棒 安部公房
語釈
1
1むし暑い、る六月の日曜日……
私は、2人込みに埋まった駅前のデパートの屋上で、二人の子供の守をしながら、雨上がりの、3腫れぼったくむくんだような街を見下ろしていた。
ちょうど人が立ち去ったばかりの、通風筒と階段の間の一人用の垓間を見つけ、4すばやく割り込んで子供たちを順に抱き上げてやったりしているうちに、子供たちはすぐ飽きてしまって、今度は自分が夢中になっていた。しかし、5特別なことではなかったと思う。実際、6手すりにへばりついているのは、子供より大人が多い。子供たちはたいていすぐ飽きてしまって、帰ろうと7せがみ出すのに、仕事を邪魔されでもしたように叱りつけて、8うっとりとまた手すりの腕に顎をのっけるのは大人たちなのである。
9むろん、10少々、後ろめたい楽しみかもしれない。だからといって、11ことさら、問題にするほどのことだろうか。私はただぼんやりしていただけである。少なくも、12後になって思い出す必要に迫られるようなことは、何も考えていなかったはずだ。ただ、13湿っぽい空気のせいか、14私は妙にいらだたしく、15子供たちに対して腹を立てていた。
2
16上の子供が、怒ったような声で、17「父ちゃん。」と叫んだ。私は思わず、その声から逃れるように、ぐっと上半身をのりだしていた。といっても、18ほんの気分上のことで、19危険なほどだったとは思えない。ところが、ふわりと体が宙に浮き、「父ちゃん。」という叫び声を聞きながら、20私は墜落し始めた。
落ちるときそうなったのか、そうなって落ちたのかは、はっきりしないが、気がつくと私は一本の棒になっていた。21太からず、細からず、ちょうど手ごろな、一メートルほどの真っすぐな棒切れだ。22「父ちゃん。」と二度目の叫び声がした。23下の歩道の雑踏がさっと動いて割れ目ができた。私はその割れ目めがけて、くるくる回りながら、真っしぐらに落ちていき、乾いた鋭い音を立てて跳ね返り、並木に当たって、歩道と車道の間の溝のくぼみに突き刺さった。
24人々は腹を立てて上をにらんだ。屋上の手すりに、25血の気の失せた私の子供たちの小さな顔が、行儀よく並んでいた。26入り口に頑張っていた守衛が、27いたずら小僧どもを28厳重に処罰することを約束して、駆けあがって行った人々は興奮し、こぶしを振り上げてイカクした。それで私自身は、だれからも気づかれずに、しばらく29そこに突き刺さったままでいた。
一 カタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 腫れぼったい 2 隙間 3 アきてしまって 4 顎 5 堕落 6 歩道のザットウ
7 カワいた 8 ハね返り 9 オクジョウほ手すり 10 ギョウギよく
二 傍線部1〜29の問いに答えよ。
1 この時期にふさわしいいと思われる表現を抜き出せ。
2 状態を表す同義語を抜き出せ。
3 どのような光景を表したものか。
4 屋上のどのような用sがうかがえるか。
5 何がか。
6 どういうことがわかるか。
7 辞書で意味を調べよ。
8 「うっとり」している状態を言い換えた言葉を抜き出せ。
9 辞書で意味を調べよ。
10 どのような楽しみか。
11 辞書で意味を調べよ。
12 このこととはどのようなことか。
13 これは「私」にどのような影響を与えたか。
14 何が原因か。
15 (1)呼応する表現を抜き出せ。
(2)その表現から、「私」についてどのようなことがわかるか。
16 叫んだのはなぜか。
17、22との違いを説明せよ。
18 (1)具体的にどうすることか。
(2)「気分上の」と反対の意味の言葉を記せ。
19 この表現から「私」のどのような気持ちがうかがえるか。
20 「私」が突然一本の棒になって地上に落ちて行く様子を描写した八十字以内の一文を抜き出せ。
22 口語訳せよ。
23 どういうことが分かるか。
24 なぜか。
25 子供たちのどのような状態を描写したものか。
26 どこの入り口か。
27 誰のことか。
28 誰が誰を処罰するのか。
29 指示内容を記せ。
一 カタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 腫れぼったい 2 隙間 3 アきてしまって 4 顎 5 堕落 6 歩道のザットウ
