「である」ことと「する」こと
語釈
1「権利の上に眠る者」
学生時代に@末弘厳太郎先生から民法の講義を聞いたとき1「時効」という制度について次のように説明されたのを覚えています。金を借りて催促されないのをいいことにして、2猫ばばを決め込む不心得者が得をして、気の弱い善人の貸し手が結局損をするという結果になるのはずいぶん不人情な話のように思われるけれども、この規定の根拠には、権利の上に長く眠っている者は民法の保護に値しないという趣旨も含まれている、というお話だったのです。この説明に私はなるほどと思うと同時に3「権利の上に眠る者」という言葉が妙に強く印象に残りました。今考えてみると、請求する行為によって時効を中断しない限り、単に4自分は債権者であるという位置に安住していると、ついには債権を喪失するというロジックの中には、一民法の法理にとどまらない5きわめて重大な意味が潜んでいるように思われます。
たとえば、日本国憲法の第十二条を開いてみましょう。そこには「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と記されてあります。この規定は基本的人権が「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」であるという憲法第九十七条の宣言と対応しておりまして、6自由獲得の歴史的なプロセスを、いわば将来に向かって投射したものだと言えるのですが、7そこに先ほどの8「時効」について見たものと、著しく共通する精神を読み取ることは、それほど無理でも困難でもないでしょう。つまり、この憲法の規定を9若干読み変えてみますと、「国民は今や主権者となった、しかし主権者であることに安住して、その権利の行使を怠っていると、ある朝目覚めてみると、もはや主権者でなくなっているといった事態が起こるぞ。」という警告になっているわけなのです。これは大げさな10威嚇でもなければ教科書ふうの11空疎な説教でもありません。それこそAナポレオン三世のBクーデターからCヒットラーの権力掌握に至るまで、最近百年の12西欧民主主義の血塗られた道程がさし示している13歴史的教訓にほかならないのです。
Dアメリカのある社会学者が「自由を祝福することはやさしい。それに比べて自由を擁護することは困難である。しかし自由を14擁護することに比べて、自由を市民が日々行使することはさらに困難である。」と言っておりますが、ここにも基本的に同じ発想があるのです。私たちの社会が自由だ自由だといって、自由であることを祝福している間に、いつの間にかその15自由の実質はからっぽになっていないとも限らない。自由は置き物のようにそこにあるのでなく、現実の行使によってだけ守られる、言い換えれば日々自由になろうとすることによって、初めて自由であり得るということなのです。その意味では近代社会の自由とか権利とかいうものは、どうやら生活の16惰性を好む者、毎日の生活さえなんとか安全に過ごせたら、物事の判断などは人に預けてもいいと思っている人、あるいはアームチェアから立ち上がるよりもそれに深々と寄りかかっていたい気性の持ち主などにとっては、甚だもって17厄介な18代物だと言えましょう。
(注)@末弘厳太郎 1888〜1951年。法律学者。Aナポレオン三世 1808〜1873年。1852〜1870年まで帝政を」開いたフランスの皇帝。Bクーデター 非常手段による政権の拡大、または奪取をいう。ここではナポレオン三世による1851年の大統領から独裁者への移行を言う。Cヒットラー 1889〜1945年。ドイツの宰相兼総統。ナチス政権の指導者。Dアメリカのある社会学者 ライト・ミルズ。
一 次のカタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 民法のコウギ 2 サイソクされない 3 シュシも含まれて
4 ジユウカクトク 5 若干 6 オコタっている 7 自由をヨウゴする
8 生活のダセイ 9 気性 10 荷厄介
二 傍線部1〜18の問いに答えよ。
1 辞書で意味を調べよ。
2 辞書で意味を調べよ。
3 同じ趣旨の表現を全て抜き出せ。
4 説明せよ。
債権 辞書で意味を調べよ。
喪失 辞書で意味を調べよ。
5 どのようなことか。
6 (1)「自由獲得の歴史的なプロセス」、「将来に向かって投射した」同じ意味の個所をそれぞれ抜き出せ。
(2)「投射した」の主語を記せ。
7 指示内容を記せ。
8 何か、該当する箇所を抜き出せ。
9 辞書で意味を調べよ。
10 辞書で意味を調べよ。
11 辞書で意味を調べよ。
12 説明せよ。
13 具体的に言っている個所を抜き出せ。
14 辞書で意味を調べよ。
15どういうことか説明せよ。
16 辞書で意味を調べよ。
17 辞書で意味を調べよ。
18 辞書で意味を調べよ
1 解答
一 1 講義 2 催促 3 趣旨 4 自由獲得 5 じゃっかん 6 怠 7 擁護 8 惰性
9 きしょう 10 にやっかい
二 1 長い間続いた事実状態を尊重し、その状態が法律的に正当でなくても、これを正当な法律状態と認め
ること。2 悪いことを隠して、知らぬ顔をすること。
