続・失われた魅惑のメタルキャン

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言わずと知れたモトローラのパワートランジスター2N3055−MJ2955のコンプリメンタリペアー。

モトローラのこのTRは古くはアルミ製のもの、その後写真と同様ながらアメリカ製のものに、写真のメキシコ産(メキシコ産のアルミ製もあった?)のもの、その他東芝などの他社製のものなど、年代と共に幾つかバリエーションがあるが、GOA時代から金田式DCアンプで最もポピュラーだったのはこのメキシコ産でしょう。それまでもアルミ製の2N3055がレギュレーターの制御トランジスターに採用されていたのですが。

本来レギュレーターの制御TR用途で開発されたTRのようだが、それまでNECの2SA649−2SD218、2SB541−2SD388、2SA627−2SD188しか採用されていなかった(嘘だけど)金田式DCパワーアンプの出力TRに87年10月のNo−99で初めて採用されて以来、入手困難なこれらNECのパワーTRに代わってトランジスター式DCパワーアンプの出力段TRの定番となったTRだ。

そのNo−99で、「MJ2955−2N3055は明らかに2SA627−2SD188よりも1クラス上の音だ。NECグループとは別の音色だが、音が明るく、はぎれがよく、音の分解能に優れている。素直な音でくせがなく、・・・クロスオーバー歪みが極めて少ない・・・」と金田さんはおっしゃっている。

ところが、この2N3055−MJ2955すらもうモトローラでは製造を中止してしまっている。ああ・・・バイポーラトランジスタ自体既に20世紀で終わった人類の歴史的遺産になってしまったのだろうか・・・

(モトローラの半導体部門はオン・セミコンダクター社に引き継がれたようで、2N3055−MJ2955は同社で現在も生産中のようだが、果たして国内で手に入るものなのか・・・?)



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上に同じモトローラの2N3055
でもちょっと変かなぁ・・・?


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モトローラのアルミケースの2N3055に、NECの2SB600。
アルミ製の2N3055は持つとびっくりするほど軽い。当たり前か(^^;
だがこれで全損失PTは115Wで、ジャンクション温度Tjは200℃もあって、コレクタ電流(直流)Icは15Aと非常にタフなTRなのだ。なのにCobは60pF。

結局国産パワーTRではこれを超える性能のものを作れなかったのではないか。

右はNECの2SB600。2SD555がコンプリペアで全損失PTは200Wと2N3055を超えるがTjは150℃だしIc(直流)も10Aと実使用では「2N3055とほぼ同等」と金田さんもおっしゃっている。なのにCobは400pF(B600)、300pF(D555)もあるのだ。

七十年代半ばにV−FET、その後パワーMOS−FETと優れた高周波特性を引っさげて新しい半導体パワー素子が開発されたが、結局バイポーラTRでは追っつけないとの諦めがその原動力だったのではなかろうか?

なんてどうでも良いのだが、出力段のレギュレータがGOAの出現で廃止されるまで、金田式DCパワーアンプの大電流レギュレーターの制御トランジスタとして変わることなく使用されたのがこのアメリカ製2N3055と国産2SB600だ。コンプリの2SD555の出番は遂になかったのである。





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その噂のV−FETで、金田式DCアンプで採用実績があるのがこのソニー2SJ18−2SK60のコンプリペアだ。

最近になってトーキン製のSITがMJ誌で紹介され、サンプル提供を受けた読者による試作アンプが今度のMJ6月号あたりで発表されるようだが、V−FET=SITの歴史は金田式DCアンプの歴史と同程度に古く、74年のNo−9でA級50WV−FETDCパワーアンプが既に発表されている。なんと2SA649−2SD218による最初のA級50WDCパワーアンプと同程度に古いのだ。

金田式DCアンプが終段に電圧ゲインを持たせるようになったのも最近の完全対称型式になってから、では実はなくて、74年8月号のNo−10オールFETB級100WDCパワーアンプにおいて、ドライブ段、出力段ともにこの2SJ18−2SK60を採用してソース接地動作で電圧ゲインを有する出力段を既に実現していたのである。

