私のキキ日記


三景園にて
三景園に

平成20年10月14日
 広島県三原市本郷 三景園にて
       撮影 中村知恵






写真展迫る!
 昨年の写真展が終了してからも機会があればキキを撮影してもらった。上野カメラマンには、3月下旬は山口県岩国市にある宇野千代生家、4月は広島市中心地に位置し、今年は改築50周年を迎えた広島城での花見。6月は広島市内を流れる6本の川の一つ、太田川でのシジミ堀。男性カメラマンの野呂さんには紫陽花ロードにヨット体験と撮影してもらった。上野さんが忙しかった5月はもう一人の女性カメラマン中村さんに福山市のバラ園でバラに飾られた?キキを撮影してもらった。
 7月になり、そごう広島店での第三回盲導犬写真展の開催が決定した。8月からは写真展開催の11月に向けて計画を立て、三人のカメラマンに撮影を考えてもらい、いつもカメラマンと相談しながら行動した。
 広島の川を走る雁木(ガンギ)タクシー、カープ大野練習場、どんぐり村、備北丘陵公園、三原市にある広島空港に三景園と、キキのおかげで様々なところに行く機会を得た。広島の町に肌で触れ、広島人でありながら広島の町を知らないことを実感。足を運び、その町の顔を見、その地に肌で触れることの大切さをも実感した。


備北丘陵公園のコスモスに囲まれて、キキとベジット君



  平成20年10月8日庄原市備北丘陵公園にて
          撮影 中村知恵






どんぐり村でそば打ち体









おそばいただきま










平成20年9月23日
広島県北広島町豊平どんぐり村にて
ボランティア情報センターのそば打ち体験と交流会
             撮影 中村知恵






     
  どんぐり村
 2008年9月23日日、平成20年度広島市ボランティア情報センター利用者連絡会大交流会に参加した。毎年行われるらしいこの交流会は今年は「とよひらどんぐり村でそば打ち体験と交流会」ということで、北東広島町豊平で行われた。広島市ボランティア情報センターに登録している七十数団体のうち、16の団体から、50名の参加があった。
途中で小雨が降り出してカープのナイター巨人戦を気にかけながら?そば打ちに励んだ。
そばうち体験は二度目の挑戦。以前参加させてもらったところは、ほとんどが職人の仕事。仕上げに近づいたところでほんの少し触らせてもらった程度だった。私たち障害者はほんの一部しか実技がなかった。
今回は全部!させていただいた。そば打ちって、こんなに細かな打ち方が必要なんだ!こんなに何度も伸ばして、折り曲げて、重ねて、また伸ばして・・・。職人と呼べる人でなければできない理由がわかった。
 しっかり細かく指導を受けたのにもかかわらず、7、8回といわれたことを回数多くしてしまって、またやり直しも体験した。ちょっと太目の硬いそばの出来上がり。なかなか輿があるよと、励ましの言葉をもらって、それなりにおいしいそばの出来上がり。そば打ち初級のカードをいただき職人への一歩を踏み出した。
 その後どんぐり荘で行われた交流会では、それぞれの団体の活動内容の紹介が行われた。広島市内に多くのボランティア団体があること、また「ボランティア活動」と一言で統一されていても、こんなに多くの活動内容があるのだと実感。
 次に行われたビンゴゲームを抜け出して、キキは公園でオシッコタイム。建物から外に出るなり草原に向かって大はしゃぎ。草や土の香が「早くおいでよ」とキキを呼んでいるようだ。ハーネスをはずしてやると、断然若返り、超スピードで草の上を駆け回る。いつものようにひっくりかえり、草で背中をゴシゴシ。手足をばたばたと動かし、新鮮な山の空気と空からのエネルギー
をかき集めている。土と草と山と風と光と、自然が与えてくれる命のかけらが、キキにはわかるらしい。キキ、どんぐり村へ来てよかったね。そばも自然も、おいしく楽しい交流会をありがとうございました!



カープの練習風

  「えらいな!キキは」
 2008年9月8日、広島東洋カープにご縁があり、、広島県廿日市市にあるカープの大野練習場で、二軍の皆さんの練習に参加させてもらって、写真撮影まで許可してもらった。
 前日は広島阪神戦のデイゲームをしっかり観戦し、カープの勝利にAクラスは間違いなしと、心を浮かせながらタクシーに乗り込んだ。いっしょに観戦したカメラマン上野さん、タクシーの運転手さんと三人でカープの話に花を咲かせた。
「明日は大野練習場でカープの皆さんに会えるんですよ。かつての名ピッチャー山根さんがコーチで待っていてくださるはずだったけど、都合が悪くなられて、その代わりに宮脇さんが待っていてくれるんだそうです」
「ほう、宮脇さんが。彼も名ピッチャーだったんですよ。うまいだけじゃあない、本当に人間としてできた男ですよ」
「そうですか。でも、運転手さんは選手の人柄まで、よくご存知ですね」
「ええ、実は昔新聞記者だったんです。彼と接する機会もいろいろあって、いや、いい男ですよ」
「お会いできるのが楽しみです」

