「冷やし飴」について

 ※冷やし飴とは... なんと『広辞苑[第4版]』(岩波書店・1991年)に載っていない。仕方がないので、gooで検索する。11件ヒットした。そのうち、「いか花ファンの『これがおすすめ!』」ページ〔<http://www2s.biglobe.ne.jp/~shunga/ika/bbs.html>。その後、1999年8月時点で閲覧不能のようである。〕に拠ると、冷やし飴とは、「ジンジャーと黒砂糖の飲み物で、『はまっちゃう』おいしさ」の飲料である。残念ながら実物写真はインターネット上に無いようである。
 ※この飲み物は北海道においては一般に見られない。分布状況は不知である(御存知の方は御教示ください)。ただし、道産子の多くは、関西〔京都・奈良〕方面への修学旅行の際に、冷やし飴と「遭遇する」と思われる〔この例証につき、旭川凌雲高等学校の生徒の方によるページが以前存した<http://www.ryoun-hs.asahikawa.hokkaido.jp/topic/strip/2-6.html>。しかし、1998年6月時点で閲覧不能のようである〕。冷やし飴の味については賛否両論がある。前述したページの作者の方の他、私達のように、冷やし飴と一緒に記念撮影をし、三十三間堂に寄進した瓦に「冷やし飴はうまい」と書く〔ちなみにこれは私の仕業でない〕ほど気に入る者がいる。他方、そうかと思えば、その瓦への書込みを見て期待を胸に飲んではみたものの、余りの不味さに、修学旅行の報告集において「恨みの冷やし飴」との題の下、冷やし飴を飲んだという経験がいかに無駄であったかを説く者もいる〔私達と同じクラスの女子の方です〕。また、私の強力な推薦によって冷やし飴を飲んだ後輩は、その味について積極的に評価しかねるという意見であった。かく言う私も、1995年の学会出席の際、ほぼ10年ぶりに冷やし飴を飲む機会に恵まれた。結論から言うと、不味くはなかったが、10年前と同じような感動は無かった。なぜ、あれほどまでに冷やし飴に入れ込んでいたのか、不思議な気分で私は茶店を後にした。
 ※このページを作成して1年以上、「冷やし飴」に関しては音沙汰が全く無かった。ところが、1999年7月になって、私の講義の受講生である園木君から mail をいただいた。Mail に拠ると、15年ほど前、福岡県糟屋郡篠栗町にある四国八十八箇所霊場中の寺院の手水鉢わきの休憩所に、「飴湯」と称される「やかんにいれた『ジンジャーと黒砂糖の飲み物』(ギンギンに冷えていました)」があり、彼もそれに「ハマ」ったそうである。冷やし飴や飴湯は、若者が一時的にはまってしまう飲み物なのだろうか。何れにせよ、「冷やし飴」には「飴湯」という別称があるらしい。
 ※このページを改訂して2年弱の間、「冷やし飴」に関しては、畏友齊藤正彰氏から当時新鋭の検索エンジンであった Google の検索結果の御教示に与ったほかは音沙汰が無かった。ところが、2001年6月下旬から7月初旬の間に突如、冨田氏、Morinaga Setsuko 氏というお二人の方から mails が届くという「冷やし飴ブーム」が起こった。理由はすぐに分かった。なんとこの間、Google に「冷やし飴」という検索語を入れると、本サイトが最初にヒットしていたのである。
 冨田氏に拠ると、冷やし飴に「関東一円では遭遇しない」そうである。やはり、関西の飲料ということだろうか。また「昨今、自動販売機に入っていたりします」。えっ、自動販売機で売ってるの。知らなかった。しかし、札幌ではもちろん、熊本でも見かけたことはない。「懐かしい味なので、帰省の際には飲んでいたりしますが、思い出にあるのは、祖母と公設市場やアーケードの商店街(大阪には結構あります)でプラスチック?の使い捨てのコップにかち割り(氷)と一緒になって入っていたちょっと薄目の味が好い感じです」。
