1 正岡子規(1867〜1902年)
語釈
●いちはつの花咲きいでて我目には今年ばかりの春行かんとす 明治34年作『竹の里』所収
1 いちはつの花ーいつごろ咲くか、それはどの句から分かるか。
2 我目には今年ばかりの春ー何を予想しているか。
3 行かんとすー品詞分解せよ。
口語訳 いちはつの花が咲き出したが(病中の)私の目には(再び見ることも出来ず)今年だけの 春も行こうとしている。
構成 いちはつの花―命
主題・死の予感
我 ―病
解答 1 晩春 五句 2 死(明治35年死去)
3 行か動カ四未 ん助動む止意志 と格助引用 す動サ変す止
語釈
● くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる 明治34年作『竹の里』所収
1 薔薇 春雨 ー読み
2 くれなゐのーどこにかかるか。
3 やはらかにー二つの物の状態を同時に表している。それは何か。
4 繰り返し使われ、柔らかいリズム感を出している音は何か。
口語訳 紅く二尺ほど伸びている薔薇の芽のとげは柔らかそうで(その芽に)やわらかに春雨が降 っている。
構成 薔薇の芽
主題・やわらかさ
春雨
解答 1 ばら はるさめ 2 薔薇の芽のとげ 春雨の降っている状態 4 の
語釈
●冬ごもる病の床のガラス戸の曇りぬぐへば足袋干せる見ゆ 明治33年 『竹の里歌』
1 足袋 読みを記せ。
2 冬ごもる 意味を記せ。
3 ガラス戸 どういう意味があるか。
4 曇りぬぐへば足袋干せる見ゆ どのような情景を表しているか。
5 見ゆ 「見ゆ」と「見る」とはどう違うか。
6 作者はどういう状態にあるか。
口語訳 冬の間家から出られないで、病床に籠もっているが、障子の硝子窓
の曇りをぬぐうと庭先に干してある足袋が見える。
構成 ガラス戸 内
主題・外の世界の新鮮さ
足袋 外
解答 1 たび 2 冬の間家から出ない 3 当時は珍しい
4 ガラス戸を拭いたら足袋が見えた喜び
5 見ゆ 意識しないで景物が見える 見る 意識的に景物を見る
6 病に臥せっている
2 島木赤彦(1876〜1926年)
語釈
●ひたぶるに我を見たまふみ顔より涎を垂らし給ふ尊さ
1 ひたぶるに 意味を記せ。
2 我 誰がか。
3 たまふ 敬語の種類、誰を敬うか。
4 給ふ 敬語の種類、誰を敬うか。
5 尊さ 何が尊いのか。
6 尊さ 修辞法
口語訳 ひたすらに私をご覧になるお顔からよだれをおたらしになりながら懸命に死と戦っていらっしゃる尊さよ。
構成 涎を垂らす父=ひたすら我を見る
↓ 主題・父の愛
我
解答 1 ひたすらに 2 父 3 尊敬 父 4 尊敬 父 5 懸命に死と戦っている父の姿
語釈
●みづうみの氷は解けてなほ寒し三日月の影波にうつろふ
1 湖の名は
2 なほ 辞書で意味を調べよ。
3 影 辞書で意味を調べよ。
4 うつろふ 辞書で意味を調べよ。
5 この歌の雰囲気を選べ。
ア 妖艶 イ 華麗 ウ 憂愁 エ 幽寂
6 修辞法 何句切れか。
口語訳 湖の氷はようやく解けたが、まだ寒い。三日月姿を波に映している。
構成 諏訪湖 波 月 主題・北国の春の厳しさ
解答 1 諏訪湖 2 やはり まだ 3 姿 4 咲いている 5 エ 6 三句切れ
語釈
●信濃路はいつ春にならん夕づく日入りてしまらく黄なる空のいろ
1 信濃路 読みを記せ。
2 信濃路はいつ春にならん 意味を記せ。
3 夕づく日 意味を記せ。
4 何句切れか。
5 いろ 修辞法は何か。
口語訳 信濃地方はいつになったら春になるのだろう。夕日が沈んでもしばらく
の間は黄色く染まった空が続いていることよ。
構成 信濃路 春?
