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■壊れた・・・_冂○


2004年は陽性な梅雨模様だった。昨年はオホーツクの湿った気流で重たくじめじめした6,7月だったが、今年は重たいところがなくザーと降ってはカァーッと晴れ上がる。当然気温も高めだ。

なのに警戒感度が不足だった。_冂○

気温が高い夏場は熱暴走の可能性がなきにしもあらず。夏場は我が完対パワーアンプはそのケース天板を開けはなって放熱効果を高める安全策を講じるのが吉なのだ。実際ケース天板を開放しておきさえすれば熱暴走などおきないし、アイドリング電流も極めて安定なのだ。が、我がウサギ小屋の平面面積は僅少なのでどうしても接地面積を節約するためにアンプを重ねておく必要があって、夏場以外はパワーアンプもやはり蓋を閉めて重ねた状態で運用しているのである。今年もそろそろ天板を開ける時期かなと思ってはいたのだが、まだ大丈夫だろう、電源ラインに保護用のヒューズも入れてあるし・・・、と怠け心もあってちょっとの手間を惜しんで油断したのがいけなかった。

ある日そのヒューズが音をたて閃光を放って切れた。あっ! 一瞬青醒める・・・


な〜に切れたのはヒューズだけだろう、という淡い願いを込めた希望的観測は甘かった。20世紀の人類の貴重な遺産であるエピタキシャルメサ型バイポーラパワートランジスタ、2SD217が片チャンネル上下とも逝ってしまったのである・・・。すまない・・・_冂○



完全対称型パワーアンプの温度補償は必ずしも簡単ではない。特にこれをバイポーラトランジスタで構成するとバイポーラTRの温度係数は皆単純に正であるから、回路中の全ての要素が温度上昇と共に出力段バイアスを増加させる方向に働いてしまう。これによって出力段は一層熱を発し、それが回路中の素子をさらに暖め、これがまた出力段バイアスを増加させるという温度的正帰還状態になるのである。完全対称型の回路構成は典型的にこれが当てはまる。初段の定電流回路、2段目差動アンプ、終段ドライバー等、全て出力段のアイドリングを増やそうという方向で働くのだ。これ故その温度補償はなかなか面倒なのである。

この点FETはQ点がどこにあるかという問題はあるもののQ点電流以上では温度係数は負となるので、これらがFETで構成されていると温度上昇と共に出力段バイアスを減少させるという温度的負帰還状態が期待できるので楽だ。実際これらがFETである我がNo−144やNo−144(改)はこれまで一度も熱暴走事故を起こしたことはない。これらは外見的には終段UHC−MOSをサーミスタ1個で温度補償しているだけのように見えるが、実はこれらFETの自己温度補償作用が有効に働いているのである。(といって完璧であるという訳ではないので御油断なきよう。(^^;)

だが、バイポーラTRの場合はそうはいかない。のでより厳密な温度補償を考えないと上手く行かない。だから我がNo−139(もどき)その2ではサーミスタで終段パワートランジスタの他にそのドライバーである2SC960の補償もしていたのである。が、やはり初段定電流回路と2段目差動アンプが野放しでは駄目なようだ。ケース天板を開けて通気を良くした場合は問題がないのだが、ケースを閉めて内部に熱気が貯まる状態だと徐々に終段アイドリングが増加してしまう。

と、分かってはいたのだが、この世に完全なものはない。その欠点や限界をわきまえていかに長所や能力を活用していくかがこの世の核心だ。な〜んて誰でも知っていることだがこれがなかなか身に付かないのもまた世の常。(^^; 今回はその活用のさじ加減を誤ったのだ。という反省を踏まえて・・・どうするか。である。
そこでこれである。
No−174に学びNo−139(もどき)をNo−174(もどき)に改造したのだ。





最新の完全対称型パワーアンプは、2段目差動アンプに電流帰還NFBを掛けて利得を殺しその分初段差動アンプと出力段で利得を獲得するという手法が採用されている。我が家ではその方式のパワーアンプはまだ試していない。ので、この機会にその新機軸を試してみたい。

