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ちょっと電流正帰還研究 by PSpice(評価版)
理想オペアンプ(IDOPA:Avol=120db、Bgb=∞Hz、fp1=∞Hz、fp2=∞Hz)を用いて構成した、左から(1)電圧出力アンプ、(2)電流正帰還アンプ、(3)電流出力アンプ、(4)電圧出力+電流出力Mixedアンプ。
何のことはない。NFB回路をちょっといじっただけ。なのだが、これでそれなりに異なった性質を持つアンプになる。
のだが、このようなに無限大の周波数特性を持つ理想オペアンプは現実には存在しないので、あくまで理論的シミュレーションになる。
電圧ゲインは概ね皆10倍になるように帰還回路を調整してある。
(2)の電流正帰還アンプだけが反転型であるので入出力の位相が180°回転する。
普通に8Ωの純抵抗を負荷とした場合はこれ以外にこの4種のアンプの出力に差は何ら生じない。
が、スピーカー負荷を想定して、下のような疑似スピーカーシミュレーション回路(かなり怪しいが)を負荷にすると、各回路の特徴が現れる。
まず、入力に1Vacの10Hz〜1GHz正弦波を入力した場合の電圧利得の周波数特性。
(1)電圧出力アンプの出力は、周波数に関係なく+10Vで一定。負荷インピーダンスの影響を受けることなく常に一定の電圧を出力するのが“電圧出力アンプ”の名前の由来であるから当然の結果。100dbの電圧帰還を掛けることによりこのような性質のアンプになるわけだが、結果、出力インピーダンスは限りなく0Ωに近いのだ。
(4)電流出力アンプの電圧出力は、(1)と対照的に低域55Hz付近で66V強まで鋭いピークで電圧利得が盛り上がり、1KHz〜100MHzでも28.5V程度に台形的に電圧利得が盛り上がっている。電流出力アンプは、負荷インピーダンスの影響を受けることなく常に一定の電流を出力するから、その電圧利得は負荷のインピーダンスに比例する。その結果がこのピークと盛り上がり。
この電流出力アンプはほぼ理想的な電流出力アンプであり、出力インピーダンスは限りなく∞に近いのである。
(3)電圧出力+電流出力Mixedアンプは、(1)と(4)の中間的性質を示す。Mixの加減により(1)と(4)の間を移動する。
この世は全く理想的ではないので、現実に存在するアンプは正確に言えばほぼ全てこの(3)の範疇に存在している。
が、大抵は多量な電圧帰還を掛けて出力インピーダンスを下げているのが通例なので、この(3)のような特性を目に見えて示すのは金田式DCパワーアンプ(CNFMAX時)や出力インピーダンスの比較的高くなりやすい真空管式パワーアンプぐらいだろうか。
よって殆どの市販メーカー製アンプは(1)の範疇にあると言った方が不正確でも妥当。
(2)が電流正帰還アンプの電圧利得の周波数特性。(3)を+10Vの線で線対称にひっくり返したような奇妙なものになる。
負荷抵抗が大きいと出力電圧が小さくなり、負荷抵抗が小さいと出力電圧が大きくなる。ということで、以上の流れからすると“超電圧出力アンプ”or“反電流出力アンプ”とでも表現すべきアンプだ。
考えると不思議な性質なのだが、出力インピーダンスが負の場合こうなるのだ。
今度は負荷に流れる電流を観る。
一番上、1.25Aで一定なのが(4)電流出力アンプの出力電流特性。
負荷のインピーダンスの変化などお構いなしに一定の電流を出力する。電流出力アンプの名前の由来どおりだ。入力1Vに対して1.25Aの出力であるから、順方向伝達アドミッタンス=1.25Sの電流出力アンプということになる。よって出力電圧=1.25*RとなってRに比例する訳だ。
それが上の電圧利得特性に端的に現れたのである。すなわち、あの電圧利得の周波数特性は、即、このスピーカー近似のインピーダンス特性が出るように拵えた疑似スピーカー回路のインピーダンス特性そのものなのである。
このように完全な電流出力パワーアンプを現実に製作することが可能なのか否か? は作ろうとしたこともないので分からない(^^;
が、多分なかなか難しいのではないだろうか。
他は、上から(3)、(1)、(2)。性質が異なっているのに特性はごく近いように見える。K式MFB(CNFMAX)と普通一般の電圧出力アンプと電流正帰還による負性インピーダンスを有するアンプの違いは、この程度と言えばこの程度なのである。真正電流出力アンプは、パワーアンプとしてはやはり非常に特異なのである。
出力電圧と出力電流の位相。
上から電流正帰還アンプの電圧位相、電流正帰還アンプの電流位相、電流出力アンプの電圧位相、電圧出力+電流出力Mixedアンプの電圧位相、電圧出力アンプの電圧位相、電圧出力アンプの電流位相、電圧出力+電流出力Mixedアンプの電流位相、電流出力アンプの電流位相。
なかなかに面白げ・・・である。
これらのアンプに方形波入力を加えた場合、その出力電圧と出力電流の波形はどのようなものになるのだろうか?
