第2次原告を迎えての初めての裁判
6/28第3回裁判、集会報告

 

教育に対する「不当支配」とは何か等、実質審理の入口に入る

6月28日、第2次原告を迎えて後、初の裁判が開かれました。開廷時間の4時半の前には傍聴席を埋め尽くす130名もの原告や支持者が集まり緊張した雰囲気に包まれました。高校の教職員が職員会議で出にくい木曜の午後の法廷を、多数の支援者の参加で支えていただいたことを、訴訟団として感謝します。

卒業式予行で生徒の人権擁護に務めたために「C評価」を下された原告が陳述

裁判では最初に裁判長が原告、被告双方の準備書面と証書を確認。裁判長からは次回の裁判で原告の主張の「全容」が出るのかとの質問がありましたが、システム自体の問題点や成績による賃金体系を教育現場に適用することの問題点等多岐に論点がわたるので次々回にも及ぶと原告側から予告しました。

今裁判のハイライトは、A高校の卒業式に際して、卒業式予行で生徒の校長に対する「君が代」斉唱についての質問を援助したことで能力評価Cの評価をつけられたB教諭の陳述でした。

B教諭の陳述は短時間でしたが穏やかな口調の中に、このシステムの本質を鋭く剔るものでした。

B教諭は周年行事の際、生徒たちに教育の場における「国旗・国歌」について、「思想・良心の自由」が保障され、「子どもの権利条約」による意見表明権があることを説きました。そして担任をしていた学年の卒業式に際して、校長に「『君が代』を歌う必要があるのか。斉唱時に座っていてもよいのか」と質問したいのだが、その際サポートしてほしいとの依頼を卒業生から受けたのです。

B教諭は予行の時、生徒が校長に質問をした時に、「校長先生、生徒の質問に答えてあげてください」という趣旨の発言をしました。これは教職員として当然の行為です。ところが、校長は、「黙るように」と発言を封じた上に、この時の行動を理由として当時の校長はB教諭に能力評価Cを下したのです。これは校長の意向に沿わぬ教員を懲罰的に評価し、排除すること、そして生徒の自由と権利を奪うという、このシステムの本質を遺憾なく暴露することでした。B教諭はこの不当な評価に対して「苦情申出」を行いましたが、結果は「評価は妥当」とするものでした。理由は、「苦情申出内容に対して、校長から聴取した内容について判断したところ、評価結果を不当とする事実が認められなかったため」と校長の報告だけに依拠した全く一方的なものでした。納得できないB教諭は苦情審査会の審議録を開示請求しましたが、「審議録」さえ存在せず、本当に審議されたかどうかさえ定かではありませんでした。

陳述後、思わず知れず傍聴席から拍手が起こりました。裁判は次々回の裁判を10月30日(火)16時30分と決した後閉廷しました。

 

裁判闘争を軸として評価・育成システムに対する反発の広がりを実感
裁判後報告集会

法廷での熱のこもった雰囲気は、裁判後の報告集会にも引き継がれました。裁判に参加したほとんどの人がそのまま中央公会堂で開かれた集会に参加しました。

最初に司会(訴訟団事務局長)が、裁判参加への感謝を述べました。そして自己申告票提出の際に仕事を強制するなど、本システムの本質が大阪でも徐々に現れてきたことを指摘した後、弁護団長からの報告を受けました。

新教育基本法に対する初判断となる本裁判でやるべき事は一杯ある--弁護団長報告

弁護団長は、今法廷に至る経過を踏まえながら多くの指摘をされました。まず裁判の今後の課題について、行政の側が「本システムは法律・法令上何の矛盾もなく運用している」という主張にすがっている、その論理を一つ一つを突き崩していかなければならない。それは「評価してはいけない」の一言で片づけられるものでなく、それを様々な側面から学者の力も借りながらきっちりと反論していく必要がある。また、本システムが、公序として確立しているはずの「教育に対する不当な支配の排除」を犯すものであり、教育を破壊するものであることを憲法、新・旧教育基本法を通じて明らかにすること。不提出者が昇級されない問題は憲法31条、すなわちデュー・プロセス・オブ・ローに違反するものであること。やるべきことはいっぱいある。これらについて原告側の主張を確立し、次回以降の裁判に提出していきたいと述べられました。

