No−217

真空管電流伝送プリアンプをStudyする






WE396Aの2段増幅で構成するNo−217。

・シミュレーションではこれでドリフトはないが、実機ではそうはいかないので、これにSAOCというDCサーボ回路を付加してカップリングコンデンサーを排除する。結果、DCアンプではなくACアンプになる。

・が、もともとK式DCアンプは直流を増幅することが目的ではないのでそれでもDCアンプと称する。

・これすなわち“DCアンプ”という固有名詞であると解するほかない。

・のはともかく、その“DCアンプ”もここまでなってしまった。
・LTSpiceの占う、音量調整VR=51kΩの場合の利得−周波数特性。

・オープンゲイン(赤)は低域で40dB程度という結果だが、1段目で5倍、2段目で20倍、トータルで100倍といったところ。クローズドゲイン(緑)は低域で13dB程度程度、ループゲイン(青)≒NFB量は低域で27dB程度。
・反転増幅回路の信号減衰動作で音量を絞るボリュームとして使用するので、帰還抵抗を極小にした場合にはどうなるのかも観る。

・帰還抵抗51Ω。
・オープンゲイン(赤)自体が低域で−10dB程度と減衰している。一方、クローズドゲイン(緑)は−54dB程度と大きく減衰している。このため、ループゲイン(青)≒NFB量は43dB程度確保されているという占い結果だ。帰還抵抗51kΩの場合に比してループゲイン(青)≒NFB量が15dB程度増加している。本当?

・また、3極管だから当然だがもとより理想NFB動作ではない。


クローズドゲイン(緑)は高域まで0dB以下なので発振はしないのだろうが、その高域にこれだけ盛り上がりがあるのは余り気持ちの良いものではない。反転動作回路でゲインをマイナスにする場合、大体こういうシミュレーション結果になるのだが、これでは方形波応答にそれなりのオーバーシュート等が生じるだろう。
・その辺、100kHz方形波応答で観る。

・まず、帰還抵抗51kΩ。最大ゲインの場合。
・殆ど三角波になる。まぁ、応答スピードが遅いというだけで素直な三角波となっており、これで何ら問題はない。
・こういう応答波形になるのは別に真空管だからではなく、位相補正の設定のせいである。

・位相補正のCを50pFから10分の1の5pFに変えてみると、
・このように立派な100kHz方形波応答になる。

・この設定の方が良いのではなかろうか?
・が、帰還抵抗を51Ωとした場合、すなわちボリュームを絞った減衰機動作の場合に、位相補正C=5pFではこうなる。
・リンギングが盛大だ。MHz以上の領域での発振に近い。
・ので、位相補正Cを10倍の50pFに戻すと、
・オーバーシュートが立ち上がり時に本来レベルの17倍程度とまだかなりあるが、リンギングには繋がっていない。立ち下がり時のオーバーシュートはかえって大きくなったが、変な高周波のぎざぎざはなくなった。これで素直な方形波応答かな。? まぁ、5pFの場合よりは良い。

・やはり、反転動作オペアンプをボリュームとして使用する場合は、ボリュームを絞った際にNFBが大きくなるので、その場合でも安定性が確保できる位相補正をしないといけない。

・ちなみに、位相補正C=5pFで帰還抵抗51Ωの場合の利得−周波数特性はどうか。
・やはり、クローズドゲイン(緑)の高域でのピークが高く鋭くなっている。

・これが方形波応答におけるリンギング等の増大の原因だ。
・クローズドゲインを0dB(1倍)に設定した場合の、1kHz正弦波入力、出力1Vr.p.mでの歪みの状況をFFTで観る。
・結果、2次歪みが−75dB程度、3次歪みが−120dB未満といったところ。

・Total Harmonic Distotion:0.015169%

・これが多いか少ないかは、他に比較対象がないと何とも言えない。
1にシンプル化、2にシンプル化で差動アンプやプッシュプル出力アンプに対するハンディを克服するNo−217の回路は、無論半導体でも構成できる。

・例えば右。

・単に真空管をFETとTRで置き換えただけだが、真空管で組まれた場合はそれなりに良さ気だなぁという気持ちで見れるのだが、こうして半導体で構成してみると、1960年代の半導体アンプの世界に戻ってしまったかのよう。(爆)

・が、よく観れば非常に洗練されたシンプル&リファインドな回路という感じもしないではない。(^^;

・この場合、純粋に増幅動作をするのは2SK30Aと2SC2240の2石だけであり、二つの2SA970は電流を転送するカレントミラーや、定電流負荷の働きしかしていない。だからこのアンプは明らかに2石アンプである。?
・LTSpiceの占う、音量調整VR=51kΩの場合の利得−周波数特性。

・1段目はR4による電流帰還が掛かるので、素子に何を使っても電圧ゲインはR5/R4で決まり大したゲインはない。要するに1段目はバッファのようなものである。すなわちこの回路は2段目の素子で殆どのゲインを稼いでいる。だからこのアンプは明らかに1石アンプである。?

・ということはさておき、この場合その2段目の2SC2240のgmがWE396Aのそれよりかなり大きいので、オープンゲイン(赤)は低域で72dB程度とWE396Aの場合より32dBほど大きくなっている。

・クロースドゲイン(緑)は低域で13dB程度と同じなのは当然だが、結果低域のループゲイン(青)≒NFB量は59dB程度となっている。

・帰還抵抗を51Ωと、ボリュームを絞った状況では、
・オープンゲイン(赤)は低域で18dB程度。クローズドゲイン(緑)は何故か−48dB程度。ループゲイン(青)≒NFB量は64dB程度となっている。

・こちらは帰還抵抗51kΩと51Ωの場合のループゲイン(青)≒NFB量に余り乖離が生じない。のは、2SC2240の出力インピーダンスが高いので、理想NFB動作により近い動作になっているからだろう。

・クローズドゲイン(青)の高域のピークはWE396Aの場合より低く鈍いので、位相補正はこの560Ω+20pFで良い感じだ。
・なので、100kHz方形波応答で位相補正の妥当性を観る。

・まずは帰還抵抗51kΩのボリューム最大の場合。
・なかなか立派な100kHz方形波応答。良さ気だ。
・帰還抵抗51Ωのボリューム最小付近ではどうか。
・立ち下がり時に大きなプレシュートと、その他小さなプレシュートがあるが、大きなプレシュートもその大きさはWE396Aの場合の1/3だ。

・位相補性はこの設定で良さ気だ。ゲインが大きい分ミラー効果も大きくなるので容量は小さくて良くなるということだ。
・これについても、クローズドゲインを0dB(1倍)に設定した場合の、1kHz正弦波入力、出力1Vr.p.mでの歪みの状況をFFTで観てみる。
・結果、2次歪みが−105dB程度、3次歪みが−140dB程度といったところ。

・Total Harmonic Distotion:0.000358%

・WE396Aの場合の1/42。WE396Aと2SC2240による回路で、クローズドゲインを0dBとした場合のループゲイン≒NFB量は、それぞれ36dBと62.5dBであるとシミュレーターは占う。すなわち2SC2240の方が26.5dBNFB量が多いということで、こちらの歪み率が少ないのは当然なのだが、そのNFB量の差以上に歪み率が小さい。

・本当か?これが本当なら、2SC2240の方がWE396Aよりスッピンでも直線性が良いということになる。

・もしこれで良い音がしてしまったら、過去40年積み重ねてきた、差動アンプやプッシュプル動作によるK式DCアンプの歴史が音を立てて崩落してしまうような。。。
・2SC2240は勿論FETでも可能だ。

・この場合は、明らかにFETアンプ。?
・音量調整VR=51kΩの場合の利得−周波数特性。

・2SK117のgmは2SC2240より小さいので、オープンゲイン(赤)は低域で60dB程度と2SC2240の場合より12dB程度小さい。が、それでもWE396Aの場合よりは20dBほど大きい。

・クロースドゲイン(緑)は低域で13dB程度。結果低域のループゲイン(青)≒NFB量は45dB程度。
・帰還抵抗51Ωと、ボリュームを絞った状況では、
・オープンゲイン(赤)は低域で−3dB程度。クローズドゲイン(緑)は何故か−54dB程度。ループゲイン(青)≒NFB量は50dB程度となっている。

これもループゲイン(青)≒NFB量に余り乖離が生じない。2SK117の出力インピーダンスも高いので理想NFB動作により近い動作になっているからだろう。

・クローズドゲイン(青)の高域のピークはこの場合もWE396Aの場合より低く鈍いので、位相補正はこの510Ω+30pFで多分良い設定だろう。
・100kHz方形波応答。

・まずは帰還抵抗51kΩと、ボリューム最大の場合。
・良さ気である。
・次に帰還抵抗51Ωと、ボリューム最小付近の場合。
・予想通り。

・位相補正はまず妥当だ。
・これも、クローズドゲインを0dB(1倍)に設定した場合の、1kHz正弦波入力、出力1Vr.p.mでの歪みの状況をFFTで観る。
・結果、2次歪みが−100dB弱程度、3次歪みが−130dB程度といったところ。

・Total Harmonic Distotion:0.001153%

・WE396Aの場合の1/13。2SC2240の場合の3.2倍。

・まぁ、基本的にはNFB量に比例。
・次に、3極管特性を有する半導体2SK79。V−FET。シミュレーターにはV−FETの素子シンボルはないので3極管のシンボルを使用する。おかげで見た目有難味がある。(爆)

・世界的にも珍しい素子なので、折角だから初段にも2SK79を起用する。


・音量調整VR=51kΩの場合の利得−周波数特性。

・オープンゲイン(赤)は低域で41dB程度とWE396Aの場合(40dB)とほぼ同じ。

クロースドゲイン(緑)は13dB程度なので、ループゲイン(青)≒NFB量は28dB程度。
・帰還抵抗51Ω。ボリュームを絞った状況。
・オープンゲイン(赤)は低域で7dB程度。クローズドゲイン(緑)は何故か−50dB程度。ループゲイン(青)≒NFB量は56dB程度となっている。

・クローズドゲイン(青)の高域のピークから観て、位相補正はこの480Ω+50pFでまずまずか。
・100kHz方形波応答。

・まずは帰還抵抗51kΩのボリューム最大の場合。
・立ち上がり、立ち下がりに僅かにオーバーシュートがあるが、この程度は全く問題ない。
・次に帰還抵抗51Ωと、ボリューム最小付近の場合。
・ちょっとリンギングが生じているが、この程度なら許容範囲か。まぁ、もう少し位相補正Cの容量を増やしても良いかもしれない。
・これも、クローズドゲインを0dB(1倍)に設定した場合の、1kHz正弦波入力、出力1Vr.p.mでの歪みの状況をFFTで観る。
・結果、2次歪みが−80dB程度、3次歪みが−120dB程度、さらに4次歪みが−150dB程度。

・Total Harmonic Distotion:0.00883%

・WE396Aの場合の1/1.7程度。

・やはり3極管や3極管特性のV−FETはgmが小さいので、5極管特性でgmの大きい半導体にはトータル特性的に敵わないものになる。

・からといって音もそうとは限らないところ。
・と、シミュレーターで遊んでいるうちにこんな基板が出来上がってきた。

・No−217のStudyなのに真空管でないとは何事か。

・なのだが、回路は下図のとおり。
・トランジスタで組んだNo−217もどきである。

・こうしてみるとすっかりDCサーボの掛かったシングルアンプ。

・これで良い音がしたらほんとにショックだね。(爆)

・ケースと電源関係は、No−168MCプリのそれを流用する。

・ので、レギュレーターは右。GREEN。

・これで我が家のNo−168は終焉を迎えた。

・のだが、それに代わってこのNo−217もどきプリアンプは生き残るだろうか。

・早速、試聴タイム。
・唖然。。。。。。

・音が出た瞬間、あまりにも美しく表情豊かな音で、感動の渦に巻き込まれてしまった。

・いや(^^;

・しかしちょっとショックだ。

・空間が突き抜けている。音は楚々として何の誇張もない。要するにそのままだ。だから美しく表情豊かに音楽が再生される。

・これまでの差動・プッシュプルアンプとちょっとニュアンスに違いも感じるのだが、それは正に素直なシングルアンプのせい?