早速、入力に10Hz方形波を加えて出力電圧と電流の波形を観る。
勿論、純抵抗負荷では出力も入力相似の方形波で何の違いも出ない。が、疑似スピーカー回路を負荷とすると異なってくるのだ。
(1)電圧出力アンプ
出力電圧は入力通りの方形波である。が、出力電流は波打っている。
(2)電流正帰還アンプ
反転アンプなので位相は反転している。
出力電圧、出力電流ともに波打っている。
(3)電流出力アンプ
出力電流は入力通りの方形波である。が、こちらは出力電圧が波打っている。
(4)電圧出力+電流出力MIxedアンプ
出力電圧も出力電流も波打っている。が電圧と電流の波打つ位相が互いに逆相である。
低域共振周波数である55Hzの方形波ではどうだろうか?
(1)電圧出力アンプ
出力電流が陥没する波形だ。
(2)電流正帰還アンプ
出力電流だけでなく出力電圧も陥没する波形になる。
振幅自体も(1)より小さくなる。
(3)電流出力アンプ
出力電流は入力通りの方形波である。出力電圧は見にくいが、一瞬大きなピークが出て戻り、その後山のように盛り上がるという波形だ。山の高さは徐々に高くなる。電流は一定なのに電圧は非常に大きくなっている。
(4)電圧出力+電流出力MIxedアンプ
なんとも面白い。
出力電流は陥没し、出力電圧は盛り上がる。その程度も徐々に大きくなる。
出力電圧振幅は(3)程ではないが大きくなっている。
2KHz方形波。
(1)電圧出力アンプ
(2)電流正帰還アンプ
(3)電流出力アンプ
(4)電圧出力+電流出力MIxedアンプ
20KHz方形波。
(1)電圧出力アンプ
(2)電流正帰還アンプ
(3)電流出力アンプ
(4)電圧出力+電流出力MIxedアンプ
NFB手法の違いによる差が端的に出るようだ。
さて、これがどの様な音の違いになるのか?・・・不明(^^;
(2003年4月13日)
負性出力インピーダンス。すなわち、出力インピーダンスがマイナスということはどういうことなのか?
は、電子回路の素人である私(^^;のような者にはなかなか理解できないものである。
そこで、次の実験をしてみる。
これで、アンプの出力インピーダンスが正の値であること、0Ωであること、負の値であること(=負性出力インピーダンス)、について、その実体がある種分かるのではなかろうか。
で、下図。
各アンプとも入力をアースした状態で、出力の負荷抵抗=8Ωと直列に1KHz±0.5Vのパルス電圧源を挿入し、アンプ出力端子間電圧、負荷8Ωの両端電圧、そして負荷8Ωに流れる電流=出力回路ループに流れる電流 を観察するのである。
(1) 電圧出力アンプ : 出力インピーダンス=0Ω(に限りなく近い)の場合
まず、一番左側の電圧出力アンプの場合である。
白黒になってしまって見にくいのだが、真ん中0V、0Aのところある直線がアンプ出力端子間電圧である。
なるほど。電圧出力アンプの出力インピーダンスは理想的には0Ωである。ということは、そこに外部からいくら電流を流し込んでもそれによっては電圧は生じない訳だ。この電圧出力アンプは出力インピーダンスが殆ど0Ωなので、出力端子に外部から電流をいくら流しても出力端子には電圧は生じないのである。オームの法則でV=IRであるから、R=0でればIがいかなる数値であってもV=0ということなのだ。
ということは、この電圧出力アンプの出力端子は全くアースである、ということなのである。
下のグラフで、電圧軸で±500mVピークの方形波となっている線が負荷8Ω両端の電圧である。
電圧出力アンプの出力端子=アースということで、負荷8Ωの上側はアースに繋がっているのと等価であるから、負荷8Ωの両端にはパルス電圧源が発生した±0.5Vの方形波がそのまま掛かるのは当然ということになる。
ただし、位相は反転して逆相になる。測定端子のプラス側がアンプ出力端子側になっているのでこれも当然だ。
そして、電流軸で±62.5mAピークの方形波となっている線が出力回路ループに流れる電流であるが、以上から出力回路ループに±500mV/8Ω=±62.5mVピークの方形波電流が流れるのはオームの法則からして当たり前ということになる。
が、電圧出力アンプの出力端子=アースといっても、それはNFBによって等価的にそうなっている、ということであって、アンプ出力端子が所要の電流を吸い込むこと等によって出力インピーダンス=0Ωを実現(演出?)している、というNFBアンプの実体も理解する必要があるだろう。すなわち、この場合±500mV/8Ω=±62.5mAの電流を、NFBの作用でアンプが吸い込み、あるいは吐き出すが故に、出力端子に発生する電圧=0Vとなって、結果、出力インピーダンス=0Ωが実現(演出?)されているのである。
