モリアオガエル

モリアオガエルと再会(2020年)



 2020年はモリアオガエルの成体を6匹確認できた。これでこの池での産卵は3年連続となったが、産卵場所として彼らがここに定着したと言っていいのだろうか。池のそばで越冬している個体もいるのかも知れない。池のほとりにあるモミジや榊の葉がすでに茂り終えた5月18日に、初めて1匹目が姿を見せたが、2018年は最初に卵塊を確認したのが5月21日(鳴き声はその数日前から聞こえていた)、翌年は5月22日だったので、おそらく2020年もおおむね同じ動き出しであったと思われる。5月の中〜下旬がこの池に現われはじめる時期なのかも知れないが、だとすれば、おそらく近辺の青梅市域でも同様の傾向が推測できるのではないか。

 1匹目が姿を現わして以降、今回はごく簡略ながら日々の状況を2ヶ月あまりにわたって日記風に記録してみたが、前年と同様、観察時間は基本的に朝7時台後半からの20〜30分間と、昼12時台の20〜30分間に限られ、たまに夕刻も数分ていど姿を追った。本文の各冒頭に記した数字は観察を始めた時間である。新型コロナウイルス騒動の影響で休日は池のある敷地に立ち入ることができず、平日でも在宅勤務で観察できない日が1日あった。気温と降水量はすべて気象庁のホームページに掲載されているデータから引用しているので、池のある場所と観測地とで多少の誤差、そして体感温度と数値との感覚的な誤差はあったかも知れない。

 現われたのはつぎの6匹で、姿を確認した順にA〜Fと名付けた。〔 〕内はそれぞれ姿を確認できた期間である。ただし、鳴き声だけ聞こえて姿が見えず、どの個体か視認できなかったケースもあった。Fのように3日間しか見られないものもいたので、これら以外の個体が短期間来ていた可能性も無くはない。

 
(A〔5月18日〜7月20日〕と、B〔5月19日〜6月2日〕)

 
(C〔5月25日〜7月10日〕と、D〔5月25日〜6月25日〕)

 
(E〔7月1日〜7月9日〕と、F〔7月14日〜7月16日〕)

 これらの写真はそれぞれ、A=5月21日、B=5月19日、C=5月27日、D=6月2日、E=7月1日、F=7月15日に撮影したものである。なお、今回は池の全体像が分かるように、そばにある建物の屋上からの写真も掲載した。池の淵にある低木や庭木類が繁茂し始めないうちに撮影した光景だが(撮影したのは翌2021年の3月中旬の真昼)、右方向が南、左が北である。繁茂すれば上方の淵のほぼ全域がモミジなどの緑に覆われ、背の高い大木もあるので、午前中の池の北側は落葉の時期まで陽光が射し込みにくい時間帯が多くなる。池へとせり出している淵がこれまでモリアオガエルたちの滞在の中心位置となっている。池の中の置石の数などは2018年から変わっていない。

 
(池の全体像。右の写真はすぐ近くにある導水用の筧と水鉢)

 ちなみに最も北寄りにある池の中の石積みは、2018年5月29日に小さな卵塊が産み付けられた場所で、同年にモミジの根の陰にあった卵塊は、淵のせり出しの先端部に自生しているヤツデの根元あたりに産み付けられたものだった。北端の淵のすぐ上にわずかに見えている濃緑の小さな棕櫚の葉は、5月18日に現われた個体(A)が2ヶ月ほどにわたってほぼ定位置として過ごす場所となる。その他の個体たちには、Aほど長期にわたり居場所が定まっていた印象がなかった。写真の右上方の大きな庭石から北方にわたって置かれている緑色のホースによって、南方の離れたところにある水道の蛇口から水を引き、コンクリート敷きの通路を隔てた北西側にある筧(かけい)を経由して水鉢用の岩のくぼみに注ぎ、溢れ出た水が岩の真下にある埋設管を通じて池の北西淵へと流れ込んでいる。排水口は池の南端の、庭石とホースに近い淵にある。

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5月18日(月) 曇りから小雨 17.2〜19.3℃ 2.0mm
 7:50、今年初めて1匹目(Aとする)をヤツデに近いモミジの枝に確認。15日(金)まで数日にわたって池の周囲を探したが、1匹も姿が見えなかったので、土曜に降った雨(5.5mm)のさなかに池まで移動して来たのだろうか。まだまったく鳴き声を発しておらず、卵塊もない。12:30、昼もAのみで、朝と同じ位置から動いていない。夕刻にも見たがAしかいなかった。去年までの7匹の写真と比べてみたところ、去年のBの背中や四肢にみられた斑紋の位置と形がほぼ一致した。去年、4分以上にわたり池の中で取っ組み合いの大ゲンカをしていた敗北側の個体だ。去年よりも斑紋がやや濃く太くなったようにも見えるのだが、少なくとも、彼らの斑紋は1年で形や位置が基本的に大きく変遷しないということだろうか。