3 気の弱い前任の貸し手。自分は債権者であるという位置に安住している。主権者であることに安住
して、その権利の行使を怠っている。自由だ自由だといって、自由であることを祝福している。
生活の惰性を好む。、毎日の生活さえなんとか安全に過ごせたら、物事の判断などは人に預けてもいいと思
っている人。あるいはアームチェアから立ち上がるよりもそれに深々と寄りかかっていたい気性の持ち主。
4 相手に請求する権利を持っている自分の位置に安心し、請求する権利の行使をしないと請求する権利
を失う。
債権 財産に関して、ある人が他のある人に対してある行為を請求しうる権利。
喪失 失うこと。
5 素見・自由・民主主義などにおいても共通する近代社会の根本をなす考え方。
6(1)「自由獲得の歴史的なプロセス」「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」
「将来に向かって投射」「国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」
(2)この規定(第十二条)7 第十二条 8「権利の上に長く眠っている者は民法の保護に値しない
という趣旨」 9 多少。10 内容に乏しくすきだらけなこと。 11 思想を発し表すこと。
12 民主主義を育て守るために、人民の血を流した西欧民主主義の歴史。
13「国民は今や主権者となった、しかし主権者であることに安住して、その権利の行使を怠っていると、ある朝目覚めてみると、もはや主権者でなくなっているといった事態が起こるぞ。」
14 かばい守ること。15 自由を守る諸制度が形骸化していること。
16 今までの習慣。 17 自分の負担としてもてあますこと。 18 品物。
2近代社会における制度の考え方
自由人という言葉がしばしば用いられています。しかし自分は自由であると信じている人間はかえって1不断に自分の思考や行動を点検したり2吟味したりすることを怠りがちになるために、実は3自分自身の中に巣食う偏見から最も自由でないことがまれではないのです。逆に、自分がとらわれていることを痛切に意識し、4自分の偏向性をいつも見つめている者は、なんとかして、より自由に物事を認識し判断したいという努力をすることによって5相対的に自由になり得るチャンスに恵まれていることになります。制度についてもこれと似たような関係があります。
民主主義というものは、人民が本来6制度の自己目的化――@物神化――を不断に警戒し、制度の現実のはたらき方をたえず監視し批判する姿勢によって、初めて生きたものとなり得るのです。それは民主主義という名の制度自体について何より当てはまる。つまり自由と同じように民主主義も、7不断の民主化によって辛うじて民主主義であり得るような、そうした性格を本質的に持っています。民主主義的思考とは、定義や結論よりも8プロセスを重視することだと言われることの、最も9内奥の意味がそこにあるわけです。
10このように見てくると、債権は行使することによって債権であり得るというロジックは、およそ近代社会の制度やモラル、ないしは物事の判断のしかたを深く規定している11「哲学」にまで広げて考えられるでしょう。
12A「プディングの味は食べてみなければわからない。」という有名な言葉がありますが、プディングの中に、いわばその13属性として味が内在していると考えるか、それとも食べるという現実の行為を通じて、美味かどうかがそのつど検証されると考えるかは、およそ社会組織や人間関係や制度の価値を判定する際の二つの極を形成する考え方だと思います。政治・経済・文化などいろいろな領域で14「先天的」に通用していた権威に対して、現実的な機能と効用を15「問う」近代精神のBダイナミックスは、まさに右のような「16である」論理・「である」価値から「する」論理・「する」価値への相対的な重点の移動によって生まれたものです。もしCハムレット時代の人間にとって"to be or not to be"が最大の問題であったとするならば、近代社会の人間はむしろ"to do or not to do"という問いがますます大きな関心事になってきたと言えるでしょう。
もちろん「『である』こと」に基づく組織(たとえば血族関係とか、人種団体とか)や価値判断のしかたは17将来とてもなくなるわけではないし、「『する』こと」の原則があらゆる領域で無差別に18謳歌されてよいものでもありません。しかし、私たちは19こういう二つの図式を想定することによって、そこから具体的な国の政治・経済その他さまざまの社会的領域での民主化の実質的な進展の程度とか、制度と思考習慣とのギャップとかいった事柄を測定する一つの基準を得ることができます。そればかりでなく、たとえばある面では甚だしく20非近代的でありながら、他の面ではまたおそろしく21過近代的でもある現代日本の問題を、反省する手がかりにもなるのではないでしょうか。
(注)@プディング プリン。A物神化 物が神霊の宿るものとして崇拝の対象となること。ここでは、本来手段であったものそれ自体に価値があると思われるようになること。
Bダイナミックス dynamics(英語)。原動力。Cハムレット Hamlet イギリスの劇作家シェイクスピア(1564〜1616年)の作品『ハムレット』の主人公。"to be 〜"はハムレットのせりふ。
