山月記

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現代文へもどる                              中島 敦 

語釈

隴西の李徴は博学A才穎、B天宝の末年、若くして1名をC虎榜に連ね、ついでD江南尉に2補せられたが、性、E狷介、3自ら恃むところすこぶる厚く、4賤吏に甘んずるを5潔しとしなかった。いくばくもなく官を退いた後は、故山、F虢略に6帰臥し、人と交わりを絶って、ひたすら詩作にふけった。7下吏となって長く膝を俗悪な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺そうとしたのである。しかし、文名は容易に揚がらず、生活は日を追うて苦しくなる。李徴はようやく8焦燥に駆られてきた。このころからその容貌もG峭刻となり、9肉落ち骨秀で、眼光のみいたずらにH炯々として、かつて進士にI登第したころの豊頬の美少年のおもかげは、どこに求めようもない。数年の後、貧窮に堪えず、妻子の衣食のためについに10節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになった。11一方、これは、己の詩業に半ば絶望したためでもある。かつての同輩はすでにはるか高位に進み、彼が昔、12鈍物として13歯牙にもかけなかったその連中の14下命を拝さねばならぬことが、往年のJ儁才李徴の自尊心をいかに傷つけたかは、想像に難くない。15彼は怏々として楽しまず、L狂悖の性はいよいよ抑え難くなった。一年の後、公用で旅に出、M汝水のほとりに宿った時、ついに発狂した。ある夜半、急に顔色を変えて寝床から起き上がると、何か訳の分からぬことを叫びつつそのまま下にとび降りて、闇の中へ駆け出した。彼は二度と戻ってこなかった。付近の山野を捜索しても、なんの手がかりもない。その後李徴がどうなったかを知る者は、だれもなかった。

 

(注)@隴西 中国の地名。現在の甘粛省の東南部。A才穎 才知が優れてぬきんでていること。B天宝 唐代の年号。742〜56年 。C虎榜 進士(官吏登用試験)及第者の姓名を掲示する木札。俊才を虎にたとえた。D江南尉 江南の軍事や警察などをつかさどる官。E狷介 片意地で他人とあいいれない。F虢略  中国の地名。現在の河南省にある。G峭刻 険しくむごいさま。H炯々 鋭く光るさま。I登第 試験に合格すること。Jしゅんさい 才知に優れた人。K不平があり心が満ちたりないさま。L狂悖 常軌を逸している。

 

一 漢字の読みを記せ。

 

1 隴西    2 李徴    3博学    4 才穎    5 虎榜

 

6 狷介    7 賤吏    8 退いた  9 帰臥    10 揚がらず

 

11 焦燥   12 峭刻   13 炯々  14 豊頬   15 貧窮

 

16 赴き   17 鈍物   18 狂悖  

 

二 傍線部1〜15の問いに答えよ。

 

1 同じ意味の表現を抜き出せ。

 

2 辞書で意味を調べよ。

 

3 辞書で意味を調べよ。

 

4 (1)辞書で意味を調べよ。(2)同じ意味の語を抜き出せ。

 

5 辞書で意味を調べよ。

 

6 辞書で意味を調べよ。

 

7 李徴のどのような思いや志を読み取ることが出来るか。

 

8 辞書で意味を調べよ。

 

9 反対の意味の語を抜き出せ。

 

10 辞書で意味を調べよ。

 

11 何に対してか。

 

12 辞書で意味を調べよ。

 

13 辞書で意味を調べよ。

 

14 辞書で意味を調べよ。

 

15 理由を説明せよ。

 

 

1  解答

一 1 ろうせい 2 りちょう 3 はくがく 4 さいえい 5 こぼう 6 けんかい

  7 せんり 8 しりぞ 9 きが 10 あ 11 しょうそう 12 しょこく 

  13 けいけい 14 ほうきょう 15 ひんきゅう 16 おもむ

 17 どんぶつ  18きょうはい

二 1 「進士に登第した」(1)「進士の第に登り」(2) 2 職務の担当を命ぜられる。

  3 自分の才能を自分で期待すること。 4 (1)身分の低い役人。(2)「下吏」

  5 それでよいとは自分で認めない。 6 官職をやめて故郷に帰り、心身を養うこと。

  7 思い=立身出世などに関わり合っているよりは詩人として有名になりたい。志=自分なら出来るとい

う自信。  8 あせっていらだった気持ちが強くなる。9 「豊頬」

10 自分の意志や信念をまげる。11 「貧窮に絶えず、妻子の衣食のため」

12 愚かでのろまな人。 13 全く問題にも相手にもしない。

14 命令を下すこと。 15 自尊心を傷つけられたこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌年、@監察御史、A陳郡の袁傪という者、1勅命を奉じてB嶺南に使いし、道にC商於の地に宿った。次の朝いまだ暗いうちに出発しようとしたところ、D駅吏が言うことに、これから先の道に人食い虎が出るゆえ、旅人は白昼でなければ、通れない。今はまだ朝が早いから、いま少し待たれたがよろしいでしょうと。袁は、しかし、供回りの多勢なのを恃み、駅吏の言葉を退けて、出発した。2残月の光をたよりに林中の草地を通っていった時、3はたして一匹の猛虎が叢の中から躍り出た。虎は、4あわや袁傪に躍りかかるかと見えたが、たちまち身を翻して、元の叢に隠れた。叢の中から人間の声で「あぶないところだった。」と繰り返しつぶやくのが聞こえた。その声に袁は聞き覚えがあった。5驚懼のうちにも、彼はとっさに思い当たって、叫んだ。「その声は、我が友、李徴子ではないか?」袁傪は李徴と同年に進士の第に登り、友人の少なかった李徴にとっては、最も親しい友であった。温和な袁の性格が、E峻峭な李徴の性情と衝突しなかったためであろう。

