王宮騒動記・前夜祭

 

 カインが即位して早3ヶ月、新体制発足に伴うゴタゴタも片付き、最近の会議にも余裕というか気安さが出てきた。

 毎年恒例の舞踏会を1ヵ月後に控え、今年はどういう風に盛り上げようかと皆楽しそうに話している。

 

オースティン「陛下、この予算を許可して頂きたい。間に合わないといけないので私のほうで既に立て替えてあるのだが」

カイン「叔父上、これは・・・ドレス?」

オースティン「お前の姉のものだ、昨年は喪中のため地味に済ませたからな、陛下も即位なされたことだしそろそろ縁談の話を進めても良いだろう」

エドガー「それでは、周辺国にもその旨を通達して招待状を・・・・」

オースティン「その必要は無い!・・わが国の王女を安く買い叩こうとした者など来なくて良い!」

カイン「・・・・・何かあったのか?エドガー」

エドガー「・・お前が復帰するまでの間に、姫とコゼットには王位継承権狙いやら利権狙いの縁談がかなりあった、深くは聞くな」

カイン「?そんなことをさせないために、女性には王位継承権は無いんだろう?」

エドガー「お前があのまま死んで、俺を消した場合、姫を娶った現役国王がこの国の王を兼ねるということもありえるだろう・・・あからさまに政略結婚とわかる歳の差夫婦でも」

オースティン「兄上は『姫には望む者と結婚させたい』と仰っていた、この際“わが国は王女を売りに出さねばならぬほど落ちぶれては居ない”と示してやるのも一興!フハハハハ!」

    ・・・・一体どんな縁談があったのだろう・・・・

 

カイン「それでは叔父上は、姉上が他国の王子に嫁ぐ必要は無いと思っているのですね」

オースティン「(同盟の為の)王家同士の結婚となれば初夜は臣下の目の前で行われることになる、お前の姉には酷というものだろう」

カイン「・・・・・・・・・・・・・今何と?

 地の底から響くような声がして失言に気付く、王家に産まれた者として当然知っていると思っていたが、事故後は誰も教えていないのか・・・

エドガー「・・・同盟のための結婚なのだから、初夜の寝所には両家の立会人がいて『確かに契った』ことを両国に報告することになっている」

 

 会議の場がいまだかつて無いほど凍りつく、俯いている国王の顔は見えないが背後にどす黒いオーラが見えるような気が・・・

貴族「陛下・・・」

エドガー「おい!(ジロリ)」

軽口をたたこうとした貴族をエドガーが睨み付けて黙らせる、ここで“見られながらというのも、これはこれで・・・”などと聞かせようものなら『陛下、ご乱心!』という事態になるのは目に見えている。

 

 ユラリ、と体重を感じさせないような立ち上がり方をした国王は、しかしその動きとは正反対の声音で高らかに宣言を下した。

カイン「よく聴け!我が姉を娶りたければ条件はただ一つ!姉上の口から『この方と結婚したい』と私に言う事だけだ!ただし、姉上を脅迫したりしてみろ!この俺が直々に決闘を申し込む!」

 ヴィンセントでさえ打ち負かす程の国王との(私怨を含んだ)決闘、はっきり言って死刑よりタチが悪い。

 

    ・・こうして今年の舞踏会は『王女のお見合いパーティー』となることが決定した。

カイン「但し、この事は姉上の耳には入れるな。姉上が知ったら真剣に悩む」

 

 

 

数日後

バタバタバタ・・・・ドカッ!

