緊急撤退
海に近い本鉱山の坑道に入る。
レイルがS字を描き、奥へ続く。
十分な装備のため荷が重い。
奥にはトロッコが残存する。
外部の気温は−4℃だが、
内部は少し暖かい。
終始ぬかるんだ坑道だ。
作動油の18L缶が転がる。
少しずつ内部温度が上昇している気がする。
恐ろしく急な最小曲線半径。
ナローゲージとは言え、
このようなS字を繰り返す。
奥へ進むと深い泥の抗床となった。
坑木も腐り荒廃してきた。
空気は淀んでいる。
所々、崩れた箇所がある。
頭上のビニールシートは、
水をはらみ危なく膨れている。
入坑100mを超え、
少し空気が悪い。
水没しつつ廃坑跡を進む。
左頭上のビニールの配管は、
エア送風用のものらしい。もちろん今は稼働していない。
ここで酸素濃度計の18.5%以下での異常警報が鳴る。
しかし確認すると20%を超えて、
少し欠乏した状態を示す。
振返ってもS字の連続する坑道の入口はすでに見えず、
距離感を感じる。
坑木にはおびただしいカビが連なる。
気温は10℃以上あり、カビの成長も著しい。
送風用のダクトはすでに破損し、
たとえ装置が稼働しても、
送風は不可能だ。
坑道内は乾燥し始めた。
と同時に、焦げたような饐えた匂いが鼻につく。
水蒸気がなく、乾燥し空気が明らかに淀んでいる。
右手に空洞のような気配がある。
本坑道から右を覗くと深い穴がある。
坑木が辛うじてぶら下がる。
竪抗だ。相当深い。
竪抗は深く、一旦埋没しているが、
その奥にも続いているようだ。
覗きこんでいたが、少し頭痛がする。
やはり異臭と淀んだ空気がおかしい。
これは危険と判断し、
入坑160Mで急遽撤退した。
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