 叢の中からは、しばらく返事がなかった。しのび泣きかと思われるかすかな声が時々漏れるばかりである。ややあって、低い声が答えた。「いかにも自分は隴西の李徴である。」と。

 袁傪は恐怖を忘れ、馬から下りて叢に近づき、懐かしげにF久闊を叙した。そして、なぜ叢から出てこないのかと問うた。6李徴の声が答えて言う。自分は今や7異類の身となっている。どうして、おめおめと8故人の前にあさましい姿をさらせようか。かつまた、自分が姿を現せば、必ず君にG畏怖嫌厭の情を起こさせるに決まっているからだ。しかし、今、図らずも故人に会うことを得て、H愧赧の念をも忘れるほどに懐かしい。どうか、ほんのしばらくでいいから、我が醜悪な今の外形をいとわず、かつて君の友李徴であったこの自分と話を交わしてくれないだろうか。

 9後で考えれば不思議だったが、その時、袁は、10この超自然の怪異を、実に素直に受け入れて、少しも怪しもうとしなかった。彼は部下に命じて行列の進行をとどめ、自分は叢の傍らに立って、見えざる声と対談した。都のうわさ、旧友の消息、袁が現在の地位、それに対する李徴の祝辞。青年時代に親しかった者どうしの、あの隔てのない語調で、それらが語られた後、袁傪は、李徴がどうして今の身となるに至ったかを尋ねた。叢中の声は次のように語った。

 

(注)@監察御史 官吏を取り締まり、地方を巡行して行政を監視した官。A陳郡 河南省の地名。B嶺南現在の広東省、広西壮族自治区およびべトナムの一部を含む地域。C商於 河南省の地名。D駅吏 宿駅の役人。E峻峭 厳しく険しいこと。F久闊 長くあっていないこと。G畏怖嫌厭 恐れ、いとうこと。H愧赧 恥じて赤面すること。

 

一 漢字の読みを記せ。

 

1 勅命   2 駅吏 3  叢    4 峻峭    5 久闊   6 畏怖   7 嫌厭

 

二 傍線部1〜10の問いに答えよ。

1 辞書で意味を調べよ。

 

2 辞書で意味を調べよ。

 

3 (1)意味を正確に説明せよ。(2)前のどの部分を受けるか。

 

4 辞書で意味を調べよ。

 

5 辞書で意味を調べよ。

 

6 李徴の答えに「  」を付けよ。また、以下の部分における会話に「 」を付けよ。

  また、作者は「  」をつけないことによってどういう効果を狙ったか。

 

7 何をさすか。

 

8 辞書で意味を調べよ。

 

9 この分のもつ効果を記せ。

 

10(1)意味を記せ。(2)ここでは具体的にどういうことか。

 

 

2 解答 

一 1 ちょくめい 2 えきり 3 くさむら 4 しゅんしょう 5 きゅうかつ 6 いふ

7 けんえん 

二 1 天皇の命令。2 明け方まで残っている月。3 (1)思って居たように。

  (2)「これから先の道に人食い虎が出るゆえ、旅人は白昼でなければ、通れない。」

 

  4 すんでんところ。 5 驚き恐れる。 

6 会話文を地の文に流し込むことにより、重厚な簡潔な表現として迫力を持たせる。

7虎。 8 古くからの友人。(国)死んだ人。 9 袁慘と読者とを聞き手として一体化させる。

10 (1)怪しいこと。

   (2) 人間が虎になったり、虎が人語を話すこと。 

 

 