 続いて、Morinaga 氏が御教示くださった Yahoo! Japan の BBS(ホーム>地域情報>日本の地方>九州>熊本県>熊本の懐かしいあのお店・・・!!!)にて熊本市内の冷やし飴に関する書込みを閲覧する。熊本においても、冷やし飴が販売されている(いた)ことを初めて知る。「昭和30年半ば頃には市内の辻つじの街角の屋台で売られていました」という一昔前の熊本では日常に見られた飲料だったようである。例えば、「厩橋際のひやし飴美味しかったですね」のほか、「肥後銀行本店の隣」、「日銀熊本支店横」、「九品寺の薬専裏通り」、「広町通りの磐根橋下」、「いずれのお店も赤いのれんで『冷やしあめ』の看板が共通していましたし、味はどこも一緒だったようで、今考えるとフランチャイズ店的な取り扱いではなかったのでしょうか?」(kouzu40氏)といった書込みがある。現在では「頓写会〔とんしゃえ〕の夜市で売っているそう」(odnnejp氏)だが、管見の限り、熊本市中心部で実際に販売されているのを見たことは無い。
 お二人からいただいた情報を基に websites を改めて通覧してみると、冷やし飴は「関西以西の懐かしい庶民の味」ないし「一昔前の郷愁漂う飲料」と位置づけられるようである〔市場、おばちゃんが冷やし飴のキーワード?〕。例えば、「関西では、市場で、子連れのおばちゃんが子供に向かって『あんたものみ』と言って50円で飲んでいるそうです」という冨田氏からの mail と同旨の記述が見出される〔萩谷昌己氏〕。なお、前述のBBSに「冷やし飴探しておりましたら結構あるのですがコレ!といった決定打がありません。PCに向かっている大多数が若〜〜いモンばっかしだからでしょうか」(odnnejp 氏)という書き込みがあった。このページもそのように思われたことでしょう。
 お二人にはたいへん感謝しています。遅ればせながら、この場でお礼申し上げます。
 ※冷やし飴ブームに沸いた(?)2001年夏が過ぎ、同年10月、私は6年振りにまたも学会出張で京都にいた。そして、「私の強力な推薦によって冷やし飴を飲んだ後輩」もそこにいた。何を隠そう、彼は畏友齊藤氏である。学会終了後、やはりというか懲りもせず、二人は冷やし飴を飲みに行った。しかし、初めて冷やし飴を飲んでから16年の歳月は、その販売形態に大きな変化をもたらしていた。茶店に「冷やし飴」が無いのである。要するに、その店で作って〔現実に homemade であるかは不知〕コップに入った冷やし飴に容易にお目にかからなくなった。その代わり、ビン入りの冷やし飴がそこここに販売されている。左が証拠写真である〔齊藤氏撮影。後の調査により、ハタ鉱泉が製造元と判明〕。修学旅行の時は見かけなかったので〔見かけていたならば、購入していたはずである〕、この間に popular になったのだろう。仕方がなく、ビン入り冷やし飴を購入して飲んでみた。正直なところ、あまりおいしくなかった... 齊藤氏も同じだったと思う。ビン入りでは味気ないのである。そこで、高校生の時に入れ込んでいた理由が分かってきた。たぶん、冷やし飴の味自体が気に入ったのではない。美しい風景や文化財の数々を目の当たりにして、冷やし飴と書かれた旗のはためきに京都の秋の風を感じつつ、茶店のベンチに腰掛けて飲んだ冷たい冷やし飴に感じ入ったのだ。冷やし飴を通じて、北海道の何も知らない若者の感受性が、北海道にいては感じることの少ない日本のモンスーン的原景を捉えた−−昔の日本国有鉄道のキャッチフレーズを借りるならば"Discover Japan"だった−−のではなかろうか。そう考えると、若いつもりだったが少々歳をとったのかもしれないと感傷に浸りつつ、私は売店のような茶店を後にした。