 カープの練習は9時から。キキは8時30分に到着。宮脇さんともう一人の責任者網谷さんが笑顔で迎えてくれた。キキは早速お二人に撫でてもらって歓迎を受け、大喜び。お二人への挨拶もそこそこに、練習場での撮影開始。9月の日差しはまだまだ真夏のぎらぎらをしっかり残している。撮影を午前中にできるだけさせていただかないと、暑さに弱いラブラドールの血を引くキキには負担がかかりすぎる。
 まずは練習場を歩かせてもらった。すぐ隣には瀬戸内海の青い海が広がる。海の向こうには日本三景のひとつ宮島が見える。キキは潮の香と広い練習場に心を浮き立たせ、早足で歩く。ハーネスをはずしてやると、土の上を転げまわって、砂まみれになり、沸き立つ思いを全身で表した。
 バスが到着し、選手が次々と降りてきたらしい。いつのまにかキキのそばに選手の一人が。山田ばあちゃんお手製の真赤なカープ帽子をコートに縫い付けているキキに、笑いながら自分のカープ帽子をかぶせてくれた。本物のカープ帽子をかぶったキキは、身動き一つしない。もう一人の選手が微笑みながらキキを触ろうとしてくれる。「大きな手なんですよ。握手してみてください」
 微笑みながら握手してくれる。キキを愛してくれる心が伝わってくる。
選手一人一人が愛情いっぱいにキキをなでてくれた。

「仕事中でもオシッコをしたがるでしょう。排便や排尿はどうするんですか?」
 一人の選手らしき男性が質問してくれた。
「外出の前、外出から帰ったときにさせます。半日なら我慢するんです。長時間出かけるときは、このトイレベルトというこのベルトを使って、ビニール袋の中にオシッコやウンチをさせるんです。排便や排尿で、町を汚してはいけないので。ワンツー、ワンツーという命令をします。ワンがオシッコ、ツーがウンチなんです」
「えらいな、盲導犬って!」
 驚きと感激の声。
「褒めれば褒めるほど頑張ってくれます。だから毎日の仕事も小さなことでもとにかく褒めてやります。『褒めて育てろ』が大切なんです」
 と会話した人は二軍の選手のどなたかだと思っていた。けれど、私のあこがれの元山内選手(現カープピッチングコーチ)だった!!
 「どうして山内さんだって教えてくれなかったの!写真より握手してもらったのに!!」
 同伴していたキキの会のスタッフに訴えたけれど、山内さんだったと教えてもらったときは、出来上がった写真を手にしてから。すでに遅し。
 そしてこのときの会話、『褒めて育てろ』の言葉を耳にした山崎二軍監督の言葉は、
「選手はそうはいかん。褒めればつけあがるし、叱りゃあごねるし・・・」
渋い顔での言葉は本気か冗談か・・・。

 カープの皆さんが練習場を歩き始めた。
「キキ、皆さんが歩き始めたよ。キキもついていかなきゃ。キキ、フォローフォロー(皆さんに、ついていきなさい)」
 あわてて歩き始めた。キキは、どの人についていけばいいのと、たくさんいる選手に戸惑った。
「ぼくと歩きましょう」と、一人の選手が声をかけてくれた。
「ありがとうございます。あの。、お名前を教えていただけますか?」
「はい、安部といいます」
 そうです。カープ高校生ドラフト一位の安部選手でした!
「皆は走り始めましたよ」
「えっ、それじゃあ走らなきゃ。キキ大急ぎよ、走ろう」
「いいですよ。ゆっくり歩きましょう」
 見えない私を思いやる安部選手の一言は、やさしさで満ちていた。選手の一人一人が惜しみない思いやりの心をプレゼントしてくれる。
 その後グランドでピッチング練習をする選手の後ろで、バッティング練習をする選手の後ろでと、ネットを前に練習を見せてもらった。何も見えない目でも、そのボールをキャッチする音、バットでボールを打ち返す音の迫力にと、「プロ」の迫力をしっかり体験させていただいた。
 キキ、帽子をかぶせてもらったり、握手をしてもらったり、しっかり撫でてもらって、選手の皆さんは瀬戸内海のように穏やかでやさしい人ばかり。でもボールを前にするとすごいパワーで動き出すね。皆さんのやさしさとパワーいっぱいの応援の心、こんなにたくさんもらって帰れるなんて。・・・。広島東洋カープがなぜファンの心を熱くするのか、わかったような気がするね。


ガンギタクシーに乗って、夕日のなか


 平成20年8月25日 雁木タクシーにて
           撮影 中村知恵







雁木(ガンギ)タクシー
2008年8月25日、原爆どーー無近くを乗り場とする雁木(ガンギ)タクシーに乗船氏川からの広島を見た。この雁木とは、船着場における、階段状の構造物。船に物資を積み込んだり、降ろしたりするときに利用した階段のこと。
 川の町広島は川が交通ルートであったのだから、船は大切な交通機関。広島の川は干満の差が4メート前後ある。どんな潮位でも対応できるように、船着場を階段状にしたのが雁木。今でも数箇所残る雁木を船着場として、川の水上を走るタクシーが雁木タクシー。
 寺町と中央講演の間を風を切りながら京橋へと向かう。ポプラ並木を駆け抜け、工兵隊の手により架けられた工兵橋をくぐり抜け、風を切り波を裂くように小船が進む。川の町広島はこの小船が人の足であったと遠い昔を語ってくれた。
「キキ、これも広島の顔。これがキキの町広島よ」
 キキも水も風も恐れず、船の旅を楽しんでくれた。


