仰月

(7月11日、昼)

 

 何を考えているんだ、リオウの奴。

「変な情、持つんじゃねえぞ」 あの“忠告”はせいぜい「おたのしみは程々にな」程度の意味しか無かった。

 まさか代わりに殺ろうとした俺から標的を助けるという行動に出るとは。

お姫さんに見つかった時点で殺すという選択肢はこちらには無かった、建国祭が中止なってしまっては元も子も無いからだ。

殺さずに口を封じる手段など限られている、覘くほどヤボじゃねえと帰ってきたのが間違いだったのか・・・。

 

・・・まさか、本気でお姫さんに溺れちまった、なんてことは無いよな・・

『さっきら何を唸っているんだい』

「・・・なんだ、オババかよ」

『腹が痛いのなら、いくらでも薬はあるぞ』

「・・・・エンリョしとく」

一族のなかで薬物(薬も毒薬も)を取り仕切っているオババ、まともな薬も当然あるが、よほど切羽詰っていないと飲みたくない。

考え事をしてたら、オババの畑に来ちまったらしい。

『悩み事か?リオウのことで』

    ・マズイ、仮にも長老達の一人、話をそらさねえと・・・。

 

「なあオババ、愛とか恋って一体何だろうな(頼む、引っかかってくれ)」

『・・・何ぞ悪い物でも食ったのか?』

「オイ!(釣れたか?)」

『むっ!さては“遊びのつもりで食った女に本気になった”そういうことじゃな!これはめでたい、今夜は“セキハン”じゃ!』

「何勝手なこと言ってんだ!大体“セキハン”って何だよ!」

『遠い東の国で“赤い食べ物”という意味じゃがの〜、大人になったお祝いに食べるそうじゃ』

「・・・・・どんな食べ物だよ、作り方わかってんのか」

『ん〜、そこの赤い実を粉にしてかけてみるか?・・真っ赤になるまで混ぜたら死人が出るかもしれんが

「・・・一応聞いておく、ソレは何だ」

オババの畑だ、どれが薬でどれが毒か判ったモンじゃない

『香辛料じゃ、パプリカよりも辛いが一応薬にもなるぞ』

 

何とか話はごまかせたか、とりあえずここを離れよう、そう思った時

『“魂を奪われる”という表現があるじゃろう?あたしゃ“心の1部を相手にくれてやる”の間違いだと思うぞ。

相手が自分の心を持っているから一緒にいると満たされた気分になるし、離れていると不安になったり腑抜けになったりする。・・・そんなもんかもな』

・・・おもわず足が停まった。

最近のリオウはお姫さんとの外出が多かった、そこで見せた笑顔・・・

あの時は お偉いさん相手にはそーゆーカオするんだ〜 とからかいたくなったが・・・あれを“満たされた笑顔”というのか?まさかとっくに深入りしていた?あのリオウが?

 

「部屋戻って寝る、今夜また王宮に忍び込まなきゃなんねぇし」

『警備もまだ厳しいだろうしの、ゆっくり休め』

 

ここで考え込むのはマズイ とさっさと帰った俺には、オババの最後のセリフは聞こえちゃいなかった。

 

『リオウが、か』

 

                                   2008/02/02