ある日♪森の中♪
あの時は、この日が自分の運命の転換点になるとは思ってもみませんでした。
ガサガサッ
「誰かいるのですか?」
こんな森の中に人がいるわけが無い、当然返事はないが、かすかに血の臭いがする・・・
「兎か狐ですかね、これでも食べますか?」
とりあえず手持ちの果実を置いてその場を離れる、野生の獣が人間の臭いが付いたものを食べるかは分かりませんが・・・・・。
「これは参りましたね・・・」
そろそろ果実に仕込んだ眠り薬が効く頃だと思い先ほどの場所に戻ると、そこで眠っていたのはまだ少年の面影を残す青年、明らかに貴族(それも上位)と思われる服装、そして・・・左腕が血に塗れていた・・・。
「人間が眠るには量が少ない筈なのですが・・・困りましたね、人間が相手では治療後に転がしておくわけにもいきませんし・・・家に運ぶしかありませんか・・・」
家といっても人目を避けるために森の中に作った掘っ立て小屋同然の庵ですが・・・
苦労して青年を運び、傷の治療をする、服は(藪に引っ掛けたのか)かぎさきが酷いが怪我は左腕のみ、・・・・真一文字の傷は明らかに刃物によるもの。
「貴族のお家騒動で暗殺されそうになって、逃げて森に迷い込んだというところでしょうか?」
・・ここは“人ならざるもの”と迫害されないために、『誰も近寄らない』事を念頭に居を定めた場所、追手が来る可能性は低いでしょうが、厄介なものを拾ったのかもしれませんね。
『ん・・・』
「目が覚めましたか?」
『ここは?・・・君は誰だ』
「ここは私の家ですよ、私はジーク 医者です、森の中で貴方が倒れていたので治療をさせていただきました」
とりあえず、仕込んだ眠り薬のことは黙っておきましょう。
『そうか、迷惑をかけてすまない、私はハインツという、ここは森の外なのか?』
「いいえ、ヴァールの森です、長い事ここに住んでいるのですが、客人は貴方が始めてです、このような時間では外に出るのも危険ですから、体力に問題が無ければ明日の朝アーデンにお送りしましょう」
『・・・・アーデンではなく城・・いや他の方面に出ることは出来ないのか?』
「それはアーデンに刺客がいるということですか」
『どういう意味だ? この傷は転んだものだ』
「私は医者だと申し上げた筈ですよ、医者が転んだ傷と刃物の傷の区別がつかないとお思いですか?」
『医者なら患者が来られる場所に住むはずだ、この家が人気の無い場所にあるというのなら君は何者だ?』
「・・・貴族のボンクラ息子というわけでは無いようですね、私は確かに医者ですよ、ただ訳有りで人目を避けているだけです・・・本来貴方が来た事も不本意なのですから、一晩ゆっくりして体力が回復したら帰っていただけませんか? 獣道同然ですがノルガース方面の人気の無い場所までお送りしましょう」
『わかった、一晩だけ世話になる』
「では、遅くなりましたが夕食の準備をしましょうか」
『ジーク、何をしているんだ?』
「夕食を作っているのですが?こんな所ですからお上品な食べ物などありません、こんなもので我慢してください」
『いや、そういう意味ではなく、なぜ鉢植えの木を燃やしているんだ?』
「ああ、これですか?今使える薪がなかったので代わりに燃やしているだけですよ」
『そんな!森の中でわざわざ鉢植えにしてまで育てている木なのだろう?大事にしているものを燃やすなんて!』
「夕食を優先させただけです、お気になさらずに」
秘薬の実験に使った木なので定期的に刈り取らないとはびこってしょうがないから燃やしているんですけどね・・・言うわけにもいきませんし。
『わざわざすまない・・・・』
「感動していないで、さっさと食べて眠って帰ってください」