フランシスカ「いった〜、ってエミリオ君?どうしたの?」

エミリオ「も、申し訳ございません!実は・・・」

ズドドドドド・・・・

フランシスカ「!そこに隠れていて!・・・・・あら皆さん今日は」

エドガー「ゼノン、お前エミリオを見なかったか?」

フランシスカ「あっちのほうに行ったけど・・・何かあったの、侍従が全力疾走だなんてただ事じゃないわよ、他国の奇襲とか?アタシ今日非番だったんだけど騎士団に顔だした方がいいの?」

エドガー「い、いや、なんでも無い。騒がせて失礼した」

 

フランシスカ「・・・・・・・・・・ふう、もういいわよ」

エミリオ「ありがとうございます、最近『姫の好みを教えろ』と仰る方が多くて・・・食べ物や衣装の好みならともかく、男性の好みは存じませんし・・・」

フランシスカ「まあ、立場上知っていても言えないことだしね、ひどいようならカイン様に言った方がいいんじゃないの?」

エミリオ「・・・それも極力避けたいのですが・・・本当に助けていただいてありがとうございます、仕事がありますのでこれで・・・」

 

 

フランシスカ「は〜いジーク・・・って何コレ、伝染病?食中毒?」

 ジークの部屋を訪れたフランが見たものは大量の患者、だが伝染病にしては若い者ばかりだし、食中毒にしては貴族と下っ端兵士が混ざっているのはおかしい。

ジーク「ああ、フラン、すぐに済みますから待っていてください」

そう言って奥の部屋に入ったジーク、戻ってくると全員にグラスを配る、中身は(見るからに不味そうな)緑色の液体。

兵士「ジーク殿、これは?」

ジーク「これは青○といってケールという栄養価の高い野菜をすり潰したものです、私が採取した薬草も混ぜていますので良く効きますよ」

貴族の青年「そんな野菜の汁なんかを飲ませる気か!」

ジーク「そんな〜なんかとは失礼な!これは王室と特別に契約した農家に栽培させたものでカイン様もご愛飲の品、それを特別に分けて差し上げるのです、必ず飲んで帰ってくださいね」

 

ジーク「ふう、やっと帰りましたね」

フランシスカ「ジ〜ク〜、今のまさか緩下作用のある薬草が入ってるとか」

ジーク「まさか、ここの薬で下痢になったと言われては困りますからね、毒にも薬にもならない物なら入っていますが」

フランシスカ「それってただの雑草なんじゃ・・・」

ジーク「仮病使ってあわよくば姫の情報を得ようという輩には十分ですよ」

フランシスカ「あ〜やっぱりココもそうなってるのね、舞踏会って大変そう」

ジーク「警備担当が他人事みたいに言わないでください」

フランシスカ「でも、お姫様の気持ちが肝心でしょう?誰か好きな人いるのかしら?」

ジーク「・・・・・残念ながら本当に知らないんですよ」

フランシスカ「お姫様が誰を好きかはっきりすればその他大勢はあきらめるしかないわよね、国王を敵に回したくないでしょうし」

ジーク「それを聞ければ苦労はしません・・・何か案でもあるのですか?」

フランシスカ「まあね、いいこと思いついたの」

 

 

フランシスカ「ハ〜イ、お姫様、一緒にテラスでお茶なんてどうかしら?」

「あらフラン、いいわよ」

フランシスカ「もうすぐ舞踏会よね、お姫様はやっぱりカイン様がエスコートするのかしら?」

「ええ、毎年それは変わらないわね」

フランシスカ「カイン様の他にエスコートを申し出る方もいるんでしょう?」

「居ないわけではないけれど・・・カインにはまだ婚約者もいないから私がファーストレディー役をすることになるのよ」

フランシスカ「う〜ん国王陛下が相手じゃ引き下がるしかないわよね〜、じゃあ陛下の次に踊る方は?」

「それも決まっていないけど・・・・そのときに申し込んでくれた方かしら」

フランシスカ「ちょっと、そこまでここの男共は甲斐性無しなの?花を贈って『2番目に踊ってくださるのならこの花を胸に挿して来てくださいませんか?』なんて言ってきてもいいじゃないの」

 

 

 

フランシスカ「ね、いい作戦でしょう?お姫様が2番目に踊りたい相手を自分で選んだのならその人が本命ってことでしょうし」

ジーク「それで、人の多いテラスで話をしたと」

フランシスカ「面白かったわよ〜皆普通のフリをしてこっちの話を必死に聞いているんだもの、すぐに広まるわよ〜」

 

この後フランの予想通り、花屋に注文が殺到することとなる。

 

                         2008/04/29