おもな産地の略解説 【2010年9月】



おもな産地の略解説


〈本サイトに掲載しているおもな化石の産地〉



●国  内


岩手県大船渡市〜陸前高田市…シルル紀、デボン紀、石炭紀、二畳紀の地層が分布し、三葉虫・腕足類・サンゴ・コケムシ・ウミユリ・巻貝や二枚貝など多種類の化石が産出する。樋口沢のシルル系の地層は国の天然記念物に指定されて発掘禁止となっている。石炭紀と二畳紀の三葉虫の産地は世界的に少なく、貴重ではある。同地では三葉虫が比較的多産するが、頭部や尾板などの断片的なものがほとんどで、完全体や準完全での産出はまれである。風化が進んで、指先で触れるとボロボロと崩れるほど母岩のもろいものもある。殻が溶け去った印象化石が多く、外国産の化石と較べると保存はおおむね悪い。石炭紀〜二畳紀の三葉虫は国内外とも小型のものがほとんどである。大船渡市立博物館で岩手産の標本が展示されている。

岐阜県大垣市…江戸時代から続く金生山(きんしょうざん)という赤坂石灰岩の採掘場から、二畳紀の巻貝、二枚貝、フズリナ、ウミユリ、サンゴ、ツノガイなどが多産する。貝類は大型のものが採れるのが特徴で、大型化の原因はいまだ不明とされている。まれながら三葉虫やオウムガイなども採れる。同地は19世紀末にドイツの古生物学者によって紹介されてから、世界的に知名度を得るようになっていった。日本の古生物学発祥の地ともいわれている。
 近年は良質の標本が採れる風化面がほぼ発掘しつくされているらしい。かつては許可を得れば一般者でも入山・発掘ができたが、最近では許可されなくなっているという。大垣市の金生山化石館で多くの各種化石を観覧できる。

北海道…白亜紀のアンモナイトの産地として世界的にも知られており、夕張市などをはじめとして道内各地から質の高い標本が採集されている。国内産のアンモナイトは風化したものなどが多いが、その中で北海道産は際立つほど保存の良いものが多く、種類によっては産出量も豊富である。1メートル級の大型標本も見つかる。異常巻きと呼ばれるアンモナイトはとくに有名で、種類も多い。なかでもニッポニテスは、世界でもほぼ北海道のみが主産地となっている化石で、独特の姿と産出量の少なさゆえに人気が高く、日本産のあらゆる化石を象徴する存在のひとつと言ってもいいだろう。最初の発見は今から100年あまりもさかのぼり、当初は奇形だと思われていたらしい。完全体での産出はまれだという。
 イノセラムスなどの貝類も多く採れ、植物、甲殻類、サメの歯、海生爬虫類、ヒトデやウニなども見られる。アンモナイトを含むノジュールは岩質の硬いものが多く、化石のクリーニングはなかなか容易ではない。

栃木県那須塩原市…紅葉の美しさで有名な中塩原の温泉地に分布する第四紀更新世の塩原湖成層から、国内としては指折りの良質な化石が産出する。その保存の良さゆえに、人工的に細工されたものかと思う人もいるらしい。植物化石が大多数を占め、これまでに発見されている百数十種におよぶそのほとんどが、同地域に生息する現生種と一致しているという。少ないが昆虫、魚、カエルなども採れ、肉眼では見られない花粉や植物プランクトンなどの化石も含んでいる。昔からコノハイシという俗称で知られている。中塩原にある木の葉化石園という博物館に美しい標本が豊富に展示されており、とくにネズミとカエルの化石は貴重で目をひく。一般者は発掘できないが、標本や発掘体験用の原石を館内で安く購入できる。
 塩原からは塩原動物群と称される第三紀中新世の貝類の化石が産出する。ドシニア(カネハラカガミ)が代表的でかつては多産したが、現在その露頭は風化などにより消滅の危機に瀕しているという。

東京都日の出町〜五日市…西多摩郡日の出町から隣接のあきる野市五日市にかけて、古生代・中生代・新生代にわたる8つの地質時代の地層が混在しているといわれる。一地域でのそうした混在は全国的にもめずらしい。三畳紀後期の地層からはモノチス、二枚貝、腕足類などが産出。モノチスの露頭は都の天然記念物に指定されてかなり以前から発掘禁止となっており、すでに長年の風雨によって地中に埋没している。かつては小さなアンモナイトが少量採れたが、標本はごくわずかしか現存していないという。
 中新世の小庄泥岩部層などからは貝類、クモヒトデ、植物、甲殻類、魚などが採れるが、風化の進行や護岸による露頭の埋没などのために、質のいい新標本は得にくくなっている。あきる野市の五日市郷土館に化石が展示されているが、化石の専門館ではないので展示数は多くない。フズリナ、ウミユリ、サンゴ、コノドント、キダリス(ウニ類)、ストロマトライト、象、パレオパラドキシア、タカアシガニ、サメの歯なども産出しているが、おおむね産出量は少ない。