一 次のカタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 フダンに自分の思考や行動を 2 ギンミしたり 3 捉われる 4 辛うじて
5 もっともナイオウの 6 味がナイザイしている 7 ビミかどうか
8 センテンテキ 9ソウタイテキ 10 謳歌
二 傍線部1〜の問いに答えよ。
1 辞書で意味を調べよ。
2 辞書で意味を調べよ。
3 説明せよ。
4 どうしている者のことか。
5 具体的にどういうことか。
6 説明せよ。
7 具体的の述べている個所を抜き出せ。
8 なぜか。
9 辞書で意味を調べよ。
10 どの文以降を受けているか。
11 なぜ「 」がついているか。
12 日本のことわざで言うと何になるか。
属性 内在 辞書で意味を調べよ。
13 説明せよ。
先天的 辞書で意味を調べよ。
14 なぜ「 」がついているか。
15 なぜ「 」がついているか。
16 それぞれ説明せよ。
17 辞書で意味を調べよ。
18 辞書で意味を調べよ。
19 何のことか。
20 どういう状態のことか。
21 どういう状態のことか。
2 解答
一 次のカタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 不断 2 吟味 3 とら 4 かろ 5 内奥 6 内在 7先天的 8 相対的 9 おうか
10 思考習慣
二 1 いつも。 2 理論・品質・内容・罪状などについて詳しく調べ確かめること。
3 自分自身が無意識に持っている偏見にとらわれていること。
4 自分が偏見にとらわれていることを自覚し、それから自由であろうと心がけている者。
5 「自分は自由であると信じている人間」に」比べて自由。
6 制度=目的のための手段 目的=目的 物神化=偶像
7 「制度の現実のはたらき方をたえず監視し批判する」
8 定義や結論=民主主義という名 プロセス=不断の民主化
9 内側に深く隠れた所。
10 「学生時代に・・・」
11 学問としての「哲学」でなく、人生観・世界観であるため。
12 論より証拠。花より団子。百聞は一見にしかず。属性=事物の性質・特長。内在=
13 そのものの性質として味が本来備わっている。 14 検証なしに。
15 ×問い正す。○「その都度検証」「実験のふるいにかける」
16 「である」論理・「である」価値 既成の権威や概念を検証することなく、現在あるがままに認める論理と価値観。 「する」論理・「する」価値 既成の権威や概念をそのまま認めず、現実的な機能と効用を絶えず検証して、ゆく論理と価値観。
17 将来といえども。18 声をそろえてほめたたえること。
19 「である」論理・価値と「する」論理・価値。
20 「する」論理・価値が根付かなければならない領域にそれは欠けいる。
21 「する」論理・価値がむやみに浸透している。
3 徳川時代を例にとると
次に、右のような典型の対照をより明瞭にするために、徳川時代のような社会を例にとってみます。言うまでもなく、そこでは出生とか家柄とか年齢(年寄り)とかいう要素が社会関係において決定的な役割を担っていますし、それらはいずれも私たちの現実の行動によって変えることのできない意味を持っています。したがって、こういう社会では権力関係も1モラルも、一般的なものの考え方の上でも、2何をするかということよりも、3何であるかということが価値判断の重要な基準となるわけです。
人々の振る舞い方も交わり方もここでは彼が何であるかということから、いわば自然に流れ出てきます。武士は武士らしく、町人は町人にふさわしくというのが、そこでの4基本的なモラルであります。各人がそれぞれ指定された5分に安んずることが、こうした社会の秩序維持にとって生命的な要求になっております。こういう社会では、同郷とか同族とか同身分とかいった6既定の間柄が人間関係の中心になり、仕事や目的活動を通じて未知の人と多様な関係を結ぶというようなことは、実際にもあまり多くは起こりませんが、そういう「『する』こと」に基づく関係にしても、できるだけ「である」関係をモデルとし、それに近づこうとする傾向があるのです。
一 次のカタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 テンケイの対照 2 よりメイリョウにする 3 決定的なヤクワリ 4 ニナっています
5 カクジンがそれぞれ 6 チツジョイジ 7 ドウキョウとか同族
8 キテイの間柄 9 ミチの人と 10 ケイコウがある
二 傍線部1〜6の問いに答えよ。
1 辞書で意味を調べよ。
2 具体的に述べている個所を抜き出せ。
3 具体的に述べている個所を抜き出せ。
4 具体的に述べている個所を抜き出せ
5 分かりやすく説明せよ。
6 具体的に述べている個所を抜き出せ。
3 解答
一 1 典型 2 明瞭 3 役割 4 担 5 各人 6 秩序維持 7 同郷
8 規定 9 未知 10 傾向
二 1 道徳。倫理。2 未知の人と多様な関係を結ぶ。3 出生とか家柄とか年齢(年寄り)とかいう要素。
