束の間の夢の跡


マッカリヌプリ（羊蹄山）は標高1,898m。
日本百名山の一つでその容姿から蝦夷富士と呼ばれる。
マッカリヌプリの西、ニセコ町の日本海側が蘭越町だ。


旧上目名駅付近からアプローチする。
旧上目名駅は昭和59年(1984)廃止。
かつて駅付近には官舎や民家、商店も軒を並べていた。


昭和12年(1937)に開削された鉱石運搬道路を遡る。
林道のようだが長らく車両の走った痕跡はない。
このような道が続けばアクセスも容易いが、やがてすぐにその希望は頓挫する。


すぐに鉱石運搬道路は消滅、
クマザサの藪となる。
ここからはGPSとコンパスに従い、鉱山跡を目指す。


しばらく藪を進むと、
少し開けた平場があり、
等間隔に植林された一画がある。


付近には古い瓶のかけらが点在している。
どうやらここがかつての社宅の跡で、
資料によると四戸建て六棟が建設されていたようだ。


少し上流には『目名大玖鉱山跡』と書かれた木碑が朽ちている。
帰宅後、蘭越町教育委員会に問い合わせたところ、
平成11年(1999)に同委員会が記念碑として社宅付近に建立したものであることが確認できた。


社宅跡地からは藪が激しく、
時には沢沿いを歩き、標高を稼ぐ。
スタート地点の標高は170m、鉱山跡は289mの予定だ。


標高230m付近まで登ると、
再び平場が現出する。
どうやらそこそこの規模の施設があったようだ。


その上流には人工のため池の様な長方形の水槽がある。
これは鉱山に伴う施設で、
未だに大量の水を貯え、そこそこの水深がある。


水槽は全部で三か所あり、
段々とカスケードに配置されている。
もしかすると沈殿池のような機能を有しているのかもしれない。


沈殿池の上部にはコンクリート製の土台がある。
恐らく選鉱の施設が存在していたようだ。
トロンメルやクラッシャーなどが稼動していたのかもしれない。


付近にはRC製の水槽の様な廃祉もある。
選鉱前の工程として上流域で採掘した鉱石（＝粗鉱）を、
この付近で粉砕し小さく砕くのである。


クラッシャーによって粗砕、中砕の二段破砕を行い鉱石の粒を小さくする。
小さくなった粒や塊は『分級』という工程でふるい分けを行い粒を揃える。
分級は水の中での沈降速度の違いや、網目を通して行う。


選鉱所を超えると一気に廃道化が加速する。
険しい藪の斜面を延々登攀する。
目指すのはズリ山、植生の無い一画だ。


ここからは付近の地形や色合い、
においや水流に十分注意を払いながら歩く。
このような赤い汚泥は坑道に繋がるヒントかもしれない。


赤い泥を追って更に標高を稼ぐと、
白い植生の無い一画に達した。
恐らくズリ山、鉱山跡に到達だ。


坑道から採掘された鉱石のうち、
資源として使えず廃棄する部分を捨石ないしは廃石、俗称でズリという。
それが長年積み上げられ、円錐状の山が出来上がる。


ズリの斜面には階段のように踏み場所が設置してある。
ズリ山は九州の炭鉱では『ボタ山』と呼ばれ、
記述では硬山と標記する。


ズリ山付近に遺構や坑道は発見できなかった。
更に上流域のズリ山を目指し、
クマザサの海を泳ぐ。


さらに大規模な第二のズリ山に到達だ。
こちらもかなりの傾斜で、
頂上が見えないほどのスケールだ。


ズリ山の頂を目指して登る。
所々に踏台の丸太が埋めてあり、
土砂は軟質ではなく、乾燥した感じだ。


ズリ山の頂上付近まで到達した。
遺構は見えないものの、
恐らく付近に坑道が眠っているはずだ。


ズリ山頂上から下を望むと驚きの急角度だった。
この斜面勾配の安息角は滑りや摩擦角、
抵抗力など複雑な要素で決まってくる。


登頂したズリ山の奥には更に第三のズリ山が存在した。
富士のようなシンメトリーの円錐だ。
坑道を探しながら移動する。


頂上の標高は310m、沢の標高は250mだったので60mほど登ったこととなる。
直線距離は132m、tan^-1(60÷132)で約24度となる。
これは経験上、手を使わないで登れる限界付近だ。


ここからは坑道の探索だ。
おそらくこの第二、第三のズリ山の上にあるはずだ。
付近の藪を縫って坑口を探す。


発見した最初の坑口、
藪に埋もれ、
辛うじてその入り口が見える。


この坑道は完全水没している。
水深は1m以上あるようで、
入坑はせず別の坑道を探す。


立派なベニテングダケが生えている。
羆スプレーと比較してもかなりの大きさだ。
毒キノコだが塩漬けにして食べる地域もあるそうで驚きだ。


ベニテングダケの奥には別の坑口がある。
埋没しそうな崩れた鉱口だ。
木の根が複雑に絡んでいる。


こちらは乾燥した坑道だ。
内部に深く続いているようだ。
酸素濃度を計測しつつ入坑する。


入坑して20m程度で支保工が見える。
坑内が崩れないようにする支保は坑内支柱とも呼ばれ、
打柱、三つ枠、合掌枠、アーチなどの種類がある。


焼いて防腐処理された坑木で作られた坑内支保。
しかし積年の土圧で一部が崩れ、
その先で坑道は埋没している。


酸素濃度は20.9％、
坑道内も良好な状態だ。
かつての採掘の現場、坑道は辛うじて残存していた。


坑道内部から坑口を望む。
最盛期の労務者は68名と、
かなりの規模の鉱山であったことは間違いない。


当時の鉱山神社の祭りの際には、各機関の関係者が一堂に招待され、
戦時中の物資欠乏の時代にもかかわらず
山海の珍味が出される盛大な祭りが催されたという。


本坑は鉱区が点在しているために埋蔵量に限度があり、
ボーリング探査も行われたが、
それでも新鉱が発見されることはなかった。







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