異国の王宮にて
「・・・これは何だ?私は“わが国の海軍が遠征する場合の補給港の候補”を調べろと言ったはずだが?」
『ええ、この港なら軍船が数隻停泊するのに十分な大きさがあり物資も豊富、わが国からの距離と言う点からも、補給港にはぴったりの条件かと』
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・・・確かに、今言った条件だけを見ると宰相の言い分は間違っていない、しかし、問題はこの港の所属だ、渡された書類の表題は
『エシューテ港の補給港利用に関する・・・』
エシューテ港、言わずと知れたローデンクランツ国の玄関港、かの国は島国ゆえに造船・貿易関係の技術が発達している、いくら我がブラヒストが軍事大国とはいえ「貸してください」の一言で貸切れるものではない、いったい使用料がいくらになることか・・・・
「で?仮にも一国の主要港を貸しきる費用をどう賄うつもりだ?」
目の前のいかにも害が無さそうな笑顔を浮かべている宰相に問う・・・この大国の宰相を勤める男がどれだけ腹黒いかはよく知っている、どうせ碌な使用料では無いだろう。
『そうですね、費用は“陛下の掌中の珠”と言ったところでしょうか』
そう言って一通の書状を差し出してきた、内容は“ローデンクランツ国王子からブラヒスト王女への求婚”・・・・・が、しかし・・・・
「わが国を愚弄しておるのか?オースティン殿といえば王太子の弟、兄王子の即位後は臣籍に下って国王を補佐することになる筈、シモーヌはこの大国ブラヒストの王女、王妃になるのにふさわしい娘ぞ、それを他国の臣下にくれてやれと申すか!」
『夫は臣籍に下ろうとも、息子の王位継承権は残ります』
「だとしても我が孫が国王になるとは言えまい、それともハインツ殿は子を儲けることが出来ぬと申すか?」
『それは分かりませんが・・・調べたところ、王太子は身分の低い娘にご執心で、周りのものが“側室にするように”との意見を拒んで正室に迎えようと揉めておられるとか、子供同士を比べた場合、貴族の末席で母の実家の後押しが無い王子と大国ブラヒストの後押しがある従兄弟、比べても遜色は無いかと』
「王子の方が外戚がうるさく口出ししない分、落ち着いて政治ができそうだが」
『まあ、産まれるかどうか分からない子の話は別にして、オースティン殿は現在わが国に留学中ですが、成績もよくなかなかの切れ者と評判です、将来は国王補佐として重要な地位を占めることになるでしょう“実利”と言う点ではかなりの良縁かと』
「隣国に嫁がせても“披露宴の次に両家が顔を合わせたのは戦場だった”ではシャレにならんからな、ローデンクランツは島国ゆえに戦争を仕掛けるには軍船など余計な費用がかかる、娘を戦乱に巻き込ませずに実利を得るなら確かに良縁と言えるが・・・」
『ローデンクランツは外国との戦争が少ない分、宝石加工・鍛祷・造船・航海技術に他国が及ばないものがありますからね、戦争を仕掛けると職人が死亡して一気に価値が下がります、無血で手に入れられる布石が出来るのであればやっておいて損は無いでしょう』
「島国で戦争が少ない分、技術に国力を注ぎそれがさらに国を守る手段になる・・・か、常に兵を置いて国境を監視せねば色々掠め取る輩が出る身としては羨ましくあるな」
『陛下・・・わが国は“ブラヒストはあれだけ軍事力に金が使えるなんて羨ましい”と言われているのですが』
「わかった、念のためオースティン殿の身辺を調べよ、万が一“王位乗っ取りの為シモーヌと結婚してブラヒストの後ろ盾を得る”のが目的であった場合、血なまぐさい男に娘はやれんからな」
『今の所そういう気配はありません、そのような大事を周囲に全く気取られずに準備して決行できるのなら、婿として頼りになるのでは?ひょっとしたら私以上に食わせ物かもしれませんね』
「お前より腹黒・・・・そんな奴なら娘はやらん、これでも人の親だからな」
『そんなに私は腹黒ですか?・・・ああ陛下、こちらの書類をどうぞ』
「これは?」
『補給港選定の決定稿です』
「・・・・・・・・・先ほどのエシューテ港の書類は何だったんだ?」
『オースティン殿との縁談の前振りです』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」