I was1 born 吉野 弘志
語釈
1 動詞の変化を記せ。
第一連
確か 英語を習い始めて間もない頃だ。
第二連
或る2夏の宵。父と一緒に3寺の境内を歩いてゆくと 青い夕靄の奥から浮き出るように 4白い女がこちらへやってくる。5物憂げに ゆっくりと。
1 意味を調べよ。
2、3、4 は女にどういうイメージを与えているか。
3 境内 意味を調べよ。
5 意味を調べよ。
第三連
女は6身重らしかった。7父に気兼ねをしながらも8僕は女の腹から眼を離さなかった。頭を下にした胎児の 9柔軟なうごめきを 腹のあたりに連想し 10それがやがて 世に生まれ出ることの不思議に打たれていた。
6 意味を調べよ。
7 (1)気兼ね 意味を調べよ。
(2)どういう気持ちからか。
8 何に感動していたか。
9 この部分と対応する箇所を抜き出せ。
10 指示内容を記せ。
第四連
女はゆき過ぎた。
第五連
11少年の思いは飛躍しやすい。その時 僕は〈生まれる〉ということが まさしく〈受身〉である訳を ふと12諒解した。僕は興奮して父に話しかけた。
――やっぱり I was bornなんだね――
13父は怪訝そうに僕の顔をのぞきこんだ。僕は繰り返した。
――14I was
bornさ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね――
その時 どんな驚きで 父は息子の言葉を聞いたか。僕の表情が単に無邪気として父の眼にうつり得たか。それを察するには 僕はまだ余りに幼なかった。僕にとってこの事は文法上の単純な発見に過ぎなかったのだから。
11 どういうことか。
12 意味を調べよ。
13 (1)怪訝 意味を調べよ。
(2)なぜか。
14 (1)「僕」は「父」に何を伝えたかったのか、抜き出せ。
(2)この言葉を「父」はどう受け止めたと思われるか。
第六連
父は無言で暫く歩いた後 思いがけない話をした。
――15蜉蝣という虫はね。生まれてから二、三日で死ぬんだそうだが 16それなら一体 何の為に世の中へ出てくるのかと そんな事がひどく気になった頃があってね――
僕は父を見た。父は続けた。
――友人にその話をしたら 或日 これが蜉蝣の雌だといって拡大鏡で見せてくれた。説明によると 17口は全く退化して食物を摂るに適しない。18胃の腑を開いても 入っているのは空気ばかり。見ると その通りなんだ。ところが 卵だけは腹の中にぎっしり充満していて 19ほっそりした胸の方にまで及んでいる。20それはまるで 目まぐるしく繰り返される21生き死にの悲しみが 咽喉もとまで こみあげているように見えるのだ。淋しい 光りの粒々だったね。私が友人の方を振り向いて22〈卵〉というと 彼も肯いて答えた。23〈せつなげだね〉。そんなことがあってから間もなくのことだったんだよ、お母さんがお前を生み落としてすぐに死なれたのは――。
15 (1)「蜉蝣」のどういう点について話したかったと思われるか。
(2)この話で息子に何を伝えたかったと思われるか。
16 「父」の疑問は蜉蝣の実物を見てどう解き明かされたか。
17 (1)退化 意味を調べよ。
(2)どういうことか。
18 意味を調べよ。
19 何のイメージに発展するか。
20 指示内容を記せ。
21 なぜ「生き死に」ともに悲しいのか。
22 誰の言葉か。また、どういうおもいが込められているか。
23 誰の言葉か。また、どういうおもいが込められているか。
第七連
父の話の24それからあとは もう覚えていない。ただひとつ痛みのように切なく 僕の25脳裡に26灼きついたものがあった。
――ほっそりした母の 胸の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体――。
24 なぜか。
25 何か、抜き出せ。
A 詩の形式を記せ。
一 次の語の読みを記せ。
1 宵 2 境内 3 夕靄 4 物憂げに
5 胎児 6 諒解 7 怪訝 8 無邪気
9 暫く 10 胃の腑 11 摂る 12 咽喉
13 肯いて 14 脳裡 15 灼きついた 16 蜉蝣
構成
一 二 三 四 五 六 七 |
連 |
夏の宵 寺 白い女 女 女は去る 暫く |
時・場所 |
中学一年 歩く ←身重らしい 父に気兼ねしながら見る。 胎児を連想する。 生まれる不思議。 「生まれることは受身形だ。」 → =文法上の発見 見た → 母の胸までふさぐ白い僕の肉体 |
僕 |
歩く =生の意義 「蜉蝣は卵を産んで死ぬ。お母さんはお前を産んで死んだ。」 |
父 |
主題 生への能動的志向
I was born 解答
一 1 よい 2 けいだい 3 ゆうもや 4 ものう 5 たいじ 6 りょうかい
7 けげん 8 むじゃき 9しばら 10 いのふ 11 と 12 のど 13 うなず
14 のうり 15 や 16かげろう
二 1 bear bore born 2、3、4 幽霊。 3 寺や神社の敷地の中。
5 なんとなくだるいさま。 6 妊娠していること。
8 胎児が生まれる事の不思議。 9第六連「卵だけ・・・及んでいる
10 「頭を下にした胎児」 11 胎児という物を見て生まれると言うことを考えた。
12 よく理解して納得すること。
13(1)理由事情が分からず納得がいかないこと。
(2)息子の発言の意味を考えたから。
14(1)「文法上の単純な発見」
(2)母が居ないことを、自分の誕生と結びつけて考え始めたのではないかと思って居る。
15 (1)前の世代の死の上に生を得、自分もまたそうるること。
(2)少年の生は父と母との生に支えられていること。
16 次の生命を生み出すため。
17「生物」体の器官・組織が進化の過程で小さくなったり、働きが衰えたりすること。
18 胃袋。 19 母。
20 卵だけは腹の中にぎっしり充満していて ほっそりした胸の方にまで及んでいる。
21 生きることは子孫を増やすためだけであり子孫を残せば死しか残されていないから。
22(父)蜻蛉が卵だけで成立していることに感きわまった。
23(友人)生きることの寂しさ科シサを言っている。
24 自分の誕生が母を死においやったことを知ったから。25 頭の中。
26 ――ほっそりした母の 胸の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体――。
A 口語詩 自由詩