主題・遅い春を待つ
日没後も黄色
解答
1 しなのじ 2 信濃地方はいつになったら春になるのだろう。 3 夕日。
4 二句切れ。 5 体言止め。
3 与謝野晶子{1878〜1942年}
語釈
●その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな 明治43年『みだれ髪』所収
1 櫛ー読み。
2 その子二十ー修辞法。 何句切れか。
3 おごりの春 何におごっているか。
4 繰り返し使われ、柔らかいリズム感を出している音は何か。
口語訳 その子は二十歳。櫛ですくと流れるような黒髪、この誇りに満ちた青春の何と美しいこと か。
構成 自己の美=自我意識
主題・青春の誇らしさ
当時 =慎ましさが美徳=旧道徳
解答 1 くし 2 字余り 初句切れ
3 自分の才能、家柄、地位、財産等に得意になりそれを頼みとして勝手な振る舞いをする。
4 の
語釈
●ほととぎす嵯峨へは一里京へ三里水の清瀧夜の明けやすき 明治43年『みだれ髪』所収
1 嵯峨ー読み。
2 この歌の季節はいつか。
口語訳 清滝からの道のりは嵯峨へ一里、京(の中心)まで三里で、(川の水音と)ほととぎすの 鳴く声に(初夏の)夜が更に早く明けるように感じられる。
構成 初夏 清楚
・弾む心
ほととぎす
解答 1 さが 2 初夏
語釈
● やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君
1 血汐 読み
2 あつき血汐 比喩するものを選べ。
ア しなやかな感受性 イ 豊かな妄執 ウ 強靭な精神 エ 燃えるような情熱
3 ふれも見で 意味を記せ。
4 さびしからずや 誰に呼び掛けているか。
5 道 何か。漢字二字で記せ。
6 君 誰か。
7 修辞法 君
口語訳 若い女性の柔らかい肌の下に流れている血汐に触れもしないで寂しくはないのですか、古い道徳にとらわれている君よ。
構成 君=道を説く 触れない
主題・夫への妻の情熱
我=さびしくないのか?
解答 1 ちしお 2 エ 3 触れてもみないで 4 道を説く君 5 道徳
6 宗教・道徳を守る男達 7 体言止め
語釈
●清水へA祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき 「明星」21歳のとき
(注)@清水 清水寺。京都市東山区にある法相宗の寺。A祇園 京都市東山区の八坂神社付近一帯。
1 祇園をよぎる 誰か。
1 桜月夜 意味。
2 みなうつくしき 修辞法。 何句切れか。
口語訳 清水寺のほうへ行こうとして、祇園の街を通って行く桜月夜の夜、会う人々が皆美しく感じられる。
構成 清水 桜月夜 人 主題・心はずむ思い
解答 1 私 2 桜が咲いて月の明るい夜 3 連体止め 三句切れ
4 長塚 節(1879〜1915年)
語釈
●馬追虫の髭のそよろに来る秋はまなこを閉ぢて想ひ見るべし 明治41年 『馬酔木』
1 馬追虫の髭 読みを記せ。
2 馬追虫の髭のそよろに来る秋 どのような情景を表しているか。
3 そよろに (1)修辞法は何か。
(2)何を表現しているか
4 まなこ 意味を記せ。
口語訳 馬追虫が長い触覚をそろりと動かすように、そろりそろりと来る秋は
目を閉じて感じ取るべきだろう。
構成 馬追虫の髭
主題・秋の気配
秋
解答
1 うまおいのひげ 2 馬追いの触覚のようにそろりとくる秋。
3 (1)擬態語。(2)触覚がそろりと動くようにそろりとくる秋。 4 目。
5 会津八一(1881〜1956年)
語釈
唐招提寺にて
●おほてら の まろき はしら の つきかげ を つち に ふみ つつ もの を こそ おもへ
1 唐招提寺 読みを記せ。
2 まろき 意味を記せ。
3 もの を こそ おもへ 修辞法は何か。
4 平仮名書きの特徴を記せ。
口語訳 月の光によってできた、大きな寺の円い柱の影を、土に踏みながら物
思いにふけったことだ。
構成 寺 柱の影
主題・閑寂
土に踏む
解答 1 とうしょうだいじ 2 丸い 3 字余り 4 なめらかな感じ