通常の負帰還アンプは、このように出力端子に加わる外乱を打ち消す方向に機能する。その究極がこの真正電圧出力アンプである訳だ。このため、スピーカーに発生した逆起電力は速やかにアンプに吸収されてしまう、とういことである訳だ。
ということなのであるが、その吸収ルートにはどうしてもスピーカーのインピーダンス=この場合は8Ωが存在するのである。時定数的にいうと、この8Ωがあるためにどうしても吸収に時間遅れが生じてしまう、という訳だ。アンプの出力インピーダンスがたとえ0Ωであっても。
それがスピーカーによる音楽再生においてどれほどの意味を有している事象なのか? までは知識不足のため良く分からない(^^;
(3) 電流出力アンプ : 出力インピーダンス=∞? 800KΩでした(^^; の場合
(1)と対照的なのが、左側から3番目の電流出力アンプ。
これの場合は、負荷8Ωの両端電圧が0Vで一定であり、出力端子間がパルス電圧源が発生する±0.5Vの方形波そのままの電圧なのである。
その理由は、勿論この場合アンプ出力端子のインピーダンスが負荷8Ωに比して非常に高いからだ。
下図によれば、回路ループに流れる電流は、±625nAピークの方形波になっている。ということは、出力端子のインピーダンスは、500/0.000625=800KΩ ということになる。
そういえば、このタイプの電流出力アンプの出力インピーダンスZoは、Zo=電流検出抵抗値×(アンプの電圧ゲイン+1)であった。この場合、電流検出抵抗値=0.8Ω、アンプの電圧ゲイン=120db=1,000,000倍であるから、
Zo=0.8×1,000,001=800,000.8=800KΩ
ピッタリだ(^^)
う〜む。となると、電流出力アンプに繋いだ場合、スピーカーに生じた逆起電力はアンプ側には殆ど吸収されないことになる。すなわちどこにも逃げ場がない、ということなのだ。
実際はどうなってしまうのだろうか。
それとも電流出力アンプでドライブした場合、逆起電力自体発生することなどありえないのかな? 不明(^^;
(4) 電圧出力+電流出力Mixedアンプ 出力インピーダンス=数Ωの場合
実は、電圧出力アンプといってもアンプの電圧ゲインが∞ということは現実にはあり得ないので、厳密にはその出力インピーダンス=0Ωということもあり得ないのだ。実際は0.000・・・Ωなにがしであって、必ず正の0以外の数値になる。このシミュレーションに使っているOPアンプもその電圧ゲインは120dbという有限値であるから、一番左の電圧出力アンプの出力インピーダンスも厳密には0Ωではないのだ。(このレベルになると実際上は0Ωとして扱って全く妥当なのだが。)
それに、いくらアンプの出力インピーダンスを0Ωに近づけたところで、出力回路ループにはスピーカー自体のインピーダンス(ここでは8Ω)が存在するのだから、出力回路ループのインピーダンスは決してそのスピーカー自体のインピーダンス以下に下がることはない。アンプの出力インピーダンスがスピーカーのインピーダンスの1/10以下程度になれば、それ以上にアンプの出力インピーダンスを小さくしてももうさしたる違いはないのである。
と、いうのも説得力がある見方だ。そのとおりなのだ。
だから、バカの1つ覚えのようにアンプの出力インピーダンスを0.0・・・のレベル等で下げることに努力するよりは、アンプとスピーカーの相互作用を現実的視点で見据え直し、適切な出力インピーダンスと適度な制御力でスピーカーをドライブすることにより、スピーカーの能力を生かしてより充実した音楽表現力が得られる方向でアンプのあり方を考えた方が良い、というのが、回路図の一番右、電圧出力+電流出力Mixedアンプだ。
で、このアンプの場合、出力端子には±170mVピークの、パルス電圧源が発生する電圧と同相の方形波電圧が生じている。負荷8Ω両端は±330mVピークの方形波電圧だ。期待通りというか、常識的で違和感のない結果だ。
アンプが出力する電圧という観点からは、アンプの出力インピーダンスはそれを損失するという性質のものではないのだが、外部から出力端子に加えられる電流等に関しては、アンプの出力インピーダンスは普通の抵抗と同様な性質なのだ。すなわちこの場合、外部から±500mVの起電力が加えられた結果、アンプ出力インピーダンスと負荷抵抗8Ωの比率に応じた電圧にそれが分割されたのである。
そして、下図により、回路ループには±41.4mAピークの方形波電流が流れているということだから、このアンプの出力インピーダンスは170/41.4≒4.1Ωということになるのである。
これが通常のアンプで得られる結果だ。このアンプの場合出力インピーダンスが4.1Ωと市販の一般的アンプに比べるとかなり高いので結果が顕著に現れるのである。