4 武士は武士らしく、町人は町人にふさわしく。 5 「らしい」生活を送ることに満足する。
6 「同郷とか同族とか同身分」
4 「である」社会と「である」道徳
徳川時代の様な社会では大名であること、名主であることkら、その人間がいかに1ふるまうかという型がおのずから決まってきます。したがって、こういう社会でコミュニケーションが成り立つためには、相手が何者であるのか、つまり侍か百姓か町人かが2外部的に識別されることが第一の要件となります。服装、身なり、言葉遣いなどで一見して相手の身分がわからなければ、どういう作法で相手に対してよいか見当がつかないからです。しかし逆に言えば、こういう社会では、人々の集まりで相互に何者であるかが判明していれば――また事実そこでは3未知の者の集会はまずあまり見られないのですが――別段討議の手続きやルールを作らなくても、また「会議の精神」を養わなくても、「らしく」の道徳に従って話し合いはおのずから4軌道に乗るわけなのです。
言い換えるならば、5赤の他人の間のモラルというものは、ここではあまり発達しないし、発達する必要もない。いわゆる公共道徳、パブリックな道徳と言われているものは、この赤の他人どうしの道徳のことです。たとえば6儒教の有名な7五倫という人間の基本的関係を見ますと、8君臣、父子、夫婦、兄弟、9朋友であります。このうち初めの四つの関係は縦の上下関係とされ、朋友だけが横の関係です。そうして友達関係をさらに超えた他人と他人との横の関係というものは、儒教の基本的な10人倫の中に入ってこない。つまりこれは儒教道徳が典型的な「である」モラルであり、儒教を生んだ社会、また儒教的な道徳が人間関係の要と考えられている社会が、典型的な「である」社会だということを物語っております。これに対して赤の他人どうしの間に関係を取り結ぶ必要が増大してきますと、どうしても組織や制度の性格が変わってくるし、またモラルも「である」道徳だけでは済まなくなります。
一 次のカタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 メイリョウにするために 2 名主 3 侍 4 どういうサホウ 5 キドウに乗る
6 儒教 7 五倫 8 君臣 9 朋友 10 必要がゾウダイしてきますと
二 傍線部1〜10の問いに答えよ。
1 「ふるまうかという型」はどう決まっているか。
2 説明せよ。
3 このしゃかいでは「未知の者の集会」はどうなるか。
4 辞書で意味を調べよ。
5 (1)「赤の他人の間のモラル」を文中ではどう言い換えているか。
(2)それが「あまり発達しないし、発達する必要もんし」のはなぜか。
6 辞書で意味を調べよ。
7 辞書で意味を調べよ。
8 辞書で意味を調べよ。
9 辞書で意味を調べよ。
10 辞書で意味を調べよ。
4 解答
一 1 明瞭 2 なぬし 3 さむらい 4 作法 5 軌道 6 じゅきょう 7 ごりん
8 くんしん 9 ほうゆう 10 増大
二 1 外部的に識別されることが第一の要件。 2 何者であるかが識別されること。 3 ない
4 仕事が順調に運ぶようになる。
5(1)「公共道徳、パブリックな道徳」
(2)「である」社会では身分や地位の判然としない「赤の他人」は存在しがたいから。
6 古代中国に起こった、孔子の思想に基づく教え。
7 人の常に寄るべき五つの道。君臣の義、父子の親、夫婦の別、長幼の序、朋友の信。
8 主君と臣下。9 ともだち。 10 人間の秩序関係。
5 業績本位という意味
1「である」論理から「する」論理への推移は、必ずしも人々がある朝目覚めて突如ものの考え方を変えた結果ではありません。2これは、生産力が高まり、交通が発展して社会関係が複雑多様になるにしたがって、家柄とか同族とかいった3素性に基づく人間関係に代わって、何かをする目的で――その目的の限りで取り結ぶ関係や制度の比重が増してゆくという社会過程の一つの側面にほかならないのです。近代社会を特徴づける社会学者のいわゆる機能集団――会社・政党・組合・教育団体など――の組織は本来的に「『する』こと」の原理に基づいています。そうした団体の存在理由が、そもそもある特定の目的活動を離れては考えられないし、団体内部の地位や職能の分化も4仕事の必要から生まれたものであるからです。封建社会の君主と違って、会社の上役や団体の5リーダーの偉さは上役であることから発するものでなくて、どこまでも彼の業績が価値を判定する基準となるわけです。
武士は6行住坐臥常に武士であり、またあらねばならない。しかし会社の課長はそうではない。彼の下役との関係は7まるごとの人間関係でなく、仕事という側面についての上下関係だけであるはずです。アメリカ映画などで、勤務時間が終わった瞬間に社長と社員あるいはタイピストとの命令服従関係が普通の市民関係に一変する光景がしばしば見られますが、これも「『する』こと」に基づく上下関係からすれば当然の8事理にすぎないのです。もし日本で必ずしもこういう関係が成立してないとするならば、――仕事以外の娯楽や家庭の交際にまで会社の「間柄」がつきまとうとするならば――職能関係がそれだけ「身分」的になっているわけだと言えましょう。