千葉県印旛村(現・印西市)…成田層群と呼ばれる第四紀更新世(約10〜15万年前)の古東京湾に堆積した地層が旧印旛村その他の千葉県北部に分布し、多量の貝類をはじめ、ウニ類、サンゴ片などが産出する。種類はおおむね現生種と変わらないようだが、暖流系の貝類が多いことから、当時は比較的温暖な時代だったのではないかと考えられている。多産するため標本の入手は比較的容易で、子供や化石蒐集の初心者向けとしても手頃である。旧印旛村はナウマン象の産地としても知られている。2010年に印西市に編入合併した。



●海  外


アメリカ・ユタ州…ユタ州のフィーラー頁岩層は、とりわけ三葉虫のエルラシアが採れることで知られる。エルラシアはきわめて多産で品質も良く、価格もほとんどのものが安価なため、昔から子供や化石蒐集の初心者の入り口的な存在となっている。アノマロカリスにかじられたらしき痕跡を残す化石も見られる。ペロノプシスやアサフィスカスも同地の代表的な化石である。そのほか、ユタスピス、ノルウディア、ケダリア、モドキアなど、ユタ産の三葉虫は枚挙にいとまがない。

ドイツ・ブンデンバッハ…下部デボン系の海生生物の化石を産出し、フンスリュックスレート化石群と称される。三葉虫などの節足動物の脚や触角、魚やクラゲ、ヒトデなどの軟組織が緻密に残る品質の高い化石が採れることで知られる。X線撮影が可能な黄鉄鉱化の石質であるため、きわめて微細にわたる観察ができる。軟組織の黄鉄鉱化は世界的にまれな現象で、他にはアメリカ・ニューヨーク(Beecher's Trilobites Bed)のオルドビス紀層とフランス(La Voulte-sur-Rhone)のジュラ紀層が知られているくらいである。化石の産出量があまり豊富ではないため、軟組織を残している化石はより稀少なものとなる。節足動物はカナダのバージェス頁岩産の化石(カンブリア紀)との類似が見られ、バージェスの生物たちの一部がデボン紀まで生きのびていた証跡だとされている。同地の石はもともと建材として採掘されていたため、採掘職人の手によって多くの化石が発掘された。

アメリカ・イリノイ州…メゾンクリークと称される地域の石炭の露天掘り鉱山から、石炭紀後期のシダ植物、貝類、サソリ、カブトガニ、ぜん虫、エビ類、クラゲ、昆虫、魚などの良質な化石が産出する。水生生物は淡水から海水性の種類にわたっており、メゾンクリークが陸地・淡水・汽水・海域と多彩な生息域にあったことを示している。爬虫類と両生類の産出はごくまれだという。ほとんどの化石はノジュール化している。腐敗の様子があまり見られず、「死の行進」の痕跡を残す二枚貝の化石なども複数発見されていることなどから、生物の死からノジュール化が始まるまでに長時間を経ていなかったことが読み取られる。

ドイツ・ゾルンホーフェン…アイヒシュタットと並び、トカゲ、魚竜、翼竜、魚、昆虫、甲殻類、棘皮動物、アンモナイトなど、いずれも品質の高い化石を産出し、中には体毛や皮膜、色素の痕跡まで残すほどの化石も見つかっている。アイヒシュタットはブルーメンベルクなどと共にジュラ紀のアーケオプテリクス(始祖鳥)の産地としてあまりに有名である。カブトガニやエビ類などの「死の行進」の跡(足跡化石)がしばしば見つかることでも知られている。中国遼寧省の熱河生物群の生成過程との類似が見られ、昆虫類などの生物相も近似しているが、熱河に産する被子植物はゾルンホーフェンとその周辺からは産出していない。ゾルンホーフェンのマクスベルク博物館には珠玉の標本が保存・展示されている。昔から化石ファンにとってはあこがれの産地である。ゾルンホーフェンの石灰岩はかつて石版印刷や建材に用いられていた。現在でもほとんど手掘りで切り出されているという。

