小諸なる古城のほとり(1900年) 島崎藤村
語釈
小諸なる@古城のほとり
雲白く1遊子悲しむ
緑なすAはこべは1萌えず
若草も籍くに2よしなし
2しろがねの衾の岡辺
日に溶けて淡雪流る
あたたかき光はあれど
野に満つる薫りも3知らず
3浅くのみ春は霞みて
麦の色Bはつかに青し
4旅人の群れはいくつか
畠中の道を急ぎ4ぬ
暮れゆけばC浅間も5見えず
歌哀しD佐久の草笛
E千曲川5いざよふ波の
岸近き宿に6のぼり6つ
濁り酒濁れる飲みて
7草枕しばし慰む
(注)@古城 長野県小諸市に牧野氏一万五千石の城があった。現在その城跡は公園(懐古園)になっている。Aはこべ ナデシコ科の二年草。春白色の小形の花を開く。春の七草の一つ。Bはつかに わずかに。C浅間
長野・群馬の県境いある浅間山。海抜2560メートル。活火山。D佐久 長野県北佐久郡一帯の高原を佐久平という。E千曲川 長野県佐久平・上田盆地を流れ、新潟県に入り、信濃川となって日本海に注ぐ川。
一 次の語の読みを記せ。
1 小諸 2 萌えず 3 衾 4 浅間 5 濁り酒 6 草枕
二 傍線部1〜7の問に答えよ。
1 (1)辞書で意味を調べよ。 (2)誰をさすか。
2 (1)しろがね 衾 辞書で意味を調べよ。(2)何をたとえているか。
(3)岡辺はどのようであるか。
3 掛詞的表現について説明せよ。
4 (1)たとえばどんな人々であると考えられるか。
(2)これと対照的なものを記せ。
5 いざよふ 辞書で意味を調べよ。 (2)「波」以外に何を暗示しているか。
6 主語を記せ。
7 辞書で意味を調べよ。
三 二重線部1〜6の文法問題とA・Bに答えよ。
1、2、3、5の否定表現の効果を記せ。
4,6 文法的に説明せよ。
A 詩の形式を記せ。
B 最初の二行の韻を説明せよ。
小諸なる古城のほとり
雲白く遊子悲しむ
情 心 |
一 二 三 |
連 |
|
午前 古城跡 私 午後 畠 旅人 夜 宿 私 |
時 場所 人 |
旅情 |
白い雲 岡辺 溶ける淡雪 あたたかい光 浅い春 旅人の群れ 草笛 波 濁り酒 |
眼前の景 |
否定されかえって強く意識される
憂愁と孤独 |
緑なすはこべ 香 浅間山 |
否定されるもの |
構成
主題 若い孤独な旅人の旅愁
小諸なる古城のほとり 解答
一 1 こもろ 2 も 3 ふすま 4 あさま 5 にご 6 くさまくら
二 1 (1)旅人。 (2)作者。2 (1)銀。 (2)夜具。寝るときい体をおおうもの。
(3)雪のため、ふとんかけたような曲線を描いている岡のあたり。
3 「浅く」が、「春」と「霞みて」の療法にかかっている。
4 (1)行商人の一行。(2)作者。5 (1)ためらう。(2)作者の漂白の思いに沈む心。
6 作者。 7 旅情。旅愁。旅の枕詞。
三 1、2、3、5 旅人の心にやどる憂愁と孤独。 4 助動 ぬ 完了 止 6 助動 つ 完了 止
A 文語詩 定型詩(五七調)
B
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小諸なる 古城のほとり
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雲白く 遊子悲しむ