 
(左が今年のA、右は去年)

5月19日(火) 雨、時々曇り 12.2〜19.1℃ 48.0mm
 7:50、2匹を確認した。1匹はAで前日とほぼ同じ位置のモミジの枝に。もう1匹(Bとする)は棕櫚に近いモミジの枝にいた。昨夜の雨に乗じて移動してきたのだろうか。12:20、Bの姿は見えなくなり、Aは今朝と同じ位置から移動なし。BはA以外の去年までの6匹と斑紋が異なるようである。

5月20日(水) 曇り、時々小雨 9.5〜13.7℃ 7.5mm
 在宅勤務につき観察なし。この日、東京は記録的な気温の低さだった。前日のBは、過去2年分の個体の写真すべてと照合した結果、新規と判明。

5月21日(木) ほぼ終日小雨 9.1〜12.3℃ 3.5mm
 7:50、朝は0匹。この日も東京は冬並みに寒い。12:30にはAのみ確認、池の北側隅にある棕櫚の葉に鎮座している(Aはこの後、池を去る頃までこの棕櫚とそのそばにある木をおおむね定位置としていた)。寒さでBは土の中に戻ってしまったのか。鳴き声もなく卵塊も現われない。他の生き物たちの姿もなく、ひっそりとしている。

5月22日(金) 曇り 11.2〜19.1℃ 0.5mm
 7:40、朝は0匹。今日もやや寒い。鳴き声もなく卵塊もまだみられないが、最近の気温の低さが彼らの活動を鈍らせているのではないか。しかし今日は、かつて田んぼだった近所の空き地のカエル(鳴き声からしてダルマガエルか)たちが朝から元気に鳴いていた。彼らの方が寒さにやや強いのだろうか。12:20、Bだけ確認。モミジの葉が密集している非常に分かりにくい枝におり、そのために朝は見落としていたのかも知れない。

5月23日(土) 晴れ、時々曇り 12.8〜24.5℃ 0mm
 休日につき観察なし。やや気温上昇。

5月24日(日) 晴れ 15.7〜26.1℃ 0mm
 休日につき観察なし。気温上昇。

5月25日(月) 晴れ 15.8〜27.1℃ 0mm
 7:35、気温が高い。棕櫚の葉の上にいるA以外に2匹確認(CとDとする)。棕櫚からは離れたモミジの枝にいる。どちらも去年までの個体と斑紋が異なる。これで計4匹になった。今日も卵塊はない。Aは去年も棕櫚の葉やその近くにいることが少なくなかったが、今回はそこを自分の縄張りとして意識しているのだろうか。日中になって今年初めて、微かだが鳴き声を確認。寒さのせいで鳴き始めが去年までよりも遅くなったか。12:15、CとDが間近に接近していたが争う様子はなく、ほとんどじっとしていた。気温の上昇にともなってか、数匹のイトトンボが産卵にきて2〜3のつがいが交尾していた。アメンボの活動も活発化。Bはこの日姿が見えなかった。

 
(産卵に来たイトトンボ。気温の上昇で活発化)

5月26日(火) 曇り、午後雨 17.1〜24.0℃ 1.5mm
 7:35、やや暖かい。今朝はヤツデの自生付近のモミジの枝にDしか確認できなかった。12:20、午後も同じ位置にいるDしか確認できず。微かにDと思われる鳴き声が聞こえた。

5月27日(水) 曇り、時々晴れ 17.1〜24.6℃ 0mm
 7:35、3匹確認した。Aは今日も棕櫚の葉の上、あとの2匹はCとDで、昨日Dがいた枝のあたりにいる。12:20、3匹のままで位置も変わらず。鳴き声は聞かれなかった。

5月28日(木) 曇り、のち晴れ、夕刻に雷雨 15.0〜26.3℃ 3.0mm
 7:35、Cだけ確認できた。昨日、Dがいた場所に陣取っていた。夜間にDを追い出したか。気温はやや高い。12:20、朝と変わらずCのみ。

5月29日(金) 晴れ 12.1〜28.0℃ 0mm
 7:40、今朝もCだけ確認した。位置も昨日と変わらず。少し鳴き声あり。12:20、昼にはなぜかDが池の水の中にいた。気温はやや高い。