が、これでも出力回路ループのインピーダンスは8+4.1=12.1Ωと、アンプ出力インピーダンスが0Ωの場合の1.5倍に過ぎないのだ。
逆起電力吸収の観点からすれば大した違いではない、ではないか。とも言えそうだ。
といっても、アンプの出力インピーダンスがこの程度に大きくなると、真正電流出力アンプほどではないものの、アンプ出力電圧が負荷インピーダンスに比例する性質を持つようになるので、その点は大きな違いになることは確かだが。
(2) 電流正帰還アンプ : 出力インピーダンス=−数Ωの場合
最後が左から2番目の電流正帰還アンプ、すなわち負性出力インピーダンスを有するアンプの場合。
先ず、負性インピーダンスであることは出力端子間電圧に端的に現れる。パルス電圧源で±500mVピークの方形波電圧を与えているのに、出力端子間にはこれと逆相に±144mVピークの方形波電圧が現れるのである。な〜んと(^^;<ビックリ
電流注入法で出力インピーダンスを測ろうと、端子プラス側にプラスの電流を流すと常識的・経験的には端子電圧はプラスになるであろう。が、負性インピーダンスを有するこのアンプは何と端子電圧がマイナスになるのである。
下図から、このアンプの場合も出力端子ループには±80mAピークの方形波電流が流れている。なのに出力端子間電圧はこれと逆相に±144mVピークの方形波電圧が発生するのだ。
なんとも異常。はじめて負性インピーダンスアンプを作ると最初これにビックリ仰天してしまうだろう。(^^;<私も
が、−144/80=−1.8Ωなのである。
なるほど。計算すると出力インピーダンスが−1.8Ωとなる訳だ。正しく負性インピーダンス。そう。負性インピーダンスとは、プラスの電流を流すとマイナスの電圧が発生するということなのだ。
そういう性質を持った抵抗は実存しない。が、負性出力インピーダンスのアンプ出力では現実にそうなるのである。そして、これが出力インピーダンスが負であることの実相なのである。
ところで、これで、出力回路ループの全体インピーダンスが8Ω−1.8Ω=6.2Ωとなったことによって、500mV/6.2Ω≒80mAの電流が流れたのだ、とも言えるわけである。これがすなわち、アンプの負の出力インピーダンスでスピーカーの8Ωのインピーダンスの一部を打ち消して、出力回路ループ自体の出力インピーダンスを下げた、ということの内容なのだ。
が、実は、出力端子の電圧がパルス電圧源と逆相に±144mVとなるために、負荷8Ωの両端に±500±144=±644mVピークの方形波電圧が生じ、このために負荷8Ωには644/8≒80mAという電流が流れるのである。このことがすなわちスピーカーのインピーダンスをアンプの負性インピーダンスで打ち消すということの実相なのである。
ということを、負性インピーダンスを大きくすることによって鮮明に観てみよう。
下図は電流正帰還アンプの電流検出抵抗を0.9801Ωにして極限の負性インピーダンスを獲得した状態でのものである。
なんとパルス電圧源は同じく±500mVを出力しただけであるのに、出力端子間にはそれと逆相に±13.1Vもの電圧が出力されるのだ。
出力回路ループに流れる電流も1.7Aに達している。
実に異常だ。
が、
この電流、電圧は逆相であるから、出力端子間の出力インピーダンスは−13.1/1.7=−7.7Ωということなのである。
したがって出力回路ループインピーダンスはなんと、−7.7+8=0.3Ωまで下がっているということなのだ。
だから、500mVの起電力によって、500/0.3≒1.7Aもの電流が流れる、ということになるわけである。
が、上でも見たとおりその実相は、出力端子電圧が−13.1Vになるために負荷8Ωの両端電圧が13.1+0.5=13.6Vとなって、その結果13.6V/8Ω=1.7Aの電流が流れるということなのである。
要するに、負性出力インピーダンスのアンプは、スピーカーが逆起電力を発生したような場合、このように逆起電力と逆相の電圧を出力に発生させてまで、強引に電流を吸い込み強制的に逆起電力を吸収しようという性質を有するものだ、ということなのである。
この意味では、電流正帰還による負性出力インピーダンスアンプは、やはり電圧出力アンプがスピーカーとの相互作用で期待される効能のベクトル方向を、NFBの力でさらに引き延ばす方向のものであることは確かなのだ。
が、これで時定数的に出力インピーダンスが0Ωに近い電圧出力アンプに比べてスピーカー逆起電力を消滅させるまでの時間がどれほど早くなるものなのか、は良く分からない。(^^;
(2003年4月19日)