・さらにアンプの微調整にかかろうかと思っていたのだが、聴き始めたらレコードを次から次へととっかえひっかえで止まらなくなってしまった。

・これは生き残るな。

・音を立てて崩落。。。の気配

・これに真空管のエフェクター効果が加わったらさらに魅力的なものになるのかもしれない。




2011年11月23日







その2



WE396AのSpiceモデルのプレート特性(緑)を、Ebb=40V、Ib=20mA以内でシミュレートしたのが右。

・なんとEc1=3Vまで表示させているのだが実にそれらしい特性だ。さらにグリッド電流特性(ピンク)も表示してあるが、これもまた実にそれらしい特性だ。

・リアルの世界におけるWE396Aは、グリッド電圧Ec1は+1Vまでしか対応していないようなので、これはあくまでシミュレーション上のものに過ぎない。

・のだが、もしこのシミュレーションモデルのプレート特性が現実のWE396Aにあったら、ごく低い電源電圧でのNo−217が可能だっただろう。


・例えば、右。

・電源電圧は±28V。

このような低い電圧で上手く動作させるために、抵抗定数の変更は当然だが、それ以外にもオリジナルNo−217に多少手を加える。

・2段目WE396AはA2級動作にする。この電源電圧ではここはA2級動作にしなければDC動作点の5.6mAのプレート電流は得られない。

・そうすると真空管のグリッドバイアスは+1V程度となり、その際には0.6mA程度のグリッド電流が流れることが上の特性図から分かる。

・ので、このグリッド電流が流れることによる負荷効果を初段に及ぼさないよう間にエミッタフォロア2SC2240を追加し、グリッド電流の供給と適切な信号伝達の役割を果たさせる。

・このエミッタフォロアを追加せず、2段目WE396Aのグリッド電流も初段WE396Aで賄えるのならそれも考えられる。が、そうするとこの場合初段のWE396AまでA2級動作領域に入る可能性がある。残念ながら初段WE396AをA2級動作にするのは色々とまずい。ので、それは不可だ。

2段目WE396Aのカソードのツェナーダイオードは、どれだけ重い負荷が出力に繋がるか、要するにどれだけの電流振幅を想定するかと、真空管の特性図をにらめっこし、マイナスバイアス用に必要最小限に決める。で、2Vとした。

・位相補正の接続点は変わったように見える。が、見方を変えれば実は変わっていない。

・結果、トランジスタが1個増えてしまった。シンプル&シンプルの観点からはややエレガントさが減じてしまう。が、是非もなし。

・で、LTSpiceの占う、音量調整VR=51kΩの場合の利得−周波数特性が右。

・オープンゲイン(赤)は低域で48dB程度、クローズドゲイン(緑)は低域で当然13dB程度、ループゲイン(青)≒NFB量は低域で33dB程度となった。


・一番上のWE396AによるオリジナルNo−217の占い結果よりオープンゲインが8dBほど大きい。これはR4とR5の定数設定の違いでこちらの初段のゲインが大きくなるため。

・と、まぁ良さ気。

・帰還抵抗を51Ωと、ボリュームを絞った状況では、
・オープンゲイン(赤)は低域で−2dB程度、クローズドゲイン(緑)は−53dB程度、ループゲイン(青)≒NFB量は50dB程度。帰還抵抗51kΩの場合に比してループゲイン(青)≒NFB量が17dB程度増加している。

・クローズドゲイン(青)の高域のピークは一番上のオリジナルNo−217の場合よりも良い感じなので、位相補正はこの470Ω+68pFで良いかな。
・という辺りを100kHz方形波応答で観る。

・まず、帰還抵抗51kΩ。最大ゲインの場合。
・良さ気である。
・次に帰還抵抗51Ωと、ボリューム最小付近の場合。
・プレシュートのレベルが比較的に大きいが、リンギングには繋がっていないので、まぁ、可。
・次に、負荷を4kΩとし、10kHz正弦波応答で2段目WE396Aの電流振幅を限界まで大きくして、その際の2段目周辺の電流、電圧の推移から、2段目周辺の設定の妥当性を観じる。
・赤が2段目WE396Aのグリッド−カソード間電圧、緑が出力電圧、青が2段目WE396Aのプレート電流、ピンクがそのグリッド電流、シルバーがエミッタフォロアの2SC2240のコレクタ電流、そしてゴールドが初段WE396Aのプレート電流である。

・出力電圧(緑)はピークtoピークで±18V近くに達しており、負荷を4kΩとしたことによりWE396Aのプレート電流振幅(青)はピークtoピークで直流動作点電流5.4mA±4.5mAとなっている。すなわち、この設定ではほぼ限界出力状況である。通常負荷は10kΩ以上なので、ここまで2段目WE396Aの電流振幅が大きくなることは通常の使用状況ではないだろう。

2段目WE396Aのグリッド−カソード間電圧(赤)を観ると、そのプレート電流が減る際にバイアスがマイナスになる部分があることが分かる。その最大値は−1V弱のようだ。なので、カソードに入れた2Vのツェナーダイオードは適切な値だろう。まっ、現実出力範囲の見切りや真空管の特性次第では、これを入れなくて良いと判断するのもありだ。

・次に2段目WE396Aのグリッド電流(ピンク)だが、グリッド電圧が対カソードでマイナスのA1級動作に移行するとグリッド電流は0になるので、まるで半波整流のような電流波形になっている。グリッド−カソードで2極管動作をしているので当たり前だが、グリッド電流はピークで4.5mAに近い。やはり初段のみではドライブ出来ない。エミッタフォロアは必要だ。

・そのエミッタフォロア2SC2240のコレクタ電流(シルバー)は、最大で13mA、最小で2mAとなっているが、動作点の5mAを境として+に大きい非対称な波形となっている。のは、2段目WE396Aの半波整流のような電流波形になっているグリッド電流を適切に供給しているからである。おかげで2段目WE396Aのグリッド電流の変動に伴う負荷効果が初段WE396Aに及ばず、そのプレート電流(ゴールド)はA1級動作内の適切な電流振幅に収まっている。

・良さ気だ。

・次に、SAOCというDCサーボ回路の効能を観る。

・先ずは帰還抵抗51kΩと、ボリューム最大の場合。
・この場合、低域は0.001Hzまで表示している。

・オープンゲイン(赤)が中域で52dB程度と増加している。のは、SAOCの追加のためカレントミラーQ1のエミッタ抵抗値が変わって、ここでの電流変換率が大きくなったため。

・で、SAOCの低域のfcにより、オープンゲイン(赤)が10Hz程度から低域に向けて低下している。

・ループゲイン(青)も同様に10Hz程度以下で低下している。

・が、これは見かけ上のもので、実はその10Hz程度以下ではSAOCによるNFBがオープンゲイン(赤)が減少している量と同量掛かっており、結果、アンプ部自体のループゲイン(青)≒NFB量が0.1Hz以下で一定になっているのに、クローズドゲイン(緑)はさらに低域に向けて20dB/octで減少を続けている。

・ので、このアンプは直流を増幅することはなく、逆に減衰させる。その意味で、直流まで増幅するDCアンプではなく、ACアンプに他ならない。
・次に帰還抵抗51Ωと、ボリューム最小の場合。
SAOCの効能による現象については帰還抵抗51kΩの場合と同じ。なので特に言うべきことはない。

・が、オープンゲイン(赤)、ループゲイン(青)が中域以上で大きくなっており、その結果高域でのクローズドゲイン(緑)の上昇が変化していないかは要チェックだ。

・が、結論的には変化はない。ので、位相補正はこのままで良さ気。

・ただ、帰還抵抗51kΩの場合もそうだが、オープンゲイン(緑)の低域のカットオフ周波数が無用に低いような気はする。
・さて、これについても、クローズドゲインを0dB(1倍)に設定した場合の、1kHz正弦波入力、出力1Vr.p.mでの歪みの状況をFFTで観る。
・結果、2次歪みが−95dB程度、3次歪みが−115dB程度、さらに4次歪みが−145dB程度。

・Total Harmonic Distotion:0.001412%

・一番上のオリジナルWE396Aの場合の1/10程度。

・なかなか良さ気である。

・ので、可能ならこの低電圧でWE396AによるNo−217もどきを作ってみたい。

・のだが、現実のWE396Aは、グリッド電圧Ec1が+1Vまでしか対応していないということである。

・よって、以上は文字通りバーチャルに過ぎず、現実化は出来ない。

・残念。

・と、シミュレーターで妄想しているうちに、こんな基板が出来上がってきた。

・No−217のStudyらしく今度は真空管のようだ。

・しかし、明らかにWE396Aではない。

・どう見てもサブミニチュア管。(爆)

・なのだが、回路は下図のとおり。
・サブミニチュア管PhilipsECG JAN6111WAでハイブリッドに組んだNo−217もどきである。

・こうしてみるとすっかりDCサーボの掛かったシングルアンプ。

・が、真空管が使ってあると何となく良い音がしそうなのが不思議。(爆)

・ところで、これだけの半導体を使用しているのにこれは真空管アンプ?