5月30日(土) 晴れ、のち曇り 13.5〜28.1℃ 0mm
 休日につき観察なし。

5月31日(日) 晴れ、のち曇り 14.9〜23.8℃ 0mm
 休日につき観察なし。

6月1日(月) 曇り、午後から雨 17.3〜19.8℃ 3.5mm
 7:30、Aのみ確認。今日も棕櫚の葉にいた。今朝はアカガエルが数匹(すべて体長15mmほど)池の端にいた。尻尾の痕跡は残っていないが、最近オタマジャクシから成体になったものか。12:15、午後もAのみ。夕刻、池から20メートルほど離れた場所で飼われているメダカの水槽(小さな水槽が2〜3点ある)の付近で、モリアオガエルの声がかすかに聞こえた。その場所では初めてのことである。生息場所を拡げようとする傾向か。


(このようなアカガエルの子が数匹)

6月2日(火) 曇り、のち日差しあり 17.7〜27.5℃ 0.5mm
 7:25、産んだ直後の卵塊を今年初めて確認。去年までと同じく、湾曲している池のせり出し箇所にあるモミジにひとつ産み付けられた。ヤツデが自生している真上あたりだ。濡れそぼる雨後のモミジの葉に紛れるような姿で、多量の水分を含んで重そうにぶら下がっている。その時、池のほとりに4匹(A、B、C、D)いたが、そのうち尾部とかかとに泡が残っていた1匹(B)が雌なのだろうか。ヤツデの葉に乗り、ずぶ濡れでじっとしている。前日の夕刻から未明までまとまった雨が降ったので、やはり雨が彼らの移動と行動を活発化させるということだろう。12:20、4匹とも確認。朝はヤツデの葉やモミジの枝にいたBとCだが、昼は水中にいた。体を洗うためだろうか。Aは朝から定位置の棕櫚に、Dも朝からヤツデ付近のモミジの同じ枝の上にいた。昼の観察中は3匹の鳴き声が盛んだった(Bだけ鳴かず)。複数のイトトンボと、翅が褐色のカワトンボ1匹の飛来あり。虫たちも活発化。今朝からメダカの水槽の周辺でも卵塊の有無を毎日調べはじめた。

 
(6月2日朝、乳白色の卵塊がひとつ現れた。それぞれ別角度から)


(産卵直後ヤツデの葉に乗るB。かかとの先に残る泡。雌だろうか)

6月3日(水) 晴れ、のちやや曇り 19.3〜29.5℃ 0mm
 7:35、今朝は1匹も見当たらず、卵塊はひとつのまま。気温は高め。前日のBは5月22日以来、11日ぶりの姿の確認だった。そしてBが姿を現わすのは6月2日の産卵が最後となった。雌は雄のように大声で鳴かず、産卵後にすぐ姿を消すというから、雄たちと変わらないやや小振りな体格だったがBはやはり雌だった可能性が高い。5月下旬の連日の低気温がなければ、去年とほぼ同じころに産卵していたかも知れない。Bは初めて見る個体だったが、この池に初めて現われたとは限らない。去年か一昨年にも来たのかも知れない。5月20日前後が、この池に雌の現われる時期なのだろうか。5月25日までに確認した4匹が前日に勢ぞろいしたということだが、長期間姿が見えなくても、その近辺にずっと潜んでいたのであろう。12:20、午後はAのみ確認、定位置の棕櫚の上だった。

6月4日(木) 薄曇り、のち晴れ 19.2〜28.2℃ 0mm
 7:40、今朝は2匹確認、1匹はA(定位置の棕櫚)。もう1匹はCで、終日、棕櫚から3.5メートルほど離れた池の南寄りの岸辺にある石の陰にいた。気温・湿度は高め。卵塊はすでに表面が固化して変色している。12:20、午後も2匹の位置変わらず。少し鳴き声あり。Aはどうやら、枯れかけの葉でも新たな葉でも、自分が乗る葉を選り好みしないらしい。

 
(枯れかけの棕櫚のAと石陰のC。朝から終日ほぼ動かず)

6月5日(金) 晴れ、日差しが強い 18.8〜30.3℃ 0mm
 7:40、今朝はCのみ確認。石陰を離れてその上にあるモミジの低木に登っていた。気温・湿度が高い。卵塊に変化なし。12:20、昼も同じ位置にCのみ。撮影者の気配に驚いて枝から池へ飛び込んだ。

6月6日(土) 曇り、夕刻から雨 17.2〜28.8℃ 44.0mm
 休日につき観察なし。

6月7日(日) 17.4〜27.7℃ 0mm
 休日につき観察なし。

6月8日(月) 晴れ 18.4〜28.9℃ 0mm
 7:40、今朝は3匹確認。Aは棕櫚のすぐ近くのモミジの枝におり、Cは6月4日と同じ石陰に。ここがCの定位置になったのか。もう1匹は池の中にいたがすぐ逃げられて撮影できず、斑紋の様子も視認できなかった。土曜日の夜は雨だったが、新規の卵塊は現われず。12:20、昼も2匹は変わらず、逃げられた1匹は午後姿なし。