ということもあるが、本当の理由は2段目定電流回路の温度補償作用への期待だ。といってここに移されたサーミスタによる温度補償作用のことではない。定電流回路に起用されたTR自体による温度補償作用である。この定電流回路はここでは2段目差動アンプが終段に送り込む電流の一部を引き抜くのがその役割である。であるから直流動作としてはその働きが強まるほどに終段のバイアスは減少するのである。サーミスタ200D5もそういう理由でここに設置されている。これが暖まって抵抗値が減ると定電流回路の動作電流が増えて結果終段のバイアスが減少するのである。と、同じことが定電流回路のTRに期待できるのだ。その温度係数は正であるからその温度が高まるほどに定電流回路の動作電流は増加し、結果終段のバイアスを減少させる方向に働く。要するにこの回路構成によってTRの正の温度係数が負の温度係数として働くのである。そしてこれを初段定電流回路のTRと2段目差動アンプのTRの正の温度係数をキャンセルするという温度補償素子として機能させようということなのである。

実際のところは初段定電流回路はエミッタ抵抗が2.4kΩと大きいのでそれほど影響は大きくなく、2段目差動アンプの影響の方が遥かに大きい。これが発熱すると共に動作電流が増えて終段のバイアスを増加させてしまうところを、2段目定電流回路のTRの方も同様に発熱することにより定電流回路の動作電流も増えてこれを定電流回路側に吸い込むことにより終段のバイアスは一定に保たれる。という温度補償効果である。であるから上下のTRの消費電力量を揃え、エミッタ抵抗値も同じにすることが理想であり、また、キャンセル効果を高めるには2段目定電流回路のエミッタ抵抗を小さくするほど効果的ということになるのだが、温度補償の観点だけでそれらを決する訳にはいかないので、なるべくそのようなことも頭に入れて定数を決定する。で、この回路である。

この点以外は初段と終段でゲインを稼ぎ2段目はその橋渡しに徹するという新思想を守ったNo−174(もどき)になっていると思うが、2段目差動アンプにカスコードアンプを付けているのはその思想に反する点かもしれない。2段目を極力シンプルにするという思想には相容れない感じがするのだが、ここのCobがこのアンプの主要な位相補正を担うという現実からして、カスコードにしてSEコンで位相補正したいという衝動にどうしても駆られてしまう。(^^;

また、終段TRのエミッタ抵抗0.1Ωも復活することにした。これの音への影響の大きさはかつて体験したことであり大きな賭だが、ゲイン的にはその分初段にgmの大きい2SK117を採用してお釣りがくる筈であり、0.1Ωの電流帰還NFB効果による終段の特性改善も考えるとトータル的には良くなる可能性もなきにしもあらずなのではないかと。で、0.1Ωを追加するのであれば保護回路も追加すべきであろうということで将来に向け最新の電源遮断型保護回路の保護条件検出部も加えることにしたのである。なのに初段にも従来からの保護回路の一部が付いているのは新保護回路の本体を作るのはずっと後回しと考えているから(^^;




とまぁ私としてはかなり考えた結果の定数設定である訳なのだが、一応その妥当性はPSpice(評価版)にも占って貰っておいたほうが良いだろう。

で、rval=2Ω、4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、1kΩのパラメトリック解析。終段アイドリング電流はこれで327mAである。






凡例左からrval=2Ω、4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、1kΩの場合。そのオープンゲインは低域で負荷4Ω時67.5dB、負荷8Ωの場合73dBに達することが分かる。電圧増幅段の電源電圧が低いために初段の動作電流とその負荷抵抗値を上げられない設定であるにもかかわらずオリジナルNo−174と同程度のオープンゲインが得られており、No−174(もどき)と称する資格はありそうだ。

が、これでオリジナルと同じクローズドゲイン設定23db程度(=NFB量50dB程度)はなしえるだろうか。ちょっと危なげかも・・・(^^; と言うのは、どうも今一上手く行かないのである。負荷が低インピーダンスの場合では100kHzから10MHz当たりの位相回転の戻りが思うようにならないし、逆にインピーダンスが高くなるとその付近の位相の戻りは良いのだが、下の図でも分かるように利得の方の減衰度が悪くなって折角戻った位相の戻り効果をキャンセルしてしまうのである。これからするとどうも23dB設定は難しそうな感じがするのだが・・・
 










ではあるのだが、取りあえず製作にかかる。

今回はこの際なのでケース内部構造も一新し、従来の2次元配置構造を改め3次元配置構造に大規模改造することにした。

従来すべての基盤、放熱板をケース底板に取り付けていたのだが、これは当初の製作の手間は省けるものの、楽あれば苦ありでその後基盤にちょっとした手を加えるにも難儀を強いられた。ので、この際立体構造を採用し、ケース天板と底板が完全にフリーになるように、放熱板はケース側板に取り付け、基盤はケース上部に渡したアルミの桟から吊り下げたのである。