「自然の摂理」
 酷暑ノ日々が続く。サウナ風呂より暑いおじいちゃんの家から帰宅したキキは、ダウン寸前。あわててクーラーをつけてやると、死にそう!と息を切らしていたキキも、冷気の降りてくる床でダウン姿勢(伏せ状態)。死んだように眠っているキキの身体を撫でてやる。ふんわりツるつるの気持ちのいい手触り。ピカピカの身体。
「キキ、だれがこんなにきれいにしてくれたん?ねえキキ、だれがこんなに美人にしてくれたん?」
 しつこく問いかける。キキは、くるりと横向きの身体を上に向け片足で、私をチョンとけった。(決まってるじゃない、この人よ)
 キキの心の声が聞こえてきた。またぐっすり眠りに入る。
ダウン姿勢のキキをただ撫で続ける。キキはビジンだね。キキは賢いね、キキのようなお利巧さんはいないよ・・・。
 褒めても褒めても言葉が足りないような気がする。たまらない愛おしさに、心からあふれるものを感じる。
 キキが我が家に来て一年過ぎた頃、キキに愛情を感じた。二年目はより深い愛情を感じた。次の年もまた次の年も、愛情が深まっていくのを感じた。愛の深まりは無限なのだと、キキは私に教えてくれた。
 キキをいとおしさといっしょに撫でていると、西田幾太郎氏の「善の研究」という一冊を思い出した。愛とは自然であり、宇宙であり、命であり、善である。この説の意味が見えてきたような気がした。学生時代読んだときには、素晴らしい説だと思った。けれど一つの理論、考え方に過ぎないと思っていた。けれど今真実のようにこの理論が湧き上がってきた。愛とは無限でそれは宇宙。宇宙は自然であり、無限なのだ。それが自然の摂理。キキとの心の会話が自然の摂理を伝えてくれる。またキキが真実を教えてくれた。


2008年8月1日
 7月14日から開催された中国電力株式会社中電病院ロビーでの盲導犬写真展が終了した。7月13日は日曜日にもかかわらず、出勤していただいた中電病院職員の皆さんとキキの会スタッフで、午前10時より準備を開始した。本来写真展用の壁面でないところに写真を展示する、写真の高さ、安定した設置の方法をと、四苦八苦。いろいろ考案してくれて31枚の写真と解説キャプションが接地された。順番としては定型のものであったけれど、一枚のみ身体障害者補助犬法の改正と補助犬への理解を訴える写真をトップにという、中電側の要望にお任せした。
 中電病院のような大規模のしかも病院での写真展は初めて。いよいよスタートだ。職員の皆さんをはじめ病院の利用者に何かを感じていただけるのだろうか。こんな私の思いを消し去ってくれるように、準備中たくさんの人に声をかけていただいた。
「盲導犬ですか?がんばってくださいね」
「写真展があるってポスターで知って、楽しみにしてたのよ」
「いい子ね。元気をありがとう」
「盲導犬は見てるだけで涙が出てくるわ・・・。写真もしっかり見せてもらうね」
 こんな温かい言葉をもらえただけで元気が出てきた。「キキ、今日だけでも中電病院に来させてもらってよかったね」
 同月18日には院内医療関係者、介護関係者対象の講演の機会もいただいた。準備された75席が満席となり、立ち見してくださる皆さんも十数名いたそうだ。勤務後または勤務の途中聴講
してくださった。前の席へ前の席へと前方から席が埋まる。その集中した聴講態度に緊張感をいただいた。一言のジョークにもドット笑いが起こり、一言も逃さないようにという聴講姿勢にエネルギーが湧き上がる。














 
質問を受け、最後にハーネスをはずして、勤務外の盲導犬キキにふれていただく時間となった。かわいいと大人気。さらに男性を好むキキの態度が大うけ。「彼のところに生かせてみて、こっちの彼への反応は?やっぱりね」と、若い男性を好むキキをしっかりさらけ出し?悟られてしまった!?