こういう例でおわかりになりますように、「する」社会と「する」論理への移行は、具体的な歴史的発展の過程では、すべての領域に同じテンポで進行するのでもなければ、またそうした社会関係の変化がいわば自動的に人々のものの考え方なり、価値意識を変えてゆくものでもありません。そういう領域による9落差、また、同じ領域での10組織の論理と、その組織を現実に動かしている人々のモラルの食い違いということからして、同じ近代社会といってもさまざまのバリエーションが生まれてくるわけです。
一 次のカタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 トツジョもおの考えかたを 2 フクザツタヨウ 3 シャカイカテイ
4 キジュンとなる 5 行住坐臥 6 ゴラクや家庭の交際 7 ショクノカンケイ
8 グタイテキ 9 すべてのリョウイキ 10 領域によるラクサ
二 傍線部1〜9の問いに答えよ。
1 どのようにして生まれてきたか。
2 指示内容を記せ。
3 辞書で意味を調べよ。
4 どういう意味が含まれているか。
5 日本の現状ではどんな点で考えられているか。
6 辞書で意味を調べよ。
7 説明せよ。
8 辞書で意味を調べよ。
9 辞書で意味を調べよ。
10 説明せよ。
5 解答
一 1 突如 2 複雑多様 3 社会過程 4 基準 5 ぎょうじゅうざが 6 娯楽 7 職能関係
8 具体的 9 領域 10 落差
二 1 生産力の向上、交通のなどで社会関係が複雑多様になり、する目的で取り結ぶ関係の比重が増したか
ら。 2 「である」論理から「する」論理への推移。 3 血筋。家柄。
4 「する」意味が含まれている。「業績」も同じ。
5 まだまだ、「身分的」意味でとらえあられているところがある。
6 行き来起き臥しの日常の降るまい。7 すべての面で結びつきを持っている関係。
8 物事の道理。 9 高低の差。 10 組織の目的を効果的に遂行するための論理。
6 日本の急激な1「近代化」
「世の中にむつかしきことをする人を貴き人といひ、やすきことをする人を賤しき人というなり。本を読み、
物事を考えて、世間のために役に立つことをするはむつかしき事なり。さればひとの貴きと賤しきの区別はただその人のする仕事の」むつかしさとやすきによるものゆえ、いま」大名、公卿、さむらいなどとて、馬に乗りたり、大小を挿したり形は立派に見えても、そのはらのなかはあき樽のやうにがら空きにて、・・・ぽかりぽかりと日を送るものは大そう世間におほし。なんとこんな人を見て貴き人だの身分の重き人だのといふはずはあるまじ。ただこの人たちは先祖代々から持ち伝えられたお金やお米があるゆえ、あのやうに立派にしてゐるばかりにて、その2正味はいあやしき人なり」これは福沢諭吉が維新のころ幼児のために書き与えた「日々のおしへ」の一節であります。
ここには、家柄や資産などの「である」価値から「する」価値へという、価値基準の歴史的な変格の意味が、このような素朴な表現のはしにもあざやかに3浮彫りにされております。近代日本のダイナミックな4「躍進」の背景には、たしかにこうした「する」価値への転換が作用していたことはうたがいないことです。けれども同時に、 5日本の近代の宿命的な混乱は、一方で「する」価値が猛烈な勢いで6浸透しながら、他方では7強靭に「である」価値が根を張り、そのうえ、8「する」原理を建て前とする組織が、しばしば「である」社会のモラルによってセメント化されてきたところに発しているわけなのです。
伝統的な身分が急激に崩壊しながら、他方で自発的な集団形成と自主的なコミュニケーションの発達が妨げられ、会議と討論の社会的基礎が9成熟しないときにどういうことになるか。続々とできる近代的組織や制度は、それぞれ多少とも閉鎖的な集団を形成し、そこでは10「うち」のメンバーの意識と「うちらしく」の道徳が大手を振って通用します。しかも一歩「そと」に出れば、武士とか町人とかの「である」社会の作法はもはや通用しないような赤の他人との接触が待ち構えている。人々は大小さまざまの「うち」的集団に関係しながら、しかもそれぞれの集団によって「する」価値の11浸潤の程度はさまざまなのですから、どうしても同じ人間が場所柄に応じていろいろに振る舞い方を使い分けなければならなくなります。私たち日本人が「である」行動様式と「する」行動様式とのごった返しの中で多少ともノイローゼ症状を呈していることは、すでに明治末年に漱石が鋭く見抜いていたところです。
一 次のカタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 貴き人 2 賤しき人 3 公卿 4 ソボクな表現 5 シュクメイテキ
6 急激にホウカイしながら 7 社会的基礎がセイジュクしないと 8 ヘイサテキ
9 他人とのセッショク 10 価値のシンジュンの程度
二 傍線部1〜11の問いに答えよ。
1 なぜ「 」が付いているか
2 辞書で意味を調べよ。
3 辞書で意味を調べよ。
4 なぜ「 」がついているのか。
5 (1)「宿命的」になぜ「 」がついているのか。
(2)具体的に説明せよ。
6 辞書で意味を調べよ。
7 辞書で意味を調べよ。
8 (1)セメント化を別の語で言い換えよ。