今から一年ほど前、自分が旅に出て汝水のほとりに泊まった夜のこと、一睡してから、ふと目を覚ますと、1戸外でだれかが我が名を呼んでいる。声に応じて外へ出てみると、声は闇の中からしきりに自分を招く。覚えず、自分は声を追うて走り出した。無我夢中で駆けていくうちに、いつしか道は山林に入り、しかも、知らぬ間に自分は左右の手で地をつかんで走っていた。何か体じゅうに力が満ち満ちたような感じで、軽々と岩石を跳び越えていった。気がつくと、手先やひじのあたりに毛を生じているらしい。少し明るくなってから、谷川に2臨んで姿を映してみると、すでに虎となっていた。3自分は初め目を信じなかった。次に、これは夢にちがいないと考えた。夢の中で、これは夢だぞと知っているような夢を、自分はそれまでに見たことがあったから。どうしても夢でないと悟らねばならなかった時、自分は茫然とした。そうして4懼れた。5まったく、どんなことでも起こり得るのだと思うて、深く懼れた。しかし、なぜこんなことになったのだろう。6分からぬ。まったく何事も我々には分からぬ。理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生きていくのが、我々生きもののさだめだ。自分はすぐに死を思うた。しかし、その時、目の前を一匹のうさぎが駆け過ぎるのを見たとたんに、自分の中の7人間はたちまち姿を消した。再び自分の中の人間が目を覚ました時、自分の口はうさぎの血にまみれ、あたりにはうさぎの毛が散らばっていた。これが虎としての最初の経験であった。それ以来今までにどんな8所行をし続けてきたか、それはとうてい語るに忍びない。ただ、一日のうちに必ず数時間は、人間の心が還ってくる。そういう時には、かつての日と同じく、人語も操れれば、複雑な思考にも堪え得るし、@経書の章句をそらんずることもできる。その人間の心で、虎としての己の残虐な行いのあとを見、己の運命を振り返る時が、9最も情けなく、恐ろしく、憤ろしい。しかし、その、人間に還る数時間も、日を経るに従ってしだいに短くなっていく。今までは、どうして虎などになったかと怪しんでいたのに、この間ひょいと気がついてみたら、10おれはどうして以前、人間だったのかと考えていた。11これは恐ろしいことだ。いま少したてば、おれの中の人間の心は、獣としての習慣の中にすっかり埋もれて消えてしまうだろう。ちょうど、古い宮殿の礎がしだいに12土砂に13埋没するように。そうすれば、しまいにおれは自分の過去を忘れ果て、一匹の虎として狂い回り、今日のように道で君と出会っても故人と認めることなく、君を裂き食ろうてなんの悔いも感じないだろう。14いったい、獣でも人間でも、もとは何かほかのものだったんだろう。初めはそれを覚えているが、しだいに忘れてしまい、初めから今の形のものだったと思い込んでいるのではないか? いや、そんなことはどうでもいい。おれの中の人間の心がすっかり消えてしまえば、恐らく、そのほうが、15おれはしあわせになれるだろう。だのに、おれの中の人間は、そのことを、この上なく恐ろしく感じているのだ。ああ、まったく、どんなに、16恐ろしく、哀しく、切なく思っているだろう! おれが人間だった記憶のなくなることを。この気持ちはだれにも分からない。だれにも分からない。おれと同じ身の上になった者でなければ。ところで、そうだ。おれがすっかり人間でなくなってしまう前に、一つ頼んでおきたいことがある。

 

(注)@経書 古代の聖人や賢人の教えを記した儒教の経典。

 

 

一 漢字の読みを記せ。

 

1 汝水   2一睡   3 駆けて 4 懼れた 5 憧れ

 

6 覚ました 7 残虐   8 埋没  9 故人  

 

二 傍線部1〜16の問いに答えよ。

 

1 何が呼んでいるのか。

 

2 辞書で意味を調べよ。

 

3 この部分から李徴のどん名気持ちが読み取れるか。

 

4 内容を記せ。 

 

5 李徴のどういう心境を表しているか。

 

6 

(1)   李徴が考えたことはどんなことか。

(2)   またそのあとすぐ「死を思うた」のはなぜか。

(3)   なぜ「我々」と表現しているか。

 

7 何を意味しているか。

 

8 辞書で意味を調べよ。

 

9、16の表現との違いを説明せよ。 

 

10 「自分」と「おれ」はどのように使い分けられているか。

 

11  何に対する恐怖か、漢字五字で記せ。

 

12 「古い宮殿の礎」と「土砂」はそれぞれ何をたとえているか。

 

13 辞書で意味を調べよ。

 

14 ここに見られる運命観はどういう思想に基づいているか。

 

15 

 (1)「そのこと」 指示内容。

 (2)「しあわせ」となぜ点が打ってあるのか。

 (3)なぜ「おそろしく感じている」のか。  

3 解答

一 1 じょすい 2 いっすい 3 か 4 おそ 5 あこが 6 さ

  7 ざんぎゃく 8 まいぼつ 9 こじん

二 1 運命(天運)。 2 目の前にする。 3 何が何でもこの事実を認めたくないという気持ち。

  4 人間の意思を超越した不可知な運命に対するおそれ。 5 予知不可能な運命に対する恐れ。

  6(1)運命から生きものは逃れられないという考え。 (2)それを受け入れるわけにはいかないから。

   (3)個別的な現実でないと思い、自分を救いたかったから。 7 人間的な心。人間性。

   8 しわざ。おこない。 

9  自己本位に受け止めている。感情的。

16 客観的に受け止めている。 落ち着く。

10 「自分」―人間的な心。「土砂」―獣としての習慣。

11人間性喪失。12「古い宮殿の礎」=人間的な心。「土砂」=獣としての習慣。 

  13 うずもれ隠れること。

  14 仏教の輪廻転生。 

15 (1)「そのこと」 指示内容。

   (2)「しあわせ」なぜ点が打ってあるのか。

   (3)なぜ「おそろしくかんじている」のか。」。

 

 

袁傪はじめ一行は、1息をのんで、叢中の声の語る不思議に聞き入っていた。声は続けて言う。

 ほかでもない。自分は2元来詩人として名を成すつもりでいた。しかも、3いまだ成らざるに、この運命に立ち至った。かつて作るところの詩数百編、もとより、まだ世に行われておらぬ。4遺稿の所在ももはや分からなくなっていよう。ところで、そのうち、今もなお@記誦せるものが数十ある。これを我がために伝録していただきたいのだ。5なにも、これによって一人前の詩人面をしたいのではない。作の6巧拙は知らず、とにかく、7産を破り心を狂わせてまで自分が生涯それに8執着したところのものを、一部なりとも後代に伝えないでは、死んでも死にきれないのだ。

 袁さんは部下に命じ、筆を執って叢中の声に従って書きとらせた。李徴の声は叢の中から朗々と響いた。長短およそ三十編、9格調10高雅、11意趣12卓逸、一読して作者の才の13非凡を思わせるものばかりである。しかし、袁は感嘆しながらも漠然と次のように感じていた。なるほど、作者の素質が第一流に属するものであることは疑いない。14しかし、このままでは、第一流の作品となるのには、どこか(非常に微妙な点において)欠けるところがあるのではないか、と。