キキは女性も好みよ





 写真展の会場にはほとんど行かず、中電病院側にすべてをお任せした。
 最終日8月1日は片付け開始の17時30分前にには、キキの会のスタッフはもちろん、中電病院の職員の皆さんも10名から待機してくださった。お願いした注意点をしっかりチェックしながら、てきぱきと片づけがすすむ。キキの会の会員証であるキキバッジをプレゼントし、皆さんのボランティアの心に感謝して終わった。
 病院の利用者が写真をどのように受け止めてくださったのだろう。何を感じてもらえたのだろう。病院側は大きな反響があったと言って下さった。3週間という長期間写真展を開催させてくださったことにただ感謝。




6月15日広島市東区牛田 太田川にて
シジミ堀り
たくさん掘れた〜?
  撮影 上野美都江





2008年6月15日(日)
広島市心身障害者福祉センターで行われた恒例の6月の行事、シジミ堀に参加した。天気予報は雨。どんより曇った空。こんな曇り空は暑さに弱いキキにとっては最高の日和なのだけど、中止になりませんようにと祈りながら家を出る。
 13時15分2階会議室に集合。注意を受け、正面玄関の福祉バスに乗り込む。広島市東区牛田新町でバスを降りると10人乗りの船に乗り込み、中州へ向かう。
「これ、キキ、だめ、これ」船の中でキキばあちゃん山田さんがしきりにキキをしかり、その動きを止めようとしている。
「どうしたんですか?」
 キキの身体に触れていても、それほど動きを感じない私には、キキばあちゃんのあわてる様子が理解できない。
「キキが川を覗き込んで、川に飛び込もうとするんよ」
 キキ、もう「野生児キキ」に戻っちゃったの!
 数分で中洲に到着。船から一足降ろすと川の水がひんやり。その冷たさに全身に力が入る。
 キキハというと、もう浮かれ気分。中州を歩く写真を撮影してもらおうとするのに「はーやく、はーやく、ハーネスはずして!とウキウキ浮かれ気分で跳ねながら歩く。
「はいはい、私はしじみほりに集中するんだから、キキも遊んでおいで」とコートはもちろん、ハーネスもリードも取り外す。
「なんて名前の犬?」
「はい、キキッテいい増す。遊んでやってください」
 ボランティアで来てくださった漁師さんが声をかけてくれた。
 次の瞬間、キキは消えた!中州を矢のように飛び回っている。声をかけてくれた漁師さんはラッキー君のお父さん。ラッキー君は、船で漁に出ているお父さんと同じ船に乗り込み、お父さんの仕事中に川に飛び込み川底に投げ捨てられたごみを回収することで有名になった犬。キキと見かけだけはそっくりなブラックのラブラドールレトリバーだ。ラッキー君のおとうさんは、おおはしゃぎのキキのお尻に水をかけ回しながら遊んでくれた。
 私と山田のキキばあちゃんは「シジミ、シジミ」とつぶやきながら、何とか大物を?と手さぐりで砂を掘る。川の水が足首あたりまできているので、中腰で堀続ける。足が疲れてしまって、お知りを落とすと、「キャ!冷たい!!」お知りに川面の冷たい水が!頭の中はシジミでいっぱいでお知りをぬらさないように注意してという考えは消えていた。シジミの個数と大きさだけを気にかけて砂を堀続ける。
 こんな私の目の前をずぶ濡れのキキが超スピードで走り抜ける。まるで黒豹だ。それもずぶ濡れの毛先で私の顔を撫でて通り過ぎる。(母さん、シジミのことばっかり考えて、キキのことを忘れちゃだめよ)と言葉を残すように通り過ぎる。
「キャー!やめてキキ!キキはいくらでも遊べばいいでしょ。一人で遊びなさい。母さんはシジミ堀で忙しいの」
 中腰続きでも、雨が降り始めても、シジミ堀一筋で頑張った。キキはこんな私たちをダウン姿勢で見守り始めたらしい。
「キキ疲れたみたいね」「相当走り回ったんでしょうね」
 キキばあちゃんと話しながらも、手先はシジミを探している。
 「そろそろ終わりにしましょう」と福祉センターの職員が呼びに来た。雨の中がんばり続ける私たちにあきれたらしい。
「さあキキ、そろそろ帰ろうね」とタオルで身体を拭いてやり、リードを取り付けた。
 小船に向かおうとすると、キキは最後のあがきと砂の上を転がり始めた。遊び疲れたんじゃあなかったの!?
自然の中では疲れを知らないキキだった。


  キキ、巡りあいのチケットをありがとう。
     (再開とめぐり合い)
  盲導犬の仲間たちと
   




 5月30日    千葉県 
ペンション ウッドフィールドにて
 
  




2008年5月30日6月1日の二日間、全日本盲導犬使用者の会第14回総会「神奈川大会」が開催された。富士を望み、眼下に相模湾が広がる緑豊かな湘南の岡に立つ湘南国際村センターで行われる。豊かな自然の中でのキキとの散歩と友人との再会を楽しみに参加した。
 が、待っていたのは厳しい現実。総会と研修会のみ。「盲導犬を取り巻く現状と今後の展望」と題する研修から始まり講演のみ。

