涙滴る腐った腸

「ぶよぶよに溶けた坑道を私はのめりこむがごとくに降りていった。
全くそれは坑道などと呼べる代物ではなかった。
腐乱死体の腸であった。
あらゆるものが解けただれ、形を失って崩れ、
あらんかぎりの臭気を吐いてうむれていた。」
(出典)上野 英信 『追われゆく鉱夫たち』


岩盤の裂け目のような小さな坑口から入坑する。
いきなりの水没で、
水面は澄んでいるものの、底は汚泥の様相だ。 坑口


水深は膝下だが、進むと底の汚泥が撹拌される。
いきなりの立坑や急激な深度変化に注意して進む。
空気の通りは無いものの、酸素濃度等は問題ない。 水没坑道


足元には髪の毛のような藻が絡みつく。
仮定の鉱床に直進で向かう坑道を 「立入坑道」Cross-cut と呼び、
鉱脈に沿って掘進するものを 「樋押坑道」Drift という。 藻


60m程度進むと水深は浅くなるものの、支保工が散乱している。
想定の鉱脈までは立入坑道で直進、着脈したら鉱脈に沿って樋押する。
本坑はどうやら鉱脈に直進する立入坑道のようだ。 坑道


照明に浮かび上がるのは、ただ汚泥と古坑木ばかりだ。
削岩機は1台で3〜4m3、併用するダイナマイトは1m3当たり2.2s程度を使用する。
掘進深度は0.8〜1.5m/日、手掘りの場合は0.2m/日と3〜4倍の差がある。 立入坑道


更に120m程度進むと幾分坑道は広くなる。
削岩機でダイナマイトを仕掛ける発破孔を穿孔、その穴にダイナマイトを設置して破砕、
崩れた岩石・鉱石を鉱車やコンベヤーで搬出する。 坑道


岩盤にはφ50o程度の穴が数か所ある。
これは『試錐』と呼ばれる、鉱床の予想される個所を調査する孔だ。
小さなボーリングのように試料を採取して分析する。 試錐


ここでは一気に岩盤の様相が赤から緑に変化する。
鉱床を構成する岩石や鉱物の物理的特性を直接、
または間接的に観察するのが『物理探査』である。 鉱脈


崩れた坑木と電線を繋ぐ碍子も落下している。
人工的な地震の伝播、電位や抵抗、磁力、重力、放射線、
それらの変化を検出するのが物理探査である。 碍子



恐らく60年以上経過した電球も残る。
削岩は圧縮空気による”のみ”を叩く機械的な作業のことで、
人の手が30〜35回/分のところ、削岩機は2,000〜2,500回/分運転する。 電球


坑口からおよそ240m、俄かに坑道の終端のように見えた。
終端から上下の立坑や斜坑の存在も予想されるので、
足元、頭上に注意が必要だ。 終端


終端と思えた場所はなんとクランク型の坑内分岐であった。
岩盤が強固だったのか、鉱脈への向きに変化があったのか、
理由は不明だがこれは非常に珍しい。 クランク


分岐からもさらに続く坑道。
鉱床図から恐らくキロ単位で延伸しているはずだ。
安全に配慮してここで撤退を決定した。 坑内分岐







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廃坑道
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