一つのメルヘン                       中原中也

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第一連

秋の夜は、1はるかの彼方に、

小石ばかりの、河原があつて、

それに陽は、2さらさらと

さらさらと射してゐる3のでありました

 

第二連

陽といつても、まるで硅石か何かのやうで、

非常な個体の粉末のやうで、

さればこそ、5さらさらと

かすかな音を立ててもゐる3のでした

 

第三連

さて小石の上に、今しも6一つの蝶がとまり、

淡い、それでゐてくつきりとした

影を落としてゐる3のでした

 

第四連

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、

「今迄流れてもゐなかつた川床に、水は

さらさらと、8さらさらと流れてゐるのでありました……」

 

一 次の語の読みを記せ。

 

1 彼方 2 珪石 3 淡い 4今迄

 

二 辞書で意味を調べよ。

1 メルヘン

2 珪石  

 

三 傍線部1〜8と「 」の問に答えよ。

 

1 どんな感じがするか。

 

2 何を形容しているか。

3 これらの表現は、この詩の持つどういう面を表しているか。

 

4 どこにかかるか。

 

5 内を形容しているか。

 

6 「一つの」というところからどんな感じが表現されているか。また、

この蝶はこの詩の中でどのような働きをしているか。

 

7 「  」の部分からどのようなことが考えられるか。

 

8 内を形容しているか。

 

9 この詩の形式を記せ。

 

四 構成

 

第一連  秋の夜 陽がさす   矛盾=非現実     起

 

第二連  陽=個体の粉末    乾いた無生物の世界  承

 

段三連  小石の上に蝶                転

      影 淡い くっきり 矛盾

 

第四連  蝶=去る                  結

     川底 水が流れる=うるおい

 

主題 幻想的な心象風景(賽の河原?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つのメルヘン  解答

一 1かなた 2 けいせき 3 あわ 4 いままで

二 1 空想的・神秘的な内容の、短い説話。童話。 2 主に過酸化珪素

からなる好物。例、石英水晶。

三 1 幻想的な風景。 2 陽のさす形容。3 メルヘンという面。

  4 個体。 5 個体の粉末。 

6 一つ=物体。 一匹=生物。働き=小石ばかりの無生物の世界が、

生命的なものに変化するきっかけになっている。

  7 水が流れることによって生命の世界を感じる。

  8水の音。

  9 口語詩 自由詩

 

 

*死の前年の詩である。疲れ切った安堵感が感じられる。賽の河原を夢想していたのかもしれない。