6月9日(火) 晴れ 18.3〜31.8℃ 0mm
 7:40、今朝はAのみで棕櫚の葉にいた。卵塊に変化はないが、すっかり表面が乾燥している。今朝は複数のクロスジギンヤンマが飛来し、盛んに水面の水草に乗って産卵していた。去年はほとんど見られなかった光景だが、この池で育った子たちが戻ってきたのか。一昨年はクロスジギンヤンマ自体がごくわずかしかいなかった。増加傾向にあるのだろうか。12:20、Aは朝のままだが、Cが昨日の石の真上あたりのモミジの葉にくるまるようにぶら下がっていた。朝もそこにいたのを気づかなかったのかも知れない。クロスジギンヤンマが来たのは朝だけだった。写真では分かりにくいが、翅と尾が薄汚れて傷んでいた。厳しい環境をここまで生き抜いてきた証だろうか。

 
(クロスジギンヤンマの産卵。この朝、数匹が飛来していた)

6月10日(水) 晴れ 19.3〜33.1℃ 0mm
 7:30、今朝はAのみで棕櫚の葉にいた。産卵から8日経過したが、卵塊に変化なし。クロスジギンヤンマの飛来もなし(この年、産卵に現れたのを確認できたのは9日の朝だけとなった)。12:20、昼も変化なし。日差しが強い。昼の観察中、シオカラトンボが1匹だけ飛来した。


(卵塊の様子。表面が完全に固化している)

6月11日(木) 晴れ、昼から曇り、午後は雨模様 22.1〜32.6℃ 3.0mm
 7:35、昨日の午後、社員が池の底にたまったヘドロ浚いを行なった影響か、今朝は1匹もいなかった。気温も湿度も高く、風が強い。卵塊も変化はないが、底が少し黒ずんでいるようにも見える。孵化の前兆か。12:20、午後も変わらず0匹。卵塊もそのまま。夕刻の雨の中、棕櫚の近くでようやくCだけ確認できた。

6月12日(金) 晴れ、昼やや曇り、午後は強雨のあと晴れ 20.8〜32.1℃ 11.5mm
 7:30、今朝は2匹で、Aが棕櫚からやや離れた木の枝に、Cは定位置近くの石の斜面にはり着いていた。気温・湿度ともに高い。卵塊が孵化してもいい時期になっているが、孵化した様子はなく、池にオタマジャクシの姿もない。カマキリの卵がモミジの茎に産み付けられているのを今まで気づかず、今朝、数十匹の黄色いカマキリの幼生が卵嚢からぶら下がっていた。卵嚢の形から、ムネアカハラビロカマキリとみられる。卵嚢はアリたちに襲われている最中で、幼生が何匹もアリに運ばれていた。12:15、午後も変わらず、2匹ともまったく同じ位置にいた。卵塊も変化なし。午後の雨で2匹とも盛んに鳴き声を発していた。

 
(左はアリが群がる卵嚢から糸でぶら下がるカマキリの幼生たち)

6月13日(土) 雨 19.3〜22.7℃ 59.5mm
 休日につき観察なし。

6月14日(日) 午前中雨、午後曇り 19.3〜22.1℃ 3.0mm
 休日につき観察なし。

6月15日(月) 晴れ 19.7〜32.7℃ 0mm
 休暇につき観察なし。気温すこぶる高い。

6月16日(火) 晴れ、夕刻近くから雨(少し雷鳴) 19.9〜30.6℃ 0.5mm
 7:30、今朝は棕櫚の付近の木にAのみ。気温高し。卵塊は下部を中心に腐敗し、溶けて干からびているが、無事に孵化した個体がいたのかどうか分からない。池にオタマジャクシの姿は確認できない。今朝のAはめずらしく枝から枝へとよく動き、遠い枝までジャンプしたりもしている。頻りに顔を手で払ったりしているが、どうやらアリを嫌っているらしい。このところアリが多くなってきたか。12:20、午後はAの姿も見えず。アリに嫌気がさしてどこかへ退却したのだろうか。


(下部が溶けて干からびた卵塊)

