福島原発があんな状況になって日本で原発を推進することがほぼ絶望的になりました。
それどころか将来現状維持すら難しい状況になっています。
とは言え一部反原発派が叫んでいるように原発の即時全廃などということは不可能です。
それどころか替わりに良い発電方法が無ければ、
ウクライナのように原発を使い続ける以外に道は無いことになるでしょう。
(ちなみにチェルノブイリでは事故を起こした4号機の横で1〜3号機を使用していました。)
現実的に考えて、発電の将来はどうしたら良いか私なりに考えて見ました。
世界まで含めると国によって条件が全く違うので、ここでは日本に限定して考えます。
何やら偉そうに書いていますが、私は電力に関しては素人です。念のため。
先ずは現状把握
将来の需要の予想
発電方法に対する意見 1.従来型技術(水力・火力・原子力)
発電方法に対する意見 2.いわゆる自然エネルギー
おまけ
で、結論は?
日本の発電所の発電能力は以下のようになっています。
(その他は少ないので省略)
参照したWikipediaのデータがやや古いこともあり福島原発は引かれていません。
日本の電力会社と発電能力 (万kW)
|
水力 |
火力 |
原子力 |
計 |
北海道電力 |
123.1 |
406.5 |
149.1 |
678.7 |
東北電力 |
242.0 |
1149.6 |
327.4 |
1719.0 |
東京電力 |
852.0 |
3637.1 |
1731.8 |
6220.9 |
中部電力 |
521.9 |
2390.4 |
350.4 |
3262.7 |
北陸電力 |
189.8 |
440.0 |
189.8 |
819.6 |
関西電力 |
818.0 |
1780.0 |
976.0 |
3574.0 |
中国電力 |
290.0 |
802.6 |
128.0 |
1220.6 |
四国電力 |
114.1 |
379.7 |
202.2 |
696.0 |
九州電力 |
267.7 |
1118.0 |
525.8 |
1911.5 |
沖縄電力 |
0.0 |
192.4 |
0.0 |
192.4 |
計 |
3418.6 |
12296.3 |
4580.5 |
20295.4 |
この他に電力会社以外の発電能力は数千万kWあります(多過ぎて全ては把握できず)。
電力卸の最大手である電源開発はダムも持っていますが、全体で見ると火力が圧倒的に多いです。
水力は実際には流域の環境のため普段は発電量を最大値よりも抑えています。
また火力は電力使用の調整用、
原子力はベースロードであるため時間で積分すると原子力の割合がぐっと上がります。
日本の人口は減少に転じており、さらに省エネ技術も進んでいるので、
将来の電力需要は減少する・・・とはいきそうにありません。
高齢化が進むので、介助に色々と電気が必要になりそうです。
よって必要量は激増することは無いでしょうが暫くは減ることも無いでしょう。
ちなみに昔は産業、特に工業用の使用が多かったのですが、
今は技術の進歩により(景気も影響?)電力使用量は頭打ち、
代わって事業所(オフィス・店舗)と家庭用が増えています。
ただ家庭用の省エネ技術も進んできたのでこのまま急上昇は避けられそうです。
というわけで以下は電力現状維持を前提として考えていきます。
-
水力
ダムは日本では既に建てられる所にはほとんど建て尽くしています。
これ以上の増加はほとんど望めません。
ただし国土は狭いものの水が豊富な日本ではまだ余力が残されています
(詳しくは後述)。
-
火力
火力の内石油を使うものは数十年以内に無くなります。
オイルショック以来新規建設しないことに決めているため、これは確定です。
他の燃料として主に石炭と天然ガスがあります。
石炭はCO2で見ると望ましくありませんが、
コストと埋蔵量、さらに産出国が政治的に安定しているのでエネルギー保障を考えて、
暫くはお世話になるでしょう。
ただし代わりのエネルギーが使えるようになれば順次減っていくでしょう。
例外は製鉄所の副生ガス使用。
不完全燃焼な一酸化炭素が主成分ですが、
そのまま処分するのは勿体無いので燃料にして発電しています。
昔は燃えにくいので石油などを足していましたが、
最新のコンバインドサイクルでは不要になったようです。素晴らしい。
これは製鉄方法に革命が起こらない限り続けるべきです。
天然ガスは、化石燃料の中では比較的CO2排出が少ないので、
割と将来も有望視されています。
加えて最近シェールガスの発掘技術の進歩で埋蔵量が激増したので
コストが下がっていて尚更注目されています。
さらに良い所は天然ガスの最近の発電所はほぼ全てコンバインドサイクルになっています。
排気温度が高く燃費が悪かったガスタービンに廃熱利用の蒸気タービンを組み合わせ、
最新式では効率59%、正味でも50%以上というとんでもない高効率です。
現実的に考え福島第1原発の代わりはこれしか無いでしょう。
ただしこれもあくまで火力です。
将来にわたって増やし続けて主力にするのはナンセンスです。
始動時間が速く非常に使い勝手も良いので、
主に調節用に活躍し続けるでしょう。
ちなみにCO2回収ですが、効率が大幅に落ちるような真似は止めるべきです。
多分自然エネルギーが劇的に進歩しても最後まで残るのは副生ガスと天然ガスのコンバインド。
-
原子力
今回の事故で増設はほぼ不可能となりました。プルサーマルも高速増殖炉も絶望的でしょう。
今後は今ある原発の安全性を高めた上で寿命まで使っていくしか無いでしょう。
ただし代替エネルギーの進捗状況によっては現状維持のための新設が
周辺住民に土下座してでも必要になるかもしれません。
停電になっても原発は要らない?