東京の友達チャブも参加するかもと連絡をとると「神奈川大会に参加するのなら千葉に行こう!盲導犬ユーザーの友達も集まるんだよ」と誘いを受けて、キキと千葉へと飛び出した。
 5月30日神奈川大会前日、6時5分広島発の始発で新横浜へ。ホームでは今回一緒に宿泊する、大の犬好きのおばあちゃんKさんが、娘さんと一緒に笑顔で迎えてくれた。
 数分後Nさんとコニーちゃん、kNさん姉妹とトーラスちゃんと到着し、ワゴン車でお迎えのチャブを待った。
 チャブはパピイウォーカー(里親ぼらんてぁ)、リタイアー犬、(引退犬)のボランティア、キャリアチェンジ犬(盲導犬に不適格と判断された犬)ぼらんてぁと、何でもこなす。彼女の付き添いはリタイアー犬マロタン。計6名とそして4頭の犬たちの一泊旅行がスタートした。
 宿泊したのは千葉県いすみ市にある「リング ウッドフィールド」。これは盲導犬はもちろんペットの犬も宿泊可能なペンション。庭は「フィールド」と呼ぶにふさわしい広い芝生が広がり、犬たちを自由に走らせることができる。ブラッシングやシャンプーもさせてもらえる。
 その日はあいにくの雨。降ったりやんだり。雨の合間を縫ってしっかり走らせた。キキも他のワンちゃん達も、芝生に含まれた雨で、ずぶ濡れになりながら、走ったり転げまわったり大はしゃぎ。
 大阪から妹さんと一緒に参加したのはKNさんとトーラスちゃん。KNさんは盲導犬も三頭目という大ベテラン。トーラスちゃんと世界中を旅されている。ビザの舎棟に初めて登った犬として、新聞にも掲載された有名犬。
 何カ国くらい旅されたんですか?という質問に「さあ・・・わからない」
 その上『トーラス」という縁起のいい名前から、その時期には合格祈願に「触らせてください」とたくさんの人々の訪問を受けるとか。そしてトーラスちゃんに触れた受験生は、必ず合格するとか!?
 もう一組は名古屋からのNさんとコニーちゃん。このコンビもKさんたちに次いで世界中を旅されている。
 何よりも驚き元気をもらったのは、3頭の年齢を聞いたとき。
キキは9歳半。周囲で「キキもそろそろ引退が近づいたわね」と無責任なつぶやきが聞こえ始めていた。「まだまだです」と否定しながら、私も内心は気になり始めていた。けれど、元気いっぱいで活躍中の現役盲導犬トーラスちゃんとコニーちゃんに会えて元気百倍!トーラスちゃんは13歳半こニーちゃんは11歳半。そしてマロタンは13歳。引退してもこれだけ元気に走り回れたら、現役復帰も夢じゃあない!と思わせてくれた。
 9歳半のキキなんて、まだまだ新米じゃない!なんて浮かれてしまった。
 そして先輩ユーザーの話は、盲導犬が視力を失った人間の行動範囲をいかに広げてくれているか実感させてくれた。
 その気になればききと一緒に世界中を旅することができるね。

 そして同じ部屋でお世話になったKおばあちゃんは83歳。やはり犬が大好きで、最近かわいがっていた愛犬クッキーちゃんを失って、寂しい限り。話をする犬のぬいぐるみをクッキーと名づけて、いつも一緒。「ときどきこの子は電池が切れかけて、おかしな話をするの・・・」
「ふだんは質素な生活をしてるの。それに年相応にあちらこちらが痛くなってね。でも痛いっていうと旅行をさせてくれないから、言わないの」なんて言いながら、外国旅行が大好きで、観光マップを片手に世界を渡り歩いているおばあちゃん。
 なれないペンションで、しっかり私の手引きをしてくれて、「キキちゃんがかわいいから、半分もらって帰ろうかな」と写真まで送ってくれた。

 すっきりストレスを解消し、その翌日から盲導犬使用者の会の総会と研修会への参加!の予定だった。ペンションで元気に目覚めたはずのキキは、左の耳を異常にかきむしる。やってくれました。アトピーキキの外耳炎発生。最近調子がいいと安心していた私の心のゆるみが失敗の元。薬を持って来るべきだった。
 ペンションのオーナーに頼んで、愛犬ラブラドールの動物病院を紹介してもらう。チャブのワゴン車で動物病院へ。NさんもKNさんも総会には大遅刻。それでもキキの耳が大切よと、回り道の旅を楽しんでくれた。

 大会二日目は全国盲導犬施設連合会会長の盲導犬を取り巻く現状と今後の展望」をテーマの講演、盲導犬訓練士学校学生からの論文発表、「働く犬を支援する会」の活動と今後の展望についての講演と、元気なキキと充実した半日を送った。
 やはり全犬(全日本盲導犬使用者の会)の大会で知り合った新潟の友達KMさんとも再会し、次の大会での再開を約束した。次の大会それは全日本盲導犬使用者の会台湾大会。キキの海外旅行初体験なるか!? 