主役、脇役と役どころを観るのも一興だが、システムは全ての素子のコラボレートで成り立っている。だから素直にハイブリッドアンプと言う。

・イコライザーIVコンバーター部の位相補正Cは56pFとした。こちらはユニティゲイン動作なので、フラットアンプ部ほどNFBが深くなることはない。従って位相補正はより軽くて良いので、ちょうど手持ちにあった56pFにしたもの。

・ケースはNo−170CDラインアンプを廃用としそのケースを流用する。

・電源関係は、ヒーターについてはLinkmanのスイッチングACアダプタ、SPS1201PC(12V1A)ではなく、6V2AのSPS0602PCを使用して4本に並列給電する。

・B電源は、
No−168MCプリのそれを流用し、上のトランジスタで組んだNo−217もどきと共用する。

・むろん共用するのは別ケースのTKP1トランス&整流部で、レギュレーターは私の“バッテリードライブ不完全対称型DCパワーアンプ”製作の際に解体となった“電池式GOAパワーアンプ その2”で使用していた±18Vレギュレーターをリニューアルして起用する。BLUE。

・回路は右。

リニューアルと言っても基板を新しくするだけで回路は変更しない。この回路は上のTR版で使った電池式GOA時代の最終的なレギュレーターになる一歩手前のもので、1988年頃の回路だ。基準電圧源に使用してあるのが05Z6.2Yであるため、出力電圧が±18Vでなく±19Vをやや超えるものとなった。が、構わない。この場合むしろ都合がよい。

・近頃はレギュレーターも簡素化が進み、出力のプッシュプルはとうに廃され、No−217では誤差アンプもトランジスタによるシングル動作になり、結果、教科書に載っているような何の変哲もない安定化電源になってしまった。

・あれほどシングル動作に対する有用性が唱えられた差動とプッシュプルが、結局はシンプルなシングル動作に敵わなかった、あるいは違いがなかった、というのが40年後の結論なのだろう。

・これまでの歩みはそれを知るための長い道程だった。

・音を立てて崩落。。。
・で、アンプ回路は妄想した±28V電源でのWE396Aのシミュレート回路とすっかり同じだが、電源電圧は±19Vである。これで動くだろうか。

・なのだが、右は手元のPhilips 6111WAを4本適当に選んで、グリッドとカソードを短絡してプレート−カソード間に電圧を加えた場合のプレート電流、要するにFETで言うIdssを印加電圧11.85Vと23.68Vで計った結果である。

・この2点での測定結果から、ちょうど2点の真ん中が電源電圧18V程度での0バイアス時のプレート電流と観て良いのだが、最低でも1.4mA、平均では1.8mAある。この平均値はシミュレートしたWE396Aの電源電圧28Vでの0バイアス時のプレート電流と同じだ。一方、WE396Aのμ=35、gm=5.5mSに対して6111はμ=20、gm=5mSとそれほどの違いはない。

・だから、±28VでのWE396Aのシミュレーションは、±18Vでの6111のシミュレーションとして当たらずとも遠からずに成り立つのである。

・さらに、6111はA2級動作でグリッドバイアス+4Vまで可能とのこと。

・ならば、この回路はシミュレーションの通りに現実でも成り立つ。 はず。(爆)
・が、この場合の問題は、2段目に起用する6111がA2級動作で10数mAのIbが可能かというより、初段に起用する6111が電源電圧18V、ゼロバイアスで1.5mA程度のIbが得られるかの方である。PhilipsRCAGEのプレート特性図を見るとどれもぎりぎりのように思える。

・そこで、6111WAは初段の動作点1mAをA1級動作内でクリアするよう、この測定でプレート−カソード電圧18VでIdss=1.5mA以上と思われるものを選別する。ここで1.5mA以上あるものは自動的にA2級動作で10数mAのIbという条件も満たす。いくつか計ってみるとIbが小さいのもある。1.5mAに満たなくても、初段の動作点を0.5mAにでも設定していくつか定数を変えれば良いわけだが、今回はうまく手持ちで選抜できた。ので、このままの設定で行く。

・ところでGEの6111の規格表の特性図にはEb=+24Vまで表示されている。GE6111はA2級でEb=+24Vまで可なのだろうか? 一方、Philipsの特性図にはEb=0Vまでしか表示されていない。Philipsの6111ではA2級動作は不可能なのだろうか?

まぁ、この世は全て自灯明。実際、やってみて試す以外にない。


・果たして上手く動作するか。
・の前に、±28V電源でのWE396Aのシミュレート回路とすっかり同じと言ったにもかかわらず、実は一カ所変更した部分がある。

・フラットアンプ部のSAOCの入り口の抵抗を5.6MΩから820kΩにしてある。

・のは、今度のフラットアンプ用のSAOCの場合、低域のカットオフ周波数が単純に入り口の抵抗とコンデンサの定数のみでは決まらず、
電流を吸い込む部分となるフラットアンプ部のQ1のエミッタ抵抗の値やSAOCのQ4のエミッタ抵抗の値、さらにフラットアンプ部のオープンゲインにも左右されることが分かったからである。

・で、結論としては入力部の抵抗を820kΩにしたのだが、その
場合のSAOCの効能を改めて観る。

・先ずは帰還抵抗51kΩの場合。
・上の入力部の抵抗が5.6MΩの場合のグラフと比較すると明らかだが、クローズドゲイン(緑)の低域のカットオフ周波数が、0.1Hz付近から1Hz付近へと1オクターブ上昇している。
・次に帰還抵抗51Ωの場合。
・この場合も、クローズドゲイン(緑)の低域のカットオフ周波数が、0.01Hz付近から0.1Hz付近へと1オクターブ上昇している。
・ちなみにこの辺、オリジナルNo−217について帰還抵抗51kΩの場合を占ってみると、
クローズドゲイン(緑)の低域のカットオフ周波数は1Hz付近で、SAOCの入り口の抵抗を820kΩとした今回の6111ハイブリッドNo−217もどきと変わらない。

・ので、820kΩ。

・現実、今回の6111によるハイブリッドNo−217もどきでは、ここが5.6MΩであるとSAOCの反応に時間が掛かりすぎて実用性に欠ける。

・勿論オフセットを0Vに吸い込むのだが、それに時間が掛かり、結果一度0Vに安定した後でも、ボリュームを大きく動かした際などに再度オフセットが多少大きく出て、それが多少の時間を要してまた0Vに吸い込まれるといった動作になる。その際動作に時間を要する分オフセットも大きくなるため、パワーアンプの保護回路が動作するといった状況にもなって実用性が損なわれるのである。

・これが820kΩだと、まぁ、実用範囲だ。

・今回のフラットアンプ部用のSAOC、案外に容易ではない。
・さて、適切に動作しているかどうかを100kHz方形波応答で観る。

・先ずはボリューム最大、要するに帰還抵抗50kΩの場合

・入力はピークtoピーク±0.5V。

・写真は2現象で、下が入力波形、上が出力波形。横軸は2uS/div、縦軸は下が0.5V/div、上が1V/div。

・シミュレーションの応答波形よりなまっているが、特に問題はない正常な応答をしている。
・次は、ボリューム最小付近の場合

・入力は同じくピークtoピーク±0.5V。


・こちらは、上の縦軸が5mV/divとなっている。

・シミュレーターの占う応答波形より大分小さなプレシュートで収まっている。

・良いのではないでしょうか。

・よって、結論としては上手く動作しているようである。

・真空管を使っているのに全く感電する心配のないNo−217もどきハイブリッドプリアンプ。

・出来上がったようだ。

・早速、試聴タイム。
・と、思ったのだが、真空管だからしばらくエイジングも必要だ。

・よって、オリジナルNo−217の恒例の“本機の音”をじっくりと読んでからにしよう。




2011年12月7日







その3



・オリジナルNo−217の恒例の“本機の音”もじっくりと読んだ。そして、真空管のエイジングも済んだ。

・ので、早速試聴タイム。
・の前に、回路の微修正を行ってある。

・初段6111WAのカソード抵抗を微調整し、そのIbを所定の1mAに極力近づけた。

・また、2段目6111WAの負荷となる定電流回路の2SA970のエミッタ抵抗を430Ωから330Ωに変更した。のは、HZ3B2で作る基準電圧が規格表にもあるとおりこれに流す電流値でかなり変わり、この設定電流では2.46V程度にしかならないため、これを踏まえて抵抗値を変更し、6111WAの動作点電流が所定の5.6mA程度となるようにしたもの。

・で、回路はこう。
・同じく、トランジスタで組んだNo−217もどきの方も、回路の微修正を行っている。

2段目2SC2240の負荷となる定電流回路2SA970のエミッタ抵抗を430Ωから300Ωに変更した。のは、6111WAの場合と同様の理由による

・また、フラットアンプ部のSAOCの電流吸い込みトランジスタQ5のエミッタ抵抗を5.1kΩから1.8kΩに変更した。のは、グローズドゲインの低域のfcを1Hz付近に上げ、SAOCのレスポンスを高速化するため。

・その辺、LTSpiceでそのエミッタ抵抗を従前の5.1kΩと新たな1.8kΩにパラメトリックに変更して占ってみる。
・結果が右。

・オープンゲイン(赤)もループゲイン(青)もクローズドゲイン(緑)も左側が抵抗5.1kΩの場合で、右側が抵抗1.8kΩの場合。

・1.8kΩの場合にクローズドゲインのfcが1Hz付近に上がっていることが分かる。

・すなわち、TRバージョンの方は、5.6MΩの方は変更せず、
電流吸い込みトランジスタのエミッタ抵抗を変更することで、SAOCの低域のfcを変更したのである。

・で、回路はこう。
・もう飽きて眠くなった。

・ので、能書きはこの辺で終わりにして、今度こそ試聴タイム。
・キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!

・素晴らしい。。。の一言。感動した。

・それぞれの音が三次元空間のそれぞれの場所からすっと何のストレスもなく生き物のように湧き出てきて、空間に三次元に拡散していく。それらは互いに全く混濁することなく、空間で融合して見事なハーモニーとアンサンブルを奏でる。その現実感は、まるでそこに演奏者が居るようで、余りのリアルさはある種気味が悪くなるほどだ。

・嬉しさが込み上げてくる。こんなにも楽しい。素晴らしい音の充実度だ。本物なのだ。本物の演奏ではないのに。レコードの音がこんなに良くて良いのだろうか。カートリッジがこれほどの分解能と音場再現能力、音楽再現能力を有していたとは。驚いた。

金田式40年。遂にここまで来たのだ。

・差動、プッシュプル、DCアンプと、これまで金田式を金田式たらしめていたものへの拘りを捨てたところにとてつもない頂が待っていた。金田先生が思わず「やった!」と叫んでしまったのも全く頷ける。今度ばかりは先生の大口も許そう。

・No−217。ホップ(イコライザーアンプへのAOCの導入)、ステップ(カップリングコンデンサーレス化)、ジャンプ(カートリッジシェル内蔵V/Iコンバーターによる電流伝送方式導入)で大幅に飛躍したNo−215を更に超える金字塔だ。

・って、オリジナルNo−217を作っていない私にそんなことは言えないか。(爆)


・噂によれば、2月号の「バッテリードライブ電流伝送プリアンプ&電流伝送パワーアンプ」のプリアンプは、私の半導体式No−217もどきプリアンプ以上にシンプルな半導体式プリアンプであるらしい。

・抵抗負荷2段差動の第一世代、電池式GOAの第二世代、そして完全対称の第三世代を経て、長らく待ち望んでいた新世代が三世代を超越して遂にやってきた。




2011年12月13日








その4



・No−217のStudyなのに、No−218の回路とは何事か。

・なのだが。(^^;

・初段をベース接地で非反転増幅し、結果±4.8Vという低電圧での動作と、2段構成で反転アンプにしているところはとてもエレガントである。

・一方、これ以上は無理では、という気もする。シンプル化もプリについてはもうこれ以上はないのではないかなぁ。

・で、ホントにこれで音が良かったら、これまで40年近く差動とプッシュプルで動作対称性を追求してきた過去は一体何だったのだろう。という感も否めない。

・まぁ、過去については総括することなく矛盾する方向へも豹変するのがこれまでの通例。面目躍如たるところ。

・が、我がNo−217もどきTR式プリアンプも6111WAでハイブリッドに組んだNo−217もどきプリアンプも驚くほど音が良い。ので、まぁいいか。(爆)