ウクライナやアルメニアは電力不足に耐えられませんでしたよ。
ただ・・・新築するなら免震くらいはしような。
ちなみに原子力はランニングコスト・安定性に優れ、
安全性を除けばエネルギー源としてはとても優秀です。
これの代わりは生半可なことでは務まりませんよ・・・。
現在自然エネルギーと呼ばれるものは水力を除くとごく微量しか使われていません。
政策と言うよりそれが現在の実力と見るべきでしょう。
とはいえ将来上記3つにばかり頼るわけにもいかないので使えそうな順に並べてみました。
先ずは最優先2つ。どちらも日本の環境に向いているというのがミソです。
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地熱
地震国日本には非常に向いている方式です。
地熱発電のポテンシャルは約8%、もうすぐ実用化しそうな高温岩体発電を含めると20〜30%くらい。
ただし最適地が国立公園内だったり温泉業者の反発でなかなか進みません。
ランニングコストは安いものの建設(と言うより穴掘り)コストが高いのもネックです。
でも本当の問題は地下蒸気・水脈くみ出しによる地盤沈下や危険物質流出といった公害、
スケール付着によるパイプ寿命の短さ、
さらに減衰による坑井掘りなおしといった地熱ならではの問題です。
実際に作れるのは高温岩体発電込みで5〜10%くらいでしょう。
今のままで発電の足しにはなりますが原発の代わりとまではいきません。
ただし未発展な技術なだけにまだ進化する余地があります。
私が本命になりそうと考えているのはこれ。
坑井内同軸熱交換器(DCHE)の利用
現在は予算がつかず研究が発電実証の一歩手前で止まっているようです
(研究者の嘆き)。
或いは遠い将来のマグマ発電のための技術だと誤解されたのかもしれませんが、
本当の利点は地下水を使わないので上記問題がほぼ無くなる可能性があること、
そして従来地熱発電や高温岩体発電に適さない所でも使えるためポテンシャルが大幅に増えることです。
実際どのくらい使えるのかやってみないとわかりません(特に長期的な影響)が、
せめて実証試験くらいはやるべきだと思いませんか?
と、ここで語っているだけなのもアレなので私も少し定量的検討をしてみました。
DCHE シミュレーション
概要
とにかく一度実物を動かして「使えそう」と認識してもらうことが重要なのですが・・・。
-
中小水力
先に書いた通り大きなダムは最早ほとんど余地がありません。
しかしそれよりは小さな川ではまだ発電の余地があります。
主に現代版水車小屋のような施設が中心になりそうです。
昔は結構作られていたものの大発電所の効率・コストには勝てず衰退した模様。
1つ1つが小さいので多分全発電量の5%も行かないと思います。
しかし、これは確実に使えるエネルギー源ですので、
見直して積極的に進めるべきでしょう。
現在は法律の厳しさがネックのようですが、是非緩和すべきです。
続いて次優先。
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太陽熱発電
世界的には砂漠を中心に伸びてきている太陽「熱」発電ですが、
日本は日照時間が世界平均よりも短い上土地も狭いのでのであまり向いているとは言えません。
玉浦教授達の山梨の施設も採算はグレーゾーンであると当人が認めています。
全国展開はまず無理でしょう。
とはいえ太陽光発電に比べればずっと高効率低コストな上多少融通も利きます。
メガソーラーなんぞ作るくらいならこれでやるべきです。
ちなみにアジアデザーテックとして中国の砂漠から電線を引く構想もありますが、
エネルギーが切迫している中国で全て使い切ってしまうでしょう。
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海流発電
日本は海に囲まれているのである程度ポテンシャルがあります。
ただし技術はまだまだで未知数。
ポテンシャルもあまり過大な期待はできないみたいです。
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波力発電
今の波力は密閉空間で波を空気の流れに変えて風車を回しているようですが、
これでは出来損ないの風力です。弱すぎて使い物になりません。
最近ジャイロを使って波の上下運動を直接利用する方式が検討されているようで、
これなら多少期待できます。
とは言えコストと効率を考えると、これまたあまり大きな期待はするべきではありません。
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海洋温度差発電
熱帯の非火山島では簡易版地熱発電、或いは大掛かりなバイナリー発電としてある程度の電力が期待できます
(火山島なら地熱の方が効率がいいでしょう)。
沖縄の小島には向いているかもしれませんが、日本本土の高知や宮崎ではどの位使えるでしょうか?