語釈
●@おほてら の まろき はしら の つきかげ を つち に ふみ つつ
もの を こそ おもへ
(注)@おほてら 大寺。ここでは唐招提寺のこと。
1 まろき 意味。
2 つち に ふみ 何を踏んでいるのか。
3 もの を こそ おもへ 修辞法
4 もの を こそ おもへ どのようなことを思っているか。
口語訳 月の光によってできた、大きな寺の丸い柱の影を、土にふみながら物思いにふけったことだ。
構成 唐招提寺 丸い柱 月 主題・ 唐招提寺での物思い
解答 1 丸い 2 柱の影 3 字余り 4 なめらかな感じ
語釈
●ならさか の いし の ほとけ の おとがひ に こさめ ながるる
はる は き に けり
@ ならさか 鳴らし東北部にある坂。
1 単語ごとにあけられている一字あけの表記は、どのような表現効果を持っているか。
2 ひらがな書きの特徴を記せ。
3 ならさか の いし の ほとけ の おとがひ に どこにかかるか。
4 おとがひ 意味
5 き に けり 品詞分解 口語訳
口語訳 奈良坂の途中にある石仏の下顎に雨が伝い流れている。春がやってきたのだなあ。
構成 奈良坂 石仏 春雨 主題・ 石仏への感動
解答
1 意味より先に音を味わう。 2 なだらかな調べ。 3 「ながるる」
4 下あご 5 き動カ変来用 に助動完ぬ用 けり助動過けり止 来たのだなあ
6 斎藤茂吉(1882〜1953年)
語釈
●みちのくの母のいのちを一目見ん一目みんとぞいそぐなりけれ 『赤光』(大正二年)
1 作者はどこにいてどうしようとしているか。
2 いそぐなりけれ 破格であるが正しくはどうか。
口語訳 陸奥にいる母が生きているうちに一目でも会いたい、と道を急ぐ。
構成 陸奥にいる母臨終
主題・母の死
汽車で急ぐ
解答 1 汽車の中 故郷に帰る 2 いそぐなりけり
語釈
●桑の香の青くただよふ朝明に堪へがたければ母呼びにけり 『赤光』(大正二年)
1 読み 桑 堪へがたければ
2 朝明
3 桑の葉は何に使うか。
4 青く どういうことか説明せよ。どういう状態をいっているか。
5 堪へがたければ 何にか。
口語訳 桑の葉の香りが青臭く漂う夜明けごろに、悲しさに耐えられない気がして、思わす母を呼んだことだ。
構成 明け方 桑の香 母を呼ぶ
主題・母への思い
少年時代を思い出す
解答 1 くわ た 2 明け方 3 養蚕
4 説明 青臭い匂い(臭気を色で表す) 状態 桑の葉のみずみずしさ
語釈
●あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり 大正10年『あらたま』所収
1 たりー文法的に説明せよ。
2 たまきはるー修辞法。
3 命なりけりー品詞分解せよ。
4 何句切れか。
口語訳 あかあかと(日に照らされて)一本の道が(はるかかなたまで)続いている。(これこそ) 私の(生きていく道で、その道を歩むことが私の)宿命だ。
構成 一歩の道=人生 主題・宿命
解答 1 助動たり止存続 2 枕詞 命にかかる 3 命名 なり助動ない用断定 けり助動けり止過去 4 三句切れ
語釈
●この心葬り果てんと秀の光る錐を畳に刺しにけるかも
1 葬り 秀、 錐 読みを記せ。
2 この心 どんな心か。
3葬り果てん 意味を記せ。
4 秀 意味を記せ。
5 ん 基本形 活用形 文法的意味
口語訳 (恋に苦しんで耐え難くなっている)この心を葬り去ってしまおうと、穂先の鋭く光る錐を畳に突き刺したことだ。
構成 恋を葬ろうと錐を畳に刺す 主題・恋に苦しむ心
解答 1 はふ 2 ほ 3 きり 4
語釈
●のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり 大正2年『赤光』
1 玄鳥 屋梁 足乳根 読みを記せ。
2 「のど」の「赤」は何を表わしているか。
3 ふたつ 二羽でなく「ふたつ」というのはなぜか。
4 たまふ 敬語の種類、誰を敬うか。
5 悲哀の極にある作者の沈痛な心が込められた一句を抜き出せ。
