ人間じゃん

ただあるのは

見せたくない自分を隠す方法と
見せるべきでない自分をみつける方法
それを求めながら生きる隠ペイ工作の美意識

自分いがいの自分なんてありゃしないのさ

自分らしい自分… そんなサイダー風味の
トランキライザーはもう要らない



 



「創造神と偶像神」

神は人間を
自身に似せて造りたもうた
人間は神の発明品
神は創造主

でも神は人間を
コントロールできない

人間は神を
自身に似せて作った
神は人間の発明品
人間は偶像作家

人間は神を
コントロールできる


創造の神は神にあらず
偶像の神も神にあらず

真の神には形も名もなく
何も思わず 何も語らず

すべてをただ優雅に育み
すべてをただ峻厳に葬るのみ



「意 地」

意地 意地 意地
意地 意地 意地!

維持 維持 維持
維持 維持 維持!

意地維持 意地維持
維持意地 維持意地

イジイジ イジイジ
イジイジ ウジウジ

うじうじ いじいじ
うじうじ うじうじ

うじ蛆 うじ蛆
蛆うじ 蛆うじ

蛆蛆蛆蛆蛆蛆…



「いばるな」

いばるな男たち
みんな女から生まれたくせに

いばるな女たち
いばる男ばかり育てあげたくせに

いばるな若者たち 伝統を
守ってきたのは大人たちなのだ

いばるな大人たち 改革の
原動力はいつも若者たちなのだ

いばるな教祖たち 君らには
道ばたの石ころひとつ造れないのだ

いばるな占い師たち 君らに
決められる未来は一つもないのだ


いばるな 君も俺も

しょせんいずれは
誰かの優しさに命をゆだねるのだから



「ユーレイ克服方法」

ユーレイが怖くなくなる方法を
お教えしましょう

必要物資その一 「墓場」
必要物資その二 「囲い」
必要物資その三 「ライオン」


まず墓場へ行きましょう
ユーレイ好みの陰気な墓場がおススメ

墓場をグルリと高く囲いましょう
出口をつくらないほうが効果的

夜になったら中に入りましょう
体ひとつで入ってください

そのあとライオンを一頭入れましょう
お腹をすかしているヤツが適役です


たったこれだけでユーレイへの恐怖は
あなたの心から消し飛ぶでしょう

闇にひそむ本当の死のすがたに
すべての細胞が身をよじらせるでしょう


さあツルツルのおサルさん
はやく逃げないとヤツが来ますよぉ
墓石ふんづけてレッツゴー!



 



「分からなくてもいい」

宴会が好きな人には
宴会が嫌いな人の気持ちは
永久に分からないのだろう

宴会が嫌いな人には
宴会が好きな人の気持ちは
永久に分からないのだろう

分からなくてもいい ただ

双方のあいだに
押しつけと侮蔑さえなければ



「愚かな今」

過去をふり返れば

あの頃は愚かだった
あの頃は未熟だった

と気づく

未来の自分もきっと

あの頃は愚かだった
あの頃は未熟だった

と今の自分をふり返るのだろう

今はつねに愚かなのか
たぶん 死を得るその日まで

でも今の自分を
信じて進むしかないのだ



「青い空へ」

気がね
周囲の人たちへの気がね
改革
気がねが生む躊躇とその連鎖反応
時間
見すごされ続ける怠惰となれ合い
品質
劣化する向上心と生産物

気がね それがいったい
誰に幸いをもたらすというのか


決心
自分を後押しする明日の自分
切断
改革の生命線は速攻
きらめき
速攻は炎にきらめく刃の切れ味

それは己れの贅肉を切り落とすナイフ
反感
その視線の数はかぞえまい
孤独
切り拓きゆく花道への原動力
線路
あとに続くかも知れない人たちのために…


気がね それは
怯懦が生むまぼろしの鉄条網

その向こうには… きっと
僕たちの瞳を照らす青い空が広がっている



「ありがとう」

おとうさん おかあさん

ありがとう

生んでくれて

微笑んでくれて
叱ってくれて

育てあげてくれて

見送ってくれて…


息子よ 娘よ

ありがとう

生まれてくれて

笑ってくれて
泣いてくれて

育てさせてくれて

見送ってくれて…




 



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