ユーザーの感覚としては中小水力の海バージョン、
ただしコストはかかるので優先順位は川の水力より下といった所でしょうか。
最後にイマイチな面々。
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太陽光発電
太陽「光」が太陽「熱」に勝っているのは小型化できる、これだけです。
時計や電卓の電源として使うべきで、パワープラントに用いるべきではありません。
コストが高く効率で太陽熱に負け(低コストのものはより低効率)、
さらに悪いことに30年くらいで寿命となり危険物満載の厄介なゴミと化します。
ハイブリッドカーを実は環境に悪いなどとのたまっている人は
絶対に太陽光発電に賛成してはいけません。
ハイブリッドカーより出来が悪いよ。
なお技術研究が進んで効率とコストは徐々に改善されてはいるようですが、
太陽熱以上に融通が利かない(日の光が無いと問答無用で発電量0)ので
主役にはならないでしょう。
春と秋に効率最高で夏と冬に効率が落ちるなんていうふざけた特性もあるし。
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風力発電
今自然エネルギーの主力となっている風力発電。
コスト面では太陽光より優秀ですが、それ以外はかなり残念なものです。
出力は風任せで安定しない(酷い時には寧ろ邪魔にすらなる)、
騒音・特に低周波が酷い、
鳥が死ぬ、雷などでよく壊れる・・・。
安かろう悪かろうなのが現状なので余程恵まれた立地以外では作るべきではありません。
ちなみに洋上に作っても人間は良くても海生生物に悪影響が出そうです。
これはもう上空に上げてジェット気流を使うしか無いかな?
(これまた安全性確保のためには広い土地が必要っぽいですが。)
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潮力発電
日本では潮力発電に向いた土地がありません。
堰1つで大騒ぎになる現状を考えると本格的なものは無理でしょう。
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温度差発電(熱伝対使用)
熱伝対はセンサーに使うものであって電力に使うものではありません。
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振動発電
圧電素子はセンサーに使うものであって電力に使うものではありません。
そもそも振動エネルギーなんて大して大きくない上に変換効率を考えたら・・・。
まあどちらかと言えば遊び用でしょう。
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バイオマス・バイオ燃料
光合成をするからCO2排出が差し引き0とされるバイオマスですが、
燃やしていることに変わりはないからなあ。正直どうだろう?
あとモロコシでエタノールは食糧生産圧迫するだけでNG。
燃料作るなら効率考えたらオーランチオキトリウムみたいな微生物でやらんと。
ただエネルギー自給にはなるけどCO2考えると本命にはなり得ないかなあ、と。
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マグネシウム
うちの大学(大昔に卒業したけど)の教授が燃えてるマグネシウム燃料サイクルですが、
燃料としてのサイクルが回るまでにどれ程の時間がかかるのでしょうか。
多分マグネシウムが作れるようにはなるだろうけど、
それで採算取れるかはかなり怪しいよねえ。
素直に材料として使ったほうが良い気はする。
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NaS電池
数千〜数万kW単位の充放電に使える数少ない電池。まだ出たばかりで何とも言えません。
揚水発電と比べてどうかもまだ分かりません。(揚水発電の方が大規模向きか?)
ただ使用済みの処分方法くらいは本格展開の前にしっかり対策して欲しいところです。
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核融合・宇宙太陽光発電・マグマ発電
これらは実現までには50年はかかるといわれています。
この業界で50年は要するに今は見込みが全然無いということ。
ただこの中だとマグマ発電の可能性が高いかなあ。
マグマは600〜1300℃ってことだけど火力は既にその温度で使ってるし。
後は調子に乗ってうっかりマグマをぶち抜いて噴火させないようにってことで。
500℃くらいを目指すのが良いんでないでしょうか。
今の技術では手詰まりです。使えそうな技術の研究・開発を進めましょう。
特にDCHE発電。
今回は書きませんでしたが省エネ技術の進歩も素晴らしいです。
いわゆるエコ生活と同時進行でさらに研究を進めましょう。
ただエコと言われるものも完全無公害なんてものは有り得ません。
やり過ぎには注意。
2019/1/30追記
昨年の地熱学会で報告がありましたが、
DCHEは効率が悪く経済的に成立が難しいようです。
残念。
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