ブラジル・セアラー州…サンタナ層とクラト層から非常に保存状態のいい白亜紀前期の化石を産出する。クラト層からは昆虫、植物、トカゲ、カメ、カエル、翼竜、魚、甲殻類、サソリなど、豊富な種類が採集され、とりわけ昆虫は顕微鏡レベルまで微細な組織が保存されていて、種類も姿も現生のものとあまり変わらない。サンタナ層はクラト層とは異質の化石を産出し、とりわけ立体的な魚の化石を含むノジュールはよく知られている。翼竜類は奇妙なとさかを持つタペヤラ類が際立つ。また巨大な種類も多く見つかっており、中には翼長が15メートルに達したセスナ機なみのものもある。ブラジル国内では化石の売買は非合法だという。クラト層のNova Olinda層の石は、もともと装飾用の敷石に使うため労働者や子供たちの手掘りによって採掘されていた。化石の採集と研究のはじまりはポルトガルによる統治時代までさかのぼるが、クラト層の昆虫や植物の化石が注目されるようになったのは1980年代からだという。

オーストラリア・クーバーペディ…オパールの産地として有名だが、同地やホワイトクリフ、ライトニングリッジなどからはオパールに置換 された白亜紀の生物の化石も産出する。砂岩の中に閉じ込められた貝、サンゴ、ベレムナイト(イカ類)、樹木片、爬虫類や哺乳類の骨などの化石が地下水の浸食によって溶け去り、その跡に二酸化ケイ素を含む地下水が浸みこんで数百万年かけて濃縮され、水分が蒸発してオパール化し鋳型のように化石の姿をかたどる。そしてそれには地上の乾燥状態の継続と地下水の安定した供給、地震による地殻変動がないことなどの条件が複合した特殊な環境が必要となる。一説には10ミリのオパールが形成されるのに500万年かかるという。化石オパールの産出量は多くなく、同品質のノーマルなオパールよりも高額で売買されるが、とくに巻貝は稀少性が高く、高品質のものには小品でも破格の値がつく。

中国・遼寧省…ジュラ紀後期から白亜紀前期にかけての湖成層が分布している。恐竜、トカゲ、カメ、鳥、翼竜、魚、昆虫、植物など多彩で高品質な化石を産出する。熱河生物群と呼ばれるこの産地の化石は、とくに1990年代に孔子鳥の発見とそれにつづく羽毛恐竜のミクロラプトルが世界で初めて見つかったことで知名度が一気に高まった。孔子鳥をはじめとする鳥類はドイツの始祖鳥につぐ古さで、始祖鳥よりも骨格等の進化が見られる。鳥や翼竜の体毛・皮膜などの軟体部、昆虫の触角や色素の痕跡、花など、化石として残りにくい部分が鮮明に残っていて、破損を受けた形跡の少ない化石が多いことから、急激な火山灰の降下によって死肉を食べる生物たちもろとも死滅し、形成された地層だと考えられている。
 蒐集家に人気が高いため偽造品も少なくない。中国では地元民の盗掘による産地の破壊や、博物館の所蔵品が市場に横流しされる事件などが起こったことから、近年は輸出規制が強化され、海外市場ではとりわけ脊椎動物の化石の入手機会が減っているという。

モロッコ各地…モロッコ産の化石は時代・種類ともに多岐にわたっており、世界有数の化石の宝庫と言っていい。とりわけ三葉虫ならオルドビス紀のカリメネ類の多産、デボン紀の細かく長いトゲをともなう多種類の三葉虫の産出、頭足類ならゴニアタイト型アンモナイトや直角石(オウムガイ)を多産し、そして恐竜、ワニ、海生爬虫類、翼竜などの歯の豊富な産出が見られ、多くの良質な標本が比較的安価で入手できる点が魅力になっている。一方、同地では巧みな偽造品の生産・販売が産業化しており、三葉虫などは標本の入手のさいに、自身の鑑識眼や信頼できる業者の選別など慎重さを要する。
 また世界各地で見られる傾向と同様、産出量が目立って減少している化石もあり、発掘禁止になった場所も少なくないようで、国外への持ち出し禁止などがより強化されるかも知れない。すでに在庫の確保に苦慮しているディーラーもいると聞く。
 そのほか古生代の板皮類(甲冑魚)やウミサソリ、新生代の象や肉食獣などの哺乳類と鳥類やヘビ・ワニなど、種類は多彩である。近年はカナダのバージェス頁岩に類似した生物相の化石もオルドビス紀の地層から見つかっている。



〈地質年代表〉 (年数は『広辞苑』第6版〈2008年1月刊〉による)
 
