ジークの子守唄
ペットバトン没ネタより
「・・・この格好では家に帰れませんね・・・」
今日は天気が良かったので、ヴァールの森から離れたところにある森まで薬草採取に出ました。
ふと崖を見下ろしたとき見つけた一群の草。
「あれを見るのは100年ぶりですか?絶滅したとばかり思っていましたが・・・この崖の途中にあるので取られずに済んだのでしょうね」
あの草が採れなくなって代わりの薬効を持つ草は見つかっていない(それだけ効果のある草だから乱獲されたのだが)・・・・栽培も試みたのだが誤って枯らしてしまった・・・・あれを一株だけでも手に入れることが出来れば・・・。
数十mもの高さがある崖の上で悩む事数刻、意を決して取りに行く事にしたのですが・・・・採取後に足を滑らせてしまい・・・。
採取した薬草は葉は痛んでいたものの根には問題なさそうです、が・・・怪我の方は治っているとは言え血に染まって破れた服は再生するわけも無く・・・。
「仕方ありません、貴人の前にこの格好は失礼でしょうがハインツ様にお願いしましょう」
森の外れの別荘にハインツ様がいらしている、今日は採取帰りに挨拶に寄るつもりだった、本当はこの格好で人前に行きたくないのだがヴァールの森に帰るのにこの姿でうろつくのは気が引けた。
「ジーク!どうしたんだその怪我は!・・・・・ふ、服がボロボロだけど?」
私の姿を見るなり心配して駆け寄ってくださったハインツ様、まあ、中身は治っていますしね。
「と、とにかく着替えたまえ、ああ、食事を一緒にしよう」
「その前にこの子(草)を植える鉢をいただけませんか?」
「ジーク・・・まさかその草のためにそんな目にあったのか?」
「ええ、貴重な薬草ですから、医者としての根性です」
「・・・・・・マニア根性の間違いだろう・・・」
植え替え・湯浴み・着替えを済ませ食堂に向かう
「ジーク、紹介しよう私の娘と息子だ、今年で4歳になる・・・おまえたち、この人は私の友人のジークだ」
「始めまして、王子、姫」
「「ジィ?」」
「こっ、こら!お前たちなんて事を!」
「(ひくっ)・・・いえ、かまいませんよ(まあ年だけならお城のじいやよりはるかに上ですし)・・・ところで王妃様は」
「ああ、たまには女同士で盛り上がりたいそうだ。・・・ジーク頼みがあるのだが、しばらくこの子達の相手をしてやってくれないか?」
「宜しいですよ、今日はお世話になりましたからね」
「・・・・・で、この草の名前は・・・」
「ねえ、ジィ、このくさは?」
「ああ、今日採取した薬草です。育てて増やそうと思って採ってきたのですよ」
「ふやす?どうやって?」
「水と肥料を与えて日の光のあたる所において置くと、自分で増えるのですよ、植物は」
「ひりょうってな〜に」
「植物の食事です、森の土とか植物を腐らせた物とか貝殻を砕いた物とか色々あります」
「「・・・・・・・・・」」
・
・・・・・双子たちから目を離したのはほんの10分くらいだった筈だ。
「ねえ、ジィ いつふえるの?」
「たくさんあげたからいっぱいふえるよね?」
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・・・鉢植えはどこからか取ってきた土が被せられ水浸し状態だった・・・
「増えるのには時間がかかります、それに肥料も水も与えすぎると枯れるのですよ」
・
・・落ち着いて、二人とも悪気は無いのです、知的好奇心が過ぎて失敗するのは良く知っているでしょう・・・
必死で自分に言い聞かせ、半分以土(肥料?)に埋まった薬草を掘り起こす。
「たくさんあげたのに、ダメなの?」
「人も植物も大きくなるのに時間がかかるのですよ、一度に沢山食べても急に大きくなれるわけではないのですよ、・・・・・さあ、おやつにしましょう、子供はキチンと食べて大きくなるのが仕事です」
「えどがーより大きくなれる?つよくなれる?けんかにかてる?」
・
・・エドガーとはハインツ様の甥がそういう名前だったような
「カイン、けんかはだめよ」
「だって、エドガーはあねうえよりこぜっとのほうがかわいいっていったんだよ!」
「コゼットとは?」
「エドガーのいもうとよ、いま2さいなの」
「あねうえのほうが、ぜったいかわいい!」
4歳児が9歳に喧嘩を売る・・・・心意気は買いますが、無理がありすぎるのでは・・・
「それならエドガー様より大きくなれるよう、毎日きちんと食べないといけませんね、好き嫌いせずに」
「・・・・・・ぴーまんも?」
「はい」
「にんじんも?」
「エドガー様より大きくなりたいのでしょう?」
「うっ・・・・わかった、たべる」
「ところでジーク、一体どんな魔法を使ったんだ?カインが嫌いなものを残さず食べるなんて」
夕食でカイン様は親の仇のように苦手な物を食べていました。
「ああ、姫をお守りするため早くエドガー様より大きくなりたいらしいです」
「私もルチアナも困っていたんだが・・・さすが年の功と言うべきか・・このまま王宮に来ないか?宮中典医としては腕も申し分ないし、お前になら安心して子供たちを任せられる。」
「ハインツ様!私は・・・」
「国王一家専属の医者を独断で決められるくらいの権力はある、次期国王の教育を任せられる者などそうそう居ないのだ、頼む、決心がついたら連絡をくれ、お前なら“10年後でも採用時20歳”で通るだろうが、なるべく早く決心してくれ」
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・・・これは・・ジークが決心する数年前の話・・・・・