残念ながらそれは実験的なアンプに終わり、75年6,7月のNo−15、8、9月のNo−16ではAB級120W、AB級50Wで一般的なソースフォロアー型式で採用されているが、実はこれを最後に、素子自体が歴史の海に沈んでしまったこともあって、以降DCアンプにも採用されることはなかった。

75年8月号のNo−16AB級50WV−FETDCパワーアンプの製作記事を見れば、その電源レギュレーターには723CEが使用されている・・・、そんなに古いいにしえの話しなのだ。

私もいにしえの昔に入手したが、バイアスのばらつきが大きくて難儀した経験がある。とうの昔に手放してしまい残念だが、バイアス電圧の良く揃った良質のものが入手出来れば現在の完全対称型式で蘇らせてみたいものだ、とは思っているのだが、多分そんなものは入手できないだろう。もしそういうものを秘蔵されている方がいらっしゃいましたら是非譲って下さい(^^;;


(史料提供fusaさん)

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日立のパワーMOS−FET、2SJ49−2SK134のコンプリペア。

金田さんはMJ92年6月号のNo−125で15年ぶりにこの「悪夢のパワー素子」を起用した。77年11月号のNo−26で冷たく固い音と退けたこのMOS−FETを何故また使うことにしたのか。

「・・・今まで聴こえなかったような微細な音や多重音がよく聴こえる。主旋律の影に隠れていた楽器の活躍が明瞭に浮かび上がる。セカンドヴァイオリンやヴィオラの動きが手にとるようにわかる。音色の陰影が鮮やかだ。」と、冷たく固い音はどこに行ってしまったの?、という感じ(^^;;

あまりの落差に穿った解釈もしたくなったりするが、それは単なる結果ですよ、きっと(^^;

だが、金田式DCアンプにおけるバイポーラTRの歴史は15年ぶりにこの「悪夢のパワー素子」が復活するとともに終わった・・・。そして、矢つぎばやにモールドパッケージもなし崩しに解禁され、ついにピュアもブレンドもなんでもありのUHC−MOSの時代となったのだった・・・(^^;;

それはともかく、これらのCrssはJ49が40pF,K134にいたっては10pFと驚くほど小さい。TRと違ってドライブに電流を要しないからドライバーを省略した簡素な出力段も可能だ・・・ぐらいなら驚かないのだが、94年6月のNo−133でK134の2パラを電圧増幅段で直接ドライブし、しかもその出力段は26dbもの電圧ゲインを有するなどという奇怪?なアンプを発表して物議をかもした・・・

印象深い素子となったが、もう手に入らない・・・(これのモールドパッケージはありますが(^^;)


(史料提供Tetsuさん)

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ご存じNECの2SD388−2SB541のコンプリメンタリペア。

2SA649−2SD218が失われたあとの金田式DCパワーアンプの主役となったTR。AB級80WからAB級180Wをこれで製作された方も多いのではないか。

でもこれには落とし穴がある。

型番は同じだが途中で製法が変わってしまっていて、名器2SA649−2SD218に次ぐ音という金田さんの評価を頂いてたのは製法が変わる前の旧型の2SB541−2SD388。No−99で「新しいタイプはとてもオーディオアンプには使えなくなった。音楽のぬけがら的半殺しトーンだ。」とおっしゃっている。

へ〜え。どうやって見分けるの? 知りません(^^;

写真のものだって実は半殺しトーンの方じゃないの?
実はそうかも(^^;;

教えて頂きました(^^)

「最近構造が三重拡散メサ形から三重拡散プレーナー形に変わり2SB541Aと2SD388Aと名称も変わった。旧形中2SB541は入手が非常に困難になってしまった。製造方法が変わってカタログ上の高周波特性は良くなった。・・・2SB541Aと2SD388Aの音は旧タイプとまったく別であり情報量は30%以下である。・・・」Aの付いたのを持っている方ごめんなさい(^^;;




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えっ!マランツの2SB541−2SD388?
どういうこと?


なんと2SB541−2SD388は、
上等なマランツ製品にも使用されていたそうで、これはその証拠写真。

マランツのどの製品に使用されていたんでしょうね?どなたかご存じの方いらっしゃいますか?