 旧詩を吐き終わった李徴の声は、突然調子を変え、自らを嘲るがごとくに言った。

 恥ずかしいことだが、今でも、こんなあさましい身となり果てた今でも、おれは、おれの詩集がA長安15風流人士の机の上に置かれているさまを、夢に見ることがあるのだ。岩窟の中に横たわって見る夢にだよ。嗤ってくれ。詩人になりそこなって虎になった哀れな男を。(袁は昔の青年李徴の16自嘲癖を思い出しながら、哀しく聞いていた。)そうだ。17お笑い草ついでに、今の懐いを18即席の詩に述べてみようか。この虎の中に、まだ、かつての李徴が生きているしるしに。

 袁傪はまた下吏に命じてこれを書きとらせた。19その詩に言う。

 

  偶 因 狂 疾 成 20殊 類   偶狂疾に因つて殊類と成る

  21災 患 相 仍22  可 逃   災患相仍つて逃るべからず

  今 日 爪 牙 23 敢 敵   今日は爪誰か敢へて敵せんや

  当 時 24声 跡 共 相 高   当時は声跡共に相高かりき

  我 為 異 物 蓬 茅 下   我は異物と為りて茅の下にあれども

  君 已 乗 ・ 気 勢 豪   君は已にに乗りて気勢豪なり

  此 夕 渓 山 対 明 月   此の夕べ渓山明月に対し

  25 成 A長 嘯 26 成 B哮   長嘯を成さずして但だを成すのみ

 

 27時に、残月、光冷ややかに、白露は地にしげく、樹間を渡る冷風はすでに暁の近きを告げていた。人々はもはや、28事の奇異を忘れ、29粛然として、この詩人の30薄幸を嘆じた。李徴の声は再び続ける。

 

(注)@記誦 記憶しそらんじること。A長嘯 長く声を引いて吟じること。B哮 ほえること。叫ぶこと。

 

一 漢字の読みを記せ。

 

 1 元来 2 遺稿   3 記誦   4 伝録  5 執って  5 高雅

 

5 卓逸   6 非凡   6 嘲る  7 風流   8 自嘲癖

 

9 即席   10 但だ   11 奇異  12 粛然   13 薄幸

 

二 傍線部1〜30の問いに答えよ。

 

1 辞書で意味を調べよ。

 

2 辞書で意味を調べよ。

 

3 辞書で意味を調べよ。

 

4 辞書で意味を調べよ。

 

5 伝録を頼んだのは何のためか、文中の言葉を使って答えよ。

 

6 辞書で意味を調べよ。

 

7 (1)産を破り 辞書で意味を調べよ。

 

 (2)どういう気持か。 

 

8  辞書で意味を調べよ。

 

9  辞書で意味を調べよ。

 

10 辞書で意味を調べよ。

 

11 辞書で意味を調べよ。

 

12 辞書で意味を調べよ。

 

13 辞書で意味を調べよ。 

 

14 欠けているものは何か。

 

15 辞書で意味を調べよ。 

 

16 (1)自嘲 辞書で意味を調べよ。(2)同じ意味を表している部分を抜き出せ。

 

17 辞書で意味を調べよ。

 

18 辞書で意味を調べよ。 

 

19 この詩の形式は何か。また、対句を記せ。

 

20 (1)殊類 辞書で意味を調べよ。 同じ意味の熟語を抜き出せ。  

 

21 辞書で意味を調べよ。

 

22 句法を記せ。

23 句法を記せ。

 

24 辞書で意味を調べよ。

 

25 句法を記せ。 

26 句法を記せ。

 

27 次の表現は、それぞれ何を意味しているか。

   残月   光りひややかに   白露は地にしげく 暁の近き

 

28 具体的にどういうことか。

 

29 辞書で意味を調べよ。

 

30 辞書で意味を調べよ。

 

 

 

