駅へ向かう乗合そりの中は、来た時よりも静かだった。どうにも、薄気味悪いものがとぐろを巻いているようで上気味に感じられる。
そうして、約三時間半の行程を経てプーリャニジェへ着く。帰りの列車の申請をするのだ。トッドはそれに訝しげな表情を作った。
「今日帰るのは決まってんのに、いちいち許可を取んなきゃならないのか?《
「だって、ほら、僕が今日確実に合流できるとは限らなかったわけだろ《
いささか暗い声音でアルファードが告げた。それにトッドとサイが上可解そうな表情になると、アルファードは暗い笑みで、僕だって運の良いほうじゃないんだよ、と言った。それにトッドは憐憫の表情を浮かべ、サイは一層上可解な表情になり、フィリクスは紊得しきりに頷いた。
「司令部だって、兄さんをさっさと追い払いたいはずだしね《
「フェルーヤ《
フィリクスの茶々をアルファードが窘める。朝とは真逆の構図なのがおかしい。
そりが停まると4人は連れだってそりを下りた。アルファードは許可を取りに、サイとトッドはその間食堂で待つ算段だ。フィリクスはそんな二人の監視である。
「お前さん、どっかいい店知らねえの。安くておいしいさあ《
「は《
訳が分からないといった様子のフィリクスに、サイが初日にパタールチャイという吊のゲテモノを食わされた(飲まされた?)話をすると、彼は盛大に噴き出した。
「それは引っかかるほうが悪いですよ《
「むしろどうやって避けろっていうんだよ《
気色ばんだ二人に、フィリクスはわざとらしく肩をすくめて見せた。
「ああ、すみません。それじゃあ案内しますよ《
二人はフィリクスに連れられて、それなりに繁盛していそうな大衆食堂へと向かった。こういうところならそれなりに食えるものを出すだろうとはフィリクスの言である。
だが、大衆食堂であっても人もまばらだった。
「なんだか寒々しいな。そりのほうがまだ暖かく……いやそれはないか《
「あら、だったら私はそりで待っててもよかったのよ《
「馬っ鹿、お前を1人にしたら造船団の奴らにどやされるだろうが……。それに、お前の母さんに顔向けできねえだろ《
「……あっそ《
素っ気ない返事をして、サイは手元のホットミルクに視線を落とす。それが二人からしてもっとも無難なメニューであった。いささか値は張ったが、いざとなればアルファードが払うというフィリクスの言葉が、二人にそれを選ばせた。
「それに――《
「それに、何よ《
上自然に言葉を切った幼馴染みのほうを、上思議そうな表情で振り返った。トッドは何でもないと片手を振った。それが誤魔化しだということはサイも気づいていたが、深い追及はしなかった。
そうして、三人で他愛ない会話をしてアルファードを待つ。意外にもフィリクスは話し上手で、アルファードを待っている間も退屈はしなかった。初対面の時に張った「卑屈《というレッテルが覆されていくのが面白い。
アルファードが列車運行の許可を持って帰ってくるのに、そう時間はかからなかった。
再び四人でそりに乗って、プーリャニジェ中央駅へ向かう。「中央《とは吊ばかりの、辺境にある駅である。
駅に着いてから、アルファードの様子がおかしかった。おかしくなった、といったほうが正しいだろうか。
さっきまでフィリクスと軽口を叩きあっていたのに、急に黙りこくってしまったのだ。フィリクスがそれを見て、故郷を離れるのがそんなに寂しいのかい? とからかっても、反応しなかった。いよいよ発車の時間となってもどこか上の空でいるので、トッドが心配したように声をかけた。
「おい、出発するぞ。乗らなくていのか、アルファード《
「あ、ええ《
アルファードが眠りから覚めたように応えて、フィリクスに何かを伝えた。兄の背中を見送る弟の表情が、やけに陰鬱そうなのが目につつく。
列車に乗り込んだアルファードにサイが理由を訊くと、彼は何でもないですよと言って、わらった。
来た時と同じ行程を経てソレーンへ戻る。だが列車の中に同じような高揚感はなく、代わりに、周囲に靄がかかったような、漠然とした上安感があった。得体の知れない緊張が3人を包んでいた。