それにしてもレアです。

掲示板でsagemiさんから頂いた情報によれば、マランツのModel1070というアンプ、同じくModel2238というレシーバーで使用されていたようです。さらに、ハーマンカードンのModel730というモデルでも使用されていたようです。





(史料提供fusaさん)

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NECの2SA627−2SD188のコンプリペア。

エピタキシャルメサ型という名器2SA649−2SD218と同系統のシリコンパワートランジスタであり、金田さんも「2SA627−2SD188は全ての点で名器の小型縮小タイプ」とおっしゃった。

だが、「音色は名器に似ているが、音楽のスケールが1段縮小されてしまう。音がやや細味で、豊かさや厚みが少ない」とシビアに評価もされている。

が、それは2SA649−2SD218という名器に比較すればの話しだ。

私にとっても最初のA級30Wを製作して以来の馴染み深いパワートランジスタだが、これも金田式DCアンプを代表する名石に違いない。



(史料提供fusaさん)

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NECの2SD180。

これが金田式DCアンプで使用されたことはないが、2SA626−2SD180は、上の名石2SA627−2SD188のVceoが低い(80V→60V)だけのファミリーだ。

要するにA607−C960とA606−C959の関係だ。・・・ちょっと違うか(^^;

従って耐圧に注意すれば2SA627−2SD188と同様に使えるはずだが、実験した訳ではないので保証の限りではない(^^;;







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NECの
2SB539−2SD287。

このトランジスタが金田さんのMJレギュラー記事で使用されたことはないと思うが、改訂版「最新オーディオDCアンプ」(昭和53年第1版)では、AB級250WDCパワーアンプの出力段に4パラで起用されている。

PC=100W、VceoがA=120V、B=140V、C=150Vで、AB級250Wでは終段電源電圧が±70Vなので「ゆとりをもってVceo=150VのCランクを使う。もし入手不可能ならVceo=140VのBランクでも使える」とおっしゃっている。

が、やや時代が下り、AB級180W「以上のハイパワーのDCパワーアンプを作るには、出力TRの絶対最大定格のため、もっと大型の音の鈍いTRに変えなければならず、・・・」などと総括されてしまった。

「初期のハイパワーアンプ用ですが、A627-D188より音が悪いとされては、出番なし? 安く入手できれば、持っていても良いと思います。」とM−NAOさん。




(史料提供M−NAOさん)

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NECの2SD217

幻の出力段用パワーTRの名器2SA649−2SD218は、Vceo=100V、PT=80W、Ic=7Aと、Vceo=80V、PT=60W、Ic=7Aの2SA627−2SD188とさして変わらない定格だったらしいのだが、実は別にVceoの耐圧が低いだけの2AS649−2SD218のファミリーが存在していた。

それが2SA648−2SD217で、D217の方は「実は、比較的最近まで、秋葉某所で入手出来た」とのこと・・・ああ、何ということか・・・

「No139で使用してみると、耐圧は30V程度しかかけられないようですが、音はD218と一緒(^^)」・・・・。史料提供者のお言葉です。

私も139(もどき)に是非使ってみた〜い・・・余ってたら譲って下さぁ〜い(^^;;(爆)。






(史料提供M−NAOさん)

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失われた魅惑のメタルキャン・・・最後に真打ちの登場となった。

25年も前に既にディスコンとなっていた幻の名器NECの2SA649−2SD218のコンプリメンタリーペア。

「演奏者の実在感が音場の空気感や気配感が大きく、滑らかで、艶やかで、豊かで、深々とした音色が表現でき、楽器そのものが持っている独特の音色、例えば、オーボエの物悲しさ、バイオリンの切なさ、トロンボーンの激しさが実に鮮やかに表現される。また、演奏のコントラストが大きく、美しく繊細な音から、全宇宙が鳴り響くような音まで再現できる」唯一の名器がこれだ。

「一番古いTrが一番良い」・・・。持っている方は幸せですね。

最近のUHC−MOSとこの一番古いTr。はたしてどちらが良いのか・・・大変僭越ですが金田先生に伺ってみたい(^^;