4 解答

一 1 がんらい 2 いこう 3 きしょう 4 でんろく 5 と 6 たくいつ

  7 ふうりゅう 8 じちょうへき 9 そくせき 10 た 1 きい 

  12 しゅくぜん 13 はっこう 

二 1 驚いたりして息を止める。 2 はじめから。もともと。 

3 ギョウ=仕事。事業。ゴウ=善悪の応報。 ワザ=仕事。技術。

4 発表されないままないままに死後に残された草稿。

5 「自分が生涯それに執着したところのものを、一部なりとも後代に伝え」たいため。

6 上手と下手。

7 (1)財産を失う。(2)家族を犠牲にしてまで執着した詩作が誰にも知られず終わることが耐えら

れない。8 深う思いこむ。9 詩作の体裁と調子。 10 気高く雅なこと。 

11 心の向かうところ。12 卓越し優れていること。13 衆人にょり優れていること、人。

14 謙虚さ。努力。人間味。 15 詩の心を解する人々。 

16(1)自分の欠点を嘲笑う。17 もの笑いの種。18 その場ですぐにすること。

19 七言律詩。三句と四句 五句と六句。20 (1)普通と違ったもの。(2)異類。異物。

21 わざわい。22 否定。 23 反語。 24 世間の評判と実際の業績。25 否定。

26 限定。 

27 残月=李徴の人間の心。光ひややかに=非情さ。白露は地にしげく=李朝の涙。

   暁の近き=別れの時。 28 人間が虎になったこと。29 おごそかなさま。

30 ふしあわせ。 

 なぜこんな運命になったか分からぬと、1先刻は言ったが、しかし、考えようによれば、思い当たることが全然ないでもない。人間であった時、おれは努めて人との交わりを避けた。人々はおれを@倨傲だ、2尊大だと言った。実は、3それがほとんど4羞恥心に近いものであることを、人々は知らなかった。もちろん、かつての5郷党の6鬼才と言われた自分に、自尊心がなかったとは言わない。しかし、それは臆病な自尊心とでも言うべきものであった。おれは詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交わって7切磋琢磨に努めたりすることをしなかった。かといって、また、おれは俗物の間に8伍することも潔しとしなかった。ともに、我が9臆病な自尊心と、10尊大な羞恥心とのせいである。己の珠にあらざることを惧れるがゆえに、あえて刻苦して磨こうともせず、また、己の珠なるべきを半ば信ずるがゆえに、11碌々として瓦に伍することもできなかった。おれはしだいに世と離れ、人と遠ざかり、A憤悶とB慙恚とによってますます己の内なる臆病な自尊心を飼いふとらせる結果になった。12人間はだれでも猛獣使いであり、その猛獣に当たるのが、各人の13性情だという。おれの場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。これがおれを損ない、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、おれの外形をかくのごとく、内心にふさわしいものに変えてしまったのだ。今思えば、まったく、おれは、おれの持っていたわずかばかりの才能を14空費してしまったわけだ。人生は何事をもなさぬにはあまりに長いが、15何事かをなすにはあまりに短いなどと口先ばかりの16警句を17弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかもしれないとの卑怯な18危惧と、刻苦をいとう19怠惰とがおれのすべてだったのだ。おれよりもはるかに乏しい才能でありながら、それを20専一に磨いたがために、堂々たる詩家となった者がいくらでもいるのだ。虎となり果てた今、おれはようやく21それに気がついた。それを思うと、おれは今も胸を焼かれるような悔いを感じる。おれにはもはや人間としての生活はできない。たとえ、今、おれが頭の中で、どんな優れた詩を作ったにしたところで、どういう手段で発表できよう。まして、おれの頭は日ごとに虎に近づいていく。どうすればいいのだ。おれの空費された過去は? おれはたまらなくなる。そういうとき、おれは、向こうの山の頂の巌に登り、空谷に向かってほえる。22この胸を焼く悲しみをだれかに訴えたいのだ。おれは昨夕も、あそこで月に向かってほえた。23だれかにこの苦しみが分かってもらえないかと。しかし、獣どもはおれの声を聞いて、ただ、懼れ、ひれ伏すばかり。山も木も月も露も、一匹の虎が怒り狂って、哮っているとしか考えない。天に躍り地に伏して嘆いても、だれ一人おれの気持ちを分かってくれる者はない。ちょうど、人間だったころ、おれの傷つきやすい内心をだれも理解してくれなかったように。24れの毛皮のぬれたのは、夜露のためばかりではない。

 ようやくあたりの暗さが薄らいできた。木の間を伝って、どこからか、D暁角が哀しげに響き始めた。

 もはや、別れを告げねばならぬ。25酔わねばならぬ時が、(虎に還らねばならぬ時が)近づいたから、と、李徴の声が言った。だが、お別れする前にもう一つ頼みがある。それは我が妻子のことだ。彼らはいまだ略にいる。もとより、おれの運命については知るはずがない。君が南から帰ったら、おれはすでに死んだと彼らに告げてもらえないだろうか。決して今日のことだけは明かさないでほしい。厚かましいお願いだが、彼らの孤弱を哀れんで、今後とも道塗に26飢凍することのないように計らっていただけるならば、自分にとって、恩幸、これに過ぎたるはない。

 言い終わって、叢中から27慟哭の声が聞こえた。袁もまた涙を浮かべ、よろこんで李徴の28意にそいたい旨を答えた。李徴の声はしかしたちまちまた29先刻の自嘲的な調子に戻って、言った。

 30本当は、まず、このことのほうを先にお願いすべきだったのだ、おれが人間だったなら。飢え凍えようとする妻子のことよりも、己の乏しい詩業のほうを気にかけているような男だから、こんな獣に身を堕とすのだ

 そうして、付け加えて言うことに、袁が嶺南からの帰途には決してこの道を通らないでほしい、その時には自分が酔っていて故人を認めずに襲いかかるかもしれないから。また、今別れてから、前方百歩の所にある、あの丘に登ったら、こちらを振り返って見てもらいたい。自分は今の姿をもう一度お目にかけよう。31勇に誇ろうとしてではない。我が醜悪な姿を示して、もって、再びここを過ぎて自分に会おうとの気持ちを君に起こさせないためであると。

 

 

(注)@倨傲 おごりたかぶること。A憤悶 いきどおりもだえること。B慙恚 恥じていきどおること。C暁角 夜明けを知らせる角笛。

 

一 漢字の読みを記せ。

 

1 先刻   2 倨傲   3 羞恥心 4 臆病   5 切磋琢磨

 

6 俗物   7  潔し  8 珠   9 惧れる  10 憤悶

 

11 慙恚   12 空費   13 警句 14 弄し   15 暴露

 

16 卑怯   17 危惧   18 刻苦  19 空費   20 空谷

 

21 哮って  22 暁角   23 哀しげ 24 妻子   25 告げて

 