6月17日(水) 晴れ 16.1〜29.3℃ 0mm
 7:30、今朝も棕櫚にAのみ。気温が高い。12:20、昼も変わらず。

6月18日(木) 曇り、夕刻前から小雨 17.5〜24.4℃ 2.0mm
 7:35、今朝はAとCを確認できた。Aは棕櫚の上、Cはヤツデの上に近いモミジの枝。周辺の背の高い木の上からも鳴き声が聞こえたので、もう1匹はいる。池の淵の低木に姿が見えなくても、見上げるような高所にいる可能性があるということだ。気温はあまり高くない。卵塊はさらに破損が進んでいるので、もう孵化はないだろう。12:20、昼もすべて変わらず。オタマジャクシの姿なし。

6月19日(金) 未明から多雨、昼から小雨 16.7〜18.4℃ 34.5mm
 7:40、今朝は棕櫚の葉にAのみ確認したが、池の淵からはもう1匹の鳴き声。おそらくCか。気温が低い。2年前の2匹と比べると、頻繁な位置の入れ替わりが乏しいように感じられる。12:20、午後も変わらず。昼に偶然トンボの脱皮が始まっていた。種類ははっきりとしないが、大きさや胴体の模様などからみて、おそらくタカネトンボだろう。夕刻にはいなくなっていた(このころから、何度となく羽化後のタカネトンボを見かけることとなる)。

 
(小雨の真昼に始まった羽化。タカネトンボだろう。右の写真は左の8分後)


(さらに2時間半後の姿)

 夕刻、この池から南西方向に数百メートルほどの山地麓で、たまたま複数のモリアオガエルの鳴き声を確認した。たまに帰宅に使う道がすぐそばにあり、去年までにもいたのかどうかは定かでないが、今まで聞こえたことのない場所である。鬱蒼とした民家の敷地の奥から聞こえていたので、姿や現場の状況は視認できなかったが、数匹程度いた思われる。彼らが近年、この付近一帯に生息域を拡げているとみていいだろう。この民家は「青梅の森」と呼ばれる丘陵への入り口のすぐ近くにあるが、丘陵の奥から人里まで徐々に降りてきているのではないか。この池のカエルたちも、はるばると青梅の森から引っ越して来たという移動ルートを想定できるのかも知れない。

6月20日(土) 晴れ、のち曇り 16.0〜28.7℃ 0mm
 休日につき観察なし。

6月21日(日) 昨夜から朝まで雨、日中は曇り時々晴れ 16.7〜24.0℃ 3.5mm
 休日につき観察なし。気温はやや低め。

6月22日(月) 雨、時に強め。午後も降り続いたが小雨 16.8〜20.0℃ 13.5mm
 7:20、雨で鳴き声が盛んだった。今朝は棕櫚に近い木の枝にDの姿のみ確認できたが、鳴き声は3匹だった。新たな卵塊はなし。12:20、午後はAも棕櫚の近くで確認できた。もう1匹は声のみ。終日3匹の声がよく聞こえていた。

6月23日(火) 小雨、昼から曇り 18.0〜26.1℃ 1.0mm
 7:30、2匹の姿(AとD。ともに棕櫚の付近)を確認した。鳴き声はなし。新たな卵塊なし。12:20、昼も変わらずだが、もう1匹の声が聞こえたので、今日も3匹いた。

6月24日(水) 曇り、夜に雨 19.8〜25.0℃ 0mm
 7:40、今朝は1匹も姿がみられなかった。声も聞こえず、卵塊の追加もなし。気温は高くないが湿度は高い。12:20、昼も変わらず。終日1匹も姿が見えなかった。毎日池の中も丹念に見ているが、オタマジャクシの姿は皆無。

6月25日(木) 雨、午後曇り 17.5〜23.0℃ 8.5mm
 7:40、今朝はA(棕櫚の間近のモミジの枝)とD(棕櫚にほど近い木の枝)のみ姿を確認した。気温は高くないが湿度は高め。やや鳴き声あり。卵塊なし。12:20、午後は同じ枝にDのみ。本日、業者による庭木の剪定が午前中に入った。一部の低木だけ剪定したらしい。剪定後にはAがいなくなっていたが、Dはほぼ元の位置にいた。逃げなかったようだ。

6月26日(金) 19.5〜29.2℃ 0mm
 7:30、今朝はA(棕櫚の真上のモミジの枝)のみ。湿度が高い。卵塊はもはや半分以上溶け落ちている。この卵塊が見つかって以降、そこへ通じる太い枝に雄が乗っている姿を一度も見ていないが、たまたまだろうか。12:20、午後も変わらず。この日は、6月1日に声が聞こえた水槽の近くでまた鳴き声がしていたという。メダカを飼っている場所で雌を誘っている個体がいるのだろうが、姿は見えず卵塊も見当たらない。水槽が小さいので、あまり産卵・繁殖に適している場所とは思えない。