先カンブリア時代 冥王代〜始生代〜原生代(46億年前〜5億4000万年前まで)
     藍藻類が発生(光合成の開始による大量の酸素の供給)
     末期にエディアカラ動物群が繁栄
     最末期に大量絶滅が起こり、エディアカラ動物のほとんどが姿を消す
古生代 カンブリア紀(5億4000万年〜4億9000万年前まで)
     三葉虫・オウム貝・腕足類・筆石・バージェス動物群などが出現(カンブリア爆発)
オルドビス紀(4億9000万年〜4億4000万年前まで)
     四放サンゴ・床板サンゴ・魚類などが出現。オウムガイの全盛期となる
     末期に大量絶滅が起こり、全生物の約85が死滅、三葉虫が半減
シルル紀(4億4000万年〜4億1000万年前まで)
     陸上に植物が出現、ウミサソリの繁栄、無脊椎動物の上陸
デボン紀(4億1000万年〜3億6000万年前まで)
     両生類・板皮類・アンモナイト・昆虫などが出現
     シーラカンスやサメなども出現し、魚の時代とも言われる
     陸上では森林が形成され、両生類や昆虫の進化を促進
     末期に全生物の約82%におよぶ大量絶滅が起こり、三葉虫の大半が死滅
石炭紀(3億6000万年〜2億9000万年前まで)
     爬虫類・フズリナの出現、シダ植物の巨大化と大繁殖、昆虫の大繁殖
二畳紀(ペルム紀とも。2億9000万年〜2億5000万年前まで)
     陸上では両生類・爬虫類が大型化、裸子植物が繁栄
     海中では軟体動物・棘皮動物・腕足類などが繁栄
     末期に大量絶滅(地球史上最大)が起こり、全生物の90〜95%が死滅
     三葉虫・ウミサソリ・フズリナ・四放サンゴ・床板サンゴなどが絶滅
中生代 三畳紀(2億5000万年〜2億年前まで)
     恐竜・ワニ・哺乳類・翼竜が出現
     魚竜が出現、アンモナイトが栄える
     末期に小規模な大量絶滅が起こり、大型両生類などが死滅
     多くの爬虫類やアンモナイトが死滅
ジュラ紀(2億年〜1億4000万年前まで)
     恐竜の繁栄、始祖鳥の出現
     裸子植物が大繁殖、後期に入ると被子植物が出現
     アンモナイトやプランクトン、魚類・魚竜・首長竜が繁栄
白亜紀(1億4000万年〜6500万年前まで)
     被子植物が主流となる。恐竜やワニなどの全盛期。鳥類の台頭と小型翼竜の消滅
     中期ごろに魚竜が絶滅
     末期に大量絶滅が起こる(二畳紀末に次ぐ規模で全生物の約70%が死滅)
     恐竜・アンモナイト・首長竜・大型翼竜などが絶滅
新生代 第三紀
  暁新世(6500万年〜5500万年前まで)
     哺乳類・鳥類・被子植物・魚類などが放散進化を開始
  始新世(5500万年〜3400万年前まで)
     現生哺乳類と鳥類のほとんどの目(もく)が現れる
     ウマ、クジラなどの先祖が発展し始める
  漸新世(3400万年〜2300万年前まで)
     哺乳類の進化と大型化が進んでサイ・ゾウの先祖が発展
     トラ・ライオン・オオカミなどの先祖と類人猿が発展を開始
  中新世(2300万年〜530万年前まで)
     陸海で多くの生物相が現生のものに接近
     類人猿ピエロラピテクス・猿人サヘラントロプスなどが出現
  鮮新世(530万年〜180万年前まで)
     現代の生物相がほぼ出そろう
     アウストラロピテクスの明確な二足歩行の痕跡
第四紀
  更新世(180万年〜1万年前まで)
     多くの大型哺乳類が絶滅へと向かう
     ジャワ原人・北京原人・ネアンデルタール人・クロマニヨン人が出現
     旧石器時代(前期・中期・後期)となる
  完新世(1万年〜現代まで)
     新石器時代に入り、人類文明が急速な発展を開始して現代へ
     生物の大量絶滅が進行中、100年後までに地球上の半数の種が死滅するとの推測も



※おもな参考文献

  『世界の化石遺産 化石生態系の進化』 鎮西清高著 朝倉書店
  『ゾルンホーフェン化石図譜』T・U 小畠郁生監訳 朝倉書店
  『熱河生物群化石図譜』 小畠郁生監訳 朝倉書店
  『翼竜 動物大百科・別巻2』 P. ヴェルンホファー著 平凡社
  『植物化石 5億年の記憶』 塚腰実監修 INAX出版
  『化石は語る 五日市むかしむかし』 あきる野市教育委員会
  『しおばらの化石』 木の葉化石園
  『秋吉台3億年』 秋吉台科学博物館

 ほか書籍・ネット情報など多数。



             
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