26 孤弱   27 恩幸、  28 慟哭  29 凍え   30 堕とす

 

二 傍線部1〜31の問いに答えよ。

 

1 辞書で意味を調べよ。

 

2 辞書で意味を調べよ。

 

3 辞書で意味を調べよ。

 

4 辞書で意味を調べよ。

 

5 辞書で意味を調べよ。

 

6 辞書で意味を調べよ。

 

7 辞書で意味を調べよ。

 

9、10(1)それぞれどういう心理か。

 

    (2)相反する二つの心理はどういう関係で結びついているか。

 

    (3)次のア〜エは、9、10のどちらの心理に基づくか。

       ア おれは詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交わって

切磋琢磨に努めたりすることをしなかった。 

イ おれは俗物の間に伍することも潔しとしなかった。

ウ 己の珠にあらざることを惧れるがゆえに、あえて刻苦して磨こうともせず

エ おのれの珠なるべきを半ば信ずるがゆえに、碌々として瓦に伍することもできなかった。

11 辞書で意味を調べよ。

 

12 人間はだれでも猛獣使い 

(1)   李徴の「猛獣」とはなにか。

 

(2)「猛獣使い」として何をしたか。

 

13 辞書で意味を調べよ。 

 

14 辞書で意味を調べよ。

 

15 具体的に言うとどういうことか。

 

16 辞書で意味を調べよ。

 

17 辞書で意味を調べよ。

 

18 辞書で意味を調べよ。

 

19 辞書で意味を調べよ。

 

20 辞書で意味を調べよ。

 

21 指示内容を記せ。

 

22 対照的な内容の箇所を抜き出せ。

 

23 この場合の「苦しみ」とはどういうものか。

 

24 他に何で濡れたのか。

 

25 「虎になること」を「酔う」というのはどうしてか。

 

26 「虎になること」を「酔う」というのはどうしてか。

 

27 辞書で意味を調べよ。

 

28 辞書で意味を調べよ。具体的にどうすることか。

 

29 李朝は何について語る時、自嘲的になるか。

 

30 (1)「このこと」の指示内容。(2)此処で言う人間とはどういう面を指しているか。

 

(2)   この内容に注意する。 

(3)    

31 辞書で意味を調べよ。

 

5 解答

一1 せんこく 2 きょごう 3 しゅうちしん 4 おくびょう 5 せっさたくま

 6 ぞくぶつ 7 いさぎよ 8 たま 9 おそ 10 ふんもん 11 ざんい

 12 くうひ 13 けいく 14 ろう 15 ばくろ 16 ひきょう 17 きぐ

 18 こっく 19 くうひ 20 くうこく 21 たけ 22 ぎょうかく 

23 かな 24 さいし 25 つ 26 こじゃく 27 おんこう 

28 どうこく 29 こご 30 お   

二 1 先ほど。 2 ひどく偉そうに人を見下した態度であること。

  3 「人々との交わりを避けた」こと 4 はずべきこと。 5 郷土の人々。

  6 人間とは思えないほど優れた才能。 

7 玉石などを切り磨くように、道徳・学問を務め励んでやまぬこと。

8 仲間入りする。 

9、10(1)9 自尊心が強いため、それが傷つけられるのを恐れる心理。

       10 羞恥心が強いので、隠すため尊大な態度を取ろうする心理。

    (2)同一のものの裏表。(3)ア 10 イ 9 ウ 10 エ 9

11 人の後につき従う様子。 

12(1)尊大な羞恥心・臆病な自尊心。(2)臆病な自尊心を飼い太らせた。

13 性質と心情。 14 無駄遣い。 15 「堂々たる詩家とな」ること。

16 奇抜な感想を簡潔に述べた句。 17 もてあそぶ。 18 きがかり。

19 なまけること。 20 そのことだけに心を注ぐこと。

21 「今思えば、まったく、おれは、おれの持っていたわずかばかりの才能を空費してしまったわけだ。人生は何事をもなさぬにはあまりに長いが、何事かをなすにはあまりに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかもしれないとの卑怯な18危惧と、刻苦をいとう怠惰とがおれのすべてだったのだ。おれよりもはるかに乏しい才能でありながら、それを専一に磨いたがために、堂々たる詩家となった者がいくらでもいるのだ。」  

  22 「だれ一人おれの気持ちを分かってくれる者はない。」

  23 孤独感といらだち。 24 涙。25 酔う=人間の心がなくなっていくこと。

  26 飢え凍える。27 号泣。

28 意味 気持ちや考えに従いそのとおりにすること。具体的に 妻子の世話をすること。

29 詩。  

  30 (1)妻子のこと。(2)身近なものにも温かい愛を持った人間。

     (3)愛に目覚めた悲しい自嘲の言葉で取り返しがつかないことを意味している。

  31 強さを見せつける。

      

 

 

 袁傪は叢に向かって、1ねんごろに別れの言葉を述べ、馬に上った。叢の中からは、また、堪え得ざるがgとき悲泣の声が漏れた。袁傪も幾度か叢を振り返りながら、涙の中に出発した。

 一行が丘のうえについた時、彼らは、言われたとおりに振り返って、先ほどの林間の草地を眺めた。たちまち、一匹の虎が茂みから道の上に躍り出たのを彼らは見た。2虎は、すでに白く光を失った月をあおいで、二声三声咆哮したかと思うと、また元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった。

 

一 漢字の読みを記せ。

 

1 幾度 2 咆哮

 