  撮影 チャブ





大会の最終日は13時30分開散。タクシーで逗子駅へ行き、もう一つの小さな旅へと向かった。JR大船駅から東海道線へと乗り継いで、辻堂駅へ。大切な人に会いに行く。
 それはキキのホームページとキキの本で大のキキファンになってくれた92歳のおばあちゃん、Fさんをたずねての旅。Fさんは18年間広島で教員として過ごし、故郷神奈川へ帰った。
わずか2時間足らずの会話。
「キキちゃんと今井さんに会うためにまた広島に行くわ」と来年の約束とハンカチをもらって、キキの町広島へ。22時30分帰宅。
再会と巡り合いがあるから旅はいい!!キキ、いつも私に素敵な巡りあいのチケットをプレゼントしてくれてありがとう。


   「ありがとう」
2008年4月23日
JRとアストラムラインを乗り継いで、広島修道大学へ向かう。明日からの「盲導犬キキ写真展」の準備のためだ。終点広域公園前を下車すると、なだらかで長い坂道が続く。
「ああ。並木が素晴しいね。サイドに植えられたパンジーもきれいだ・・・」
 重いパネル写真を片手に歩く、キキの会のスタッフ松本さんがため息まじりにつぶやいた。
「ああ、それで。キキがどうしてこんなに弾み足で嬉しそうに歩いているかわかった!」
 キキは山の新鮮な香りと木々や花の美しさに浮かれていたのだ。
大学への坂道の脇にはツツジ、サツキ、シャクヤク、アメリカンみずき、パンジーと植えられ、輝く新緑のもと、華やかに咲きほこっていた。
「キキ、よかったね。そんなに嬉しいの」とキキが伝えてくれる喜びが、私にも幸せを分けてくれる。
 キキの喜びを喜んでいた私が、いつの日か「よかったね」の言葉を「ありがとう」に変えていた。
「キキ、ありがとう。私に幸せをプレゼントしてくれてありがとう」と。
 毎日の生活の中でも、「キキはいい子だね、キキはお利巧さんだね」となでていたけれど、いつの日か「、キキ、ありがとう、ありがとう」そうつぶやきながらなでている。
 キキは私の目。そして私に幸せをくれるパートナー。


   「忍耐とチャレンジ!」
2008年5月2日、広島修道大学での盲導犬キキ写真展が無事に終了した。4月24日から開催となった写真展は、29日の祭日を除き、8日間行われた。学生、職員、教授を含む教職員、一般の利用者等、様々な人々の訪問があった。写真を通して、そして盲導犬キキとのふれあいを通して、ほんの少しでも盲導犬への関心を深めてもらえたのではないかと思う。
「キキ、お疲れ様」身体を撫でてやりながら語りかける。本当にキキにとっては「忍耐」の8日間であったろう。盲導犬にとって「ウエイト(待機)」は、りっぱな仕事のうちの一つだ。けれど写真展の会場では他の仕事はほとんどなく、この「ウエイト(待期)」が仕事であった。
 キキはこの忍耐の仕事を眠ることでこなした。「キキちゃん、賢いわね」「わーっ、かわいい!」と声をかけられようが、撫で回されようが、とにかく眠っていた。私の「アップ」の命令には敏感に従い、すぐに立ち上がり数秒シッポを振って、愛想を振りまくのだけれど、またすぐにダウンして、眠ってしまう。本来建物の中で誘導しない場合は、ウエイト(待期)が盲導犬の仕事なのだから、キキは本当に自分の仕事を理解している盲導犬なのだ。

 昼食のためギャラリーを出ると、キキは生き生きし始める。そして(さあ、キキにオシッコさせてよね)というように私を誘導し始める。学内のレストランへ向かっているはずなのに、別の方向へ向かおうとする。
「キキちゃんがおしっこしたがっていますよ」
 いつもキキの見方、キキばあちゃんパート2、秋山さんの言葉だ。
「いいんです。朝させてから、そんなに時間はたって いないんですから」
 甘い言葉を振り払うようにこう答える。
「キキちゃんはしたがっていますよ。ほらほら」
 キキは味方してくれる秋山ばあちゃんの言葉に、さらに私を引っ張り芝生へと誘導する。2対1は非常に不利だ。
「キキ、本当にオシッコしたいの・・・?」
 予想どうりキキは芝生に到着し、ハーネスをはずすなり、ひっくり返り転げまわって芝生の感触を楽しむ。
「ほらほら、やった」と秋山ばあちゃんもキキと一緒に楽しむ。
「ああキキ、草だらけ・・・。盲導犬じゃあなくて「犬」になってる。まあ、これがあるから「忍耐」の仕事が勤まるのよね」
 

 けれど、この芝生ゴロゴロではとめてくれない出来事がおこった。
やってくれました!キキ。それは写真展の期間中、講演を終え、ギャラリーへ戻る途中のことだった。
「キキはかなり疲れていたみたい。大丈夫・・・」と周囲の皆さんに心配を与えたキキ。
「少し休憩しましょう。キキと芝生で遊んでやって」とボランティアの学生にキキを任せた。キキは大喜びで学生と芝生で遊んでいた。間もなく「ああーっ池に飛び込む!やめてキキ!!」と学生の悲鳴??
 キキは芝生の坂道を駆け下り、ドボーンッとやってくれた。「今井さん叫んで、キキを呼び戻して!」の声にあわてて「キキ、カム帰っておいで)!!!!」
 私の命令に、すぐに帰ってきたキキだけど、もうびしょぬれ。
そりゃあ、キキがチャレンジ精神にあふれていることは知っているよ、そりゃあハーネスもはずしているよ、そりゃあ今日はものすごく暑い夏日になっちゃったよ、でもでも昨日シャンプーしたばかりなのに・・・。
 しかもそこは大学の入水禁止の古池だった。
「キキのおかげで池の深さがわかったよ、ありがとう」とは学生の声。
 キキの「ザ チャレンジ」の精神に助けられながら、ときどきその気まぐれに仰天させられている毎日だ。