システム下でやはり「がんばっている」自分の「怖さ」に気付く--陳述者挨拶

次いで陳述者のB教諭が立ち、主に四点で意見補足を行いました。第一に「日の丸・君が代」強制問題では府教委がしたたかで、大阪では教職員の方が「自主規制」に出つつあるのではないかとの指摘、第二に、システムの効果が、B教諭の勤務している「進学校」等では如実に出だしたのではないかということ、行政の思惑通り、学校が一丸となって「数字」を上げていく体制が着々と整いつつある。B教諭は「工夫」し始めている「自分が怖い」と述べました。第三に裁判はそういう自分の軌道を修正する場でもある、大阪地裁にこれだけの教職員が提訴したのは過去に例はないのではないか、この思いをぜひ市民に広げよう、そして最後にシステムは女性教職員をことに圧迫している、その声は組合を超えてある、是非組合の枠を超えて運動を広げて行こう、と締め括りました。

大阪での運動の広がりを実感--参加者発言

短いものでしたが意見交換の時間となり、計4名からの発言がありました。以下のような趣旨のものです。

  • 市民の会としてこのシステムの人権救済を求めている。教育を考える集会を開催するが、最近府教委は「がんばる教師に報いる」といったいい方をしない。勤勉手当でも総額を減らしている、一部を削減して他へ回すといったやり方はおかしい(大阪市・中学教員)
  • 自分の所属している組合大会で、裁判を支援するとの修正案を出し、執行部は趣旨を受け入れた。しかし現場では教職員には「成果」を出せ、働け、子どもには無理強いする圧力が強まっている。そんな中で協力している自分が怖くなる。裁判に参加するのは自分のやっていることは何なのか検証することでもある(大阪府・中学教員)
  • 教員志望である。裁判というものを初めて見た。誰が悪いのかはっきりさせる必要がある。裁判に勝ってほしい気持ちがあるが、校長だけを責めることになっていないか(大学生)。この発言に対しては司会から最近、教員養成を全寮制で行う学部等新たな教員養成の動きが出ている。「規範意識の高い教員」なるものを養成するための「洗脳」の時代に入ったのでは、との補足がありました。
  • 陳述は良かった。一体AとかBとかの差は何か、それは校長の主観でしかない。100名規模の裁判をみんなで力を合わせてやっていきたい。職場でも習熟度別がどんどん導入されるなど雰囲気が変わっている。全国の教員の交流集会などを持ち、今は根津さんを支えていきたい(大阪府・小学校)。これについても司会から、根津さんを絶対処分させてはならない、処分撤回のFAX等を都教委に集中しようとの呼びかけが行われました。

ニュース読者を拡大し、第3次提訴に前進しよう--事務局提起

討論を受け、事務局の方から経過を踏まえて次に3次提訴に進む呼びかけがなされました。まず昨年の今頃、組合がシステムを止められないもとでシステムと闘うことができる方法はないか必死に考えていたことが回想されました。その結論が裁判という方法だったし、それの運動は広がってきました。去年の不提出者は1000名、その1割近くが原告になっています。私たちは5万枚のリーフレットを配布し、今や6000部以上のニュースを職場に撒き入れていますが、まだまだ運動を広げる余地は残っています。2次原告の方はもとより、自分の周りで、少しでもニュース読者を広げていただきたい、そして皆の声を背景に第3次提訴へ前進したいということです。C評価とはもともと懲戒の対象者、Dとは停職者の扱いに匹敵するものです。贈賄を受けた教育監らがわずかばかりの減給や戒告で済まされている中、不提出者に毎年毎年それよりはるかに重い経済的不利益をあたえるこのシステムは許されません。

運動と理論両輪での前進が必要--司会者まとめ

最後に事務局長から二点のまとめがありました。一つはこの夏、我々の前に解決すべき理論的な問題が提起されているということです。「教育への不当介入」と「成果主義」の問題に正面から反論すること。新教育基本法の下で、行政の論理を押し返す論理を総力戦で作り上げるということです。第二に、評価で教職員の大半をA、Bの真っ二つに割り、なおかつ懲罰的にC、Dのレッテル貼りが行われることで現場で何が起こっているか、何が起ころうとしているか、その教育破壊の現状をまとめ上げようということです。

終始緊張感あふれる集会は成功裡のうちに幕を閉じました。