7 カワいた 8 ハね返り 9 オクジョウほ手すり 10 ギョウギよく
1、2 解答
一 1 は 2 すきま 3 飽 4 あご 5 だらく 6 雑踏 7 乾
8 跳 9 屋上 10 行儀
二 1 「雨上がりの、腫れぼったくむくんだような街」(1)「湿っぽい空気」(1)「雨にぬれて、や
わらかくなった地面」(7) 2 「雑踏」3 輪郭がぼやけて見える様子。
4 大変恩雑している様子。 5 夢中で街を見下ろすこと。
6 いらだちと自分の子供いたいする腹たたしさに駆られていること。 7 ねだる。
8 「ぼんやり」9 いうまでもなく。 10 うっとりと手すりの腕に顎をのっける。
11 あえて。わざわざ。 12 「私」が棒になった結果に対する原因に当たるようなこと。
13 奇妙にいらだたせた。 14 梅雨時の不愉快な天候と日常生活に対する潜在的な不満。
15 (1)「その声から逃れるように」(2)自分のあり方を社会的に規定するあらゆるものからの逃
走を夢想しているということ。 16 帰ろうとしない父親にいらだったから。
17 帰ろうとしない父親にいら立ちが込められたもの。 20 父親の異変を目撃した驚きの声。
18 (1)「私」が屋上の手すりから上半身を乗りだすこと。(2)意図的な。故意の。
19 なぜ墜落することになったかと不思議に思う気持ち。
20 「私はその割・・・刺さった。」
21 「私はその割れ目めがけて、くるくる回りながら、真っしぐらに落ちていき、乾いた鋭い音を立てて跳ね返り、並木に当たって、歩道と車道の間の溝のくぼみに突き刺さった。」
22 太くもなく細くもなく。 23 人々が落ちてきた棒をよけたこと。
24 いきなり棒が落ちてくるのは危険であり、誰かの悪意と思ったため。
25 父親の墜落と変身を目撃して茫然自失し、身動きもできない状態。 26 デパート。
27 「私」の二人の子供。 28 守衛が「私」の二人の子供を処罰すること。29 歩道と車道の間の溝の窪み。
3
やっと一人の学生が私に気づいた。1その学生は三人連れで、連れの一人は同じ制服の学生、今一人は彼らの先生らしかった。学生たちは、背丈から、顔つきから、帽子のかぶり方まで、2まるで双子のように似通っていた。先生は白い鼻ひげを蓄え、度の強い眼鏡をかけた、いかにももの静かな長身の紳士だった。
初めの学生が私を引き抜きながら、何か残念そうな口調で言った。「3こんなものでも、当たりどころが悪けりゃ、けっこう死にますね。」
「貸してごらん。」と言って先生は微笑んだ。学生から私を受け取り、二、三度振ってみて、「思ったよりも軽いね。しかし、欲張ることはない。これでも、君たちには、けっこういい研究材料だ。4最初の実習としては5おあつらえ向きかもしれない。6この棒から、どんなことがわかるか、一つみんなで考えてみることにしようじゃないか。」
先生が私をついて歩き出し、二人の学生が後に続いた。三人は雑踏を避けて、駅前の広場に出、ベンチを探したがどれもふさがっているので、緑地帯の縁に並んで腰を下ろした。先生は私を両手にささげて持ち、目を細めて光に透かすようにした。すると、私は7妙なことに気づいた。同時に学生たちも気づいたとみえて、ほとんど同時に8口を切った。「先生、ひげが……」どうやらそのひげは9つけひげだったらしい。左端がはがれて、風でぶるぶる震えていた。先生は静かにうなずき、指先につけた唾で湿して押さえつけ、何事もなかったように両側の学生を顧みて言った。
10「さあ、この棒から、どんなことが想像できるだろうね。まず分析し、判断し、それから処罰の方法を決めてごらん。」
4
まず右側の学生が私を受け取って、いろいろな角度から眺め回した。「最初に気づくことはこの棒に上下の区別があるということです。」筒にした手の中に私を滑らせながら、「上のほうはかなり手垢がしみ込んでいます。下の部分は相当にすり減っています。これは、この棒が、ただ道端に捨てられていたものではなく、何か一定の11目的のために、人に使われていたということを意味すると思います。しかし、この棒は、12かなり乱暴な扱いを受けていたようだ。一面に傷だらけです。しかも捨てられずに使い続けられたというのは、おそらくこの棒が、13生前、14誠実で単純な心を持っていたためではないでしょうか。」