6 足乳根の 修辞法
口語訳 ふと見上げると、のどの赤い燕が二羽梁に止まっているのが見えて、その下で母が死んでゆかれるのだ。
構成 玄鳥=生命力
主題・死に行く母への悲しみ
母=死
解答
1 つばくらめ はり たらちね 2 燕のせいめいりょく
3 突き放した表現をすることで、切迫感を感じさせる。 4 尊敬 母
5 「死にたまふなり」 6 枕詞
7 前田夕暮(1883〜1951年)
語釈
●向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ 大正3年『生くる日に』所収
1 向日葵ー読み。
2 ゆらりとーこういう語を何というか。また、この語はどのような効果をあげているか。
3 日のちひささよーどのような働きをしているか。
4 何句切れか。
口語訳 向日葵は金色の油を(その)身に浴びたように(真夏の日射しに輝き)ゆらりと高く(咲 き誇っている)。そのために太陽が小さく(感じられる)。
構成 向日葵=大 近
・向日葵の生命観
日 =小 遠
解答 1 ひまわり 2 擬態語 3 花の大きさを強調し、情景に変化をつける。 4 四句切れ
語釈
●木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな 明治43年『収穫』所収
1 木に花咲き 修辞法。
2 なかなか 意味。
3 遠くもあるかなー修辞法。
4 詠まれている季節はいつか。
口語訳 木々に花が咲き、あなたが私の妻となるだろう四月、(それは待ち遠しくて)かえって遠 く感じられるなあ。
構成 冬 =遠い
主題・結婚を待つ心
四月=花 婚姻
解答 1 字余り 2 かえって 3 字余り 4 冬
8 若山牧水(1885〜1928年)
語釈
●白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ 明治40年 『海の声』
1 白鳥 心情を記せ。
2青 、3あを 使い分けの理由を記せ。
4 挿入句の役割をしている語句を抜き出せ。
5 この歌は誰が誰に共感を求めたものか。
ア 作者が白鳥に イ 作者が読者に ウ 白鳥が作者に エ 白鳥が読者に
6 何句切れか。
口語訳 白鳥は悲しくないのだろうか。空の青さ、海の青さの染まることもなく漂っている。
構成 空・海=青 大 周りの人
主題・潔癖
白鳥 =白 小 自分
解答 1 孤独 2 空と海の青色の違い 4 かなしからずや 5 イ 6 三句切れ
語釈
●幾山河越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく 明治40年 『海の声』
1 幾山河越 意味を記せ。
2 はてなむ国ぞ 下にどの語を補うか。
ア あらむ イ あらぬ ウありき エ ありけむ
3 も どういうことがわかるか。
4 追い求めているものは何か。
5 幾山河 修辞法
口語訳 いくつもの山や河を越えていったならば、寂しさの果てる国があるのだろうか。そう思いながら今日も旅を続けていく。
構成 中国地方の旅
主題・寂寥
寂しさのない国
解答 1 いくつもの山や川 2 ア 3 昨日も今日も明日も 4 寂しさのはてなむ国 5 字余り
語釈
●白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり 明治44年『路上』所収
1 白玉ー意味。
2 飲むべかりけりー品詞分解せよ。
3 何人で飲んでいるか。
4 繰り返し使われ、全体に清らかで引き締まった雰囲気を表している音は何か。
口語訳 真珠のような歯にしみとおる、秋の夜の酒は(やはり一人)静かに飲むのがよいのだなあ。
構成 秋の夜の酒 主題・孤独感
解答 1 真珠 2 飲む動マ四飲む止 べかり助動べし用 けり助動けり止詠嘆 3 一人 4 し
9 北原白秋(1885〜1942年)
語釈
●春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕 大正2年『桐の花』所収
1 な鳴きそー品詞分解、口語訳せよ。