・言い訳は“電流伝送”なのでしばらくは電流伝送&シンプルが追求されるだろう。よって新世代は、“電流伝送の第四世代”となるか。
・そのゲイン−周波数特性をLTSpiceは右のように占う。

・緑がVIコンバーターの2SK117(2SK97代品)も加えたトータルの仕上がりゲイン、赤がイコライザーIVコンバータ部単独のオープンゲインである。

イコライザーIVコンバータ部単独のオープンゲイン(赤)は低域で85dBと
なかなかに大きい。このオープンゲインは完全対称型のNo−210EQやNo−215EQとほぼ同じだ。

・仕上がりゲイン(緑)は、SAOCのDCサーボ効果により30Hz弱をピークとして低域側は20dB/octでゲインが低下する。直流入力は0dB以下、すなわち減衰して出力する。

・30Hz弱のピークより高域では、VIコンバータ2SK117のgm×NFB回路のイコライザー素子のインピーダンス によりRIAA特性になる。1kHzで60dB程度だが、低域は30Hzで明らかに80dBを超えており、この辺はRIAA特性的には低域過剰であることはかねてより指摘されているところ。高域40MHz程度にピークがある。占いの正しさという問題はあるがちょっと気にはなる。
   
・こちらは我がNo−217もどきTR式プリアンプ。

・No−217オリジナル回路の基本構成そのままなので、Q1(2SA970)のカレントミラー(と言うか、電流帰還が大きく掛かったエミッタ接地回路)で初段(2SK30)のドレイン電流を反転させてQ3(2SC2240)をドライブする回路となっている。

・個人的に、電源のバッテリー化は機器が増えるとその維持管理の手間と動作中にバッテリー切れを気にしつつ音楽を聴かなければならないという精神的負担が大きい。ので、バッテリーブドライブはパワーアンプだけで十分と思っている。このため、このプリも6111WAでハイブリッドに組んだNo−217もどきプリも、TKP−1をトランスとした±18VP.P.レギュレータを電源としている。よって、この場合カレントミラーに要する電圧がもったいないという事情はないので、回路はこれで良かろう。

・で、LTSpiceが占うそのゲイン−周波数特性が右下。

・位相補正のR9を560Ωと0.001Ω(無しに相当)としたパラメトリック解析となっているが、その違いは10MHz近辺でちょっと出ているだけ。

イコライザーIVコンバータ部単独のオープンゲイン(赤)は低域で79dBとNo−218EQに比較し6dBほど小さい。
のは、こちらの初段のゲインが小さい、あるいは、Q3(2SC2240)のエミッタに挿入したツェナーダイオードの動作抵抗が案外大きい(HZ3でMAX100Ω)ためだろう。

VIコンバーターの2SK117(2SK97代品)も加えたトータルの仕上がりゲイン(緑)は、VIコンバーターの2SK117(2SK97代品)とEQ素子定数が同じだから、基本的にNo−218EQと同じである。

・が、イコライザーIVコンバータ部の僅かなオープンゲインの違いによるのか、あるいは電源電圧の関係でこちらのSAOCの方がオープンゲインが大きいためか、SAOCの入り口の時定数はこちらの方が小さいにもかかわらず、低域ピークは25Hz程度とNo−218EQより多少低くなっている。

・このSAOCの入り口の時定数の設定は本体のオープンゲインとも関係し、結果は当然低域の音にも影響する。ので、音を聴きながら微妙に調整してみるのも面白いところ。

位相補正のR9(560Ω)の効果は仕上がりゲイン(緑)の10MHz近辺に出ている。そのピークの周波数が低くレベルが大きいのが560Ωがない場合であり、ピーク周波数がより高域側でそのレベルが小さいのが560Ωがある場合である。こうしてみると560Ωの効果はそれなりにあるよう。なのでそのままにする。No−218EQの場合に同じような効能があるかどうか。は知らない。
・再度SAOCというDCサーボ回路の効能を観る。

・SAOCは要するにDCサーボなので、入力側にDC分が入力された場合にこれを出力側に出力させないという働きをする。

・ので、右のようにVIコンバーターの2SK117の入力に振幅が±0.01Vで周期16秒という方形波(要するに±0.01Vの直流)を入力してその働きを観じる。
 
・結果が右。

・緑がイコライザ^ーIVコンバーターの出力電圧、赤がSAOCのQ5(2SA970)のコレクタ電流=SAOCによる制御信号電流である。

・最初入力に−0.01Vが入力されると、DCゲインは非常に大きいので出力電圧は即座に−15V(VIコンバーター+イコライザーIVコンバーターではトータルで非反転動作である)と電源電圧で規定されるマイナス側の飽和出力電圧に達する。が、SAOCの入力の時定数で規定される速度でSAOCのQ5(2SA970)のコレクタ電流=SAOCによる制御信号電流(赤)が通常時の1.19mAから1.025mA程度に減少することによりVIコンバーター2SK117の電流減少分を相殺し、結果出力電圧(緑)はあっという間に0Vに制御される。この状態は入力に−0.01Vが入力されている8秒間続く。

・8秒後に入力電圧が−0.01Vから+0.01Vに反転すると、SAOC入口の時定数でその制御が遅れる間の一瞬において出力電圧は+17Vと、プラス側の飽和出力電圧に達する。が、同様にSAOCによる制御信号電流(赤)があっという間に1.34mA程度に増加することによりVIコンバーター2SK117の電流増加分を相殺し、出力電圧(緑)を0Vに制御してしまう。そしてこの状態も入力に+0.01Vが入力されている8秒間続く。
・次に、VIコンバーター、イコライザーIVコンバーターにおけるSAOCのDCサーボ効果の限界を観るために、入力振幅を±0.1Vと十倍に大きくしてみる。周期は同じである。結果が右下。

・最初入力に−0.1Vが入力されると、出力電圧は即座に−15Vと電源電圧で規定されるマイナス側の飽和出力電圧に達するのは同じだが、今回は出力電圧が−15Vに張り付いたままでこれを0Vに制御できていない。要するにこの場合は入力電圧がSAOCの制御能力範囲を超えているのだ。

・その理由はSAOCのQ5(2SA970)のコレクタ電流=SAOCによる制御信号電流(赤)を観ると分かる。これがその間0mAとなっている。これが限界ポイントなのである。

・入力に−0.1Vが入力されるとVIコンバーターの2SK117はそのgm≒13mS*0.1V=1.3mAその吸い込み電流を減少させる。SAOCがこれを補償するためにはその吐き出し制御電流を1.3mA減少させなければならないのだが、残念ながらこの場合のSAOCのQ5(2SA970)はシングル動作で動作点1.19mAの吐き出し型なのでこれを1.3mA減らして−0.11mAには出来ない。0mAにするのが限界なのである。だから制御できずに出力電圧が−15Vに張り付いてしまう。

・8秒後に入力電圧が−0.1Vから+0.1Vに反転すると、SAOC入口の時定数でその制御が遅れる約2秒間において出力電圧は+17Vと、プラス側の飽和出力電圧に達する。が、この場合はSAOCによる制御信号電流(赤)が2秒後には2.5mA程度に増加することにより出力電圧(緑)を0Vに制御している。

入力がマイナスの場合と異なりSAOCの補償が利いているが、それはSAOCが吐き出し型なので、1.19mA+1.3mA≒2.5mAも出力できるためである。この限界は電源電圧とR16の設定で規定され、この場合は概略18V/5.6kΩ=3.2mAである。ので、VIコンバーターの入力電圧に換算すれば制御できる入力電圧の限界は3.2mA/13mS=0.25Vとなる。

・マイナス側の制御できるVIコンバーターの入力電圧の限界は1.19mA/13mS=0.09Vだから、プラスマイナスの限界が非対称である。のが嫌であればR16の5.6kΩを調整してプラス側の限界を低くすれば良い。オリジナルNo−215も217も218もそうなっている。が、プラス側の限界がマイナス側より低いのではないのでこれで何の問題もない。

・逆にマイナス側の限界を上げて対称に出来ないか。だが、それはSAOCの制御電流点を大きくする以外にない。が、ここは1mAに設定するよう指定されているのでやってはいけない。SAOCの出力部分をプッシュプルにして電流の吐き出しも吸い込みも出来るようにすれば改善するかもしれない。が、現行SAOCの動作に実質的不足は何もないのでわざわざそうする必要性はない。

・フラットアンプ部のSAOCについても、その辺の事情は同じ。

・我がTR式No−217もどきのフラットアンプ部のSAOCは吸い込み型であるが、Q5がシングル動作であるから、その制御電流は0mA以上であり、マイナスにはなれない。

・制御吸い込み電流の上限はマイナスの電源電圧とQ5のエミッタ抵抗R16の設定で規定される。

・結果はどうか。右の我がTR式No−217もどきのフラットアンプ部について、ボリューム最大の設定で、同様に入力に±0.5V、±1V、±1.5V、±2V振幅で周期16秒という方形波をパラメトリックに入力して観じる。

・結果が右下。

・緑が出力電圧、赤がSAOCのQ5(2SA970)のコレクタ電流=SAOCによる制御信号電流であるのは同じ。

・いずれも中心線に近い方から、入力が±0.5V、±1V、±1.5V、±2Vの場合である。

・出力電圧(緑)は、
VIコンバーター、イコライザーIVコンバーター部の場合と同様、入力に直流が加わった瞬間に入力電圧と反対方向の飽和出力に達っし、時定数による時間を経て0Vに収束している。

・のだが、入力電圧が−2Vの場合については0Vに制御することが出来ずに、2V程度の出力電圧になってしまっている。

・その理由は、
VIコンバーター、イコライザーIVコンバーターにおけるSAOCの場合と同様で、SAOCによる制御信号電流(赤)が0mAに達してしまったからである。ということが右図で明らかだ。

・即ち、右図のとおり、この設定では、ボリューム最大=ゲイン最大の場合のSAOCの制御限界は、マイナス入力については1.5V程度である。


・プラス入力に対してはまだまだ余裕がある。が、プラスマイナスともSAOC=スーパー・オートマチック・オフセット・コントローラーとしての所要水準を超えていれば良いのであって、それを超えた部分での余裕にあまり意味はない。

・では所要水準はどこか?

・は、置いておいて、

・次にボリューム最小付近の場合。

・入力は10倍の±5V、±10V、±15V、±20Vである。
・結果がこれ。

・アンプのクローズドゲインがマイナスになって、出力電圧が抑制されるためだろう、入力が±5V、±10V、±15V、±20Vと非常に大きいにもかかわらず、いずれの場合もSAOCの制御範囲で、出力を0Vに制御している。

・ただし、制御に時間は要するようだ。

・と、フラットアンプの場合、そのボリュームの位置=クローズドゲインの設定によりSAOCの制御限界が変わり、制御能力が最大なのがボリューム最小(クローズドゲイン最小)の場合であり、制御能力が最小になるのはボリューム最大(クローズドゲイン最大)の場合となる。

・ので、電源オンは、ボリューム最大状態ではやらない方が良いのかも知れない。
・で、フラットアンプの場合のSAOCの所要水準はどこか?

