「驚愕のラストシーンまで巻を措く能わずの傑作である」
東えりか(書評家)「本の旅人」2019年7月号より
この国に生を受けただけなのに、希望はどこにある──
平壌郊外の保安署員クム・アンサノは11年前の殺人・強姦事件の再捜査を命じられた。犯人として収容されている男と面会し記録を検証するが、捜査の杜撰さと国家の横暴さを再認識するだけだった。実はアンサノの父は元医師。最上位階級である「核心階層」に属していたが、大物政治家の暗殺容疑をかけられ物証も自白もないまま収容されている。再捜査と父への思いが重なり、アンサノは自国の姿勢に疑問を抱き始める。そしてついに、真犯人につながる謎の男の存在にたどりつくが……。鉄壁な国家が作り出す恐怖と個人の尊厳を緻密に描き出す、衝撃の社会派ミステリ文学。
迫真の読書体験。この物語は貴方の人生である
『万能鑑定士Q』『探偵の探偵』『黄砂の籠城』『八月十五日に吹く風』『催眠』『ミッキーマウスの憂鬱』『高校事変』など、数々のベストセラーで知られる松岡圭祐の、過去いずれの作風ともまったく異なる硬派で社会性に溢れたミステリ長編である。従来、北朝鮮を舞台にした小説といえば、空想性に依拠した軍事物や国際謀略物、あるいは刑事事件を扱っていても舞台が平壌に限られていた。本書『出身成分』は綿密な取材と資料収集に基づき、身近なリアリティに満ちた平壌郊外の殺人事件を初めて描く。しかしその背景には決して読者の予期しえない意外な真相が待ち受けている。そこに浮かび上がる世界最悪の人権侵害と身分制度に根ざした謎。そして感涙必至の結末。これまでどこにもなかった迫真の読書感覚。貴方が北朝鮮に生まれていたら、この物語は貴方の人生である。
※出身成分(しゅっしんせいぶん)とは
北朝鮮における住民の政治的地位を規定する階層制度、およびその階級を指す語。「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の3種からなる。核心階層は支配階層で、党の幹部や革命遺家族からなり全人口の約30%。動揺階層は全人口の5割を占める基本階層で、大部分が地方に住み、特別な許可がなければ平壌に入ることはできない。敵対階層は反動分子とされる人たちで大学進学や党、軍での昇進資格が剥奪されている。
(KADOKAWA 広告掲載文より)
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