2 あかあかとーどういう効果をあげているか。
3 夕ー修辞法。
4 何句切れか。
口語訳 春の鳥よ、鳴くな鳴くな。(家の外の)草原にあかあかと日が沈んでいく(悲哀を帯びた) 夕方に。
構成 春の鳥=聴覚的
主題・春の悲哀
夕
解答 1 な副 鳴き動カ四鳴く用 そ終助詞禁止 鳴くな 2 哀調を感覚的に表している 3 体言止め
4 三句切れ
語釈
●昼ながら幽かに光る蛍一つ孟宗の藪を出でて消えたり 大正10年『雀の卵』所収
1 幽かに、藪ー読み。
2 昼ながらーどこにかかるか。
3 ながら、たりーそれぞれ文法的に説明せよ。
4 蛍一つ、ー修辞法。
5 孟宗の藪をー修辞法
口語訳 昼だけれどかすかに光る蛍が一匹、(薄暗い)孟宗の藪から出た(と思うと明るい陽光の 中にふと)消えてしまった。
構成 藪 =闇 大
・はかない命
蛍一つ=光 小
解答 1 かす やぶ 2 光る 3 ながら 接助逆接ケレドモ たり 助動たり止完了
4 字余り 5 字余り
語釈
●君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ
1 読みを記せ。 舗石 林檎 読みを記せ。
2 君 どういう人か。
3 さくさくと この音を二つ記せ。
4 ごとく 基本形 活用形 文法的意味
口語訳 君を帰すこの朝は雪となり、舗石に降り君がさくさくと踏んで帰る雪よ、せめてあの林檎の香りのように降ってくれ。
構成 朝 雪
主題・やるせない恋の喜びと悲しみ
林檎のように降れ
解答 1 しきいし りんご 2 一夜を共にした女性 3 雪を踏む音 林檎を噛む音
4 助動ごとし用比況
語釈
●春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕 『桐の花』(大正2年)
1 な鳴きそ 品詞分解 口語訳
2 あかあかと どういう効果を上げているか。
3 夕 修辞法。
4 何句切れか。
口語訳 春の鳥よ、鳴くな鳴くな。(家の外の)草原にあかあかと月が沈んでいく(悲哀を帯びた)夕がたに。
構成 春の鳥―聴覚的
・主題春の悲哀
夕 ―視覚的
解答 1 な副 鳴き動鳴く用カ四 そ終助詞禁止 鳴くな な+そ=禁止
2 哀調を感覚的に表している 3 体言止め 4 二句切れ
語釈
●しみじみと物のあはれを知るほどの少女となりし君とわかれぬ
1 君に対して私はどんな思いを抱いているか。
口語訳 しんみりと物のあわれがわかる年頃にまで乙女らしく成長してきた君と別れたことだ。
構成 少女→成長し男女の機微がわかるようになる
主題・成人した少女との別れ
私 このまま続けて会えない
解答 1 ほのかな親しみと慕情
10 石川啄木(1886〜1912年)
語釈
●不来方のお城の草に寝ころびて 明治43年『一握の砂』
空に吸はれし
十五の心
1 不来方ー読み。
2 不来方ー城の名前以外にどのような意味で使われているか。
3 草に寝ころびてーどんな感じを受けるか。
4 空に吸われしーどんな感じを受けるか。
5 心ー修辞法。
口語訳 盛岡城の草原に寝ころんで、(あれこれ空想しその思いが)空に吸い込まれるように感じ た十五の心よ。
構成 15才 城 空=無限の夢
主題・痛恨
今 =苦しい生活
解答 1 こずかた 2 来ないのは過ぎた過去 3 柔らかくゆったりした感じ
語釈
● たはむれに母を背負ひて
そのあまり軽きに泣きて
三歩あゆまず
1 たはむれに 意味を記せ。
2 母を背負ひて 誰がか。
3 「そ」誰をさすか。何を表わしているか。
口語訳 ふざけて母を背負ってみると、そのあまりの軽さに驚き泣けてきて三歩とは歩くことができない。
構成 母を背負う
・母の苦労への思い
三歩歩けない
解答 1 ふざけて 2 作者 3 母 母の苦労
語釈
● 友がみなわれよりえらく見ゆる日よー寂しさの原因
花を買ひ来て ー行動
妻としたしむ ー解消
1 友 どういう友が考えられるか。
2 えらく 具体的内容を記せ。
3 したしむ 具体的内容を記せ
4 三行書きの効果。
5 何句切れか。
