ユリシーズ=S=グラント

[北米−近代]

アメリカの軍人・政治家。 南北戦争で総司令官として北軍を勝利に導いた立役者である。 オハイオ州で製革業者の子として生まれ、 長じて下院議員の推薦で陸軍士官学校へ入学した。 出生時の名前は「ハイラム=ユリシーズ=グラント」であったが、 議員が誤って「ユリシーズ=S=グラント」の名で登録してしまった。 グラントはこれを気に入り、以後この名を使い続けた (よって S は本来イニシャルではないが、 グラント自身は母の旧姓シンプソンであると吹聴していた)。 士官学校を平凡な成績で卒業すると軍人として米墨戦争に参戦したが、 戦後飲酒を理由に辞職し農場や父の店の経理助手を務めた。 南北戦争が勃発すると自ら志願兵を募った上で連隊長として軍に復帰し、 すぐに昇進して将軍となり別動隊である西部戦線で指揮を執った。 ハレック将軍が転任するとテネシー軍司令官として西部戦線全体の指揮を執り、 勝利を重ねてミシシッピー川流域をほぼ占領した。 リンカーン大統領はかねてより 主力部隊であるポトマック軍司令官に人を得ず悩まされていたが、 グラントに白羽の矢を立てポトマック軍司令官の上官である総司令官として抜擢した。 テネシー軍を部下のシャーマンに委ねて東部戦線へ異動したグラントは、 物量に物を言わせて進軍を開始して対峙したリーを消耗戦に巻き込む一方、 西部戦線ではシャーマンに積極的な攻勢をさせて敵地を焦土化し、 南軍の継戦能力を奪っていった。 最後は首都リッチモンドを陥落させ、 リーを始め各地の南軍を降伏に追い込み戦争を終結させた。 戦争の英雄となったグラントは戦後共和党の大統領候補に選ばれ、 選挙で勝利して大統領となった。 しかし閣僚として選んだ友人達は汚職とスキャンダルに塗れ、 最悪の大統領として悪名を残してしまった。 大統領退任後は世界中を旅行し、日本を始め各地で歓待された。 晩年は商会の倒産の影響で困窮し、回想録を執筆した。 回想録の完成は死の直前であったが、 死後ベストセラーとなって家族を救うことになった。
グラントは軍人としての資質、特に戦略眼に優れ南北戦争勝利の立役者となった。 戦術能力と人格に優れたリー相手には苦戦したが、 元アメリカ領を焦土と化し敵味方双方に多大な犠牲を出すことも厭わない戦い方で 最後の勝利を得た。 戦後名声を糧に大統領となったが、 政治家としては手腕を発揮できなかった。 特に飲酒で軍を退役したこともあるアル中な上、 馬車のスピード違反によってアメリカ史上初めて逮捕された大統領となる等素行が悪く、 閣僚となった仲間達もガラの悪い面子が集まったようで汚職塗れになってしまった。 それでも英雄としての名声は完全には無くならず、 旅行中は各国で歓待を受け回想録はベストセラーになった。

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