Geiger counter(ガイガーカウンター)


 人は見かけに因らぬもの…という諺があります。しかめ面の気難しそうな人が、つき合ってみると案外気さくな人だったりするように、人の本性は外観だけでは判断できないということでしょう。同じようなことが、技術や製品にも言えるのではないでしょうか。
 今回のテーマは放射線を検出する、あのガイガーカウンターです。
 ガイガーカウンターも、その名前の響きからして何となくこわもてで、難しそうで、近寄り難い印象があります。いくらローテク実験室でも、こんなのとおつき合いするのはゴメンだ!と思われるかもしれませんね。でも心配いりません。知ってみると案外、単純素朴でやさしく、学生時代に物理学で習ったα線やγ線、宇宙線といった小難しそうな粒子に実験を通じて接することができ、何となく物理学が解ったような気分になれます。

ガイガー・ミュラーの発明


 ガイガーカウンターは、ガイガーミュラーカウンター(GMサーベイメータ)とも呼ばれています。ガイガーもミュラーもドイツの物理学者の名前です。
 ガイガーは1882年生まれで、ミュンヘン、エルランゲン両大学で学んだあと英国マンチェスター大学でかの有名なラザフォードの助手を務めました。このときにα線などの放射線の研究をし、ラザフォードの原子核発見を導いています。
 その後も、国立物理工学研究所(ベルリン)、キール大学、チュービンゲン大学、ベルリン工科大学で教授などを務めながら放射線・宇宙線の研究を進めました。
 ガイガーカウンターは、ラザフォードの指導を受けていた時代に原型ができていたのですが、それを1913年に自分で改良を加え、1928年にはミュラーとともにさらに改良をして完成したものです。
 放射線の検出には他の方法もありますが、ガイガーカウンターがもっとも単純素朴で今でも重宝されています。

放射線検出の原理


 本題の実験に入る前に、理解を助ける意味でガイガーカウンターの放射線検出原理を少し説明しておきましょう。そう難しい話ではありませんから、大丈夫です。

 わたしたちの身の回りには、高速荷電粒子というのが存在しています。これには原子核が崩壊するときに出るα線やβ線、宇宙から飛来してくる宇宙線、加速器で人工的に作られる陽子線や重陽子線、核分裂時に出る核分裂片など様々なものがあり、いずれも放射線の一種です。
 この高速荷電粒子が気体の分子(または原子)に衝突すると、電離作用によって気体分子から電子をはぎ取り、プラスイオン(プラスの電荷を帯びた分子)と電子(マイナスの電荷を帯びた粒子)に分離させるのです。気体中を高速荷電粒子が飛んだ跡には、こうしたイオン対(プラスとマイナスに帯電した粒子などのペア)が多数生まれます。
 そこで上図(a)のようなアノード(プラス電極)とカソード(マイナス電極)が付いた密閉容器を用意し、これに適当な気体(例えばアルゴンガス)を詰めておきます。そしてアノードをプラス側にした直流電圧(電極電圧)を両電極にかけ、カソードには負荷抵抗を挿入して出力が取り出せるようにするのです。
 そうすると、密閉容器内に飛び込んできた高速荷電粒子によって生まれた多数の電子はアノードに、プラスイオンはカソードに引っ張られて移動しようとします。
 電極電圧が数Vくらいの低い値の場合は、分離していたイオン対が再結合してしまい両電極に到達する電子とプラスイオンはわずかな数になりますが(これを再結合領域という、上図(b)参照)、数10Vくらいに上げると、イオン対を再結合させずに全部、電極に集められるようになります(これを電離箱領域という)。このとき電極に到達した電子は電流として負荷抵抗を流れるので、出力には数10μVほどのパルス電圧が現れます。
 電極の構造を同軸状にし、電極電圧を数100Vくらいに上げると、電子の移動が加速されるために、それが気体分子に衝突してイオン対を生むという増幅作用が現れます(これを比例領域という)。このときのパルス電圧は数mVくらいです。さらに電圧を上げて500V〜1000Vにすると、“電子なだれ”現象が生じて元のイオン対の数に関係なく一定の大きな電流が流れ、10Vくらいの安定したパルス電圧が得られるようになります(これをガイガーミュラー領域という)。
 しかし電極電圧をこれ以上に上げると、連続放電領域に入ってコロナ放電やグロー放電を起こしてしまい、機能しなくなります。
 ガイガーカウンターは、このガイガーミュラー領域で動作させるようにしたものです。しかし、そのままでは移動速度の遅いプラスイオンが密閉容器壁面に到達したときに電子を放出させ、二次的な電子なだれを発生させる可能性があり、これを阻止するためにエタノールなどの有機ガス(またはハロゲン分子)をハナ薬として混ぜてあります。
 なお、γ線やX線、中性子線の場合は電離作用はありませんが、気体の分子と衝突した際に原子核が突き飛ばされて電子が取り残されるので、高速荷電粒子と同じような効果を発揮します。
 そういうことで、ガイガーカウンターの仕組みを平たく言えば、同軸構造の電極をもつ密閉管にアルゴンガスやネオンガスとハナ薬を封入した単純なもので、電極に500V〜1000Vの電圧をかけておくと、放射線粒子が1つ入るごとに10Vほどのパルスが1発出る…という仕掛けです。