結果、メンテナンス性能は比較にならないほどに向上し、全体の配線作業も当然放熱板、基盤をケースに取り付けてからケースをひっくり返した写真左下の状態で行ったのである。実を言えば、どのみち今回の回路改変に伴う改造作業はとても一回では完成版にはならないだろうという思いもあるのである。基盤作り直しも想定しておく必要がある。となると、このように簡単に基盤を交換して配線作業もやり直せるようにしておく必要がある。という当初からの見通しに基づくケース内部構造の一新である。

なお、今回2段目に定電流回路を導入する関係上初段、2段目用のマイナス電源が必要になる。これを我が家でNo−139(もどき)にも流用しているNo−144用の電源から作り出すため、余っているAC6.3Vを両波整流して−34Vに重ねて−42Vを得た。写真右下がそのために新たに電源部に加わった造作だ。

で、完成だ。となれば早速、動作確認と音出しだ。(^^) ±34V電源ラインには1Aのヒューズを入れ調整を始めよう。


結論から言えば音は出た。さらに期待の2段目定電流回路による温度補償効果は実に効果的だ。この暑い最中にこれまでは天板を付けた場合はアイドリング電流の微増傾向が止まらない状況だったが(天板を外せばOK)、今度はその状態でもきちんと一定値を保つではないか。ようやく温度補償は完成だ。(^^)

と思ったのであるが、どうもいかんのである。何が?って動作が今一不満足なのだ。ある位相補正状態では出力オープンで不安定だったり、では、と出力オープンで安定になるようにすると今度は低インピーダンス負荷(2Ω負荷)で不安定になったり、例の2段目のCを増やせば安定になるというようなものでもなさそうで、実は上の回路図の状態はこれら位相補正の試行錯誤を行った結果の最終回路図なのである。

これでまずまず実用的な状態なのだが、結局はほどなく解体してしまった。だから上の写真はもう幻なのである。(^^;

別に音が悪いということではない。のだがやはりどこかまだ不安定なのだ。例えばそれが電源オフ時等の過渡的状態の際に現れる。電流計で監視してみると電源オフの瞬間発振したかのように一瞬大電流が流れる。

やはりシミュレーションが示すとおりなのだ。あれこれシミュレーションを重ねてもなかなか上手く行かないのは1MHz付近での頑強な位相回転である。どうもその理由は素子数が多いという点とIV変換抵抗が1.5kΩと大きいという点が絡んでいるような感じなのである。0.1Ωのエミッタ抵抗を入れるとそのNFB効果で終段のゲインが減少しその結果2段目に入れたCの位相補正効果が減少することもかなり影響している。結論としてはNo−174型式は一筋縄ではいかないようで、“もどき”を考えられるほど優しくないなと。で、大人しく諦めてしまったのだ。(^^;







■No−139(もどき)に戻る(^^;


考えてみればNo−174型式は入力インピーダンスの低い(=動作に電流を要する)バイポーラTRから可能な限りの最大出力を絞り出すためのものであって、我が家では電源にNo−144用電源を流用する以上得られる最大出力はその電源電圧で制限されるのだからその回路型式を採用する必然性はない。し、比較的大きなオープンゲインも2段目差動アンプの本来の能力を活用しつつ、初段の高域時定数はカスコードを採用することもあってK30をK117に変更してもあまり影響はないから初段にgmの大きなFETを採用することでも達成しうるのではないか。

また、半導体完全対称型パワーアンプの最低時定数=fcは2段目差動アンプに電流帰還を採用してもしなくてもそのB−C間のCで形成されるには違いないし、2段目にゲインを持たせても適正なポール配置をすれば終段に加えて2段目がゲインを持っても完全対称型はそれらのポールが1個に溶け込むのだから大丈夫の筈。2段目定電流回路による完璧な温度補償効果には未練はあるがそれはまた別な方法を考えよう、等々と考えて結局No−139(もどき)に戻ってしまったのである。(^^;

それがこれだ。実のところはあれやこれやシミュレーションし、位相補正の試行錯誤もやった結果なのだが(^^;
前のNo−139(もどき)その2に比較すると、回路的には初段FETが2SK30から2SK117に変わり、終段2SD217に0.1Ωのエミッタ抵抗が加えられて、2段目の位相補正コンデンサーが5pFから10pFに変わった程度の違いしかない。

