魚料理のサイエンス
指導教官 北村 新藏
【はじめに】
私たち日本人は海に囲まれ、昔から魚介類をタンパク源として利用してきました。
近年、200カイリ内漁業規制をはじめ、沿岸・河川の汚染などの人間側の都合
で自然環境が変わり、日本近海の魚介類の資源の減少は著しくなってきています。
そのため、養殖を含めた漁業資源の開拓が脚光を浴びています。
また、魚の脂質に多く含まれている多価不飽和脂肪酸による血漿コレステロール
の減少化等健康の面から魚肉が注目されてきています。
本研究では、色々な魚料理、魚製品に着目して、その栄養面を中心に調べてみま
した。
【結果及び考察】
魚肉と畜肉とを比較すると、両者間で大きな違いが見られます。家禽、家畜の成
分は部位によって著しく変動するのに対して、魚肉は、季節、飼料生物、漁獲場所
や年齢などの影響を受け、変動が激しいと言われています。また、魚肉は畜肉に比
較して結合組織が少なく、肉質が軟らかいので、生食が可能です。また、魚肉中の
エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)といった多価不
飽和脂肪酸を比較的多量に含み、このことが成人病などの予防に魚肉が優れている
ということがしだいに明らかになってきました。
さらに、魚肉タンパク質にもその効果があることが示唆されています。
日本人の魚食文化の大きな特徴として、刺身に代表される生食があります。これ
は、硬質なテクスチャーを特徴としており、これは魚種を問わずプリプリしたテク
スチャーは筋肉組織中の結合組織によって担われおり、また、これは筋肉中のコラ
ーゲン含量が多いほど歯ごたえがあることとよく一致しています。また、冷蔵中の
著しい軟化現象が挙げられますが、これは死後硬直との関連で説明されてきました
が、さらに酵素的分解によってコラーゲンの可溶化が起こり、そのことも影響して
いることが解ってきました。
魚肉を加熱調理すると肉の透明感は失われ、肉は収縮して肉汁が流出し、重量は
減少し、肉質は硬さを増します。この加熱による魚肉の硬化は、コラーゲンがそれ
ほど関与しているのではなく、筋原繊維タンパク質の熱変性による凝固が主な原因
であり、加熱肉特有のテクスチャーとフレーバーを示すことになります。
魚介類の多くは、漁獲直後はほとんど無臭ですが、微生物や自己消化等により、
生体成分が分解され、魚特有の不快な臭いを伴うジメチルスルフィド、アンモニア
やトリメチルアミン等の揮発成分を生成する。そのため、加熱や生姜・レモン等の
香料を加えたり、また醤油による照り焼き等により、不快な臭みを無くし、快いフ
レーバーを加味させた調理法が取られています。
魚に含まれる脂質を脂肪酸組成から畜肉と比較すると、前述したように多価不飽
和脂肪酸が多く含まれている点です。
魚肉を中心とした食事が、DHAやEPAに代表される多価不飽和脂肪酸により、
心血管系疾患に効果的であり、炎症の軽減化や免疫効果、さらにガンの予防や脳神
経組織の機能発現に有効に働くことが報告されています。
日本人の魚介類の摂取量は、一時は減少したが、再び上向いてきました。これは、
欧米型の食事傾向に近づくに連れて成人病が増加し、食事と健康が注目され、その
中で魚料理が見直されてきたからです。
【終りに】
私たちは栄養士として、こういったことを踏まえて、欧米型の食事形態に加えて、
魚食文化に根付いた日本型の食事体系をもう一度見直してみるべきだと思われます。
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