真剣勝負?

 

 厨房の前で、こんな所に居る筈の無い人の声が聞こえた。

 

「ですから、私共に・・・・」

「それでは意味がないんです!」

 

    ・・間違いない、姫だ。

 しかも何か怒っているような口調・・・。

 

「何かあったのですか?」

「ああ、リオウさん」

「えっ!リオウ!」

気になって声をかけると、あからさまにホッとした表情の料理長と、驚いて視線を迷わせている姫。

 

「実は、姫が“デコレーションケーキを作りたい”と・・・・」

「言ってはダメ!」

「・・・ひょっとして、僕の誕生日だからですか?」

ますます顔を赤くする姫・・あたり・・かな?

「ああ、それでは私共に任せられないのも当然ですね。野暮な事を申しました」

 

 

話し合いの結果、僕がスポンジを焼き、姫が仕上げをすることになった。(姫は全部一人でやりたかったようだが、“作るのに時間がかかると、二人でゆっくりする時間が減る”と説得した)

 

 焼き上がりを待つ間、姫は料理長に動物や花の形をした飾りの作り方を教わっていた。

 

 

 

 焼きあがって冷ましたスポンジを半分に切り、姫に渡す。

やったことの無いデコレーション作業に悪戦苦闘する姫を見守り・・・・ようやく完成。

 「姫、ちょっとこの道具貸してください」

 道具と場所を借りて、先ほど一緒に焼いておいた小さなスポンジでケーキを仕上げる。

「・・・・リオウ、上手ね・・・」

「小さいほうが作業が楽なだけですよ・・・・はい、これは姫に」

「えっ?」

「僕、1度でいいから丸々1個のケーキにフォークを刺して完食してみたかったんです、でも自分で作って食べたら虚しそうで・・ケーキのプレゼントは初めてですので・・・いけませんか?」

「ううん!そんなことは無いわ!・・でも誕生日の人からケーキを貰うなんて・・・」

「このケーキはもう僕のものです、・・・そうですね、僕の手から『はい、あ〜ん』で宜しければ少し分けて差し上げますが」

「!!!!!!!!」

 

「片付けはこちらでやっておきますから」と言う料理長の言葉に甘え、僕たちは、ケーキを手に厨房を後にした。

 

 

 

 

料理長視点

 

真剣な表情で、回転台の上に乗せたスポンジに恐る恐るクリームを塗っていく姫、先ほど冷ましたばかりで柔らかいためにどんどん崩れてしまっている。

「姫、初めにクリームを多めに塗って、削るように形を整えたほうがきれいに仕上がりますよ」

・・今、悪寒がしたような・・・風邪だろうか?

 

どうも、体調が良くないらしい。

あれから姫が

『クリームの塗り直しをし過ぎてクリームが硬くなってしまった』とか

『スポンジにシロップを塗ろうとして、誤ってケーキの上にこぼしてしまった』とか

『飾りの果物を載せすぎて、もはやどうカットするのか分からない(しかも果物の重さに本体が負けてしまっている)』とか

色々と言いたいことがあったにも関らず、その度に寒気がして言えなかった。

 

ど、どうすれば・・・と悩む自分の前で、リオウさんが小さなケーキを仕上げ・・・

「僕、1度でいいから丸々1個のケーキにフォークを刺して完食してみたかったんです」

 

・・さすがリオウさん、カイン様に品位を教えただけの事はある。

 

「そうですね、僕の手から『はい、あ〜ん』で宜しければ少し分けて差し上げますが」

・・どうやら症状に胸焼けも加わったようだ・・今日は早く帰って寝よう。

 

                              2008/03/08

 

た、誕生日間に合いませんでした。リオウごめん!by