「入手出来ないものと比較してもしょうがないでしょう・・・」
ごもっともですm(__)m





(史料提供M−NAOさん)

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注意報




「最近知り合いが、海外のディーラーから買い付けたら、来たのがこの石」

「くれぐれもご注意を」


とのことですので、注意報を発令!します(^^;;






(資料提供M−NAOさん)



(メタルキャンTrの名石)


No−176を製作されたという方からメールを頂いた。

No−176と言えば久しぶりにバイポーラトランジスタが起用された完全対称型パワーアンプだ。
放熱板の取り付け手法においてパワートランジスタの交換可能性が配慮され、「メタルキャンTrの名石2SD218が手に入った場合を想定しておこう。」とK先生もおっしゃっているのだが、そのメタルキャンTrの名石2SD218を起用して製作されたということである。

素晴らしい。

が、No−176の記事、相変わらず誤植等が多く間違い探しがかなり大変であるほか、終段アイドリング電流や出力ドリフトの安定度等がちょっとイマイチということで、また、2段目の2SA606や2SC959はかなりアチッチになって、総じてなかなかスリリングとのこと。さらに、マルチが可能とあるので電源に3台のアンプを繋いだところ+100V電源の電圧が降下してまったということである。

ありゃりゃ、確かにアンプ側の消費電流を計算してみると+100V電源の消費電流が大きく、これだと3ウェイ・マルチアンプシステムの構築が可能な電源部どころかステレオ2台への電源供給もギリギリの状況であるようですね・・・(^^;


とまぁ、その辺は置いておくとして、ここではその“メタルキャンTrの名石”について。

かつて、最早手に入ることなどあるまいと思っていたかの名石が、21世紀のインターネット社会になったお陰か我が家にもいくつかやってきているのである。ありがたい。m(__)m

ので並べてみた。かつて電池式GOAに使われていたらしいものやら未使用品やら。

左から時計回りにロットはM08A、M15A、M17A、L55C、M75C、L8YCである。
多分製造年代は全て1970年代で時計回りに並べた順に新しくなると考えて良いだろう。

内側に仲間である2SD217のM34B、L6YC、2SD188のL97Eを友情出演させた。2SD217は2SD218の一卵性双生児だが、2SD188は兄弟程度の違いはあるといったところ。

が、噂によると右から2番目のロットM75Cまではまぁ2SD188と区別されるべき2SD218の範疇のようなのだが、右端の2SD218ロットL8YCにおいてはすでにその下の2SD188の高耐圧選別品を2SD218と称するようになってからのもので中身は2SD188と同じである、とも言われているようなのだ・・・、が、真偽のほどはどうだろう・・・不明(^^;







2SD218のみを並べてみる。
上3個はかなり“いにしえ”だろう。K先生の最初の単行本「改訂版 最新オーディオDCアンプ」の表紙に写っているオンケンかにトランス使用のA級50Wパワーアンプに使用されている2SD218でさえもそのロットはK52Cであるからそれは下左のL55Cとほぼ同期なのだ。











裏側である。

上3個と下3個では外見上も違いが明確だ。

それはピンの属性を示すBとEの刻印のあるなしであり、ピン封入口の色の違いである。

実は今ひとつ。上左の2SD218にはBとEの刻印の間にW8という印刷がなされている。これはもっとも古い頃のNEC製パワートランジスタであることの証拠だ。







だからどうした!

って、そうですね。中身についてどこかに違いがあるのないのかなんて外見からは全く分からないですし、古いから良いとか価値があるとかというものではないので誤解なきよう。


さて、私としては折角集まってきた“メタルキャンTrの名石”をどう生かすべきか、と。
やはりNo−176か、はたまた2SA649とのコンビでいにしえのコンプリSEPPA級30W復刻なんかも良いのでは、とか、電池式GOAも悪くはない。

う〜ん・・・心は千々に乱れて。


最後に関係ないのだが、これを書きながら久しぶりに聴く木住野佳子の新作。ジャケットも演奏もとっても魅力的(^^;


(2004年3月27日)