口語訳 友がみんな自分よりも偉く見える日、そんな寂しい日よ。花を買ってきて妻と眺めて親しみ合う。
構成 友=活躍 成功
≦ 主題・慰謝
我 花を買って来て妻とめでる
解答 1 中学時代の友。同僚。文学上の仲間。 2 輝かしいコースを歩み、活躍している
3 妻と睦まじく語らい、寂しさを慰める 4 内容に変化をつける。 5 三句切れ
語釈
●東海の小島の磯の白砂に
『一握の砂』(明治43年)
われ泣きぬれて
蟹とたはむる
1 蟹 読み。
2 東海という大きなものと対比されているものは何か。
3 我はどうして泣きぬれているのか。
口語訳 東海の小島の磯の白砂の上で、私は泣きながらかにとたわむれている。
構成 海辺 かにと戯れる 主題・傷心
解答 1 かに 2 われ 3 生活苦
語釈
●何がなしに
頭のなかに崖ありて
日毎に土のくづるるごとし
1 頭の中の崖崩れという比喩はどんな心の状態を表現したものか。
口語訳 はっきりした理由はないのだが、頭の中に崖があって毎日その土砂が崩れているような、そんな気がする状態だ。
構成 頭の中 崖崩れ 主題・不安
解答 1 危機的な状況
11 木下利玄(1886〜1925年)
語釈
●牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ 大正13年 『一路』
1 牡丹 読みを記せ。
2 咲き定まりて 意味を記せ。
3 花の占めたる位置のたしかさ どのような情景を表しているか。
4 何句切れか。
5 たしかさ 修辞法は何か。
口語訳 牡丹の花は満開に咲いて静かである。その大輪の花が空間に占めている
位置の確かさはゆるぎない。
構成 牡丹満開
主題・花の存在感
位置の確かさ
解答 1 ぼたん 2 満開に咲いて 3 牡丹が存在感を確かなものにしている
4 三句切れ 5 体言止め
12 釈 迢空(1887〜1953年)
語釈
●邑山の松の木むらに、日はあたり ひそけきかもよ。旅びとの墓 昭和14年 『海やまのあひだ』
1 邑山 読みを記せ。
2 木むら 意味を記せ。
3 何句切れか。
4 墓 修辞法は何か。
口語訳 村里に近い山の松の木の茂っているところに日が差し込みひっそり
していることよ。名もない旅人の墓は。
構成 村里 松 旅人の墓
主題・行き倒れの悲しさ
日
解答 1 むらやま 2 木の群がり茂ったところ 3 四句切れ 4 体言止め
語釈
●葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり
『海やまのあひだ』(大正14年)
(注)@葛 マメ科の大形蔓性の多年草。山野に多く生え秋に紫紅色じょ花を咲かせる。
1 読み 葛の花
2 踏みしだかれて 意味。
3 この山道を行きし人あり 私とこの人との共通点を記せ。
4 何句切れか。
口語訳 葛の花が踏みにじられて、鮮やかな色をしている。この山道を通って行った人がいる。
構成 山道 葛の花 今通って行った人
主題・同じ道を行く人への共感
私も通る
解答 1 くずのはな 2 踏み散らされて 3 孤独感 4 三句切れ
語釈
●A邑山の松の木むらに、日はあたり ひそけきかもよ。旅びとの墓 『海やまのあひだ』(大正14年)
@ 邑山 村に近い山。
1 読み 邑山
2 松の木むら 意味。
3 ひそけきかもよ どういう様子か。
4 旅びと 旅人にどういう思いを抱いているか。
5 修辞法 墓 何句切れか。
口語訳 村の近くにある松の木立に日の光が差し込んでひっそりと照らしている。旅人の墓よ。
構成 松の木立 日 旅人の墓 主題・旅の途中で倒れた人の墓への思い
解答 1 むらやま 2 密集する松の木立 3 ひっそりと静まりかえっている
4 旅人の死への同情 5 体言止め 四句切れ
13 斎藤 史(1909年〜
)
語釈
●岡に来て両腕に白い帆を張れば風はさかんな海賊のうた 『魚歌』(唱和15年)
1 読み 帆 海賊
2 両腕に白い帆を張れば どういう様子か。
3 どういう風か。
4 修辞法 両腕に白い帆 うた