・この辺、詳しく解説して欲しいところだが、M○誌の編集方針は、掲載アンプをただプラモデルのように組み立てることが出来るよう解説するといったところにあるようなので、今後とも解説されることは期待薄だ。

・から、オリジナル実機の設定から推測を試みる。

・右は、No−217オリジナルで、ボリュームは51kΩとゲイン最大の場合。

その制御能力はどの程度に設定されてだろうか。

・といってもLTSpiceの占いである。

・信じてはいけない。(爆)
・結果が右。

・入力は±1V、±2V、±3V、±4Vである。

・入力
±3Vまでは制御範囲だ。±4Vではプラスマイナスとも制御範囲外になることが分かる。

・プラスマイナスの制御範囲が対称なのは流石にエレガント。ということに余り意味はないが、制御範囲が私のTR式No−217もどきの2倍以上ある。これぐらいの能力が必要なのだろうか。
・一つだけでは推測困難なので、次にNo−218。

・オリジナルのボリューム最大は100kΩだが、他との比較上51kΩで観る。
・なんと、驚いたことに、入力電圧に対する制御可能範囲が非常に狭いではないか。

±0.05V、±0.1V、±0.2V、±0.4V、±0.8Vを入力して、右のようにマイナス入力は0.05Vが制御限界で0.1V以上では出力を0Vに制御出来ない状況になっている。プラス入力は、0.4Vまでが制御可能範囲であり、0.8Vでは制御能力を超えてしまっている。

・本当だろうか。これだとSAOCがちゃんと効くのかちょっと心配になる。R12の2.4kΩを1.8kΩとか2kΩとかにもう少し小さくした方が良いように思うのだが。まぁ、大丈夫なんだろうなぁ。。。

・ということは置いておいて、二つのオリジナルから、フラットアンプ部のSAOCの設定には電源電圧が関連しているのかも?

・アンプの過渡期のオフセット電圧は電源電圧以上になることはない。ので、電源電圧が低ければSAOCが対応すべきオフセット電圧は低いし、電源電圧が高ければ対応すべきオフセット電圧は高い。ということだろうか?

・う〜ん、フラットアンプ部のSAOCの所要水準、分からない。(爆)
・で、突然だが、ある日、我が6111WAでハイブリッドに組んだNo−217もどきのフラットアンプ部で、何故か出力が0Vに収束しないという不具合が生じたのだった。

・しかも、その際レギュレーターの制御トランジスタが異常に熱くなると言う怪現象が付随している。

・この現象、発生したり、発生しなかったりとするので、原因究明にやや難儀した。

・発振?でもなさそうで、となると、オフセットが収束しないのだからSAOCの制御範囲の問題で、発生したり発生しなかったりするのは、要するにその範囲が所要水準ぎりぎりとなっているためではなかろうか。

・なので、6111ハイブリッドNo−217もどきのフラットアンプ部のSAOCの制御範囲を観る。

・と言っても、6111のモデルがないので、±28V電源のWE396Aのモデルで代用する。

・入力に
±0.5V、±1V、±1.5V、±2Vのパラメトリック解析。
・結果は右で、マイナス側の入力に対しては0.5Vが制御限界であることが分かる。

・我がTR式No−217もどきより1Vも小さい。

・ので、当初はこれが原因かと考えて対策を講じてみた。例えばR1の1.8kΩを3.6kΩに変更すると、マイナス側の制御限界は1Vと倍になる。ので、そうもしてみた。

・余計なことだが、このようにフラットアンプ部のSAOCは関与要素が多く案外簡単ではない。

・が、結論的には原因は別のところにあったのだった。
・この現象の発生と同時にレギュレーターの制御トランジスタが異常に熱くなるので、それはフラットアンプ部に異常に多い電流が流れているのだろうと、その電流値をテスターで計ってみたところ、プラス側で90mA程度、マイナス側で80mA程度も流れていたのである。

・そんなに電流が流れるのは異常だ。どこを経由してそんなに電流が流れるのか。しばしそのルートを考えてみたのだが、素子が壊れたという以外で考えられるのは。。。

・抵抗があるとその抵抗値で電流が制限されて最大に流れる電流が決まってしまう。

・から、もしかして、プラス電源→エミッタフォロアの2SC2240のコレクタからそのエミッタ→WE396Aのグリッドからそのカソード→ツェナーダイオード→マイナス電源?

・えぇぇぇ、真空管のグリッド電流って、案外想定以上に際限なく流れるの?


なので、入力に±5V、±6V、±7Vという電圧を加えてシミュレートしてみると、
・新たに加えたピンクが2段目WE396Aのグリッド電流である。

・ありゃまぁ、入力がマイナスでは問題ないが、入力がプラスの際、それが6V、7Vと大きくなると10mA、40mAものグリッド電流が流れるのではないか。さらに、電圧が加わってSAOCが入力の時定数で機能するまでの瞬間にはそれがピーク120mAにもなることが分かる。

・なるほど。初段に大きなプラス電圧が入ると、初段の電流増加→カレントミラーの電流増加→エミッタフォロアの電流増加→2段目WE396Aのグリッド電流の増加となるのだ。しかも、この相関にはNFBやSAOCのNFBが効いてこない。

・ので、電源オン時の過渡的状況で初段WE396Aのグリッド電圧が何らかの理由でプラスになったりした場合に、エミッタフォロアからWE396Aのグリッド→カソードというルートで電流が流れ、その異常電流により、レギュレーターの制御トランジスタが異常に熱くなったのだろう。これに伴い、アンプが電源オン後の過渡的状態から定常状態に移ることが出来ず、結果出力が0Vに収束しない状態になったのだ。多分。
・であれば、この現象はNFB等では制御出来ないので、物理的に電流を制限する以外にない。

・そのために、エミッタフォロア2SC2240のコレクタと電源間に抵抗を入れる。
・と、こうなる。

・グリッド電流は流れるものの、それは抵抗によってピークでも16mA以下に制限されている。

・良いのではないかな。
・が、フラットアンプ部でそうであるのならば、VIコンバーター、イコライザーIVコンバーター部でも同様だろう。

・そこでイコライザーIVコンバーター部。

入力は±0.1V。
・結果が右。

・やはり同様だ。

・マイナス0.1Vで出力が−24V程度の飽和電圧に達する際、ピークで何と440mA、その後減少するがマイナス0.1Vが入力されている間80mAものグリッド電流が流れる。

・入力が反転してプラス0.1Vの場合は、SAOCが出力を0Vに制御するし、異常なグリッド電流の増加もない。

・すなわち、初段WE396A(実機は6111)のグリッドが限度を超えてプラス側になるとイコライザーIVコンバーター部についても2段目のWE396A(6111)のグリッド電流が異常に増加する。

・のだが、それはイコライザーIVコンバーターの入力にVIコンバーター2SK97の接続を忘れて電源オンしてしまうと全くその状況になってしまうよなぁ。。。

・くわばら、くわばら。(^^;

・なので、こちらにも電流制限抵抗を入れる。
・と、グリッド電流は大幅に制限される。

・以上の結果、我が6111WAでハイブリッドに組んだNo−217もどきプリアンプの回路は下のようになった。

・初段と2段目を繋ぐエミッタフォロア2SC2240のコレクタに電流制限のための1kΩを挿入したのである。

・結果、フラットアンプの出力が0Vに収束しないという現象の発生はなくなった。

・めでたし、めでたし。

・なお、これは2段目6111にA2級動作を採用した我が6111WAでハイブリッドに組んだNo−217もどきプリアンプの場合だけの問題であり、オリジナルNo−217等ではあり得ない事象である。念のため。

・素人が下手に真空管に手を出すとこんな目に合うのだわなぁ。勉強になったわぃ。(爆)

・が、フラットアンプ部におけるSAOC=スーパー・オートマチック・オフセット・コントローラーとしての所要水準はどの辺にあるのだろうか。という命題は解けていない。

・問題が生じなければそんなことは考える必要もない。ので、それは0Vに収束しないという事象が再発しない限りずっと先送り。(爆)

・ではしょうがない。

・答えは、所要水準は本体の個体毎に異なるので、その個体ごとに定まる。ということだろう。

・具体的にはSAOCの入口のゲートをアースにショートした状態、要するにSAOCが効かない状態で、電源オン後の過渡期を過ぎたあとの定常状態になった際に、アンプ出力のオフセットとドリフトの最大値がどれほどか。それが所要水準だろう。

・から、最初から計算で出すのは困難。

・じゃぁ、ある程度要求される所要水準を想定して、計算して±○VにSAOCを設定することは出来るだろうに。

・と言うと、実はこれもなかなかに困難。(爆)
・マーラー/交響曲第8番「千人の交響曲」(SLA1039/40)を聴く。

・そういえば、我が家のK式プリアンプが三段跳びで飛躍してから聴くのは初めてだ。

・う〜ん。。。圧巻。

・なので、耳をそばだて、居住まいを正して聴く。

・情報量が圧倒的。これが全てを決めている。情報量が格段に増加するので、細かなニュアンスも、空間感も、楽器や歌手の心も明確になる。なんと感情豊かで実在的なことよ。これがK式プリアンプの三段跳びの成果だ。

・宇宙が鳴り響く音にあっという間に第四楽章まで聴き終えてしまった。




2012年1月17日







その5



・またしても、こんな基板が出来上がってきた。

・No−217のStudyなのにまたまた半導体とは何事か。

・なのだが、回路は下図のとおり。
・我がTR版No−217もどきの、2段目2SC2240を2SK170に変更しただけである。最初に一番上の方でシミュレート済みの構成だ。

・すなわち、FET版No−217もどきプリアンプ。


・ただ、ゲインの殆どを担う2段目のFETには、毎度2SK117では芸がないのでこの際2SK170を起用してみた。また、これに伴い位相補正のC1が20pFとなった。のが、一番上の方でのシミュレーションからの変更点である。

・No−218が登場したことでもあり、その基本構成を採用してはどうか、とも思ったのだが、やはり初段には端子間容量の小さいものを起用するのが良いのではないかなぁ、と、あえて、近頃忘れられた存在になった感のある2SK30ATMを初段に使うこの構成にする。

・早速、VIコンバーター、イコライザーIVコンバーター部のゲイン−周波数特性をLTSpiceで占う。

・位相補正のR9=0.001Ω(無しに相当)、510Ωの場合のパラメトリック解析。
イコライザーIVコンバータ部単独のオープンゲイン(赤)は低域で68dBと、我がTR版No−217もどきEQに比較し11dBほど小さい。のは、2SK170と2SC2240のgmの差。

VIコンバーターの2SK117(2SK97代品)も加えたトータルの仕上がりゲイン(緑)は、VIコンバーターの2SK117とEQ素子定数が同じだから基本的にTR版No−217もどきEQと同じである。

・で、イコライザーIVコンバータ部のオープンゲインはこちらが小さく、SAOCの入り口の時定数は同じなのに、低域ピークは30Hz程度とTR版No−217もどきEQより多少高くなった。

位相補正のR9(510Ω)の効果は仕上がりゲイン(緑)の10MHz近辺に出ており、そのピークの周波数が低くレベルが大きいのが510Ωがない場合であり、ピーク周波数がより高域側でそのレベルが小さいのが510Ωがある場合である。我がTR版No−217もどきEQの場合と同様に510Ωの効果はそれなりにある。

・なお、No−218EQの場合には同じような効能は、どうも望めないようである。から、入れないのだろう。が、それはLTSpiceがそう占うだけのことなので信じてはいけない。

・次に、音量調整VR=51kΩの場合のフラットアンプ部の利得−周波数特性。
・2SK170のgmは2SC2240より小さいので、オープンゲイン(赤)は低域で69dB程度とTR版No−217もどきの場合より10dB程度小さい。のは、イコライザーIVコンバータ部の場合と同じ。

・SAOCによるクローズドゲイン(緑)の低域での下降開始周波数もTR版No−217もどきとほぼ同様なので良さ気である。
・音量調整VR=51Ωの場はどうか。
・これまでの例からして問題ない。
・今回は、帰還抵抗11kΩの場合も観る。

・これでクローズドゲインが大体0dB程度の場合になる。
・実に綺麗なクローズドゲイン(緑)である。

・1MHz以上の高域にも盛り上がりはなく、それ以上では素直に減衰しており、何ら問題がない。
帰還抵抗11kΩ、すなわち、クローズドゲインが0dB程度の場合のゲイン−周波数特性を何故観たのか?