6月27日(土) 曇り、時々晴れ 22.7〜29.0℃ 0mm
 休日につき観察なし。

6月28日(日) 雨、のち曇り 19.1〜24.1℃ 62.5mm
 休日につき観察なし。

6月29日(月) 晴れ 17.5〜29.0℃ 0mm
 7:35、今朝は1匹も姿が見えず。鳴き声もなく卵塊の追加もなく、オタマジャクシの姿もなし。気温が高く湿度も高め。12:20、昼も変わらず。

6月30日(火) 曇り、昼から雨 19.5〜27.6℃ 13.5mm
 7:30、今朝も1匹も見えず。鳴き声もなく、その他も変化なし。気温やや高く、湿度も高い。12:20、午後も変わらず。もう雌は来ないのだろう。5月下旬の冬並みの寒さが、B以外の雌たちの到来を妨げたのかも知れない。最近は雄たちの鳴き声も明らかに少なくなってきて、まったく聞こえない日もある。夕刻、ようやく棕櫚の近くにAだけ確認。

7月1日(水) 午前曇りと雨、午後は強風をともなう雨、夜間雨 21.5〜27.2℃ 14.5mm
 7:40、今朝はAのみ確認。棕櫚の真上のモミジの枝にいた。気温が高めで、湿度は前夜の雨の影響か、かなり高い。12:20、午後はAの姿が見えず、別の1匹の姿を確認できたが、A〜Dとは背中の斑紋が異なるので、5匹目(E)である。昨年と一昨年のどの個体とも斑紋が一致しない。ヤツデの真上あたりのモミジの枝にいた。

7月2日(木) 晴れ、夜になって雨、寝苦しい夜 20.0〜33.3℃ 0mm
 7:40、今朝は1匹も見えず、その他も変化なし。池のそばでニイニイゼミの声を今年初めて聞いたが、例年よりやや遅めか。この日は朝の観察のみ。

7月3日(金) 曇り、午後雨 19.7〜27.4℃ 12.0mm
 7:30、今朝も1匹も見えず、その他も変化なし。今年はアシナガグモなどのクモが多く、池にやたらと巣を張っているが、去年、ヒメアカネやイトトンボがたくさん羽化した影響だろうか。12:20、昼も変わらず。すでに卵塊は完全に腐って溶け落ちた。夕刻、Aの姿のみ棕櫚の付近で確認。Aはこれまで確認できた限りでは、定位置の棕櫚の葉から1メートル以上離れた場所に出ている姿をほとんど見ていない。

7月4日(土) 朝方は雨、日中は曇り 18.5〜22.2℃ 27.5mm
 休日につき観察なし。

7月5日(日) 曇り、時々晴れ 21.0〜27.4℃ 0.5mm
 休日につき観察なし。

7月6日(月) 雨、午後は曇り時々小雨 21.6〜27.1℃ 10.5mm
 8:00、今朝はAとEの2匹のみ。その他は変化なし。気温はさほど高くないが湿度は高い。Aは相変わらず棕櫚の近くで、Eは7月1日に初確認した位置とほぼ同じ。12:20、昼はEのみで、位置変わらず。最近、鳴き声がさらに少なくなっている。夕刻、久しぶりにCが現われ(6月18日以来の姿の確認)、なぜかAのすぐそばまで接近している。今年はこれまで何回か彼らが蚊に刺されている姿を目にしているが、払いのけもせずにじっとしていることが多かった。


(6月2日昼、池から上がった直後に頭を蚊に刺されるC)

7月7日(火) 曇り、昼に一時小雨 22.4〜29.6℃ 0.5mm
 7:25、今朝は棕櫚の近くにCだけ確認できたが、Aを定位置から追い払ったのだろうか。その他は変化なし。気温・湿度、ともに高い。12:20、昼も変わらず。

7月8日(水) 雨、時折激しい降り、午後は曇りのち晴れ 22.3〜26.3℃ 24.0mm
 7:40、今朝はAのみ棕櫚の近くで確認した。その他は変化なし。気温がやや高めで湿度はかなり高い。12:25、午後も変わらず。

7月9日(木) 雨のち曇り 21.4〜25.7℃ 9.5mm
 7:40、今朝はAとEを確認した。Eは7月6日と同じ位置、Aは棕櫚のすぐ近くのモミジの枝に。その他は変化なし。気温はやや高め、湿度はかなり高い。12:20、昼も変わらず。彼らは覚醒している最中に、強めの風で自分が乗っている細い枝が大きく揺れてしなると、じっとしていられず動き出す傾向があるらしい。


(強い風に吹かれると彼らはよたよたと歩き出す)