「君の言うことは正しい。しかし、幾分、15感傷的になりすぎているようだね。」と先生が微笑を含んだ声で言った。
すると、その言葉に16こたえようとしたためか、ほとんど厳しいと言ってもよい調子で、左側の学生が言った。「ぼくは、この棒は、ぜんぜん17無能だったのだろうと思います。だって、あまり単純すぎるじゃありませんか。ただの棒なんて、人間の道具にしちゃ、下等すぎますよ。18棒なら、猿にだって使えるんです。」「でも、19逆に言えば。」と右側の学生が言い返した。「棒はあらゆる道具の根本だとも言えるんじゃないでしょうか。それに、20特殊化していないだけに、用途も広いのです。盲人を導くこともできれば、犬をならすこともでき、テコにして重い物を動かすこともできれば、敵をうつこともできる。」21「棒が盲人を導きんだって?ぼくはそんな意見に賛成することはできません。盲人は棒に導かれているわけではなく、棒を利用して、自分で自分を導くのだと思います。」22「それが、誠実等言うことではないせしょうか。」「そうかもしれない。しかし、この棒で先生がぼくを打つこともできれば、ぼくが先生を打つこともできる。」
ついに先生が笑いだしてしまった。「うり二つの君たちが言い合っているのを見るのは、実に愉快だ。しかし、23君たちは同じことを違った表現で言っているのにすぎないのさ。君達の言っていることを要約すれば、24つまりこの男は棒だったということになる。そして、それが、この男に関しての必要にして十分な買いs党なのだ・・・すなわち、この棒は、棒であった。
一 カタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 セタケから 2 長身のシンシ 3 クチョウで言った 4 微笑んだ 5 ザットウを避けて
6 光にスかす 7 唾 8 カエリみて言った 9 まずブンセキし 10 手垢
11 カンショウテキ 12 ビショウをフクんだ 13 トクシュカ 14 ヨウトも広い
15 実にユカイだ 16 ヨウヤクすれば
二 傍線部1〜24の問いに答えよ。
1 三人の会話の様子から先生がどういう人物であることが分かるか。
2 どういう人物像が伺えるか。
3 具体的に何か。
4 何をすることか。
5 辞書で意味を調べよ。
6 どういうことがわかったか。
7 具体的にはどういうことか。文中の言葉を用いて答えよ。
8 辞書で意味を調べよ。
9 どういう人物像が伺えるか。
10 「右側の学生」の「判断」に当たる部分を三点抜きだせ。
11 対義語を記せ。
12 具体的にどういうことか。
13 この場合どういう意味か。
14 この場合どういう意味か。
15 (1)感傷的 辞書で意味を調べよ。
(2)どのような気持ちが読み取れるか。
16 どういう意味か。
17 と表裏一体となる学生の主張を抜き出せ。
18 この学生のどういう気持ちが伺えるか。
19 した内容を明らかにせよ。
20 どういう意味か。
21 主張の要点を説明せよ。
22 指示内容を記せ。
23 どういう意味か。
24 生前の「私」はどういう人間だったか。
3,4 解答
一 1 背丈 2 紳士 3 口調 4 ほほえ 5 雑踏 6 透 7 つば 8 顧 9 分析
10 てあか 11 感傷的 12 微笑 含 13 特殊化 14 用途
15 愉快 16 要約
二 1 穏やかでもの静かだが虚栄心の対人物。 2 どこか現実離れしたq、特異なイメージを持つ人物。
3 棒。 4 棒を分析することで、生前棒がどのような人間であったか判断し、棒の処罰尾方法を決
めること。5 希望どおりであること。
6 一定の目的のために人に使われていたが、乱暴な扱いを受けていたと言うこと。
7 先生の鼻ひげの左端がはがれて、風でぶるぶる震えていること。8 最初に発言する。
9 どこか現実離れした特異なイメージを持つと同時に、いかがわしさを感じさせる人物像。
10 「何か一定の11目的のために、人に使われていた」「かなり乱暴な扱いを受けていた」「 生