(2)説明せよ。
9 辞書で意味を調べよ。
10 どういうことか分かりやすく説明せよ。
11 辞書で意味を調べよ。
6 解答
一 1 とうと 2 いや 3 くぎょう 4 素朴 5 宿命的 6 崩壊 7 成熟
8 閉鎖的 9 接触 10 浸潤
二 1 「「する」原理を建て前とする組織が、しばしば「である」社会のモラルによってセメント化されてき
た」から。
2 内容。 3 物事の様子・なりゆきなどをありありと見せつけること。
4 近代化の実態は手放しで肯定できるものではないという批判している。
5(1)やむを得なかったという見方を批判している。
(2) 形式的には近代化されたかに見えても、封建的なモラルが根強く残り、近代精神の成熟を妨げた
ための混乱。
6 しみこむこと。 7 強く粘り気のあること。
8 (1)硬直化。固定化。
(2)である」社会のモラルが強く残っており、「する」組織自体が機能を果たせなくなっていること。
9 十分に成長すること。
10 近代的組織の中に、閉鎖的な「である」社会をつくり、そこを「うち」として固定化しそれに寄り添っ
ていこうとすること。
11 次第に犯してひろがること。
7「する」価値と「である」価値との1倒錯
この矛盾は、戦前の日本では、2周知のように「臣民の道」という行動様式への帰一によって、かろうじて3弥縫されていたわけです。とすれば「国体」という支柱が取り払われ、しかもいわゆる大衆社会的諸相が急激に4蔓延した戦後において、日本が文明開化以来抱えてきた問題性が爆発的に各所にあらわになったとしても怪しむに足りないでしょう。ここで厄介なのは、単に前近代性の根強さだけではありません。
むしろより厄介なのは、これまであげた政治の例が示しているように「5『する』こと」の価値に基づく不断の検証が最も必要なところでは、それが著しく欠けているのに、他方6さほど切実な必要のない面、あるいは世界的に「する」価値のとめどない侵入が反省されようとしているような部面では、かえって効用と能率原理が驚くべき速度と規模で進展しているという点なのです。
それはとくに大都市の消費文化において甚だしいのです。私たちの住居の変化――「である」原理が象徴している床の間つき客間の7衰退に代わって、「使う」見地からの台所・居間の進出や家具の機能化――とか、日本式宿屋――ご承知のようにある室の客であることから食事その他あらゆるサービスの8享受権が流れ出ます。なじみの客ほどそうです――がホテル化していく傾向などはまだそれなりの意味もありましょう。しかしたとえば9休日や閑暇の問題になるとどうだろうか。都会の勤め人や学生にとって休日はもはや静かな憩いと安息の日ではなく、日曜大工から夜行列車のスキーまで、むしろ休日こそ恐ろしく多忙に「する」日と化しています。最近も「レジャーをいかに使うか」というアンケートをもらったことがあります。レジャーは「『する』こと」からの解放ではなくて、最も有効に時間を組織化するのに苦心する問題になったわけです。それだけではありません。学芸のあり方を見れば、そこにはすでに滔々として大衆的な効果と10卑近な実用の規準が押し寄せてきている。最近もあるアメリカの知人が、アメリカでは研究者の昇進がますます論文著書の内容よりも、一定期間にいくら多くのアルバイトを出したかで決められる傾向があるという嘆きを私に語っていたことがあります。日本の大学における教授の終身制は一面ではたしかに学問的不毛の源泉であり、なんらかの実効的な検証が必要と言えます。けれども11皮肉なことには、こうした12日本の大学の身分的要素が、右のような形の13業績主義の無制限な氾濫に対する防波堤にもなっているのでして、それほど文化の一般的芸能化の傾向はすさまじいと言わねばなりません。
一 次のカタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 価値とのトウサク 2 シュウチのように 3 行動様式へのキイツ 4 弥縫
5 蔓延 6 ここでヤッカイなのは 6 原理がショウチョウしている 7 客間のスイタイ
8 享受 9 閑暇 10 ヒキンな「実用」の基準
二 傍線部1〜11の問いに答えよ。
1 辞書で意味を調べよ。
2 辞書で意味を調べよ。
3 辞書で意味を調べよ。
4 辞書で意味を調べよ。
5 このことを簡潔に表した言葉を記せ。
6 このことを簡潔に表した言葉を記せ。
7 辞書で意味を調べよ。
8 辞書で意味を調べよ。
9 どういうところに問題があるか。
10 辞書で意味を調べよ。
11 辞書で意味を調べよ。
12 具体的に何か抜き出せ。
13 具体的に説明せよ。
7 解答
一 1 倒錯 2 周知 3 帰一 4 びほう 5 まんえん 6 厄介 7 衰退
8 享受 9 かんか 10 卑近
二 1 逆になる。 2 広く人のあいだに知れ渡ること。 3 一時的に間にあわせること。
4 のびひろがること。 5 非近代的。 6 過近代的。 7 力や勢いがおとろえ退歩すること。
8 受け取って自分の物にすること。 9 休日を多忙に過ごしていること。
10 身近でありふれていること。 11 意地悪に見えること。 12 終身制。