・それは、我が6111でハイブリッドに組んだNo−217もどきプリのフラットアンプの実機の100kHz方形波応答で、そのボリュームが中間付近で、数MHzと思われる緩やかなリンギングが1〜2波程度発生するからである。

・なので、
6111版No−217もどきのフラットアンプの、帰還抵抗11kΩの場合のゲイン−周波数特性を、WE396Aで代用した回路で観る。
・やはり、1MHz以上の領域でクローズドゲイン(緑)が僅かに盛り上がり、3MHz程度で2〜3dB程度のピークがある。これが多少のリンギングの原因だろう。

・が、これで発振するわけでもないので、実機はそのままにしてある。(爆)
・ところで、この盛り上がりは、反転アンプの入力・NFB合流点に容量をぶら下げると簡単に作れる。

・右のように、入力・NFB合流点にC3をパラに加えて、これを0.001pF(無しに相当)、5pF、10pF、20pF、40pFとするパラメトリック解析。
C3が0.001pF(無しに相当)、5pF、10pF、20pF、40pFの順に、低域側にピークが出来てそのピークが高くなっていく。
・6111版No−217もどき(396Aでの代用回路)でもやってみる。
・結果は同じ。

・なので、我が6111版No−217もどきのフラットアンプの実機で、ボリューム中間にした場合に100kHz方形波応答にややリンギングが発生するのは、本体とボリューム間のやや長い配線に生じる寄生容量のせいなのかも知れない。

・と言うわけで、ボリュームとの配線は、容量の大きいシールド線は使用しないで、ダイエイ電線でするのが吉。
・そういう意味では、反転アンプの初段に端子間容量の大きいFETを起用すると、その容量が入力・NFB合流点にぶら下がって同じようなことになる可能性がある。
・ありゃ。(^^;

・まぁ、位相補正をもう少し増やした方が良いように思うのだが、この方が音が良いのかも知れないし、単なるLTSpiceの占いである。

・信じてはいけない。

・この際、No−218パワーアンプ。

・反転増幅として、その入力部の抵抗(R27)をプリアンプ側に装着し、結果、プリアンプとパワーアンプ間を電流電送にしてしまうというのは凡人(→私(^^;)には思うことすら困難な手法で、流石である。
・LTSpiceの占うそのゲイン−周波数特性はこう。

・帰還抵抗10kΩ、即ちゲインを最小に設定した場合。

・100kHz以上でやや盛り上がりがあるが、この程度なら何ら問題ない。
・が、R24をプリアンプ側に移すと、反転動作のパワーアンプの入力・NFB合流点が、プリアンプとパワーアンプのケーブルの長さ分外に飛び出すことになる。

・このケーブルに何を使おうか? 2497のような高容量なものを使用したら、反転アンプの入力・NFB合流点に大きな容量がぶら下がることになってしまう。

・ので、ここにC6をパラに加えて、これを0.001pF(無しに相当)、50pF、100pF、150pFとするパラメトリック解析。2497なら数メートルでこの程度の容量になるだろう。
・結果が右。

・予想通り。パラの容量が増え、あるいは帰還抵抗R17の値を小さくするほどにピークは高くなる。行き着く先は発振だろう。

・だから、帰還抵抗は10kΩが限界なのだろう。し、発振、発振、設定を守れと言及されているのだ。

・が、ケーブルはどうしよう。2497ではこれを長くすることは危険が危ない。

・低容量のケーブルを使うとか、プリとパワーアンプは極力近接してケーブルを短くして使うとか、ということになるのかなぁ。
・その対応策としては、帰還抵抗(この場合I/V変換抵抗?)R17に容量をパラに繋ぐという手があるのは周知のとおり。

・なので、20pFを繋いでLTSpiceで占う。
・結果、右のように上手くいく。

・が、これもケーブルが長くなり入力・NFB合流点にぶら下がる容量がもっと増えれば、それに併せてこのCの容量も増やさなければならない。し、音に影響するかも知れない。

・単なるLTSpiceの占いなので信じてはいけない。が、後編でどうなるのだろう。

・案外どうなることもなく、ただの杞憂か。(爆)
・と、余計なシミュレーションをしているうちにケーシングも済んだようだ。

・ケースは、我がNo−121(もどき)メタルキャンTRによるMCプリアンプを解体し、右の±18VP.P.レギュレータとともにこれに流用。BLUE。

・2SA607、2SC960など、かつての名石をふんだんに使った我がNo−121(もどき)メタルキャンTRによるMCプリアンプも遂に終焉を迎えた。

・のだが、それに代わってこのFET版No−217もどきプリアンプは生き残るだろうか。

・早速、試聴タイム。
・なんか文句あるのか。


・ありましぇーん。(^^;


・やはり、カートリッジシェル内蔵VIコンバーター&イコライザーIVコンバーターによる電流伝送方式は、最初期のDCアンプ導入後40年を経て起こった二度目の革命だ。

・かつて聴いたレコードからかつて聴いたことのない感情豊かな音楽が奏でられ、また、40年を経て差動の頸木から解放されたシングル&シンプルがこれを一層引き立てる。

・この電流伝送の手法が「ピュアカレント信号伝送方式」としてYAMAHAのHA−2で1979年には世に出ていたものであることを思うと、30年を経てか。。。という感がないわけではない。

・が、30年ぶりにこの手法を取り上げ、SAOCにより極めて単純かつ安定なものにして頂いたお陰で、素晴らしく芸術的、かつ、ヒューマニティ溢れる音楽が聴ける。ということである。

感謝。




2012年2月2日








その6



・SONYのいにしえのSIT、2SK79。

・ここからはV−FETではなく、SIT(Static induction transistor: 静電誘導型トランジスタ)と正しい名称で呼ぶ。
・WEB上で確保した2SK79のSpiceモデルのVds−Id特性は右。

・多少の違いはあるが、なかなか良くできたモデリングだ。
・が、ちょっといじってドレイン−ソース間電圧に対してもっと電流が流れる特性にして、その名を2SK79Bとする。

・で、改変後のVds−Id特性が右。
・何故ドレイン−ソース間電圧に対してもっと電流が流れる特性にしたのか?というと、現実に入手した2SK79のVds−Id特性が右下のように、ドレイン−ソース間電圧がもっと低くても大きな電流が流れる特性だからである。

・実は、右下のVgs−Id特性は右のSIT、2SK63の実測によるものなのだが、これはVgs=0Vでドレイン−ソース間電圧10V程度でドレイン電流が40mAも流れるのである。しかして、入手した2SK79も、同条件で40mA前後の電流が流れるものばかりなのだ。

・2SK79は2SK63のモールドパッケージ版だから、結局右下のVds−Id特性は2SK79のVds−Id特性ということになる。

・そのためにわざわざ
ドレイン−ソース間電圧に対してもっと電流が流れる特性の2SK79Bモデルをでっちあげてみたのだ。

・が、その低電圧領域の
Vgs−Id特性は左下。

・残念ながらかなり様相は異なる。が、モデリングを右下にもっと近づけるスキルは持ち合わせていない。ので、今回の実動作領域(18V、1mA&5.5mA近辺)からすればこれで十分。と、妥協。(爆)
・2SK79の2段増幅で構成するNo−217もどき。

シミュレーターにはSITの素子シンボルはないので3極管のシンボルを使用する。

・すでに上の方でシミュレート済みなのだが、そちらでは変更前のモデルを使用していたので電源電圧が±28Vだった。

・このモデルであれば±18Vで動作可能である。
・LTSpiceの占う、音量調整VR=51kΩの場合の利得−周波数特性。

・オープンゲイン(赤)は低域で46dB程度とオリジナルNo−217と殆ど同じ。
・音量調整VR=11kΩの場合の利得−周波数特性はどうか。
・クローズドゲイン(緑)は0dB程度。ステップ位相補正の効果で100kHz以上の領域が上手く伸びて落ちている。

・オープンゲイン(赤)は低域で44dB程度と、負荷が多少変動しても余り変わらない。のは電圧出力の3極管特性が故。
・次に、音量調整VR=51Ωとボリューム最小付近の場合。
・いかに3極管特性といえども、2kΩの出力インピーダンスに対して負荷が51Ωと小さくなってしまっては、オープンゲイン(赤)も12dB程度に落ちるのは必然。

・クローズドゲイン(緑)の10MHz付近のピークのレベルからすると、これまでの経験上、位相補正はこれで問題ないだろう。
・なので、その辺本当にそうかどうか、音量調整VR=51kΩの場合の100kHz方形波応答をLTSpiceで占う。
・オープンゲインが小さいので、必要な位相補正を施すとこの程度が限界である。のは、オリジナルNo−217と同じ。
・音量調整VR=11kΩの場合。
・まぁまぁだ。
・音量調整VR=51Ωの場合。
・方形波立ち上がり、立ち下がり時のプレシュートのレベルも小さく、リンギングも生じていないので、位相補正は妥当だ。

・オープンゲインが相対的に小さい上、入力容量が16pF、出力容量が4pFと、それぞれが8.2pF、2.6pFの2SK30ATMは勿論、13pF、3pFの2SK117よりも端子間容量の大きい2SK79を初段に起用している関係で、位相補正値はこの程度になる。


.
・SAOCの効果を、入力直流電圧±0.5V、±1V、±1.5V、±2V、周期16秒の方形波(要するに±0.5V、±1V、±1.5V、±2Vの直流)応答で観る。
・結果、プラス側でも入力直流電圧が1.5VまでSAOCが機能し、出力電圧を0Vに保っている。

・これは我がTR版No−217もどきと同じレベルなので、全く問題ない。
・SAOC込みの実働状態においてクローズドゲインを0dB(1倍)に設定した場合の、1kHz正弦波入力、出力1Vr.p.mでの歪みの状況をFFTで観る。

