それは、飛空石採掘許可が下りる、大体一年程前の夜だった。
熱弁を終えて(いったい何のことを語っていたのかは忘れたが)、トッドはいつの間にか空になったジャグを机に叩き付けた。
「程々にしなさいよ《
カウンターテーブルの向こうで、呆れたようにマールファが言った。
「いいじゃねえかよ。な、アルファード《
トッドの隣に座るアルファードは、ジャグに並々と注がれた酒をちびちび飲んでいる。堅物過ぎて引くわーと笑うと、軍人としてどうたらこうたらという答えになってない答えが返ってきた。奴さんもそれなりに酔ってはいるらしい。
「で、今造っている船の何が素晴らしいかっていうと《
「トッド、あなたそれ二回目よ《
「あれ?《
どうもさっき語っていたのは現在着工中の船に関することらしいかった。なんだかおかしくなってゲラゲラ笑ていると。隣からわざとらしいため息が聞こえた。
「んだよ、ツケにして酒代踏み倒したりなんかしねえって《
「そんなことになったら、僕は軍人として君を連行しなければなりませんね《
「冗談だって《
言ってけらけら笑う。そしてまたため息を吐かれた。
「あんだよ、嫌味か《
「それはこっちの台詞です。何ですか。身の上の苦労を延々聞かされるこちらの身にもなってくださいよ、出来ないものは仕方がないじゃないですか《
「ああ? じゃあ飛空石が手に入んねえのは仕方がねえってか《
「考えればわかる話でしょう!《
そうしてトッドが熱弁を振るったように、アルファードも饒舌になって語り始めた。やっぱりこいつ酔っている。
曰く、飛空石に採掘許可が要るのは、要らぬ混乱を起こさないためだ、と。もちろん価値のあるものを国が管理するといった意味合いもあるらしいが、主には前者の目的の方が強いのだという。
「ノリンだってスクルドだって女神降臨の地を擁してるんですよ。でも光石を持っているのはノリンだけなんです。そんなことが世間に知れ渡ったらどうなると思いますか。血の雨が降りますよ《
最後をおどろおどろしく言って、アルファードは黙り込んだ。頭を抱えた様子から見るに、どうも酔っぱらって、言ってはならないことまで口外してしまったようである。どこからどこまでが「そう《なのかはわからないが。
それを見て、良いことを思いついた。
「安心しろよ、アルファード。ここでは何も聞かなかった。そう言うことにしておいてやる《
カウンターの向こうのマールファに目配せをすると、彼女は心得た様子で奥のキッチンへと引っ込んでいった。
「だがな、条件がある《
「条件?《アルファードの象牙色の瞳が胡乱げにこちらを見た。
「条件も何も、君が黙っていればいい話でしょう《
アルファードの視線が一瞬腰に提げている拳銃へと向いた。脅せばいいってか、流石外道。
「へえ、じゃあこっちにも考えがあるぜ《自分の表情が変な風に笑っているのが分かる。恐怖からか興奮からか、酔いが変な方向に振りきれていた。
「お前が言ってた『採掘許可の理由』言いふらしちまおっかなァ《
アルファードがその言葉に舌打ちした。本性が丸見えで笑けてくる。
「何が狙いです《
「なに、俺を北部の、例の飛空石が埋まってるところまで連れてってくれりゃあそれでいい《
「断る、と言ったら?《
その言葉には笑顔でお答えしよう。アルファードは再び舌打ちする。低い声で罵るかのような言葉も聞こえた。何と言ったのかは聞き取れなかった。おそらくアルファードの母語かなにかだ。
アルファードは少し黙り込んでから、答えた。
「いいでしょう《そしてお得意の愛想笑いを浮かべて言った。
「但し、貴方の命の保証は致しかねます《
Ja,少し考えてみよう。まず、ここまで言わせればまず間違いなく許可は取ってくるだろう。だってこちらには最終兵器があるから。問題はそのあとだ。命の保証は致しかねます、つまり殺されても文句言うなよってことだ。口封じもしたいだろうし。
単純に行程が危険なのかもしれないが、わざわざ今言うってことはそう言うことだろう。
――まあ、造船のために死ねるんなら、造船士として本望か。
酒臭い息を吐いて、工房の停滞した空気を思い出す。飛空石さえあれば、部品を組み上げて、船を飛ばすことが出来る。
「わかった《
「それでは交渉成立ということで《
アルファードがジャグを顔の高さまで持ち上げて笑った。気味の悪い笑みだった。