13 アメリカの研究者は、たくさんアルバイトを出すと昇進すること。
8 学問や芸術における価値の意味
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アンドレ・シーグフリードが『現代』という書物の中でこういう意味のことを言っております。「教養においては――ここで教養とシーグフリードが言っているのは、いわゆる物知りという意味の教養ではなくて、内面的な精神生活のことを言うのですが――しかるべき手段、しかるべき方法を用いて果たすべき機能が問題なのではなくて、自分について知ること、自分と社会との関係や自然との関係について、自覚を持つこと、これが問題なのだ。」そうして彼はちょうど「である」と「する」という言葉を使って、教養のかけがえのない個体性が、彼のすることではなくて、彼があるところに、あるという自覚を持とうとするところに軸を置いていることを強調しています。ですから彼によれば芸術や教養は「1果実よりは花」なのであり、そのもたらす結果よりもそれ自体に価値があるというわけです。こうした文化での価値規準を大衆の2嗜好や多数決で決められないのは3そのためです。古典というものがなぜ学問や芸術の世界で意味を持っているかということがまさにこの問題にかかわってきます。
政治や経済の制度と活動には、学問や芸術の創造活動の源泉としての古典に当たるようなものはありません。せいぜい先例と過去の教訓があるだけであり、それは4両者の重大な違いを暗示しています。5政治にはそれ自体としての価値などというものはないのです。政治はどこまでも6「果実」によって判定されねばなりません。政治家や企業家、とくに現代の政治家にとって7無為は価値でなく、むしろ無能と連結されてもしかたのない言葉になっています。ところが文化的創造にとっては、なるほど怠けることは何物をも意味しない。先ほどのアルバイトにしても、何も8寡作であることが立派な学者、立派な芸術家というわけでは少しもない。しかしながら、こういう文化的な精神活動では、休止とは必ずしも9怠惰ではない。10そこではしばしば11休止がちょうど音楽における休止符のように、それ自体生きた意味を持っています。ですから、この世界で12瞑想や13静閑が昔から尊ばれてきたのには、それだけの根拠があり、必ずしもそれを時代遅れの考え方とは言えないと思います。14文化的創造にとっては、ただ前へ前へと進むとか、不断に忙しく働いているということよりも、価値の蓄積ということが何より大事だからです。
(注)@アンドレ・シーグフリード Andre Siegfried (1875〜1959年)。フランスの経済学者。『現代』は1955年刊。
一 次のカタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 はたすべきキノウ 2 ジカクを持つこと 3 カジツよりは花 4 カチキジュン
5 嗜好 6 違いをアンジしています 7 無為 8 寡作 9 瞑想
10 価値のチクセキ
二 傍線部1〜14の問いに答えよ。
1 (1)「果実」と「花」は何の比喩か。
(2)どういうことか。
2 辞書で意味を調べよ。
3 指示内容を記せ。
4 指示内容を記せ。
5 政治の価値はどのようなものと考えられるか。
6 何か、抜き出せ。
7 辞書で意味を調べよ。
8 辞書で意味を調べよ。
9 辞書で意味を調べよ。
10 指示内容を記せ。
11 どういうことか説明せよ。
12 辞書で意味を調べよ。
13 辞書で意味を調べよ。
14(1)「価値の蓄積」はなにによってもたらされるか。
(2)どのようなことの理由になっているか。
8 解答
一 1 機能 2 自覚 3 果実 4 価値基準 5 しこう 6 暗示 7 むい 8 かさく
9 めいそう 10 蓄積
二 1 (1)果実=結果 「する」価値 花=美しさ 「である」価値
(2)芸術や教養は結果よりもそれ自体に価値がある。
2 たしなむこと。
3 芸術や教養は「果実よりは花」なのであり、そのもたらす結果よりもそれ自体に価値がある
4 政治・経済と学問・芸術。
5 そのもたらす結果によって判断される。 6 そのもたらす結果。
7 ぶらぶらとなにもしないでいること。 8 芸術家などが作品を少ししか作らないこと。
9 すべきことを怠けて、だらしない性質・様子。
10 文化的な精神活動。
11 文化的な精神活動においては、休止することで瞑想し活動につなげていく。休止府で音の連続をや
めることと同様である。
12 目を閉じて静かに考えること。 13 物静かなさま。
14 (1)瞑想や静閑
(2)芸術や学問の世界で瞑想や静閑が昔から尊ばれ、それを時代遅れの考え方だとはいえない事。
9 価値倒錯を再転倒するために
現代のような政治化の時代においては、深く内に蓄えられたものへの確信に支えられてこそ、1文化の(文化人のではない!)立場からする政治への発言と行動が本当に生きてくるのではないでしょうか。まさにそうした行動によって2「である」価値と「する」価値の倒錯――前者の否定しがたい意味を持つ部面に後者が蔓延し、3後者によって批判されるべきところに4前者が5居座っているという倒錯を6再転倒する道が開かれるのです。もし、私の申しました趣旨が、政治的な事柄から文化の問題に移行すると、にわかに「保守的」になったのを怪しむ方があるならば、私は誤解を恐れずに、次のように答えるしかありません。現代日本の知的世界に切実に不足し、最も要求されるのは、7ラディカル(根底的)な精神的貴族主義がラディカルな民主主義と内面的に結びつくことではないか、と。少なくともそれが、今日お話ししましたような角度から現代を診断する場合に、私の抱く正直な感想であります。