・なお、この場合SAOC入り口の時定数による動作安定までの時間を見込んで100mSから200mSの100mS間のデータで測定する。
・結果、2次歪みが−100dB強程度、3次歪みが−110dB未満、それから4次歪み以上の高次歪みが続いている。

・低域に向け最低レベルが持ち上がっていくのはSAOCの低域の時定数のためだろう。

・Total Harmonic Distotion:0.001395%

・これが多いか少ないかは、他に比較対象がないと何とも言えない。

・ので、私の他のNo−217もどきプリアンプ達も同様にシミュレートしてみると、TR版が0.000190%、6111版が0.001404%、FET版が0.000598%と出た。

・要するに、オープンゲインの大小、すなわちNFB量の多寡で歪み率が決まるという当たり前の結果だ。
・次に、VIコンバーター+イコライザーIVコンバーター部の利得−周波数特性。
・そのトータルの仕上がりゲイン(緑)は、VIコンバーターの2SK117とEQ素子定数が同じだから基本的にこれまでの各種No−217もどきEQと同じである。

イコライザーIVコンバータ部単独のオープンゲイン(赤)は40dB程度とWE396AによるオリジナルNo−217と同じだ。

・仕上がりゲイン(緑)の低域のピークは30Hz弱なので、SAOCの入り口の時定数設定も適切。

位相補正は150pFだけにした。この構成では、イコライザーIVコンバータ部についてはステップ型にしないで単純にこうした方が仕上がりゲイン(緑)のMHz超の領域におけるピークが生じない。
この点オリジナルNo−217をLTSpiceで占ってみる。

・オリジナルのステップ型位相補正ではどうか。
クローズドゲイン(緑)の10MHz近辺にピークが出来る。
ステップ型をやめて100pFだけの位相補正にしてみると、
ピークは消滅する。

・オリジナルNo−217の場合もこうした方が良いのかもしれない。

・が、単なるLTSpiceの占いに過ぎない。信じてはいけない。
・イコライザー部のSAOCの効果についても、入力直流電圧±10mV、±50mV、±100mV、周期16秒の方形波応答で観る。
・結果、入力直流電圧が50mVまでSAOCが機能して出力電圧を0Vに保っている。100mVでは流石にプラス側で飽和してしまうが、Q4のコレクタ電流=SAOCのコントロール電流(赤)の状況からすれば70mVあたりまではコントロール可能だろう。

・と、何も問題はない。
・1kHzでのクローズドゲインは60dB程度なので、1mVr.p.m、1kHzの正弦波を入力し、出力がほぼ1Vr.p.mでの歪みの状況をFFTで観る。

・なお、この場合もSAOC入り口の時定数による動作安定までの時間を見込んで100mSから200mSの100mS間のデータで測定する。

・結果、2次歪みが−70dB強程度、3次歪みが−130dBといったところ。

・Total Harmonic Distotion:0.030309%

・これが多いか少ないかは、他に比較対象がないと何とも言えない。

・ので、私の他のNo−217もどきプリアンプ達も同様にシミュレートしてみると、TR版が0.031724%、6111版が0.025838%、FET版が0.031775%と出た。

・イコライザーIVコンバーター部単独のオープンゲインに関係なくほぼ同じ程度の歪率で、一番歪率が低いのが6111によるハイブリッド版とは面白い。6111版についてはモデルがないのでWE396Aを代用とした電源電圧±28Vでのものなので、電圧が高いために良い結果となったのかも知れない。

・が、要すれば、VIコンバーター+イコライザーIVコンバーター部の歪率は、VIコンバーターの2SK97(シミュレートは2SK117で代用)の特性でほぼ決まるということだろう。VIコンバーターの2SK97がノンNFBで動作し、そのgmがVIコンバーター+イコライザーIVコンバーター部の仕上がりゲインの全てを生み出しているのだから、当たり前の結果だ。
・と、シミュレートしているうちに、基板が出来上がってきた。

・No−217のStudyなのだが、またまた半導体である。

・回路は下図のとおり。
・SITで組んだNo−217もどきである。

・ケースは、我がLH0032MCプリアンプを廃用とし、その±15VP.P.レギュレータとともにこれに流用する。レギュレータについては帰還回路の抵抗をひとつ変更して右のように±18VP.P.レギュレータとする。RED。

・LH0032によるMCプリアンプを廃用にするのは惜しい。のだが、革命が起きてパラダイムがシフトしてしまったのだから是非も無い。以前のものは残しておいても最早遺跡だ。

・それに代わるこのSIT版No−217もどきプリアンプは、他のNo−217もどきプリアンプ達と同様に新時代の音を奏でてくれるだろうか。

・早速、試聴タイム。
・ホルスト/組曲「惑星」 ズービン・メータ指揮 ロスアンジェル・フィルハーモニー (キング SLA1031)を聴く。

・40年も前の昭和49年度レコードアカデミー大賞受賞作品。

ROYCE HALL一杯に鳴り響く広大無辺な宇宙の響き。それを我があばら家で再現出来るはずもないのだが、第一曲「火星」が始るとともにふっと空間が遥かに広がり、眼前にロスアンジェル・フィルが現れた。

・暗黒にうごめく
不気味。神秘的で幽玄な時空の煌き。そして雄大でドラマティックな惑星達の鼓動を次々と奏で、遂に天上の女神にいざなわれて宇宙に溶けて消えて行った。

素晴らしい。

・ジュピターをはじめ最早ポピュラー音楽になってしまった「惑星」だが、フルオーケストラを眼前にこれ聴くと、心身もろともに宇宙の無限を飛び交う浮遊感にとらわれてしまう。

・私もその時にはこういう風に宇宙に包まれて宇宙に溶けるように消えていきたい。

・が、

・お前には女神も阿弥陀仏もお迎えに来てはくれないわなぁ。

・と、現実のあばら家に戻った。(爆)



2012年3月6日







その7



・いにしえにおいては、FETはTRに比して音が悪いというのがK式の教義であった。FETは、TRを起用できないDCアンプの初段にやむを得ず用いる程度の存在だったのである。

・それが、あるとき、回路を全てFETで統一することを条件にFETが免罪されたのだが、いつの間にやらその条件もなし崩しとなり、今やTRよりFETの方がK式の主要素子となってしまったかのよう。

古くからの教徒は、このような種々の経緯には釈然としないものを感じつつも、インフレする“革命”と同様、悟りをもって対処しているのだが、それでもときにFETではなく出来ればTRを使いたいわなぁという心理が働くのである。

・しかして、我が掲示板でも、私のNo−217もどきプリアンプの初段にトランジスタを起用したという報告があった。

・ということもあって、右のようなものを考えた。

・初段にもTRを用いたAll-TR版のNo−217もどきプリアンプ。(ただし、VIC、ISC、SAOC部分を除く。)
・LTSpiceの占う、音量調整VR=51kΩの場合の利得−周波数特性。

・SAOCの低域NFBにより、オープンゲイン(赤)が700Hz程度をピークとして低域側に下降しているが、これはSAOCの効果による見かけ上のものであり、このフラットアンプ部のオープンゲインは、そのピーク以下の低域で80.5dB程度である。

・初段に2SK30を用いた上のTR版No−217もどきプリアンプと殆ど違わない。

・のは、この場合も初段の2SC2240にR4=1.2kΩのエミッタ抵抗を入れ、その電流帰還効果で初段のゲインをカレントミラー込みで6倍程度と、TR版No−217もどきと同程度に設定しているためだ。

・従って、R4の調整でもっとオープンゲインを上げることも下げることも出来る。が、まぁ、この辺で。
・音量調整VR=11kΩの場合の利得−周波数特性。
・クローズドゲイン(緑)は0dB程度。他に特に言うべきことなし。
・次に、音量調整VR=51Ωとボリューム最小付近の場合。
・クローズドゲイン(緑)の20MHz付近のピークのレベルからすると、これまでの経験上、位相補正はこれで問題ないだろう。
・その辺、音量調整VR=51kΩの場合の100kHz方形波応答をLTSpiceで占う。
・これまででは最速かな。
・音量調整VR=11kΩの場合。
・多少オーバーシュートとアンダーシュートが出る。

・が、まぁこの程度なら問題にするまでもない。案外、こうした方がトランジスタらしい高分解能の音になるかもしれないし。(爆)
・音量調整VR=51Ωの場合。
・方形波立ち上がり、立ち下がり時のプレシュートのほか、オーバーシュート、アンダーシュートも生じており、その後微少なリンギングも生じている。

・が、この程度なら問題ない。
.
・SAOCの効果を、入力直流電圧±0.5V、±1V、±1.5V、周期16秒の方形波(要するに±0.5V、±1V、±1.5Vの直流)応答で観る。
・結果、プラス側では入力直流電圧が1VまでSAOCが機能し、出力電圧を0Vに保っている。

・回路定数が殆ど同じのTR版ではプラス側1.5VまでSAOCが機能したのだが、このAll−TR版は1Vまで。何故か?さぁ?(爆)

・SAOC込みの実働状態においてクローズドゲインを0dB(1倍)に設定した場合の、1kHz正弦波入力、出力1Vr.p.mでの歪みの状況をFFTで観る。
・結果、2次歪みが−115dB程度、3次歪みが−150dB程度。と、かなり良さ気だ。

・Total Harmonic Distotion:0.000146%

・TR版No−217もどきの0.000190%よりも良く、これまでで最良。
・次に、VIコンバーター+イコライザーIVコンバーター部の利得−周波数特性。
・トータルの仕上がりゲイン(緑)は、VIコンバーターの2SK117とEQ素子定数が同じだから基本的にこれまでの各種No−217もどきEQと同じ。

イコライザーIVコンバータ部単独のオープンゲイン(赤)は80dB程度とTR版No−217もどきEQとほぼ同じ。

・仕上がりゲイン(緑)の低域のピークは25Hz程度なので、SAOCの入り口の時定数設定も適切。

位相補正は56pFだけにした。この構成でも、イコライザーIVコンバータ部についてはステップ型にしないで単純にこうした方が仕上がりゲイン(緑)のMHz超の領域におけるピークが生じない。それでも2MHz〜8MHzの領域にちょっとでっぱりがある。これは位相補正を100pFにすると消えて直線的に下降する。が、この程度なら何も問題ないのでこれで行く。
・イコライザー部のSAOCの効果についても、入力直流電圧±10mV、±50mV、±100mV、周期16秒の方形波応答で観る。
・結果、入力直流電圧が50mVまでSAOCが機能して出力電圧を0Vに保っている。100mVでは流石にマイナス側で飽和してしまう。

・が、これで何も問題はない。
・1mVr.p.m、1kHzの正弦波を入力し、出力がほぼ1Vr.p.mでの歪みの状況をFFTで観る。
・結果、2次歪みが−70dB強程度、3次歪みが−130dBといったところ。

