トップへ
小沢征璽さん

小沢征璽さんが、体力の回復が進まず、再び一年の休養という決断をされました。
誠に残念な事です。食道癌の手術以降、体力を振り絞って指揮台に戻ってカムバックされ、カーネギーホールでの演奏会や、マツモトキネンコンサートでのオペラ指揮もされましたが如何せん体力の消耗に耐えられず、痛恨の体力回復のため再び静養という事になりました。
カムバックの様子はドキュメンタリーとして放映されました。

「食道癌」の手術は、私の身近の者も経験し経過を見て来ました。
小沢さんも語っておられますが、侵された食道を切除、腸の一部を切除した物をパイプ状に作り、切除した食道に移植接続します。
これで通常の食道と同じ状態に復活出来るのかと思うのですが、そういう訳には行かないのです。
本来、食道は、ゴム風船のように通過する食物を柔軟に対応して送り込み、逆流しないように原状に保つ事が出来るのですが、移植した腸は、柔軟性に乏しく逆流が頻繁に発生しやすく少量ずつ胃の方へ送り、胃からの逆流が無いように長い時間を掛けての食事をするなどの為、必要なカロリーを摂取する事が難しくなります。
従って、身体の抵抗力も低下し肺炎などの合併症を起こさないための細心の管理が求められます。
静養するだけならば、それで良いのですが小沢さんのように大病の回復最中では、健康な人でも相当な体力と精神力が必要な、オーケストラの指揮はまさに命懸けです。

「お腹の中は抗生物質でいっぱいだ。低血糖で、めまいがする。途中でSOSを出すかもしれないが宜しく頼む」
と言って「マツモトキネンコンサート」では初日は休演、二日目だけオペラの指揮をされ終えて、そのまま入院という様子でした。

そして、今回の完全休養宣言です。「音楽があるから生きていられるんだ」という気力も、体力が無くては無念です。小沢さんは私と同じ76才です。再びの指揮台の姿の復活を待ち望みます。

さて、今すぐ、小沢征璽さんに代わって指揮台でタクトを振る指揮者は日本にいるのでしょうか。
残念ながら「いません」と言うしかありません。
特に、武満徹の作品を武満さんの意向通りに指揮出来る指揮者は、岩城宏之さんが故人になられた今、小沢さん以外にはいません。
特に「ノベンバー・ステップス」は、作曲段階から、琵琶の鶴田錦史、尺八の横山勝也さんと合宿のようにして完成された名曲で、このメンバーでの再演は、武満・鶴田・横山の三氏が故人となられた今は、ビデオでの名演奏を忍ぶばかりです。

私が、武満徹さんの音楽にカルチャーショックを受けたのは、以前にも書きましたがN響アワーで放送された「系図(ファミリー・トゥリー)」でした。谷川俊太郎さんの詩集「はだか」より「むかしむかし・おじいちゃん・おばあちゃん・おとうさん・おかあさん・とおく」の五編を遠野凪子(15才)が訴えるように語り、情操たっぷりのメロデイが胸を打ち感動しました。
この事は「音楽の輪」に書きました。参照して下さい。

昨、2011年11月4日、セントラル愛知交響楽団が、故・岩城宏之氏編曲の小編成による「系図」を公募による少女のナレーションによって演奏しました。
本来は、「変則的な三管編成による」と指定されたものを、武満氏没後、武満作品初演を最も多く手掛けた経緯のある岩城氏が2002年の夏「神をも恐れぬ所業だった」と述懐した小編成版ですが「原譜尊重の著作権から再演はもう無い」と、指揮をされた斉藤一郎氏は語りました。

今、指揮者で目立った活動をしているのは「佐渡裕」さんでしょう。
レナードバーンスタイン最後の愛弟子としてベルリンフィルの指揮もされています。長寿番組「題名のない音楽会」の歴代の名司会者を引き継いでパワフルな指揮もされています。
3・11震災追悼コンサートをパリで行った報道がありました。

私の個人的な気持ちでは大柄過ぎるという感が何時もします。
オーケストラの前では壁のように視界を遮るように感じます。ピアノやバイオリンの協奏曲などでは客席によっては死角になるのではと気になります。
最近の映像では少し頬がこけて身体が細くなったように見えます。スリムになってアクションに柔軟性が加われば良いがと思います。誰かの指摘が有ったのでしょうか。
指揮者もオーケストラの一人という視点では体格のバランスも考慮しないといけないのかなあと私は思っています。なかなか難しい問題ではあります。あくまで個人的な気持ちです。どうしても小沢征璽さんを思ってしまうので・・。

そういう点でも小沢征璽さんは卓抜した存在です。
私は今、過去に保存した再び得難いビデオを取り纏めています。「’02 ウイーンフィル・ニューイヤーコンサート」(100分)は貴重です。一部は「YouTube」で見る事が出来ますが・・。

                           2012・3・18 記
トップへ