  6月15日 太田川にて
  キキ、シジミ堀りの邪魔しないでね。
  しっかり遊んでいいからね。





2008年1月
 盲導犬の役割とは「目の見えない人間の目となり、目的地まで安全に誘導すること」ユーザーに従順に服従することそれが盲導犬としての基本であり、最も大切なこと。けれど危険と判断すればユーザーの命を守るために、その機転のきいた判断力で命令には従うべきではないと判断する。この不服従も、盲導犬としての大切な役割。
 キキも、もちろん私の目となり、私に従順に服従し、ときにはその状況を自分で判断する。不服従の判断もくだす。キキは従順で献身的な名盲導犬!
 その日は予報では午後から雨ということだった。午前中に家を出て、小学校での講演を終え、
JRで近くの駅に到着した。手引きをお願いしたJRの職員に尋ねた。
「雨はどうですか?うるさい雨なら近くでもタクシーを利用するしかないのですが、小雨なら歩いて帰ろうと思います。」
「そうですね、うるさいといえばうるさいし、小雨といえばそうだし・・・。どうしますか?」
「この程度の雨なら、がんばって歩きます。ありがとうございました。キキ、さあストレイト ゴウ!」
 キキは私の命令を機敏に聞き取り、雨の中を足早に歩き始めた。
そんなキキが、突然ピタリと立ちどまった。
「あれ・・・、キキ・・・、こんなに早く横断歩道・・・?」
そうつぶやいた瞬間、男性の声が・・・・
「はい、どちらまで?」
名盲導犬キキは、なんと!タクシー乗り場まで直行したのでした!
(母さん、こんな雨の中歩くなんてバカなことしないの)
 キキの声が聞こえてきた。
「いえ、結構です」あわてて、タクシー乗り場をあとにした。「ノー!キキ!歩きなさい」
(ちぇっ、だめか)
 キキの機転のきく判断力にはときどき驚かされる。














撮影 野呂道雄






キキは忠犬ハチ公!?

キキはハーネスをつけると忠実な盲導犬に変身する。盲導犬としての仕事に誇りを持ち、生きがいを感じている。盲導犬として生まれた犬なのだと実感させられる出来事にしばしば出会う。
 けれどハーネスをはずすと大変身!「キキ、カム!(おいで)」と命令してもダウン姿勢(伏せ状態)のまま。用事があるんなら自分で来たら?と、そ知らぬ顔。
「キキ、買い物に行こう!」と呼びかけても、ベッドの中で横になったまま。「キキちゃん、行こうよ」とお願いすると(キキのお腹をなでなでしてくれたら、お願いを聞いてあげる)と、ゴロリと仰向けになる。
けれど、大好きなおじいちゃんの前では忠犬ハチ公に大変身。おじいちゃんの家に遊びに行ったキキを迎えに行っても知らん顔。けれど「キキ、帰りなさい」のおじいちゃんの一声で、ビビン!と命令に忠実に従い玄関先に。
 おじいちゃんが旅行で留守のときも、おじいちゃんに会わなきゃ一日が終わらないと、玄関のドアの前で動かない。
おじいちゃんは留守なのよと言い聞かせても、(おじいちゃんはいる!)の一点張り。ドアを開けろと訴えつづける。
「ほら、おじいちゃんもおばあちゃんも旅行に行って、いないのよ」
 納得させようと、ドアを開いて薄暗い部屋を見せる。
 納得どころか部屋に飛び込み、、(おじいちゃんが帰って来るまで、キキは待つんだもんね。きっと帰ってくるよ)
 玄関マットの上でダウン姿勢。引いても押してもびくともしない。
一時間経過して迎えに行っても、二時間経過して迎えに行っても、(おじいちゃんは、帰ってくるものね!)頑固者、忠犬ハチ公キキに大変身!
 夜中に迎えに行き(おじいちゃんは、今日は帰ってこないのよ。明日には帰るから、明日また来ようね)と諭す。ついにあきらめたキキは、肩も耳もションボリたらして、トボトボ帰る。  (おじいちゃん、キキをおいてどこへ消えちゃったの!!)

