2WAYスピーカーシステムの工作

はじまり

木工などの工作の経験がある訳でもないのに、1インチホーンと30cmウーハーあたりで手頃な大きさのスピーカーシステムを作ってみたいなあ〜、などという妄想がしばらく前から心の片隅にある。

小さかった子供達もいつの間にか親並みに大きくなってしまい、TADユニットによるメインシステムを置いてあるリビングはもう私のものではなくなってしまった。今は家の片隅の和室8畳間が唯一残された安住の場所だ。

しょうがないので市販の2wayブックシェルフを購入して聴いている。20cmウーハーに2.5cmソフトドームツィーターのありふれた2wayバスレフ型だが、現代のメーカー製スピーカーは小型でも高性能だ。体で感じるようないわゆる重低音が無理で低音部がやや団子になる点を除けばスピード感のある高解像度な音を聴かせてくれる。サイズを考えれば立派なものだ。

けれども、完成されていて手の付け所もないというのはちょっと面白くないんだなぁ・・・
この際、この8畳間用に2WAYで手頃な大きさのスピーカーシステムを自分でこしらえてみるか・・・
と言って材料も道具も腕も経験もないし、木工は棚一つ作ったことがないのに無理なんじゃないの・・・
自分で木を切ったりしなくたって、それなりのものが市販されているのだから、組み合わせるだけでいいのさ・・・
多少は作る楽しみというものもほしいわな・・・

などと、しばし前から思っているのである。





















と、思っていることは実現するの格言どおりか・・・(^^;




1インチスロート木製ホーンの製作

第1回(10月27日)
木を切り出した。21mm厚のボードからイチョウの葉のようなホーン本体とホーン側板を切りだしたのだ。
あとはこれらを積層接着し、組み立て、塗装して仕上げるだけだ。
ちょっとこの段階で重ね合わせてみるとほれぼれするほどピッタリと合いそうで、素晴らしい工作精度に仕上がった。
良いホーンが出来そうな予感。(^^;


と言うのは勿論ウソで、こんなに正確な曲線で木を切ったり、削ったりが道具も経験もない素人に出来るはずもない。

MJ11月号をつらつら眺めていたら、(株)ラフトクラフトの広告の1インチ用ウッドホーンHD−420のキット限定販売というのが目が止まり、さっそく同社にメールで問い合わせ、HPも閲覧した。
結果、面白そう。
と言うことで頼んでおいた1インチスロートホーン“HD−420キット”が届いたので、取りあえず並べてみたもの。(^^;
NC加工機で切り出し、削ったものだそうだが、こんなの素人には出来るわけがない・・・と納得。

キットとはいえ、切り出し削り出したこれらホーンの素材の板とタッピングねじ、そして簡単な製作マニュアルがセットになったもの。接着剤や塗料類は別途用意する必要があるし、マニュアルによれば、工作のために電動ドリル、電動ドライバ、電動サンダ等が必要とある。
ドリル以外は何もないなぁ・・・(^^;;、作れるだろうかとやや不安になるが、作る楽しみも(苦しみも)十分にありそうで、見ているだけでも楽しい気持ちだ。(^^)

ここまで出来ていれば後は愛情と手間をかければなんとかなりそうじゃないか・・・。
慌てることはない。じっくり構えてゆっくりやろう。
と、イチョウの葉の緩やかな曲面を撫でながらう並べた素材を前に思いを巡らしていると、まるでおもちゃを前にした子供ね。と、やつの無言の声。(仰せのとおり・・・)

第2回(10月28日)

さっそく取りかかる。

マニュアルを読むと、先ずはイチョウの葉(3枚重ね)と側板(7枚重ね)を接着剤(木工ボンド)とタッピングねじを併用してこしらえるとしか書いていない。
実はこの日のために発注後MJのバックナンバーを引っぱり出して、長年MJにホーン製作記事などを発表されている新井悠一氏の記事を参照していたのだが、それによれば接着時は板のずれが生じないようそれなりのコツもあるよう。だが、その辺についてマニュアルには何の注意書きもない。どうも接着の際の多少の重ね合わせのずれは次の行程でサンダー等で削り整形する前提のようでもあるし、あるいはその位の木工技術・経験は当然前提のキットなのかもしれない。

う〜ん。当然の如くずれないように貼り付ける自信がない。
マニュアルどおりにタッピングねじを使うとすれば、各素材のタップねじ用の穴開けは自分でしなければならないのだが、ボール盤もないので垂直に開けられる筈がないから、それでねじを押し込んだら確実にずれを生じる結果を招くだけのような気がするし、その場合は穴の開いた板の残骸を前に製作が早くもとん挫してしまうだろう。それにこの程度の板を接着するためにせっかくの板にボコボコ穴を開けるのも何か気が引ける。

そこで結論としては新井さんのホーン製作手法を参考にして、エポキシ接着剤とクランプで接着を試みることとした。



まず側板で上手くいくかやってみる。一度に何枚も重ねて一気にと欲張るとずれる可能性が増えるだけなので、2枚でやってみる。エポキシ接着剤を塗って板を張り合わせクランプで締め付ける。
エポキシは塗りすぎても無駄なだけでなく板を横ずれさせる潤滑剤効果を高めるだけとなってしまうことや、安物のクランプは工作精度が悪くクランプ部分の垂直が取られていないので板を横にずらすモーメントを与えてしまうなど具合が良くないことが頻発し、もうこの時点で前途多難を実感するのだが、なんとかずれが最小限になるよう修正しながらクランプを締め付けていく。

新井さんのコツは、板のずれを防ぐために頭を切った小さなくぎを打っておくというものだが、2枚の板の接着程度ならそれをしなくても何とかなるようだ。が、複数枚を一度に接着しようとすればそのコツを活用しないとまず無理だな、と実感する。


結果、なかなか良い感じとなった。殆どずれもなく出来上がっていく。が、入手したエポキシ接着剤は完全接着まで最低12時間かかる。また、接着時の温度は20℃以上でないと良くない。これから寒い冬だというのに。
となると、1枚ずつ接着していったら接着だけでもそうとうの日数が掛かってしまいそう。なにせ40枚の板を接着するのだ。
これは気長にやるしかない・・・



ところで、この板の素材はHP(ハードパインボード)というもので、M.F.Dというエンジニアリングウッドとのことだ。要するに木ではない。が、実際さわってみた印象としては、叩くとコッコッとした感じで密度も硬度もありそうな音で、クランプで圧力をかけてもクランプの当たった部分がへこんだりすることもないから、実際の密度・硬度も十分な感じだ。比重は0.62と特別重い訳ではないが軽くもない。見た目は段ボールのような色で堅い紙のような感じもするが、触って持っていじってみるとなかなかの優れものかもしれない。(^^;
(2000年11月3日)

(つづく)