D3372


 では、ガイガーカウンターの実験に入りましょう。現在、入手可能なガイガーカウンター(カウンターといっても放射線“検出管”の話です)には、浜松ホトニクスのD3372(γ線、0.5MeV以上のβ線検出向き、フィリップスの18509と同等品)があります。秋月電子通商(Tel:03-3251-1779)やシリコンハウス共立(Tel:06-644-4446)などで取り扱っており、前者での実売価格は¥4,000でした。
 図(a)にD3372の概要を、(b)には代表的な特性を掲げておきます。
 少し補足説明しますと、D3372は写真のように意外と小さなものです。封入ガスはヘリウムとネオンで、ハロゲンを二次電子なだれ消滅(クェンチという)用のハナ薬として入れてあります。ハロゲンを使うとガイガーカウンターとしての特性はそう良くないものの、低い電極電圧で動作し、寿命も長くなる特徴があるようです。
 電極電圧は“プラトー電圧”の中央付近を選べばよく、D3372では575Vが推奨値になっています。
 使用する場合には図(a)に記入したように、575Vを2.2MΩ(および1pF)のアノード抵抗を介してアノードに接続し、カソードには47kΩ(および47pF)の負荷抵抗をつないで信号の取り出し口とします。
 D3372に放射線粒子が1つ入ると0.2mA〜0.4mAほどの電流が負荷抵抗に流れ、10V〜20Vほどのパルスが1つ出ます。パルス幅は20μsほどですが、この間に次の放射線粒子が入っても検出できないため、これを不感時間と呼んでいます。
 いずれにしても、扱いやすいパルスの大きさなので、カウンターなどあとに付ける回路に引き渡すのが楽です。

実験回路


 そういうことで、ガイガーカウンターに特有の回路といっても、とくにコレというのはなく、強いて言えば直流の高電圧(550V〜600V)を供給する回路くらいです。
 これには390V〜420Vの二次出力電圧をもつトランスを使って半波整流・平滑するか、その半分の電圧を倍電圧整流・平滑する(下図(a)参照)のがいちばん楽な方法でしょう。
 ただ、この方法だとあまりにも能がないという感じです。D3372が単4乾電池を1回り小さくしたくらいのコンパクトサイズなのに、電源が握り拳(こぶし)大でズングリしていると著しくバランスを欠きます。腕時計を動かすのにカーバッテリーを電源としてぶら下げるようなもので、センスを疑います。それにAC100Vを電源にすると、自由に持ち運んで使えません。
 そこで電源に乾電池を使い、昇圧することを考えてみました。しかし面倒な回路は組みたくないので、無い知恵を絞った結果、使い捨てカメラ(レンズ・ストロボ付きフィルム、FUJIの「写ルンです」)からストロボ回路をえぐり取って利用してはどうか、ということになったのです。
 そのためにストロボ付き「写ルンです」のいちばん安物(Super800<15ショット>)を探してみたら、¥980(売価)でありましたので、早速買い込んでテストしてみました。
 結論を言えば、そのまま(1.5V単3乾電池1個で動作)では高電圧出力(ストロボ用コンデンサ充電電圧)はDC300Vあまりで不足ですが、下図(b)のように回路を改造し、乾電池を2個直列接続とするとDC650V(やや高めだが…)が得られて手ごろな高電圧回路に化けてくれます。消費電流は、出力電圧が安定したときには0.3Aくらいにまで減ります。しかし乾電池が単3ではパワー不足ですので、単1をお勧めします。

 「写ルンです」はリサイクル可能なように、分解しやすい構造となっています。しかし高電圧を扱っていますので、分解・実験時には感電に十分注意してください(分解の際はまっ先に乾電池を抜くことです)。
 D3372に配線するときの注意として、本体(検出管)に直接ハンダ付けしてはいけません。必ず付属の引き出し端子(ストラップとラグ)に行ってください。またアノードの2.2MΩ・1pFとカソードの47kΩ・47pFは、時定数を合わせるようにします。
 なお、放射線量を知るためには、ガイガーカウンターから出たパルスの数を数えなければなりません。そうしてこそガイガー“カウンター”の意味があるわけですが、カウンター回路はどこにでもあって、とくに珍しくもないので、用意するのは読者のみなさんにお任せしたいと思います。参考までに、下図にはエレクトロニクスライフ誌93年12月号の図11(p48)で紹介した回路に少し手を加えたものを掲げておきました(これはオマケです)。
 カウンターの代わりに、パルスの発生(頻度)を音や音声で知らせる回路を組んでも面白いでしょうね。このあたりが、アマチュアの工夫のしどころです。  D3372を筆者宅の実験室でしばらく動作させてみたところでは、放射線は幸か不幸か検出されませんでした。試しに放射線を検出させるのには、教材用の鉱石サンプルを使うとよいかもしれません。

実験のあとがき


 ガイガーカウンターそのものは、みかけ?によらずシンプルです。しかしこれを使えるところまでもっていくためには、ハイレベルではないものの、物理や物性の基本的知識・高電圧回路の知識・エレクトロニクスの知識などを総動員しなければならず、頭(知識)の体操に向いています。エレクトロニクスに偏りがちな知識を見直し、たまには全体のかさ上げをするのも、いいのではないでしょうか。
 なお、ガイガーカウンターの動作テストや校正のために、既知量の放射線を出す標準試料(校正用線源)が必要になる場合があります。社団法人日本アイソトープ協会(Tel:03-3946-7116)では受注生産で線源を取り扱っていますが、頒布価格はコバルト60(γ線源)でも3万数千円はして高いものです。各地の工業試験所や大学にも置いてあるはずなので、必要なら相談してみてください。