口語訳 岡の上に来て両腕を広げると、着衣は風にはためき白い帆をはったようで、風は盛んな海賊の歌のようだ。
構成 岡 かぜ 着衣=白い帆 主題・みずみずしい青春
解答 1 ほ かいぞく 2 船のマストになって手を広げ、袖を風になびかせている様子
3 強風 4 見立て 体言止め
14 宮柊二(1912〜1986年)
語釈
●いくばくかわれの心の傾斜して日当る坂を登りつつあり 『小紺珠』(昭和23年)
1 いくばくか 意味。
2 われの心の傾斜して どのような心の状態か。
口語訳 少しばかりの私の心は傾いている、そういう自分が日のあたる坂をのぼっていく。
構成 日 坂
主題・日のあたる坂を登る屈折した心情
上る私
解答
1 すこしばかり。 2 衰え疲れた心。
語釈
●あたらしく冬きたりけり鞭のごと幹ひびき合ひ竹群はあり 『日本挽歌』(昭和28年)
1 読み 鞭 幹 竹群
2 鞭のごと 修辞法 口語訳せよ。
3 あたらしく冬きたりけり どのような心情が表れているか。
4 竹群はあり どういう感じがするか。
5 何句切れか。
口語訳 新しく冬がやってきた。鞭のように幹をうちあい音を響かせている竹群がある。
構成 冬 竹群
主題・竹の響き
幹をうちあう音
解答 1 むち みき たけむら 2 比喩 鞭のように 3 新鮮さ 4 語気の強さ 5 二句切れ
15 塚本邦男(1922年)
語釈
●ずぶ濡れのラガー奔るを見おろせり未来にむけるものみな走る 『日本人霊歌』
1 濡れ 奔る 読みを記せ。
2 ラガー 意味を記せ。
3 ずぶ濡れのラガー奔る どのような情景を表しているか。
4 何句切れか。
口語訳 ずぶぬれのラグビー選手達が勢いよく走っていくのを見下ろして
いる。未来に向かっていく者はみなこのようにひたすら前を向い
走っていくのだ。
構成 ずぶ濡れのラグビー選手
主題・日本人の姿
戦争に向かった日本人 戦後復興に励んだ日本人
解答 1 ぬ はし 2 ラグビー選手 3 がむしゃらに前だけ見て走っている
4 三句切れ
16 前登志夫(1926年)
語釈
●かなしみは明るさゆゑにきたりけり一本の樹の翳らひにけり『子午線の繭』(昭和39年)
1 読み 翳らひ
2 一本の樹 何の比喩か。
3 何句切れか。
口語訳 かなしみは明るさゆえにやってきた。一本の木が目に翳って暗がりに没してしまったことだ。
構成 かなしみ
主題・明るさ
一本の木の影
解答 1 かげ 2 人生 3 三句切れ
●谷くらく@蜩蝉さやぐ、少年の掌にあやめたる黄金のかなかな 『霊異記』(昭和47年)
語釈
@ 蜩蝉 ヒグラシの別称。夏の夜明けや夕方に高い声で「カナカナ」と鳴く。
1 読み 蜩蝉 掌 黄金
2 蜩蝉 意味。
3 少年 誰のことか。
4 あやめたる 口語訳せよ。
5 何句切れか。上と下はどういう関係にあるか。
6 かなかな どういう存在か。
口語訳 谷は薄暗くひぐらしがざわめくように泣いている。少年のころひぐらしを殺し、握るように持っていたことがあった。
構成 今 谷 ひぐさし
主題・少年期の残酷さへの郷愁
少年時代 ひぐらしを殺した
解答 1 かなかな て きん 2 ひぐらし 3 作者 4 殺す
5 三句切れ 上 現在 下 過去 6 神聖な存在
17 馬場あき子(1928年)
語釈
●言い負けてうたた夕暮れ深むとき冬の底より上る星あり 昭和51年 『桜花伝承』
1 うたた 意味を記せ。
2 うたた夕暮れ深むとき どのような情景を表しているか。
口語訳 言い争いに負けて、ますます夕暮れが深まっていくとき、冬の地平
線から上ってくる星が輝いて見えた。
構成 口論に負ける
主題・冷静さを取り戻す
夕暮れ
解答 1 ますます 2 冬の夕暮れの光景と気持がしずまっていく
18 岡井 隆(1928年)
語釈
●@肺尖のくもれる写真届きつつ少年工は幾日来ぬまま 『斉唱』(昭和31年)
@ 肺尖 肺の上端でやや細くなっている部分。
1 読み 肺尖
口語訳 肺尖の部分が白く曇っているレントゲン写真が届いていて、少年工は幾日も来ない。
構成 レントゲン写真=影
主題・肺結核の少年工の命を思う