7月10日(金) 終日曇り 21.1〜27.8℃ 0.5mm
 7:20、今朝はCのみ確認、前日のEと同じ位置にいた。その他は変化なし。気温はあまり高く感じないが、湿度はやや高め。やはり今年は池に巣を張るクモが多い。イトトンボの羽化は少なくなってきた。去年と比べてイトトンボが少なく、今年はまだヒメアカネの姿が見られない。12:20、昼も変わらず。ここしばらく、あまり日差しを見ていない。

7月11日(土) 22.3〜28.4℃ 9.0mm
 休日につき観察なし。

7月12日(日) 晴れ、一時小雨 21.0〜31.7℃ 0mm
 休日につき観察なし。気温・湿度が高かった。

7月13日(月) 曇り、夕刻から雨 18.7〜23.3℃ 3.5mm
 休暇につき観察なし。気温・湿度ともに低かった。

7月14日(火) 朝は雨、日中から曇りと雨が交互 19.1〜22.1℃ 6.5mm
 7:40、今朝は2匹(Aともう1匹)確認した。Aは相変わらず棕櫚の付近にいた。その他は変化なし。午後はAのみ。今朝のもう1匹はこれまでの5匹と去年までのすべての個体と斑紋が違うので、新規(F)だ。ヤツデの近くのモミジの枝にいた。

7月15日(水) 小雨、午後はおおむね曇り 16.8〜22.6℃ 9.5mm
 7:45、今朝はFのみ確認。位置も昨日とほぼ同じ。その他は変化なし。気温やや低い。

7月16日(木) 曇り、時々晴れ 16.6〜24.1℃ 2.0mm
 7:40、今朝はAとFを確認した。Fは昨日とほぼ同じ位置、Aは珍しく棕櫚から離れた木の枝にいた。その他は変化なし。わずかに2匹の鳴き声あり。12:20、昼も変わらず。今年はこれまで全体的にトンボの羽化が少なめで、セミの鳴き声もほとんどない。逆にアメンボは多い。トンボはタカネトンボだけがなぜか多めだ。

7月17日(金) 午前中は雨量多し 17.6〜21.3℃ 28.0mm
 7:45、今朝は姿を確認できなかったが、池の淵の地面の近くで1匹の鳴き声あり。昨日までFがいた場所の真下だったので、たぶんFか。その他は変化なし。12:20、昼も変わらず姿なし。

7月18日(土) 曇り、雨 18.9〜22.3℃ 7.0mm
 休日につき観察なし。気温・湿度ともに低い。

7月19日(日) 晴れ 19.2〜30.4℃ 0mm
 休日につき観察なし。気温高め。

7月20日(月) 晴れ、夕方以降は雨 21.2〜32.2℃ 19.0mm
 7:30、今朝はAのみ確認できた。棕櫚から遠く離れ、ヤツデの真上に近いやや北寄りの高所へと伸びる榊の細枝にしがみついている。彼が人の背丈ほどの高い位置まで登っている姿は今年初めて見た。最初にAを確認したのは5月18日だったので、これで滞在は丸2ヶ月を超えた。その他は変化なし。相変わらずセミの声が聞こえないのは、この時期としては異例。気温・湿度ともに高めで、ようやく例年の夏らしくなり始めたか。今日は朝だけの観察だった。

 
(静寂の中で朝日を受けるAの姿。約2ヶ月にわたって池のほとりに)

7月21日(火) 曇り、夜間雨 21.8〜27.7℃ 2.5mm
 7:45、今朝はカエルたちの姿を確認できなかったが、今年初めて、羽化後のヒメアカネの姿をようやく写真に収めた(後掲の「付記」に掲載)。去年と比べるとヒメアカネがかなり少ない。その他は変化なし。

7月22日(水) 曇り、夕刻から雨 21.9〜31.7℃ 32.5mm
 7:45、今朝も姿なく、その他も変化なし。湿度が高い。12:20、午後も変わらず。結局、今年の唯一の卵塊は孵化できずに終わったらしい。オタマジャクシの姿はまったく見ることができず、子ガエルも皆無だった。

7月23日(木) 21.1〜22.5℃ 21.0mm
 休日につき観察なし。

7月24日(金) 20.4〜26.2℃ 2.0mm
 休日につき 察なし。

7月25日(土) 22.3〜24.7℃ 48.5mm
 休日につき観察なし。

7月26日(日) 22.1〜26.2℃ 32.0mm
 休日につき観察なし。日々あまり気温が上がらない。

7月27日(月) 曇り、夜間雨 22.0〜26.6℃ 1.5mm
 7:40、今朝も姿なく、その他も変化なし。湿度が高い。12:20、午後も変わらず。ヒグラシの声がようやく多くなり始めた。おそらく長雨の影響で羽化が遅れたと思われる。鳴き声が盛んになるのが例年より3週間ちかく遅かった。

