乳母車 三好達治
語釈
1母よー
2淡くかなしきもののふるなり
紫陽花いろのもののふるなり
3はてしなき並樹のかげを
@ そうそうと風のふくなり
時はたそがれ
母よ 4私の5乳母車を押せ
6泣きぬれる夕陽に向かって
A 轔々と私の乳母車を押せ
7赤い総ある天鵞絨の帽子を
つめたき額にかむらせよ
8旅いそぐ鳥の列にも
季節は空を渡るなり
淡くかなしきもののふる
紫陽花いろのもののふる道
母よ 私はしってゐる
9このは道は遠く遠く果てしない道
(注)@そうそうと 吹く風の音の形容。A轔々 車のきしる音の形容。B天鵞絨 綿、絹、毛などで織り、細かい毛を立ててなめらかでつやのある織物。
一 次の語の読みを記せ。
1 乳母車 2 紫陽花 3 轔々 4 天鵞絨 5 額
二 傍線部1〜9とA、Bの問に答えよ。
1 他の「母」とはどう違うか。
2 どういうイメージが浮かんでくるか。
3 おなじことを言っている部分を浮き出せ。
4 この詩では「私」はどのようなものとして登場しているか。
5 どういうことを意味するか。
6 どういうことを言っているか。修辞法は何か。
7 何を象徴しているか。
8 どういうことを言っているか、簡単に言い換えよ。
9 この道は、どのような道だと考えられるか。
A この詩に使われている修辞法を記せ。
B この詩の形式を記せ。
構成
一 二 三 四 |
連 |
もののふる 風が吹く 夕陽 鳥 並樹道 |
並樹道 |
母への呼びかけ 乳母車の中 天鵞絨の帽子をかぶる 果てしない道 |
私 |
並樹道 =人生 生の不安
母の押す乳母車=安全 やさしさ・・・乳母車に乗らない不安
主題 母への慕情に託されたもの悲しい生への不安
*幼児期の母の優しさへのあこがれを歌うマザーコンプレックスの詩。
乳母車 解答
一 1 うばぐるま 2 あじさい 3 りんりん 4 びろうど 5 ひたい
二 1 追憶おなかに思いやる母への呼びかけ。
2 果てしない並樹道に漂う秋の夕暮れの情感。 3 このは道は遠く遠く果てしない道
4 天鵞絨の帽子をかぶった赤ん坊。5 幼児の頃の作者。
6 落日のはかない赤色を主観的に形容した。擬人法。
7 幼年時。
8 季節の流れ、時の流れが、空を行く渡り鳥の列を眺めていても感じられる。
9 母から子へと永遠に続いている人生の道。
A リフレイン 擬人法
B 文語詩 自由詩