 ※京都出張から1年余、2002年6月に法学部WWWサーバが故障して本サイトは閲覧不能となり、Google や goo に「冷やし飴」と検索語を入れても本サイトがヒットすることはなく、そもそも仕事に追われてサイト管理どころではなく、「冷やし飴」のことはすっかり忘れていた。ところが、2002年11月末、くだんの園木君が魅惑的な飲料をプレゼントしてくれた。ちなみに、飴湯情報を以前にもたらしてくれた園木君は、当時法学部2年次生であったが、大学院法学研究科社会保障法専攻の1年次生となり、私の「現代憲法論演習」を履修しているのだった。齊藤氏と園木君という熱心な協力者のお陰で、このエッセイも足かけ5年の歳月を経た「大作」へと変貌を遂げつつある。
 本題に戻る。プレゼントとは粉末「飴湯」〔商品名「生姜食飲料 即席あめ湯」。20g×5袋入〕である。ネット通販で購入したそうだ。製造元は上野屋本舗〔広島県尾道市高須町583-1〕、原材料は「砂糖・澱粉・麦芽飴・生姜」である。まさしく冷やし飴の hot 飲料である。包装の前面には、「生姜は古くより中国の『本草綱目』や貝原益軒の『大和本草』において広く紹介されている多年草の植物です。…」という、効能書きなのか宣伝なのかよく分からない、ありがたい(?)一文も印刷されている。以前の話では冷たい「飴湯」だったが、この「飴湯」は字義通り、温めて飲むらしい。演習終了後、研究室に戻り早速、お湯を注いで飲んでみる。これはうまい。少なくとも、ビン入り冷やし飴より格段においしい。そこで一言。飲み物としては「冷やし飴」よりも温かい「飴湯」がお勧めである。もっとも、冬に飲んだからそう感じるのかもしれない。
 ※インターネット上における「冷やし飴」情報の充実は、その普及と軌を一にして目を見張るものがある。2004年7月24日(British Summer Time)現在、Google で「冷やし飴」という検索語を入れると799件、「ひやしあめ」という検索語を入れると2,920件ヒットする。
 それらを徒然に閲覧してみると、我々が飲んだビン入り飲料のほかにも、冨田氏からいただいた mail にもあった通り、サンガリアおよびサンヨー〔岡山市に所在するらしい〕から缶入り飲料が販売されていることを確認できる。興味深いことに、これらの飲料は、「ひやしあめ」という商品名が印刷されている面と「あめゆ」と印刷されている面とがある。このことから、同じ材料から作られる冷たい飲料が「冷やし飴」、温かい飲料が「飴湯」であることが了解される。また、マルキ商店〔京都市下京区中堂寺前田町29〕から「極上冷し飴の素」という「究極の冷やし飴」とも解される商品が販売されており〔3本(300ml@1本)で2,900〜3,000円。製造法の紹介もあり〕、いくつかのネット販売を通じても入手できる。加えて、冷やし飴のレシピも紹介されるに至り〔例えば、空飛ぶ料理研究家村上祥子のホームページ〕、自作も可能である〔ただし、筆者は試したことが無い〕。
 味について賛否両論がある状況には変わりない。確かに、冷やし飴の味は万人受けしないだろう。というよりもむしろ、味に大きな較差があると推察される。最近は、冷やし飴は、手作り・風景・茶店といった、庶民的ではあるが現代の日本社会においては意外と贅沢となってしまった雰囲気を楽しむ飲料ではなかろうかとも考えている。
 ※そこで、冷やし飴および飴湯に関する情報をお待ちしています。冷やし飴や飴湯の分布状況、由来、ここの冷やし飴がウマイ!! など、何でも結構です。

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Published: 2 June 1998; revised: 12 August 1999, 24 July 2004 in London
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