「キキ、ただいま」とおじいちゃんが帰ってくると、飛び上がり、転げまわって大喜び。孫たちはおじいちゃんの前に横一列に並び、お土産の贈呈式が始まる。「キキは、キキもりっぱな孫娘だもんね」と、一番下座にかまえる。  「はい、これは理絵ちゃん、これは里香ちゃん、そしてこれはタックン、これがミキちゃん」
 「ありがとう!」と、孫たちはみんな満足そうにニコニコ。キキもシッポをふってごきげん。
「・・・キキには・・・。キキにええもんは売っとらんかったんじゃ。ごめんね、ごめんね」
 申し訳なさでいっぱいのおじいちゃん。なのに、キキは嬉しさでただいっぱい。ちぎれるほどシッポをふり回し、おじいちゃんにじゃれつき離れない。
(いいの、キキは何にもいらない。おじいちゃんさえいてくれたら、何にもいらない!あっ、まちがえちゃった。おじいちゃんとドッグフードがあれば、何にもいらない!)
 ハーネスをはずしていれば、いつも、『おじいちゃん命!』の孫娘です。

「キキはみんな聞いてるんだからね!」

 昨年はそごう広島店とソレイユで写真展をすることができた。その準備で春から忙しく、胃の痛い日々を過ごしていた。こんな私の心を救ってくれたのは、やはりキキだった。
 7月のある日、デパートに写真展の会場を提供していただけるようお願いに行った。8月まで待ってほしいという回答だった。けれど雲行きは怪しい。心の中もどんよりうす暗い雲が張り詰めていく。
「いい返事はもらえませんでしたね」
「検討してくださるということだけど、このままじゃ、うまくいきそうにないですね」
 店内のソファーに座り、スタッフの秋山さんと重々しく言葉を交わした。キキはいつものように床にダウン姿勢。
「みんなキキが悪いんだからね!」
 何も理由はないけれど突然キキに向かって叫んだ。すると秋山さんが、ケラケラと笑い転げた。
「アハハッ、キキちゃんが驚いて、エッて顔をもたげましたよ」
「えっキキがですか?」
「ええ、えっキキが悪いの!って顔をしてますよ」
「そうよ!みんなキキが悪いんだからね!!」
 もう一度真剣な顔を作って、キキに向かって言った。
「あははっ、またまた驚いて顔をもたげて。どうすればいいのって顔してますよ」
 秋山さんともう一人のスタッフ藤田さんが笑い転げた。真剣な顔を作り、キキをからかっていた私も、その純真で素直な反応に吹き出して笑ってしまった。
「うそよ、ごめんね。キキは何も悪くない。いつも、がんばってくれているものね」
 身体をやさしくなでながら詫びた。その身体の温かさが、私の心に伝わってくる。キキが胃の痛みを軽くしてくれた。

 その後、喫茶店でお茶を飲みながら、藤田さんと会話をかわしていた。キキはテーブルの下で、ダウン姿勢。携帯電話をしていた秋山さんが言った。
「今井さん、主人が迎えに来てくれるそうです。キキちゃんと今井さんもお家まで送りますよ」
「いえ、いいですよ。秋山さんの帰り道なら送っていただくんですが、方向がまったく違います。私はバスか市内電車で帰ります」
「今井さんはバスか電車で帰るつもりでも、キキちゃんは私と帰るつもりですよ」
「えっ?」
 テーブルの下でダウン姿勢のはずのキキが、秋山さんの足元に座り、膝にあごを乗せている。
「キキちゃんは、私が主人とキキちゃんを送ろうって電話で話していたら、膝にやってきたんですよ。会話がみんなわかるんですね」
(キキは秋山ばあちゃんとお迎えの車で帰るんだもんね。お母さん一人で帰ったら!)
 ばあちゃんに甘えるのが上手なキキです。

また異なる日の出来事だった。胃をキリキリさせる心配なことがあって、我が家で友だちと話していた。心にとめておこうと思うのに、つい言葉になって出てしまう。
「もうこの話はやめよう!キキが心配そうに見てるわよ」
 友だちの言葉にはっとした。いつもは自分の話題なら、ニッコリ満足そうに横になっているし、まったく別の話題なら、グースカ熟睡のキキだけど、そのときのキキは違っていた。心配そうに顔をもたげ私の顔をのぞき込んでいたらしい。
ごめんね、キキ。母さん、がんばらなきゃね。


   「約束破ってごめんなさい・・・」
 ひな祭を迎えても花冷えというより寒波の日々がつづいていた。この寒さのおかげで、キキは元気いっぱい。3月ももう少し講演活動をがんばらなくっちゃね。 
いつも講演の終わりには、生徒の皆さんとの約束。「仕事中の盲導犬はやさしく無視してね。でも私もキキも今日から皆さんとお友達です。出会ったら私に声をかけてね。大急ぎじゃあなくて、そして立ち話が人の邪魔にならなければ、ハーネスをはずしてキキにあいさつしてもらえますよ」

 3月1日土曜日の夕方。ハーネスの会の毎月の理事会に行こうと、広島駅前の電停に近づくと「あっ、キキじゃ!」と三年生の男の子の声。
「こんにちは」とあいさつはしたものの、キキは電停に直行してしまった。
立ち止まって、キキのハーネスをはずして触ってもらおうかと思いながら、たまたまとまっていた宮島線に乗ってしまった。
 座席に腰かけてドアの方を向くと、「バイバイ」とその男の子の声。電車乗り場までキキを追いかけて来てくれたのだ。「バイバイ。ごめんなさいね」と返事だけすると、電車は動き出してしまった。
 約束した三年生のぼくを残して走り出した電車に、後ろ髪引かれる思いでいっぱいになる。
「ぼくとの約束破ってしまって、ごめんなさい・・・」



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