7月28日(火) 早朝雨、のち曇り 22.8〜26.4℃ 5.0mm
 7:50、今朝も姿なく、その他も変化なし。12:15、昼も変わらず。そして夕刻も同じであったので、本日で観察を終えることとした。7月20日の朝のAが、この池で確認したモリアオガエルたちの今年最後の姿だった。

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 2020年は、確認できた限りで6匹現われた。うち、前年からの引き続きはAのみ、一昨年の2匹は前年も2020年も現われなかった。最も早く現われて最も遅く去ったAは、前年からこの池の周囲に住み着いてそのまま越冬した可能性が考えられる。また、Bは初めて確認できた雌の姿だったと思われる。たったひとつの卵塊は孵化せず、前年とは打って変わってオタマジャクシの姿がゼロという寂しい終わり方であった。前年のような親ガエルの取っ組み合いのバトルも見られなかった。雌はおそらく1匹しか来ず、EとFは池への到来が遅かったようなので、交尾に参加できなかったのではないか。Fに至っては7月14〜16日(あるいは17日も)の3日間しか姿がみられず、早々に諦めて去らなければならなかったのかも知れない。たった3年の観察で個体の増減について言うのは難しく、メダカの水槽付近で鳴いていた個体が池で確認した個体と同一だったのか別個体だったのかも分からないが(雨の夜間なら移動が難しくない距離で、障害物も少ない)、この年初めて青梅の森の入り口近くの民家で複数のモリアオガエルの声が聞こえていたことを考えると、地域での増加がみられると言ってもいいのだろうか。

 最後にモリアオガエルの姿を確認したのは7月20日だった。前年は7月19日、一昨年は7月18日が最後だったので、ほぼ日にちを同じくしている。親ガエルは最長でおよそ2ヶ月あまり、池の淵にとどまるのがパターンとみていいのだろうか。2021年も彼らが現われるとすれば、天候不順がなければ5月18日前後からで、去るのは7月19日前後という予測ができるのかも知れない。市内の周辺地域でも同様の傾向がみられる可能性は考えられよう。







―――付 記(その他の生き物たち)―――


 他の生き物について、2020年の傾向としてはアメンボが多く、アシナガグモなどのクモも多かった。逆にヒメアカネが前年から大幅に減り、ヒメガムシの姿は1匹しか見られなかった。この年は池に沈殿しているモミジの葉が、春になる前に社員によってほとんど取り除かれていたが、そうしたことも影響したのかも知れない。一方、前年まで見られなかったタカネトンボの姿が何回もみられ、羽化の様子も写真に撮ることができた。クロスジギンヤンマの産卵回数がやや多かったようなので、2021年は羽化の数が増える可能性があろうか。2020年に池のほとりとその周辺でみられた生き物たちも、ここにいくつか紹介しておく。

 
(ニホンカナヘビとハラキリカンペイの巣)

 
(ベッコウハゴロモと、なぜか水草に乗るビロウドコガネ)

 
(エサキモンキツノカメムシとカノコガ)

 
(巣に帰りそびれたコウモリと、筧の水鉢で水浴びをするガビチョウ)

 
(雌のカブトムシとキセルガイ)

 
(イトトンボ。羽化直後の朝の姿〔左〕と昼の姿〔右〕)

 
(毎年常連のシオカラトンボたち)

 
(飛来したショウジョウトンボと羽化数時間後のヒメアカネ)

 
(今年はなぜかタカネトンボが続々と羽化)

 すぐに飛び去ってしまい撮影できなかったが、翅が褐色のカワトンボもダンサーのような軽やかな飛翔で池を訪れていた。この小さな人工池にとりわけ多彩な種類のトンボがみられるのは、小川や沼や田んぼが少なくなった今となっては、緑の多い西多摩地域ですら貴重な光景と言えるのではないか。この庭が地域内の数少ない繁殖地になっているのかも知れない。今回とりわけ、胴部のメタリックな光沢が美しいタカネトンボはしばしば目を惹いた。生まれたての完全無垢なその姿は、クロスジギンヤンマの傷ついた産卵姿との落差が印象的だった。

 こうして多くの命を育んでいる池だが、池の底の堆積物が社員によって浚われることがたまにあり、人工飼育したメダカも放たれているので、天然の環境とは多少とも異なっていると言った方がいいだろう。なお、2020年の春もごくわずかだがハルゼミの声を池の近辺で確認できた。奇しくもモリアオガエルとともにこれで3年連続となったので、この周辺地域に約40年ぶりに戻ってきているとみていいのだろうか。

 (2021年4月18日・記)




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