事故調査委員会への提言
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事故調査委員会御中

 尼崎の脱線事故の後のJRの是正措置を見ていると、いちばん
肝心なことが、なおざりにされているように感じています。
 それは、尼崎駅での福知山線と東海道線の合流の解消が、
取り上げられていないことです。 それを含めて、この事故について
かんじていることを、4件ばかりご連絡しておきます。

1.東海道線と福知山線(東西線、田園都市線)の合流は止めるべき
   大動脈の東海道線のダイヤの間に、福知山線の電車が割り込む
 理由が分かりません。 一方にダイヤの乱れが生じたとき、他方に
 乱れを増殖することになります。

   宝塚方面から大阪駅に乗り入れると、関空快速への乗り換えが
 一回で済むというのが、理由の一つと聞いたことがあります。 しかし、
 そんなマイナーなことで、ダイヤの遅れが他の線路に波及し、混乱が
 拡大するのを許していいのでしょうか。

   宝塚から関空快速に乗り継ぐ人は、尼崎駅でも乗り換えてもらって
 いいのではないでしょうか。 宝塚からの電車が大阪で間に合うという
 ことは、そのぶん神戸方面からのちょうどよい電車がない、ということ
 になります。

   事故の前から感じていたことですが、尼崎駅での東海道線と福知山
 線の合流には、違和感を感じていました。 数学的、工学的な直感と
 でもいいましょうか。 複雑系などとも似ているような気がします。

   大阪駅から宝塚方面への直通電車は前に利用したことがあります。
    私はJR環状線の沿線に住んでおり、大阪駅で環状線に乗り換える
 とき、その手前にあまり使われていない、福知山線のホームへの階段
 の側を通ります。

   東海道線と福知山線の合流も、JR東西線ができるまでは仕方が
 ないと思っていました。 でも福知山線が東西線、田園都市線へと
 つながって一本化した後は、そのダイヤが乱れても、他の路線に
 影響ないようにすべきです。

   合流していれば、ダイヤの遅れは必ず他の路線に影響がでます。
   ダイヤの遅れをなくすということは不可能です。 ダイヤが遅れても、
 事故の原因になることはないようにするのが、フェイルセーフの考え方
 です。

   二つの路線が合流する例が、私の近くに他にもあります。 天王寺
 駅での関西本線と阪和線です。 でもこれは、JR環状線を一周した後、
 天王寺駅で終わりですから、影響は拡大しません。 福知山線と合流
 する東海道線は、東は野洲から西は西明石まで、影響が長引きます。

  以上で、合流の問題点は終わりです。 私には、他に3件気になる
  ことがあります。 

2.一つは、事故の原因の大半が、運転手に帰されかねないことです。
   現在のJR西日本の釈明やマスコミの論調を見ると、事故の原因の
 大半が、亡くなった未熟な運転手のせいにさせられかねないようです。

   たとえ事故の直前に、何回もオーバーランしようとも、ダイヤから
 遅れても、たった一人の運転手が無理な速度を出したためだけで、
 700人以上の乗客が影響を受け、100人以上が死亡する事故を
 起こさせるようなシステムであってはいけないように思います。

   だから今後、運転手が原因扱いされればされるほど、このシステム
 が問題が露呈してきます。 それこそ、関係者すべてが避けなければ
 ならないことではないでしょうか。

   最新のATSが付いてれば、事故は避けられたでしょうし、また遅れ
 を取り返さなくてもよい、安全のほうが大切だという企業風土があれば、
 避けられたのではないでしょうか。 合流がなければ、福知山線は
 福知山線だけでダイヤの遅れを収集すればよいのです。

3.もう一つは、JR西日本が高速運行にこだわっている点です。
    民間鉄道がむしろ平均速度を減らしている中で、JRが高速運行に
 こだわっているということです。 その理由は、私は運賃にあると思って
 います。 JRは経営上、運賃では民間鉄道に敵わないことを承知して
 いるから、速度を売り物にしているいるのではないでしょうか。

   私は、JR環状線の沿線に住んでいますが、京都に行くときはJRを
 使いません。 嵐山や東山に行くとき、阪急や京阪で行ったほうが
 便利だし、何よりもJRの駅から乗って、民鉄に乗り換えてでも、その方
 が200円くらい安いです。

   運賃で、民間鉄道に負けないようになって、初めてJR西日本が
 競争力がある体質になったといえるのではないでしょうか。

 4.最後に、電車の構造も問題があります。
   脱線事故そのものは、よくアメリカのアムトラックなどで、車両が
 つぶれずに、いろんな方向に放り投げられている風景をよく目にします。

    しかし、今回はマンションにぶっつかりました。 特に死者の70%
   が乗っていた2両目は、先に左側がマンションに当り、段ボールを
 つぶすように平たくなり、乗客が下側に沈んだ後に、いちばん重い
 車台が、まるでプレスのように乗客を押しつぶしました。

   以上のことは、5月8日(日)の毎日新聞にだけ一面に掲載された、
 事故調査委員会が撮影した写真から見て取れます。 後から当った
 右側面と車台を取り除き、先にマンションに当った左側面と天井と、
 両側のつり革が高さを違えて残っています。

   解体途中の、半分だけ残っている、形がしっかり残っていて、洗浄
 して綺麗になっている、ある意味では不自然な、静寂な写真です。
  普通なら連続して解体し、この状態で写真が撮られることはないと
 思うのに、ここで休みを取ったということは、右側面と車台を外した後、
 多数の遺体があり、それを収容してから、洗浄したのだと推察します。

    高空から落下した飛行機でも、胴体の部分は、その断面を保って
 います。 私は機械屋であるとともに、特に構造を問題にする船舶
 工学の人と一緒に仕事した経験から感じることですが、高速で走れる
 快速電車は、もっと断面剛性があるべきです。

   もっとも、今回の事故では、電車にもっと剛性があったら、マンション
 は耐えられなかったかもしれません。 左側面と天井、右側面と車台と、
 2回に分けて衝突したから、1回の衝撃は小さくなりました。 しかし、
 そのおかげで、70%の死者がでました。

   京都の叡山鉄道のパノラマ電車は、まるで温室みたいな、補強
 なんて何もない電車です。 低速でしか走らないから許されることだと
 思います。 しかし、構造的には、事故を起こした快速電車もパノラマ
 電車も似たり寄ったりです。 

   不思議に思ったのは、事故を起こした電車が、快速では普通の、
 前後向き、4人がけの座席ではなく、各駅停車の両側横向きの座席
 だったことです。 もし4人がけだったら、座席は少しはつぶれ防止の
 役に立ったのではないか、ということです。

   実際は大して役に立たなかったかもしれません。 しかし、4人がけ
 ということが大切で、4人がけの座席の背のスペースを利用して、
 つぶれ防止の斜めのストラット(建物では筋交い)を、乗客に不便を
 与えることなく、入れられるのではないか、ということです。 

   今後、事故を反面教師として、車両の軽量化の反省が生まれ、
  構造的に補強されるでしょうが、筋交いがなければ、大きな補強は
 期待できないと思います。

   以上、事故以来、怨念のように、ずっと考えてきたことを書きました。
   マスコミでは伝えていない視点をも含んでいると思いますので、
 今後の参考になれば幸いです。

中村 貞明(68歳)