前、誠実で単純な心を持っていた」 11 手段。
12 「私」が過酷な労働を強いられていたこと。13 「私」が棒になる前。
14 人が、ある一定の目的のために使用するには都合の良い存在であったこと。
15 (1)感じやすくて涙もろいこと。 (2) 棒を擬人的にとらえた学生の意見を諫める気持ち
16 応じる。報いる。 17「誠実で単純な心を持っていた」
18 生前の「私」のあり方に対する嘲り。
19 下等であり、単純ではあるが、用途が広い道具である。
20 使用目的が限定されず、応用が利くと言うこと。
21 棒は単に利用されているいすぎないということ。
22 「盲人は棒に導かれているわけではなく、棒を利用して、自分で自分を導く。」
23 棒の存在の理由が、使用される事にあるのは変わらない。
24 誠実だがありふれた人間。
5
「でも。」と右側の学生が1未練がましく、「2棒でありえたという、特徴は認めてやらなければならないのではないでしょうか。ぼくは3、標本室で、ずいぶんいろんな人間を見ましたけど、棒はまだ一度も見たことがありません。こういう単純な誠実さは、やはり珍しい・・・」「いや、我々の標本室にないからといって、珍しいとは限るまい。」と先生が答えた。「逆に4平凡すぎる場合だってあるのさ。つまり、あまりありふれているので、とくに取り上げて研究する必要を認めないこともある。」学生たちは、思わず、5申し合わせたように顔を上げて周囲の雑踏を見回した。先生が笑って言った。「いや、この人たちが全部、棒になるというわけではない。棒がありふれているというのは、6量的な意味よりも、むしろ質的な意味で言っているのだ。数学者たちが、もう、三角形の性質を7とやかく言わないのと同じことさ。つまり、そこからはもう新しい発見は何もあり得ない。」ちょっと間をおいて、「8ところで、君たちは、どういう刑を言い渡すつもりかな?」「9こんな棒にまで、罰を加えなけりゃならないんでしょうか?」と右側の学生が困ったように尋ねた。「君はどう思う?」と先生が左側の学生を振り返る。「当然罰しなけらばなりません。死者を罰するということで、」ぼくらの存在理由が成り立っているのです。ぼくらがいる以上、ばっしないわけにはいきません。」「10さて、それでは、どういう刑罰が適当だろうかな?」
6
二人の学生は、それぞれ、11じっと考え込んでしまった。先生は、私を取って、地面になにか12いたずら書きを始める。抽象的な意味のない図形だったが、そのうち、手足が生えて、怪物の姿になった。次に、その絵を消し始めた。消し終わって、立ち上がり、ずっと遠くを見るような表情で、つぶやくように言った。「君たちも、もう十分考えただろう。この答えは、やさしすぎてむつかしい。講義の時に習った覚えがあるだろうと思うが・・・13裁かない事によって、裁かれる連中・・・」「覚えています。」学生たちが口をそろえて言った。「地上の法廷は、人類に何パーセントかをさばけばよい。しかし、我々は、不死の人間が現れでもしないかぎりこのずべてを裁かなければならにのです。ところが、14人間の数に比べて、我々の数は極めて少ない。もし、全部の死人を、同じように裁かなければならなくなったりしたら、我々は過労のために消滅せざるを得ないでしょう。幸い、こうした、裁かぬことによって裁いアた事になる、好都合な連中がいてくれて・・・」「この棒などが、その代表的な例なのだ。」先生は微笑して、私から手を離した。私は、倒れて、転げ出した。先生が靴先で受け止めて、「だからこうして、置き去りにするのが、一番の罰なのさ。だれかが拾って、生前と全く同じように、棒としていろいろに使ってくれるだろう。」
7
学生の一人が、ふと思い出したように、「15この棒は、ぼくらの言うことを聞いて、何かおもったでしょうか?」先生は、慈しむように学生の顔を見つめ、しかし何も言わずに、二人を促して、歩き始めた。学生たちは、やはり気がかりらしく、幾度か私のほうを振り向いていたが、間もなく人波にのまれて見え鳴きなってしまった。だれかが私をふんづけた。雨にぬれて、やわらかくなった地面の中に、私は半分ほどめり込んだ。
8