・Total Harmonic Distotion:0.031692%。

・SIT版で観じたとおりなので他に言うべきことはない。
・と、シミュレーションしているうちにまたしても基板が出来上がって来た。

・これまでのものよりやや基板サイズが大きい。

・ので、SAOCの時定数を決めるコンデンサーのポジションにはV2Aが鎮座している。

・で、回路は下図のとおり。
VIC、ISC、SAOC部分を除き、全てトランジスタで組んだAll-TR版のNo−217もどきプリアンプである。

・この際、トランジスタにはかつての名石2SA726と2SC1400を起用してみた。

・ケースは、我がNo−128(?)完全対称型プリアンプを廃用とし、その±15VP.P.レギュレータとともにこれに流用する。レギュレータについては帰還回路の抵抗をひとつ変更して右のように±18VP.P.レギュレータに戻す。RED。

・10年以上の長きに渡って続いて来た我がNo−128(?)完全対称型プリアンプも遂に終わった。

我がNo−128(?)完全対称型プリアンプは、完全対称型プリアンプの始まりから終わりまでをその都度辿って改変してきた個人的に思いの深いものなのだが、完全対称型自体が歴史になってしまった以上、連鎖してこれも歴史の海に沈むのが運命というものだろう。

・それに代わるこのAll-TR版のNo−217もどきプリアンプの音や如何に。

・早速、試聴タイム。
・実にシルキーで滑らかである。

・一方、エナジー感・力強さも素晴らしい。エッジも鋭く切り込む。

・が、先端はフェザータッチの優しさを失わない。

・力強く鋭く、シルキーでフェザータッチとは矛盾するようだが、要すれば44.1kHz/16ビットが192kHz/24ビットになったが如く、強調感が失せ、伸びやかで細やかな質感の高さを感じさせる音なのである。

・やはりかつて名石とされた石だけのことはある。


・ように私の脳には聞こえる。

・ただの思い込みか。(爆)
ケース前方中央に何やら別の基板が見える。

・何?
・No−217のStudyなのに、No−219の電流伝送チャンネルフィルターである。

・回路は右のとおり。後でセレクターを入れることにしたので、上の裏側写真と図面はその部分が異なる。

No−128(?)完全対称型プリアンプからAll-TR版のNo−217もどきプリアンプに変更した結果、ケースのスペースが余った。ので、電流伝送チャンネルフィルターも一緒に組んでパワーアンプまでの電流伝送化を早速試そうかなぁ、という趣旨。プリのケースに組み込めば電源も共用できるので財布にも優しい。

・同一ケース内なので、プリアンプ出力をVI変換する抵抗はチャンネルフィルター側に配置した。その伝達アドミッタンス設定は1mS。要するに抵抗値を1kΩとすることで、1Vの入力電圧を1mAの電流出力とする。そしてこれがそのまま電流伝送チャンネルフィルターの伝達アドミッタンスになる。

・チャンネルフィルターのクロス設定は我が環境に合わせて800Hzの2way。そのコンデンサーにはAOCの導入とともに高価な不用品となってしまったSEコンをここぞと投入する。

・で、早速、試聴タイム。

・とは行かない。

電流伝送チャンネルフィルターは、電流入力パワーIVCが無ければ用をなさない。


・ので、終了。

・が、一つだけ。No−219の電流伝送チャンネルフィルターのオフセット調整の際には、低音側出力をアースするのが吉。
当たり前か。



2012年3月24日








電流伝送チャンネルフィルターをちょっと、



All-TR版のNo−217もどきプリアンプに同棲させている、800Hz2way電流伝送チャンネルフィルターをちょっといじった。
・一つは、入力オフセットを0Vに調整するために、1S1588に流す電流を決める抵抗を、従前の3kΩから3kΩ+5kΩの半固定抵抗に変更。

・従前の状態で入力オフセット電圧を測ってみると20mV程度。

・これなら5kΩの半固定抵抗を追加すれば良さ気だろう、と追加したらピッタリ。

・これでスムーズに入力オフセットを0Vに調整。

・二つは、出力に電圧制限回路を追加。

・その訳はこちら
・この際、このチャンネルフィルターにも用いられているカレントバッファの特性を観る。

・先ずはそのゲイン−周波数特性。

・負荷R7を100Ω、1kΩ、10kΩ、100kΩとするパラメトリック解析。
・結果。

・下から負荷R7が
100Ω、1kΩ、10kΩ、100kΩの場合。

・負荷が大きくなるほどに高域の下降が早くなるのは、Q4のCobのせいかな。ftかな。

・大変素直で広帯域な特性。
・100kHz方形波応答を観る。

・負荷R7を100Ω、1kΩ、10kΩ、100kΩとするパラメトリック解析。
・結果。

・振幅の大きい方から負荷R7が
100kΩ、10kΩ、1kΩ、100Ωの場合。

負荷R7が100kΩの場合は、電源電圧の制約で上下が頭打ちしている。

・負荷R7が100Ωの場合と1kΩの場合の応答はこのスケールでは小さくなって見にくい。が、非常に綺麗な方形波だ。

・大変素直で広帯域な方形波応答。
・歪率を観る。
・右は、負荷10kΩで、入力0.5mA、1kHz正弦波の場合。

・その場合、出力は大体ピークtoピーク±6V。

・で、その場合の歪率は、

・Total Harmonic Distortion: 0.078437%

・入力0.1mAとして、出力が
大体ピークtoピーク±1.2Vとした場合の歪率は、

・Total Harmonic Distortion: 0.015582%

・良さ気だ。



・といってもただの占い。信じてはいけない。



2014年9月6日








その8



・No−217は2011年。

・我が家のMCプリアンプ達は一気にそのもどきに変身を余儀なくされた。

・それほど強力だったNo−217。 (世間ではどちらかというとNo−218だが。(爆))

・で、MCプリはもうこれで終わりだと思っていた。



・が、それから5年目の2016年。

・SiC MOSの御研究に没頭される中でも遂に現れた新型MCプリアンプ。

・は、驚愕の無帰還IVC型。

・No−248。

・我がNo−217もどき達はひとたまりもなく、みんなNo−248もどきに変身してしまった。



・一つを除いて。
サブミニチュア管PhilipsECG JAN6111WAでハイブリッドに組んだNo−217もどきだ。

・私としては、±18Vという真空管としてはぎりぎりの低電圧で良く作ったなぁ(^^)と思う会心作だ。

・が、なんと、MJ2012年8月号のNo−221で、先生まで6111を採用して、±18Vのバッテリードライブのよく似たMCプリアンプを発表されたのだった。

・といっても、同じ思想なのはMCプリのイコライザー部のみで、カレントラインアンプの方は現在の最新型と同じものに変更になっているが。

・という訳で、これのイコライザー部は、No−221のそっくりさんなってしまったのだった。(爆)

・で、現在のその回路はこう。
・6111のモデルがないのでWE396Aのモデルで組んだイコライザー部。

・WE396Aでは電源電圧±18Vでは無理なので±28Vにしてある。

No−221ではQ3とU2の接続がダーリントンになっているが、これはエミッタフォロアドライブ。
・その出力電圧の周波数特性。

・20Hzで82.37dB、30Hzで83.06dB、1kHzで61.4dB、20kHzで41.43dB。低域のピークは27.5Hzだ。
・No−248の出現で他のNo−217もどき達がNo−248もどきに変身していく中で、これをどうしようかなぁ。と、考えた。

・そこで、私のTR版簡素型無帰還IVC型MCプリアンプと聴き比べてみる。

・TR版簡素型無帰還IVC型MCプリアンプの方は自然で豊かに止めどなく出るべき音が出るべきように出てくる。

・それに比べるとこれにはちょっとこわばった感じがあるような気がする。

・のは何故かな?
真空管の鳴きかな、NFBのせいかな。



・まぁ、無帰還IVC型MCプリに敵うはずはないのだ。


・聴き比べると僅かにそんな感じがするが、比べなければこのMCプリの音は素晴らしい。

・ので、残しておくことにしよう。



2017年1月29日







その8の2



・残すことにしたら、ちょっと手を入れたくなった。

・まず、終段6111のドライブトランジスタの接続をダーリントン型に変更。

・イコライザー部のSAOC入り口の抵抗を5.6MΩから10MΩに変更。
・LTSpiceでちょっと占う。
・赤がイコライザー部の電圧ゲインンの周波数特性。


・20Hzで83dB、30Hzで82.4dB、1kHzで61.4dB、20kHzで41.6dBであり、SAOCによる低域のピーク周波数は20Hzである。イコライザー部SAOC入り口抵抗を5.6MΩから10MΩにしたのはこのため。


・水色が入力の10.2kΩによる減衰量を含めたフラットアンプ部の電圧ゲインの周波数特性。上からボリュームが50kΩ、10kΩ、1kΩ、100Ω、10Ω、1Ωの場合。SAOCによる低域でのゲイン低下はボリューム50kΩの場合でも数Hz以下であり適切だ。


・緑がこの二つの電圧ゲインが加算されたこのMCプリアンプ全体の電圧ゲイン。上からボリュームが50kΩ、10kΩ、1kΩ、100Ω、10Ω、1Ωの場合。低域ではイコライザー部とフラットアンプ部のSAOCによる低域低下の効果が加算された応答になっている。


・そしてピンクがフラットアンプ出力のR33の電流で観たこのMCプリアンプの相互コンダクタンスの周波数特性。これも上からボリュームが50kΩ、10kΩ、1kΩ、100Ω、10Ω、1Ωの場合であり、50kΩで14dB、10kΩで1dB、1kΩで−19dB、100Ωで−40dB、10Ωで−57dB、1Ωで−68dBである。ので、我が家の環境では適切な電流出力レベル、ボリュームコントロールレベルだね。(^^)


終段6111のドライブトランジスタの接続をダーリントン型に変更して、イコライザー部は更にNo−221のそっくりさんになったな。(爆)
・DL−103の1kHz出力を0.3mV,3mV、4mV、5mV、6mV、7mV、8mV、9mV、10mVとして、イコライザー部の出力電圧、出力電流(R11の電流)を観る。
・余裕十分。
・1.2mVr.p.m、1kHzの正弦波を入力し、出力がほぼ1Vr.p.mでの歪みの状況をFFTで観る。
・結果、2次歪みが−70dB強程度、3次歪みが−135dBといったところ。

・Total Harmonic Distotion:0.031715%

・上の方の各217もどき達のイコライザー部にほぼ同じだ。
・フラットアンプ部の入力抵抗10.2kΩにイコライザー部の出力電圧を模して1Vから12Vまで1V刻みで入力し、出力電圧と出力電流(R11の電流)を観る。
・出力はプラス側で電流4mA超、電圧4V超で飽和してしまう。のは、終段の定電流回路の電流で制限されるから。なのでこれ以上の出力は不可能だ。

・従って、入力電圧は8Vまでとなるので、イコライザー部の出力電圧が8Vになるその入力電圧を観れば7mV。

・最大許容入力的には問題ない。し、電流出力的にも4mAの最大出力は問題ない。
・1.5Vr.p.m、1kHzの正弦波を入力し、R11の出力電流がほぼ1mAでの歪みの状況をFFTで観る。
・結果、2次歪みが−65dB強程度、3次歪みが−80dBといったところ。

・Total Harmonic Distotion:0.140793%

・う〜ん、NFBアンプと考えると余りよろしくないね。

・負荷が重いのかな。



・まぁいいか。(爆)



2017年2月1日