その他、初段定電流回路にツェナーとシリーズに1S1588、初段負荷の1.5kΩと温度補償用サーミスタの間に1S1588が加わったが、勿論これらは初段定電流回路の2SC1400と2段目差動アンプの2SA607を温度補償するためのものだ。No−174型式における2段目定電流回路によるこれらの温度補償に変わるものとして導入したのである。

電源は元に戻って3電源でも十分なのだが、すでに電源部は改造済みであるので初段用の−42V電源は折角だから活用することにしたのだ。






PSpice(評価版)でシミュレーションしてみよう。これで終段アイドリング電流は310mA程度である。

負荷は同じくrval=2Ω、4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、1kΩのパラメトリック解析。






オープンゲインは低域で負荷8Ω時73dB、4Ω時67.5dBと上の174(もどき)と同程度確保できている。十分ではないか。これで回路図を比べてみると分かるように初段2SK117のソース側のトリマーの抵抗値は200Ωであり、2段目差動アンプの負荷のIV変換抵抗の値も220Ωなのだ。ともにゲインを小さくする方向での定数設定だが特性的には望ましい方向だ。これで同じゲインと電源電圧に見合った最大出力、そして安定な動作が得られるならばこれで十分ではないか、という訳である。

なーんて(^^;、実はこちらも作った当初は上のNo−174(もどき)と同じく位相補正にはやや難儀したのだが、最終的には出力に0.1μF+10Ωをパラに入れることで実用上十二分と思える安定度を確保したという経緯があったことを告白せねばなるまい。(^^;





今回の経験からすると、終段パワーTRのエミッタに0.1Ωの抵抗を入れると当然終段の電圧ゲインは減少し、逆に周波数特性は良くなるのだが、これによって2段目差動アンプBC間のCによる位相補正効果は弱まりこれによる1MHz超の領域における位相の戻りが小さくなる点がひとつ、そして周波数特性が良くなるせいか特にアンプ負荷のインピーダンスが大きくなるほどにMHz帯域での利得の減衰率が低下してしまうことが今ひとつ、とあって、これがどうもバイポーラTRによる完全対称型パワーアンプのオープンゲインを大きくして大きなNFBを掛けようとする場合にネックになるように感じられるのである。

K先生はこの辺何のこともなく上手く回避され、深いNFBを安定に掛けておられるのだが、残念ながら私にはその技量がないようだ。(^^;

ので後者の問題については出力に0.1μF+10Ωをパラに入れることで回避したのである。そして今ひとつの前者の問題については初段に300pF+1kΩのステップ型位相補正を入れるか2段目差動アンプB−C間の位相補正Cを20〜40pFに増やせば良いのだが、私としては50dBもの深いNFBを掛けるのを諦め、クローズドゲインを以前と同様の32dB設定にすることで対処することにした。これでも低域で41dBものNFBが掛かることであるし、あまり位相補正だらけなのも何となく見苦しい感じがするし、音もこの方が良さげな気がするし、やはりNo−139(もどき)を名乗る以上クローズドゲイン設定は32dBでしょう。(^^;




というわけでNo−139(もどき)に戻って当初作り直した基盤が左上であり、ケース内に収まっている基盤の今の姿が右上である。2段目差動アンプの2SA607に今回加えた温度補償は当初からのものであるが、初段定電流回路の2SC1400の温度補償とアンプ出力にパラの0.1μF+10Ωの位相補正は後から加わったものであることが分かる。まっ、試行錯誤の結果であるが、これもケース内を3次元構造にしたお陰で楽に可能になったのだ。(^^)

で、温度補償は完璧になったのか? と言えばこれでも2段目定電流回路で補償したNo−174(もどき)までには完全ではないと言わなければならない。が、少なくとも以前の状態よりは随分改善されたと言えるだろう。なお、子細な点ではサーミスタにパラの抵抗が一個220Ωから330Ωに変更になっているが、これは初段の動作点電流がやや増えたことに伴うものである。この抵抗値を増やすと過補償になる。といってわざと過補償にすれば良いというものではない。そういうことをすると夏場に調整した時は良いが、環境温度の下がった冬場にアンプを始動する際に過大なアイドリング電流が流れて、下手をするとパワーTRを昇天させかねない。ということになるのだ。





で、問題は音だが・・・。

低域のエネルギーでも我がUHC−MOSパワーアンプと互角に渡り合える“No−139(もどき)その3 With 2SD217”となったようだ。(^^)






(2004年10月11日)