ジペルディ家のマルヴェイル祭
『グリュックリヒ ターク フェアレーベン シモーヌ姫』
(一応失礼にはあたらない範囲で)朝一番に訪れた異国の王子は、奇妙な挨拶?と共に箱を差し出してきた。
「おはようございます、オースティン殿、その変わった挨拶と箱は何の謎掛けですの?」
『わが国の習慣・・といったところでしょうか、箱の中を見ていただけますか?』
「では早速拝見させて頂きますわ・・・・これは・・・」
箱の中にはガラス細工のバラの花が一本・・・名のある職人が作ったであろう繊細な美しい品。
「綺麗・・・誰か、これを飾るに相応しい花瓶を持て」
『あっ!お待ちを!シモーヌ姫』
「? 何か不都合でも?」
『実は、驚かせようと思って黙っていたのですが・・・実はそれは飴なのです』
「あめ? お菓子の?・・・これがですか?」
・・・確か、王家主催の宴で菓子の飾りに使われた飴細工を見たことがあったが、それとは大きさも美しさもまるで違う。
『ええ、本当ですよ、・・・ほら』
そう言うと、贈り主は躊躇なくバラの葉を折り取る・・・あっけなく折れた葉を持ち
『・・・困りましたね、贈った物を私が口にしてよいものか・・』
「本当に食べ物だと仰るのなら、食べて証明してくださいな」
『では、失礼して・・・』
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・・・本当に食べてしまった・・・試しに同じようにしてみると・・やはり飴だった・・・。
「驚きましたわ、御国は宝石細工が素晴らしいと聞いてはいましたが、このようなものも作っておられるのですね」
『実は本日ローデンクランツでは“大切な人と飴を交換する”という習慣がありましてな、このようなものを貴族相手に作る職人もいるのですよ・・・まあ、そういうわけで、それは早めに召し上がっていただいたほうが宜しいかと』
「壊すのは勿体ないのですが、そうしたほうがよさそうですね・・・・ああ、でも“交換”と言っても何も・・」
『私が勝手に持ってきたのですから、お気になさらずに』
「しかし・・・」
『そろそろお茶の準備が出来たようですね、ではその茶菓子の中にある飴を頂けますか?』
「このような物で宜しかったら・・・グリュックリヒ ターク フェアレーベン?でしたか?」
『わざわざ、挨拶の言葉までありがとうございます』
「では、お茶と一緒にもっとお国の話を聞かせてくださいませ」
後日、兄から弟への手紙
親愛なる弟へ
やあ、オースティン、元気にしているかい?
勉強の方はかなり成績優秀だと聞いた、何よりな事だが体だけは大事にしてくれ。
・・・ところで、こっち(ローデンクランツ)で“お前がブラヒスト王女とマルヴェイル祭の飴を交換した”ともっぱらの噂なのだが、お前から『あのバラの花』を送れと言われた時から、どこぞの高貴な女性に“贈る”のだとはおもってはいたのだが、“交換”とはな。
まさかとは思うのだが『相手が何も知らないのをいい事に既成事実を積み上げる』というのが真相・・・というのではないだろうな?
お前のことだから遊びではないと思うのだが、危険な真似はよした方がいい。
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弟から兄への返信
親愛なる兄上
御自分がルチアナ殿との話がうまく進まないからと、人の話に水をささないでください。
まあ、そちらで「弟に先を越されるのか」とか「弟の方がしっかりしている」などと言われているのでしょうが、言われたく無いのであればさっさとルチアナ殿を正妃にすることを重臣たちに認めさせることです。
今度帰国したときに相談にのってあげますよ。