二 傍線部1,2の問いに答えよ。

 

1 ねんごろに 辞書で意味を調べよ。

 

2 (1) 咆哮 辞書で意味を調べよ。

 

(2)「見なかった」について、これを「見せなかった」と比較しながら説明せよ。

「見なかった」

「見せなかった」

 

(3)作品全体から見てこの最後の場面に出ている「月」が象徴するものは何か。

 

 

6 解答

一 1 いくど 2 ほうこう

二 1 親切だ。

  2 (1)けだものがほえたけること。

    (2)「見なかった。」   袁傪一行が「その姿」を「見なかった。」  動作が別れにふさわしい。

       「みせなかった。」  李徴が「その姿」を「見せなかった。」   この後も姿を見せる感

じになる。

    (3)自分が消えていく李徴の運命。   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

概要 

時     天宝の末年(742〜755)   

 

場所    隴西 商於   

 

登場人物  李徴 袁傪

 

事件    李徴が虎になり、袁傪と会う。

 

構成

 

 

 

 

 

4 

 

天宝の末年

 隴西 商於

汝水

翌年 商於 朝

残月=時の経過

(一年前)

 

残月に心情を訴える

 

夜明け

白い月=

人間性喪失

時 場所

李徴の略歴 博学 才能 自負心 役人を辞め詩人に

                再び地方官吏

自尊心から不満→発狂 行方不明

虎と成った李徴

旧友 袁傪

李徴の話@ 虎になる経験

理由1 人→虎 生きる者の定め=運命に従って生きる  

李徴の話A 詩の伝録の依頼と即興の詩 詩に執着

袁傪の詩の感想=才能あり・人間味が欠けている 

李徴の話B 理由2 羞恥心自尊心=虎 3 愛の欠如

別れ 虎の咆哮

李徴の行動・心理

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主題 自意識に痛めつけられる知識人の苦しみ

 

特色 1 月の効果 

 

2 題『山月記』 李徴の詩 

 

3 唐代の伝奇小説『人虎伝』が基

 

 

筆者

 

中島 敦  1909~1942年。小説家。持病のぜんそくのため短い生涯を終えた。

      中国古典に取材した作品が多い。

      『名人伝』『光と風と夢』『李陵』

      『山月記』(1941年執筆) 

 

 

参考

人 虎 伝                          李 景 亮

 

 (一) 才を恃みて倨傲なり

 

  隴 西 李 徴、皇 族 子。家 於  略。徴 少 博 学、善 属 文。天 宝 十 五 載 春、登 進 士 第。後 数 年、調 補 江 南 尉。徴 性 疎 逸、恃 才 倨 傲。不 能 屈 跡 卑 僚。嘗 鬱 鬱 不 楽。毎 同 舎 会 既 酣、顧 謂 其 群 官 曰g生 乃 与 君 等 為 伍 耶^其 僚 友 咸 側 目 之。

  及 謝 秩、則 退 帰 間 適、不 与 人 通 者、近 歳 余。後 迫 衣 食、乃 東 遊 呉 楚 間、以 干 郡 国 長 吏。徴 在 呉 楚、且 歳 余、所 獲 饋 遺 甚 多。西 帰  略、未 至。舎 於 汝 墳 逆 旅 中、忽 被 疾 発 狂。無 何 夜 狂 走、莫 知 其 適。

 

 

 (二) 道に虎有り

 

  至 明 年、陳 郡 袁  以 監 察 御 史、奉 詔 使 嶺 南。乗 伝 至 商 於 界、晨 将 去。其 駅 吏 白 曰g道 有 虎、暴 而 食 人。故 途 於 此 者、非 昼 莫 敢 進。今 尚 早。願 且 駐 車。決 不 可 前^吹@遂 命 駕 而 行。

  去 未 尽 一 里、果 有 虎、自 草 中 突 而 出。 驚 甚。俄 而 虎 匿 身 草 中、人 声 而 言 曰g異 乎 哉。幾 傷 我 故 人 也^吹@聆 其 音、似 李 徴 者。吹@昔 与 徴 同 登 進 士 第、分 極 深。別 有 年 矣。忽 聞 其 語、既 驚 且 異、莫 測 焉。遂 問 曰g子 為 誰。豈 非 故 人 隴 西 子 乎^虎 呼 吟 数 声、若 嗟 泣 状。已 而 謂 吹@g我 李 徴 也^

  吹@乃 下 馬 曰g君 何 由 至 此^虎 曰g我 自 与 足 下 別、音 容 曠 阻 且 久 矣。幸 喜 得 無 恙 乎。宦 途 不 致 淹 留 乎。今 又 何 適^吹@g近 者 幸 得 備 御 史 之 列。今 奉 使 嶺 南^虎 曰g吾 子 以 文 学 立 身、位 登 朝 序。可 謂 盛 矣。心 喜 故 人 居 此 地。甚 可 賀^

  吹@g往 者 吾 与 執 事 同 年 成 名。交 契 深 密、異 於 常 友。自 声 容 間 阻、去 日 如 流。想 望 風 儀、心 目 倶 断。不 意、今 日 獲 君 念 旧 之 言。雖 然 執 事 何 為 不 見 我、而 自 匿 于 草 木 中。故 人 之 分、豈 当 如 是 耶^虎 曰g我 今 不 為 人 矣。安 得 見 君 乎^吹@g願 詳 其 事^

 

 

 (三) 化して異獣と為り、人に靦づる有り

 

