プレ水神祭
・・・・エシューテ近海が沖縄化(正確には石垣・与那国島化)していますが・・・管理人の趣味です、ご容赦を。
6月初旬の休日、エシューテの港
姫「凄く大きなお魚ね」
姫が示したのは、体長1mを超えるナポレオンフィッシュ。
エドガー「・・・・凄い魚がいるな(体もでかいが顔もデカイ)」
姫「まあ!あの魚も凄いのね!」
エドガー「ハッ、海にはこのような獲物がいるのか!」
二人の視線の先には、尾から吊り下げられた体長3mものマカジキ!・・・港の作業場で待機する女衆の所へ運ばれ、どんどん解体されていく。
姫「すごいわね、あんなに大きな魚を」
エドガー「仕事だからな、手際良くやらねばな」
と、解体現場を見学する二人に話しかける漁師が
漁師「ねぇちゃん、めずらしいね〜」
エドガー「・・・何だお前は」
漁師「いや〜貴族のお姫様なら“あ〜れ〜”とかって気絶するもんじゃないの?」
姫「そう?それよりもあの魚って獲るのが大変なんじゃないですか?」
漁師「おうよ!あれだけの大きさなら海に潜る力も凄いから命懸けよ!」
姫「大変なんですね・・・・ひょっとして狩りより大変かしら」
エドガー「(ぴくっ!)・・・・・・・・」
漁師「貴族のお姫さんに心配してもらえるとはありがたいね〜、もし興味があったら、来週の水神祭に来てみるかい?」
姫「?水神祭?・・王宮でのなら、毎年出ていますけれど?」
漁師「ん?その王宮に献上する品を決める祭が、午前中にここであるんだよ。真珠や護符は1年かけて準備出来るけど、魚は時間までにどれだけ立派な物を獲って来れるか、漁師の腕の見せ所ってわけさ」
姫「まあ、大変ですのね」
漁師「事前準備は、前もって大物の居る所を調べるくらいしか出来ないからな、献上品だからあまり傷をつけてもダメだし」
姫「ぜひ、見させていただきますわ、頑張ってくださいね」
エドガー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
水神祭当日・・・祭会場から外れて、堤防で釣りをする人影が・・・
ロデル「んで?何でわざわざ今日こんなことしてんの?」
エドガー「黙れ!今年の献上品は私が獲ってみせる!」
ロデル「こんなとこで大物が獲れるワケ無いだろ、船出して別の所行かなきゃ」
エドガー「・・・・・・・・母上に止められたのだ」
ようは先週、帰宅して『水神祭の献上品は俺が獲る』と騒いだものの、母親の一喝であえなく挫折、それでも未練がましく釣竿を垂れている次第である。
ジーク「それにしても暑いですね、風もありますし日傘お持ちしましょう、水分もキチンと補給しないと」
ジークが持ってきた水筒にはレモンの果汁を混ぜた水が入っていた。
姫「ジークったら、そんなに心配しないで」
アストラッド「姫、これをどうぞ」
姫「?これは何?」
アストラッド「氷を細かく砕いた物に蜜をかけたものですよ」
ロデル「あ、それ水神祭のときにしか食べられないんだぜ」
夏場の氷は王宮でも貴重品、高山の氷室に冬に保管した氷しか存在しない。
姫「・・・エシューテの裕福な商人の誰かが氷室をもっているのかしら?」
エドガー「そんな筈は無い、氷室は全て王室の管理下にある、確か献上品の魚を運ぶ為毎年下賜される氷があるが・・・・まさか・・・・」
アストラッド「まあまあ、そんなに固く考えずとも、せっかくの祭なのですから、どうせ融けてなくなるほどありますし、証拠も残していませんよ」
ロデル「限定品なのに値上げしないし、皆楽しみにしてるんだぜ」
ジーク「・・・・言うまでも無く、祭祀のことは貴方が中心でしたね、アストラッド」
アストラッド「皆楽しみにしているのです、野暮なことは言わないで下さいね(にっこり)」
・
・・・・・・一瞬、確実に、氷を食べるより涼しくなった気が・・・・・
カイン「姉上、みんなもあっちの祭は終わったよ、全くなんで僕が審査委員長なんだよ・・・僕だって献上品獲りたかったのに」
エドガー「危険だからと私が海に出るのを禁じられたんだぞ、お前は私より身分が上だからなおさら出たら駄目だろう」
カイン「エドガー、ひょっとして『エシューテの水神祭に王子が来る』って言ったのは・・・」
エドガー「王子の身の安全のためには大々的に警備する必要があるからな、ヴィンセントも大変だったんだぞ」
王族二人の道楽意地の張りあいに付き合わされる・・・庶民にはたまったものではない。
リオウ「そろそろ王宮の準備もありますし、そろそろお帰りを」
エドガー「まだ一匹も釣っていないんだぞ!」
漁師「あれ〜先週来てた貴族の姉ぇちゃん!来てくれてたんだ!俺の雄姿見てくれた?」
姫「ごめんなさい、見逃してしまって・・献上品の魚は王宮の水神祭で拝見させていただきますわ」
漁師「おう!じっくり見てくれよな!・・・でそっちの兄ちゃんは?」
エドガー「獲物が獲れ無いなどと、ありえん!」
漁師「・・・・・う〜ん、俺が何か釣れる所に船出してやろうか?1時間くらいで戻ってくればいいだろ」
エドガー「本当か!」
カイン「僕も行く!」
姫「ちょっと!二人とも・・・・行ってしまったわ、素人が釣れるのかしら」
ヴィンセント「多分、大丈夫だと、あの漁師は腕はいいですから、それより他の漁師にも船を出してもらって護衛に行ってまいります」
そして時間が過ぎ・・・・
カイン「姉上!5匹釣れたんだよ!」
エドガー「私は7匹だ!」
姫「まあ!二人ともすごい!」
リオウ「やはり“ぐるくん”でしたか、からあげにすると美味しいですよね」
エドガー「フッ、これも献上品に加えるか?」
リオウ「そっ、それは・・・ご家族に夕食として出してみてはどうでしょう!お父上もシモーヌ様もコゼット様も大変喜ばれますよ、姫も嬉しいですよね?」
姫「ええ、カインが釣った魚なら特別美味しいわ、きっと」
エドガー「・・・・そう言うなら家に持って帰るとしよう、氷を貰ってこねば・・・」
カイン「そうだね、姉上、期待しててね」
リオウ「ふう・・・」
姫「あのお魚がどうかしたの?」
リオウ「いえ、“ぐるくん”は素人にも釣られてくれる魚です」
ジーク「群れに仕掛けを垂らせば確実に釣れる魚がいると聞いたことがあります。たくさん釣るには『いかに手早く針にかかった魚を外せるかが決め手』とか」
ヴィンセント「漁師たちなら一時間で20匹以上は確実に釣れますね」
姫「・・・・あのくらいで自慢しては恥をかくってことね」