少年工 =幾日も来ない
解答 1 はいせん
語釈
●Aホメロスを読まばや春の潮騒のとどろく窓ゆ光あつめて 『鵞卵亭』(昭和50年)
A ホメロス 生没年未詳。古代ギリシャの詩人。叙事詩『イリアス』『オデッセイア』の作者とされる。
1 読み 潮騒
2 ばや 働きを説明せよ。
3 読まばや春の 修辞法
4 春の潮騒の 修辞法
口語訳 ホメロスを読んでみたいと思った。春の潮騒がとどろく窓辺で光を集めながら。
構成 ホメロスを読みたい
主題・ホメロスを読む願望
春 潮騒 光
解答 1 しおさい 2 終助自己の願望 3 句割れ 4 句またがり
19 寺山修司(1936〜1983年)
語釈
●海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり
1 麦藁帽ー読み。
2 ぬー文法的に説明せよ。
3 われは両手をひろげーどういう気持ちでなされたか。
口語訳 海を知らない少女の前で麦藁帽子を(かぶった)私は(海の広さを教えてやろうと)両手 をいぱいに広げていた。
構成 少女=海を知らない
主題・生年の意気込み
我 =広さを教える
解答 1 麦わら帽 2 助動ず体打消 3 海の広さを教えてやる=彼女の海になってやる
語釈
●マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや 『空には本』(昭和33年)
1 マッチ擦る 身捨つる どういう点で対になっているか。
2 つかの間 意味。
3 霧が象徴しているものは何か。
4 祖国 どのようなものととらえられているか。
5 下の句には作者のどんな願いが込められているか。
6 何句切れか。
口語訳 マッチをするとわずかの時間(あかるくなり)海に霧が深い(のが見える)。(戦時中の若者は祖国のために死んだというが)身を捨てると思う程の祖国はあるのか(いやない)。
構成 マッチ(小)
主題・ 祖国への喪失感
海 霧=祖国
解答 1 音が似ている。マッチの火も戦争の犠牲となる命もはかない 2 僅かな時間
3 未来の暗さ 4 得体のしれないふたしかなもの
5 自分存在を掛けることが出来るようなものを激しく求める気持ち 6 三句切れ
語釈
●売りにゆく柱時計がふいに鳴る横抱きにして枯野ゆくとき 『山国に死す』(昭和40年)
1 時計を売りに行くのはなぜか。
2 柱時計が不意に鳴ったらどんな気がするか。
3 何句切れか。 とき 修辞法。
口語訳 売りに行く柱時計が不意に鳴った。横抱きにして枯野を行く時。
構成 枯野 売られる柱時計が鳴る=時計の最後のあがき 主題・沈痛
解答 1 ほのかな親しみと慕情
解答 1 かに 2 われ 3 生活苦
解答 1 1 孤独 2 空と海の青色の違い 3 哀しからずや 4 作者が読者に 5 二句切れ
短歌 解答
20 佐々木幸綱(1938年)
語釈
●川が流れて俺が流れて流されて今日を区切りの花束浮かす 昭和51年 『夏の鐘』
1 花束 読みを記せ。
2 「流れて」、「流れて」、「流されて」繰り返しの効果を記せ。
3 今日を区切りの花束浮かす どのような情景を表しているか。
4 川が流れて 修辞法は何か。
口語訳 川が流れて、その川で泳ごうとした俺がいつの間にか流れて流されていく日常の中、今日を一つの
区切りとするための花束を川に浮かせるのだ。
構成 川に流される
主題・自分に対するけじめ
日常に流される
解答 1 はなたば 2 流麗なリズム 3 日常に流されている自分にけじめをつけようとしている
4 字余り
語釈
●遠い春湖に沈みしみづからに祭りの笛を吹いて逢ひにゆく 『魚歌』(唱和15年)
1 湖に沈みし どういうことか。
2 みづから 誰のことか。
3 逢ひにゆく 誰に。
4 修辞法 吹いて逢ひにゆく
口語訳 ずっと昔の春、湖の底に沈んだ自分に祭りの笛を吹きながら会いに行く。
構成 昔 湖の底
主題・少女時の入水願望
今 祭りの笛を吹きながらそこへ行く
解答 1 湖に入水した 2 自分自身 3 湖に沈んだ自分自身 4 字余り