今はおじさんで疲れきっている私にとっては、まだ少しでも元気がある若い頃 の話です。 その年の10月頃だったでしょうか、制作が一段落ついた夕方にインテリア関 係の会社から電話がかかって来ました。先方が最初に発した言葉は天井画を描 いてくれないかとの一言でした。 天井画、、、?その言葉の意味が理解出来た時に、一瞬私の胸は踊りました。 そりゃあそうです。写実絵画を目指す絵描きにとって天井画というのは過去の 偉大なほとんどと言って良いほどの画家達がやって来た事をレベルと時代は違 えども、やれる!、、と言う一度は写実を目指す者として望む事ではないでし ょうか。しかしです、その思いは先方の話を聞いて行く内にみるみるしぼむ・・ ・いや、絶望?へと変わって行きました。先方が言う内容はこんなものでした。 絵の大きさは7m×5m位四隅にはカーブが付いていてる(長方形の底の浅い鍋 を逆さまにしたような物です)そして下地は石膏。、、石膏、?そんな下地に 描いた事も無いし下地の中でもっとも絵具が定着しない素材ぐらい誰が考えて も分かりそうなはずなのに絵具の選択を間違えてはがれたらどうするの、おい こら!と、ここまではまだまだ序の口。 制作のテーマは基本的にドイツに実際に有るお城の中の一室をそのまま再現す ると言う模写のような内容です。模写、、できる限り忠実に再現する、、、と 言う事なのに参考にする天井画の写真原稿が、視察に行った時あわてて素人が 撮影したボヤケたそれも部分、部分の写真だけ、全体の構成も良く分からない なんて、おいおいと内心あきれてしまいました。でもこれもまだ序の口だった んですよ。最後のお言葉は、制作期間があまりないんですよ。ん、、?期間が ない。で何ヶ月?そうですね5、6ヶ月、、、位ですかね。んーんそれ位ならと 思いながら話を聞いていくと、どう考えても制作前の打ち合わせや石膏下地の 完成、設置その他もろもろを考えると良く日数を取れても2ヶ月位、そんな馬鹿 なその上オープンの日程は決定しているので絶対に遅れられない、、、。ハハ ーアなるほど、私に依頼して来た一番の理由は、この期間では誰も仕上げられ ないと言う事かと思いました。案の定最初に打診した人は弟子を何人か使って 分担して描いても間に合わないかも知れないし、仕上がりもどうなるか分から ないと言う事で、あれこれ他を探しただ単純に私が人物の写実画を描いていると 言うだけで白羽の矢を立てたようでした。 しかしです。悲しいかなそういう話でも、その頃の私にとって考えようによって は、OKしたら貧乏くじかも?もしうまくいけば、、、天国?あーあやっぱりね。 こんな大きな仕事をその頃何の実績もない私に頼んで来るはずないもんね。 という事で最初は無理と言う答えをしました。でもその頃の私にとってはやり遂 げれば大きな実績になると言う甘い言葉が心の別の所でささやき続けていました。 そして2度、3度なんとか引き受けてくれと言う電話にとうとうOKしてしまいま した。あーあ、やっちゃった。さて、他にも苦難?がいっぱい有るのにどうして OKして、シマッタ!かはまた次回に。 |