「16父ちゃん、父ちゃん、父ちゃん・・・」という叫び声が聞こえた。私の子供たちのようでもあったし、違うようでもあった。この17雑踏の中の、何千という子供たいの中には、父親の名を叫んで呼ばなければならない子供がほかに何人いたって不思議ではない。
一 カタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 ミレンがましく 2 トクチョウは認めて 3 ヒョウホンシツ 4 刑罰がテキトウか
5 チュウショウテキな意味 6 コウギの時に習った 7 サバかれる 8 ホウテイは
9 フシの人間 10 カロウのために 11 ふたりをウナガして
二 傍線部1〜17の問いに答えよ。
1 辞書で意味を調べよ。
2 なぜそう思ったか。
3 瀬生と二人の学生は人間世界の存在でhないと考えられるが、この語以外にそのことを端的に述べた
一文を抜き出せ。
4 同義の表現を浮き出せ。
5 そうしたのはなぜか。
6 ここではどういう意味か。
7 言い換えるとすればどんな表現が適切か,抜き出せ。
8 先生のどんな気持ちが表されているか。
9 この場合どんな棒か。
10 どういうことを適当な刑罰と考えているか、七字で抜き出せ。
11、12 学生と先生の対比表現からどんなことが伺えるか。
13 具体的の棒がどうされることか。
14 「我々」とは誰のことか。
15 この発言が持つ効果について説明せよ。
16 どういうことが分かるか。
17 ほぼ同じ意味の言葉を抜き出せ。
5,6、7 解答
一 1 未練 2 特長 3 標本室 4 適当 5 抽象的 6 講義 7 裁 8 法廷
9 不死 10 過労 11 促
二 1 いかにも思い切れない様である。
2 標本室ではまだ一度も見たことがない、単純な誠実さを具現している棒の存在が珍しく見えたため。
3 と「ころが、人間の数に比べて、我々の数は極めて少ない。」 4 「あまりありふれている」
5 周囲の人間の全てが棒になるものと誤解し、驚きを隠すことができなかったから。
6 棒は新しい発見の対象とはなりえないということ。 7 「特に取り上げて」
8 棒な処罰の必要が認められないという結論を導くために、この時点での学生達の理解度を試してみよう
という気持ち。 9 新しい発見の対象とはなりえない棒。 10「置きざりにする」
11 先生=棒の処罰の方法は自明のこと。 学生たち=難題。12 ただ置きさりにされること。
13 ただ置きざりにされること。 14 死人を裁く意もの。
15 棒(私)的存在の一般化と、そのあり方についての問題提起が読者に対してなされている。
16 世の中には「私」のような父親の存在は珍しくなく、「私」が棒以外の何ものでもない限り、子供達
はつねに迷子に等しい存在であると言うこと。 17 「人波」
概要
時 1955年6月 日曜
場所 都会 デパートの屋上
登場人物 「私」 子供 先生 学生二人
事件 「私」が棒になる。
構成
主題 人間疎外 「私」は空白である。主体性はない。疎外されている。「私」は三人によって存在が証明される。 筆者 安部公房 1924〜1993年。 小説家。劇作家。 1947年『終わりし道の標べに』で登場。 超現実的、前衛的な手法を用いた諸作品は、海外でも高く評価された。 小説『赤い繭』『砂の女』『方舟さくら丸』 戯曲『幽霊はここにいる』 |
1 2 3 4 5 6 7 8 |
節 |
デパートの屋上 屋上 歩道 駅前の広場 緑地帯 |
場所 |
|
見下ろす → 墜落→棒 突き刺さる |
「私」 |
|
(二人の子供) ←(上の子供)「父ちゃん」 ←(初めの学生)「これでも死ぬ。」 ←(先生)「どんなことがわかるか?」 ←(先生)「分析・判断・処罰。」 ←(右側の学生)「一定の目的ために使われていた。誠実で単純。」 ←(左側の学生)「無能。下等。」 ←(右側の学生)「道具の根本。用途は広 い。」 ←(先生)「おなじことを言っている。こ の男は棒。」 ←(右側の学生)「単純で誠実さはめずら しい。」 ←(先生)「ありふれている。新しい発見 はない。」 「荊は?」 ←(先生)「裁かぬ事で裁く。置き去りに する。」 (三人)去る。 (二人の子供)「父ちゃん。」 |
他の人 |