  虎 曰g我 前 身 客 呉 楚。去 歳 方 還、道 次 汝 墳、忽 嬰 疾 発 狂。夜 聞 戸 外 有 呼 吾 名 者、遂 応 声 而 出、走 山 谷 間。不 覚、以 左 右 手 攫 地 而 歩。自 是 覚 心 愈 狠、力 愈 倍。及 視 其 肱 髀、則 有 毛 生 焉。心 甚 異 之。既 而 臨 渓 照 影、已 成 虎 矣。悲 慟 良 久。然 尚 不 忍 攫 生 物 食 也。既 久 飢 不 可 忍、遂 取 山 中 鹿 豕 a@兎 充 食。又 久 諸 獣 皆 遠 避、無 所 得、飢 益 甚。

  一 日 有 婦 人、従 山 下 過。時 正 餒 迫、徘 徊 数 四、不 能 自 禁、遂 取 而 食。今 其 首 飾、猶 在 巌 石 之 下 也。非 不 念 妻 孥、思 朋 友。直 以 行 負 神 、一 旦 化 為 異 獣、有 靦 於 人。故 分 不 見 矣^因 呼 吟 咨 嗟、殆 不 自 勝 遂 泣。

  吹@且 問 曰g君 今 既 為 異 類。何 尚 能 人 言 耶^虎 曰g我 今 形 変、而 心 悟 耳。自 居 此 地、不 知 歳 月 多 少。但 見 草 木 栄 枯 耳。近 日 絶 無 過 客、久 飢 難 堪。不 幸 唐 突 故 人。慙 惶 殊 甚^吹@g君 久 飢。食 籃 中 有 羊 肉 数 斤。留 以 為 贈、可 乎^

g吾 方 与 故 人 道 旧、未 暇 食 也。君 去 則 留 之^

 

 

 (四) 我将に託する所有らんとす

 

  又 曰g我 与 君 真 忘 形 之 友 也。而 我 将 有 所 託、可 乎^吹@g平 昔 故 人、安 有 不 可 哉。恨 未 知 何 如 事。願 尽 教 之^虎 曰g君 不 許 我、我 何 敢 言。君 既 許 我、豈 有 隠 耶。吾 妻 孥 尚 在  略。豈 知 我 化 為 異 類 乎。君 自 南 回、為 齎 書、訪 吾 妻 子。但 云 我 已 死、無 言 今 日 事。志 之^

  乃 曰g吾 於 人 世、且 無 資 業。有 子 尚 稚、固 難 自 謀。必 望 念 其 孤 弱。時 賑 求@之、無 使 殍 死 於 道 途、亦 恩 之 大 者^言 已、又 悲 泣。吹@亦 泣 曰g吹@与 足 下 休 戚 同 焉。然 則 足 下 子 亦 吹@子 也。当 力 副 厚 命。又 何 虞 其 不 至 哉^

  虎 曰g我 有 旧 文 数 十 編。未 行 於 代。君 為 我 伝 録。誠 不 能 列 文 人 之 口 閾、然 亦 貴 伝 於 子 孫 也^吹@即 呼 僕 命 筆、随 其 口 書。近 二 十 章。文 甚 高、理 甚 遠。閲 而  者、至 於 再 三。虎 曰g此 吾 平 生 之 業 也。又 安 得 寝 而 不 伝 歟^既 又 曰、

「吾 欲 為 詩 一 編。蓋 欲 表 吾 外 雖 異、而 中 無 所 異。亦 欲 以

道 吾 懐、而  吾 憤 也^吹@復 命 吏、以 筆 授 之。詩 曰、

  偶 因 狂 疾 成 殊 類   災 患 相 仍 不 可 逃

  今 日 爪  誰 敢 敵   当 時 声 跡 共 相 高

  我 為 異 物  茅 下   君 已 乗  気 勢 豪

  此 夕 渓 山 対 明 月   不 成 長 嘯 但 成 

   覧 之 驚 曰g君 才 行、我 知 之 矣。而 君 至 於 此 者、君 平 生 得 無 有 自 恨 乎^

  虎 曰g若 反 求 其 所 自 恨、則 吾 亦 有 之 矣。不 知 定 因 此 乎。吾 遇 故 人、則 無 所 自 匿 也。吾 常 記 之。於 南 陽 郊 外、嘗 私 一 孀 婦。其 家 窃 知 之、常 有 害 我 心。孀 婦、由 是 不 得 再 合。吾 因 乗 風 縦 火、一 家 数 人、尽 焚 殺 之 而 去。此 為 恨 爾^

 

 

 (五) 再び此の途に遊ぶこと無かれ

 

  虎 又 曰g使 回 日、幸 取 道 他 郡、無 再 遊 此 途。吾 今 日 尚 悟、一 日 都 酔、則 君 過 此、吾 既 不 省、将 砕 足 下 於 歯  間、終 成 士 林 之 笑 焉。此 吾 之 切 祝 也。君 前 去 百 余 歩、上 小 山 下 視 尽 見。此 将 令 君 見 我 焉。非 欲 矜 勇、令 君 見 而 不 復 再 過 此。則 知 吾 待 故 人 之 不 薄 也^叙 別 甚 久。

  吹@乃 再 拝 上 馬、回 視 草 茅 中、悲 泣 所 不 忍 聞。吹@亦 大 慟、行 数 里、登 嶺 看 之、則 虎 自 林 中 躍 出 咆 哮、巌 谷 皆 震。

(唐人説薈)