澱粉マジック
アプローチは初冬の落ち葉の道だ。
標高は130m付近、
鉱山跡に向かって歩く。
沢沿いに登るとやがてズリ山に遭遇する。
昭和48年(1973)閉山と、
最盛期から50年程度経過した鉱山跡だ。
ズリ山の奥には配管が埋もれている。
選鉱所と廃滓ダム(打止堤)の中間地点、
付近から発生した廃滓が鉱送された。
シックナーは懸濁物を重力下で沈降させることによりできるだけ濃縮し、
上澄液や排泥、微粉の回収を目的とする。
上澄み浄水は選鉱に再利用、密度を高めた泥漿は廃棄するのである。
更に太いフランジ付きの配管が朽ちている。
炭鉱の場合はシックナーからから排出される汚泥が粉炭となり、
選炭水から微粉炭を回収するのに利用される。
更に上流域にはコンクリート製の基礎が残る。
これは選鉱所から廃滓ダムまで鉱送する送泥管の土台のようだ。
ここで太いパイプを保持していたのだ。
移動するとドラム缶とRC製の基礎が残っている。
恐らく鉱送用のスライムポンプなどの設置場所のようだ。
周辺を探索する。
スライムポンプはコンクリートの打設などにも使用される
摩耗性の高いポンプだ。
固形物粒子を含む液体を長距離移送する場合に用いられる。
マウスon スライムポンプ
液体ではなく半固形の懸濁液を流送できるスライムポンプの中には、
サンドポンプやスラリーポンプなどの種類があり、
強酸性や強アルカリ性等の腐食性をもったポンプもある。
目的のシックナーに到達だ。
直径は30m程度、
巨大な遺構だ。
シックナーは日本語では『沈降濃縮装置』となる。
円すい状の底部をもつ浅い円筒槽で、
中心部に原液を供給するための給泥口の塔がある。
これが中央部に立つ給泥口だ。
ここからシックナー円筒槽に廃滓を投入する。
原液が中心部を重力により下降しつつ自由沈降する(沈降層)。
周辺部にはあふれた清澄水を回収するための溢流樋(いつりゅうとい)がある。
清澄水(上澄層)と混濁汚泥(沈降層)の境目を円周方向に流れる間に干渉沈降が発生、
互いに結び付き、塊となった固体粒子は更に沈降する。
ゆっくりと回る、槽中心の回転軸に取り付けられた回転レーキ(かき取り羽根)【※今は無い】により、
界面(境目)が破壊されることで、 更に濃縮度が高められるとともに
その後、底に沈む圧縮沈降で濃縮される(濃縮層)。
濃縮された泥(濃縮スラッジ)は中心部底に集められ排泥される。
上澄水は外周の壁を越えてあふれ出し(上澄層)、溢流樋を通り外部に排水される。
このように浄水と溶け込んでいた汚泥を分離するのがシックナーの機能だ。
冬季のシックナー作業は蒸気による加温をもってしても、
鉱泥の温度低下により本来の性能が発揮できなかった。
この対策として色々な沈降促進剤が試された。
その中で効果が高かったのはなんと澱粉(でんぷん)であった。
澱粉20sを500Lの水で攪拌、苛性ソーダ(=水酸化ナトリウム)2.7sを投入したものを
給泥槽より滴下使用した。
シックナーの性能はいかに早く大量の混濁液を処理できるかである。
その点、澱粉による沈降速度の上昇は効果的で、
沈降性の向上に貢献することとなった。
戻る