一 次のカタカナを漢字に直し、漢字の読みを記せ。
1 蓄えられ 2 カクシンに支えられ 3 倒錯 4 ヒテイしがたい 5 蔓延 6 イスワッテ
7 問題にイコウする 8 ゴカイを恐れずに 9 セツジツに不足し
10 現代をシンダンする
二 傍線部1〜7の問いに答えよ。
1 「文化の立場からする政治への発言と行動」であって、「文化人の立場からする政治への発言と行動」でな
いのはなぜか。
2 詳しく言いなおした部分を抜き出せ。
3、4の指示内容をそれぞれ記せ。
5 辞書で意味を調べよ。
6 具体的にどうすることか。
7 わかりやすく説明せよ。
9 解答
一 1 たくわ 2 確信 3 とうさく 4 否定 5 まんえん 6 居座 7 移行
8 誤解 9 切実 10診断
二 1 文化人と呼ばれる人の発言や行動ではなく、「深く内に蓄えられたもの」を持つ人の春原野行動が重要
だから。
2 「前者の否定しがたい意味を持つ部面に後者が蔓延し、後者によって批判されるべきところに前者が
居座っているという倒錯」
3 「する」価値 4 「である」価値 5 引き続きそのままの地位にいる。
6 「する」価値 と「である」価値を入れ替える。
7 「する」原理で活動するものと、「である」原理で存在するものが一人の中で統合される世界。
三 構成
1 2 3 4 5 |
節 |
(例)民法 債権者であるー安住 債権喪失 (例)日本国憲法第十二条 主権者であるー安住 主権喪失 (例)ナポレオン三世・ヒットラー (例)アメリカの社会学者 自由であるー祝福 自由喪失 (例)精神的自由 自由であるー信じる ↓ 自由でない (例)民主主義 (例)プディングー属性として美味な味が内在 「である」論理・価値 移 近代精神の 「である」組織の存在 二つの図式=社会の実態を測定する一つの 条件 件・現代日本を反省する手がかり (例)徳川時代 振る舞いの型=「である」 話し合い =「らしく」の道徳 道徳 公共道徳=不要 儒教 君臣・父子・夫婦・兄弟 =縦 朋友 =横 「である」社会=「である」道徳 「である」論理 移 (例)家柄・同族 君主 武士 「身分」的―モラル |
「である」こと |
←対策 催促する ←対策 行使する ←対策 擁護・行使する 自由という概念と現実の自由を点検・吟味 ↓ 実質的な自由 民主主義の概念と現実の自由を点検・吟味 ↓ 実質的な自由 プディングの概念とじっさいのプディング を検証する − 実質的なプディング 行 「する」論理・価値 ダイナミックス 「する」ことの原則のみ× 公共道徳=要 討議の手続きやルール=不要 赤の他人の間のモラル 行 「する」論理 理由 生産力向上・交通発達・社会関係複雑 (例)会社・政党・組合 上役・リーダー・課長・ (例)アメリカ映画 社長―社員 仕事 命令服従関係 仕事外 市民関係 日本の職能関係―組織の論理 |
「する」こと |
6 7 8 9 |
節 |
「である」価値 混乱 強靭に根を張る 文明開化以来抱えてきた問題が爆発 「する」価値が必要なところでは欠けている =非近代的 (例)床の間つき客間 日本式宿屋 休日 それ自体=「である」価値 比喩 花 それ自体の価値 無為=無能 文化の面・根底的な精神の貴族主義 「である」価値 |
「である」こと |
(例)福沢諭吉 「日々のおしへ」 「する」価値 近代日本の躍進 猛烈に浸透 戦後 「大衆社会」的様相が蔓延 「する」価値が必要ない面で進展しすぎる =過近代的 台所 居間の進出 家具の機能か ホテル 憩いと安息の日―多忙にする日 (例)アンドレ・シーグフリード もたらす結果・利益=「する」価値 比喩 果実 (例)政治・経済 あくまで果実 文化的な精神活動 休止 価値の蓄積 政治面・根底的な民主主義 「する」価値 価値錯誤を転倒させるためには文化の立場からの政治への発言と行動が必要である。 |
「する」こと |
主題 「する」であるべきところ(政治・経済・業績・能力)に、「である」があり(無為・学閥・血族)、
「である」であるべきところ(学問・芸術)に「する」がある(アルバイト・利益)。
筆者 丸山真男 1914年(大正三)〜1996年(平成八)。政治学者。大阪府生まれ。1946年(昭和二一)に発表した『超国家主義の論理と心理』によって注目され、以後、戦後民主主義思想の展開に指導的役割を果たすようになった。著書に『日本政治思想史研究』『現代政治の思想と行動』『「文明論之概略」を読む』などがある。本文は『日本の思想』(1961年刊)によった。
*戦後民主主義は、筆者の書籍によって定着していったと言える。
新採用の研修で、本稿を用いて経験十年の方が授業をされた。現代文はこういう風に教えるのだと思い、
教材研究に励んだ。